読みもの
2020.07.07
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その11

チェンバロ:語源はシンバル?! 1397年初登場の歴史ある楽器

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

バッハが所有していたチェンバロ。現存している楽器は、ベルリン楽器博物館に所蔵されています。

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見た目からもわかる通り、ピアノの祖先となった楽器ですが、その歴史はかなり長いようです。

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歴史を遡ること1397年、イタリアの貴族L.ランベルタッチがパドヴァから義理の息子に宛てた手紙のなかで「ウィーンから来たヘルマン・ポルという若くて(当時27歳)なかなか面白い男がクラヴィチェンバルムclavicembalum)という楽器を作っている」と書き残したことが伝えられています。これがチェンバロの最初の出典ですが、残念ながら楽器は現存していません。

ちなみにこのヘルマン・ポルは駆け出しの内科医と占星術者で、決して発明家やプロの音楽家ではなかったようです。

しかし、1425年に作られたとされるチェンバロの彫像がドイツ北西部のミンデンというところにあり、その形をしっかり確認できます。おもちゃのような小ささですね……!

ミンデン大聖堂にあるチェンバロを弾く人の彫像。
左から2番目の人が弾いているのがチェンバロ。持ち歩くのにも便利そうなサイズですね。

チェンバロという言葉は、クラヴィチェンバルムのクラヴィ(clavi)が抜け落ち、チェンバルムという言葉が派生したものです。このクラヴィは「鍵盤」を意味し、ドイツ語でピアノのことをクラヴィーア(Klavier)と呼ぶのはここからきています。

さて、残ったチェンバルムの語源ですが、あの打楽器のシンバルからきているという説が有力なのです。(シンバルは昔、カスタネットほどの大きさでした!)

 

エジプトで発掘された紀元前30年から紀元364年のものとされるシンバル。厚さ1.9cm、直径7cm。メトロポリタン美術館蔵。

弦を叩いて音を出すピアノと違い、弦をはじいて音を出すチェンバロは、ギターとも音が似ているため、18世紀の作曲家スカルラッティはギターを模倣したような作品も書きました。

同じくシンバルが語源とされている楽器はほかにもあります。ハンガリーのツィンバロンという民族楽器です。見た目にこそ差はありますが、両者とも、音色にはどこか遠い親戚のような似たものを感じてしまいます。

ハンガリーの民族楽器、ツィンバロン。

チェンバロを聴いてみよう

1.  D.スカルラッティ:ソナタ K.141
2. J.S.バッハ:4台のチェンバロのための協奏曲 BWV1065 〜第1楽章
3. W.A.モーツァルト:連弾のためのソナタ KV381 〜第3楽章
4. ストラヴィンスキー:11の楽器のためのラグライム(ツィンバロンが使用されています)
5. プーランク:田園のコンセール 〜第2楽章
6.
リゲティ:ハンガリアン・ロック

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

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