読みもの
2020.07.28
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その14

セレナーデ:語源は平穏な。男性が女性を口説くための歌だった?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

シュピッツヴェーク《月夜に照らされるセレナーデを弾きに来た男》(1840年)

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セレナーデと聞いて、どのような音楽を想像するでしょうか。

セレナーデという言葉は「平穏な」という意味のラテン語serenus(セレーヌス)がドイツ語に派生したもので、イタリア語ではserenata(セレナータ)、フランス語ではsérénade(セレナード)と呼ばれます。このラテン語は、英語で同じく「平穏な」を意味する形容詞、sereneの祖先でもあります。

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この「平穏な音楽」であるセレナーデ、もともとは男性が女性を口説くための曲だったんです!

演奏されるのは夜。ギターなどの楽器を片手に男性が女性の家の前まで赴き、そこで口説きの言葉を歌い、女性が窓から顔を出すのを待っていました。たまに楽器の弾ける友人を連れて豪華な演奏もしていたそうです。

ドイツ語では特にこうして窓の下に立って誰かのために歌う曲のことをStändchenともいいます。Stand(立っている)に、親しみを表す-chenがくっ付いて出来た言葉で、直訳すると「突っ立っているヤツ」という感じです。

シューベルト:《白鳥の歌》より「セレナーデ(Ständchen)」D.957

そのシーンはモーツァルトの歌劇《ドン・ジョヴァンニ》にも登場します。主人公が夜な夜なマンドリン(ギターのような楽器)を弾きながら、「お願い! 窓のところまで来て……もし来ないならここで死ぬ! だから、少しだけでいいから顔を見せて……」と歌っているのです。

《ドン・ジョヴァンニ》第2幕第16曲カンツォネッタの自筆譜。カンツォネッタは、イタリア語で「小さい歌」を意味する言葉です。こちらで歌われているセレナーデ(女性の前で歌っている歌)は短い歌のため、この名称が付けられています。
まさにマンドリンを弾きながら口説く場面です。弦楽器の伴奏も、マンドリンの音を模倣してピツィカートで演奏されます。
初演の際にドン・ジョヴァンニ役を務めたルイージ・バッシが、第2幕でセレナーデを歌っている情景の銅版彫刻(テーネルト作、1787年)

のちにセレナーデは、夜に野外で演奏される曲全般を指すようになります。モーツァルトのセレナーデ第13番《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》は、ドイツ語で「小さな夜の音楽」という意味です。夜に大編成の曲は演奏できないため、セレナーデと題される曲は小編成で作曲されました。

携帯電話がなかった時代、男性たちはやり場のない熱い想いを伝えるために、女性の家の窓の外で、相手にされるまでセレナーデを歌い続けたのでした……。

セレナーデを聴いてみよう

1.  ビーバー:夜警の声を含むセレナーデ〜シャコンヌ
2. W.A.モーツァルト:セレナーデ第13番《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》〜第1楽章
3. W.A.モーツァルト:歌劇《ドン・ジョヴァンニ》〜第2幕第16曲カンツォネッタ「窓辺までおいで」
4. ベルリオーズ:《ファウストの劫罰》〜 第3部第12場 セレナーデ
5. シェーンベルク:セレナーデ Op.24〜第4楽章「ペトラルカのソネット」
6. グレン・ミラー: ムーンライト・セレナーデ

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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