読みもの
2020.06.02
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その6

マルカート:語源は強調する。18世紀以降に定着した指示はどう書かれた?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第1番」作品15より、第2楽章の自筆譜。

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

イタリア語の「強調する」という意味の“marcare”の過去分詞で、「強調して」と訳されるこの楽語。実は、18世紀以前はほぼ使われることのなかった、わりと新しい楽語なのです。なんと1802年にドイツで出版された音楽事典(コッホ, Musikalisches Lexicon)にも、当時はまだ珍しかったマルカートの項目はありませんでした。

続きを読む

マルカートが登場した最初期の作品、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番(1795年作曲)の第2楽章のピアノパートにおいては、8つのバス(低音)の音に、それぞれ “ques-te no-te ben mar-ca-te(これ-らの 音-を 強-調 して-ね)”というように、指示そのものも強調した書き方がされています。

「mar-ca-te(マル-カー-ト)」という書き方、印象的ですね。marcate はmarcato の複数形です。

その後もマルカートが指示される際は、強調してほしいパートの部分にのみ表記されるか、「何を強調するのか」が具体的に記されることがほとんどで、シューマンの交響的練習曲の第2変奏においても “marcato il canto(歌の部分を強調して)”と“marcato il Thema (主題を強調して)” というように、明確に指示されています。

シューマン「交響的練習曲」第2変奏の当該箇所。

この部分では、曲の主題が低音で奏でらているため、この低音を強調しないと主題が聞こえないのですが、「主題だけじゃなくて歌の部分もちゃんと出してね」という作曲者のこだわりも垣間見られます。

もしくは……曲全体にマルカートが指示され、その場合はしつこいほど全ての音が強調されます!!

ブラームス「交響曲第4番」〜第1楽章
ここでは、“pp ma ben marcato(ppで、しかしよく強調して)”の指示が見られます。マルカートはただ大きい音を出せばいいものではないことを物語っています。
ショスタコーヴィチ 「前奏曲とフーガ第15番 変ニ長調」〜フーガ
曲の冒頭に、“ff marcatissimo sempre al Fine (ff、最後まで全力で強調させて)”との指示があり、この場合、一瞬の気を抜くことも許されません(笑)。

マルカートを聴いてみよう

1.  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番〜第2楽章 Largo
2. パガニーニ:《24のカプリース》〜第22番 Marcato
3. シューマン:交響的練習曲〜第2変奏
4. ブラームス: 交響曲第4番〜第1楽章
5. プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番〜第3楽章 Allegro ben marcato
6. ショスタコーヴィチ:
前奏曲とフーガ第15番 変ニ長調〜フーガ

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ