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2023.12.23
特集「音楽のソロ活」

ひとりで観たい! 配信で楽しめる、音楽が“決め手”の「ソロ活映画」

おうちで「映画」に思いっきり没入! 誰も気にせず泣いたり、笑ったりできる映画の「ソロ活」はいかがですか? 名画に欠かせないのは、もちろん素晴らしい音楽の数々。東端哲也さんが音楽が“決め手”となる作品を紹介してくれました。

東端哲也
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

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巨大スクリーンと臨場感あふれる音響効果、他の観客との一体感や非日常ゆえの深い没入感など、映画館に行くべき理由を挙げればキリがないが、一方で近年は動画配信サービスの充実により、新作が割とすぐに自宅のテレビなどで気軽に観られるのもごく普通のこと。

時間に縛られず誰にも気兼ねなく(マナーの悪い人が隣に座る心配もなく…)楽な姿勢でリラックスして映画を楽しめるのは凄く魅力的だ。個人的には大きな声を出して驚いたり、叫んだり大笑いできるのも嬉しい。

しかも途中でちょっと止めてトイレに行ったり飲み物を補充したり、「今の何だっけ?」って思ったら巻き戻しもできる。当然、観終わった後でお気に入りの場面を何度でもリピート上映するも良し。好きなように映画を独り占めにして堪能する、それってまさにソロ活!

ということで、ここではONTOMOらしく音楽が“決め手”となる「ソロ活ムービー」のおすすめ作品をご紹介しよう。

『マエストロ: その音楽と愛と』(2023年)Netflixでサブスク視聴可能

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まずは、同時代のカラヤンと双璧をなす巨匠指揮者で不朽のミュージカル《ウエスト・サイド・ストーリー》などの作曲家としても活躍し、20世紀後半のクラシック・シーンを牽引したスター音楽家の伝記映画から。

日本で5月に劇場公開されたケイト・ブランシェット主演の『TAR/ター』において、主人公である世界の頂点を極めた(架空の)カリスマ指揮者リディア・ターが憧れる存在として言及されたり、ふたりの日本人との手紙のやりとりに基づいて巨匠の実像に迫ったノンフィクション本『親愛なるレニー~レナード·バーンスタインと戦後日本の物語』(吉原真里著)が数々の賞に輝いたりと、なにかとバーンスタインが話題を集める今年だが、こちらも本年度の映画賞レースで“本命”視されている注目の人間ドラマだ。

実は「伝記映画」と言いつつ、ここで主に語られるのは舞台女優であった妻フェリシア(※キャリー・マリガンが好演)や、娘から見た“家庭人”バーンスタインの姿であり、ニューヨーク・フィルやウィーン・フィルとの輝かしい実績の内容や、芸術文化に果たした偉大なる貢献について、例えば代表作《ウエスト・サイド・ストーリー》誕生エピソードなどは、ほとんど劇中に登場しない。それよりもマエストロとして、ひとりの夫や父親として彼が何を求め、何に苦悩していたのか、その人生の重い葛藤に焦点を当てて描いている点が、この種の作品としては斬新かもしれない。

もちろん音楽的な見せ場もちゃんとある。『アリー/スター誕生』に続いて、自ら監督と主演を務めた才人ブラッドリー・クーパーが準備に6年もの歳月を費やし、現代の若き巨匠ヤニック・ネゼ=セガンの協力を得て“指揮者”バーンスタインの魂と完全に同化。そのキャリアを通して密接な関わりを持っていたマーラーの「交響曲 第2番《復活》」を、1973年に壮麗なロマネスク様式のイーリー大聖堂で振った伝説の演奏会を(実際に同じロンドン交響楽団を指揮して)見事に再現しているのだ。第5楽章最後の6分間の抜粋と時間にすれば短いが、この圧巻のクライマックスを観るためだけにNetflixに加入する価値はある!

因みに、本物のバーンスタインが指揮するこの《復活》完全映像も、ドイツ・グラモフォンの配信サービス「ステージプラス」に加入すれば視聴可能(今なら、映画公開にあわせて無料配信中!)なので、この機会にぜひ比較してみては?

『エタニティ 永遠の花たちへ』(2017年)Prime Videoでレンタル可能

続いては現在『ポトフ 美食家と料理人』が公開中、ベトナム出身でパリ育ちのトラン・アン・ユン監督2016年の作品を。

第76回カンヌ国際映画祭で監督賞に輝いた“食”をテーマにした最新作では、劇中に一切音楽が使われていないことも話題を呼んでいるが、この『エタニティ 永遠の花たちへ』はその逆。女性を軸にフランスのある裕福な家系を19世紀末から3世代にわたり、『アメリ』で知られるオドレイ・トトゥら、麗しきキャスト陣で描いた大河ドラマだが、明快な筋書きがあるわけではなく、セリフも極力抑えられ、映画全体がひとつの川の流れのように、まるで時間そのものが主人公であるかのごとく、現在と過去とを混在させながら過ぎていく。

そこで大きな役割を果たしているのは、家族に対して温かいまなざしを注ぎつつ、あくまで中立で客観的な立場を崩さないナレーションと、絶え間なく奏でられる珠玉のクラシック音楽たちだ。

J.S.バッハを皮切りにドビュッシーやリストのピアノ曲、タレガのギター曲、歌劇《ルイーズ》のアリア、フォーレのレクイエムなどが、季節の花が咲き誇る美しい庭や代々受け継がれてきた調度品が並ぶ邸宅で営まれる、伝統を大切にする人たちの丁寧な暮らしぶりを彩る。

結婚や誕生の歓びと、死や別れの悲しみ。時に運命に翻弄されながらも人生を慈しみ、あふれる愛を未来へと繋いでいく、そんな人の世のさだめが切なくも愛おしい。とくに終盤の、とあるサロン・コンサートの場面で女性歌手によって歌われる、ベル・エポックの作曲家レイナルド・アーンの歌曲〈L’heure exquise(恍惚のとき)〉が、この作品のすべてを代弁して素晴らし過ぎるので、どうか存分に涙して欲しい。

『すぎ去りし日の…』(1970年)U-NEXTでサブスク視聴可能

ショッキングな自動車事故の場面で幕を開けるこちらは、妻子と別居中の建築家ピエール(ミシェル・ピコリ)とその美しき愛人エレーヌ(ロミー・シュナイダー)による悲劇的な結末のフランス映画。

ごくありふれた人々の日常をテーマに良質な作品を撮り続けたクロード・ソーテ監督70年代の代表作であり、後にリチャード・ギアとシャロン・ストーン主演の『わかれ路』(1994年)という邦題でアメリカ映画としてリメイクもされているが、やはりオリジナル版の主題曲(※本国では劇中で使用されなかったヴォーカル・ヴァージョンも〈エレーヌの歌〉としてヒットした)が素晴らしい。

手掛けたのはパリ音楽院で学んだフィリップ・サルド(1948~)。日本ではあまり馴染みのない名前かもしれないが、フランスではミシェル・ルグランやフランシス・レイ、トリュフォー監督との名コンビで知られるジョルジュ・ドルリューらと並ぶ国民的な映画音楽作曲家だ。

バロックからシャンソン、同時代の作曲家の作品まで幅広いレパートリーを旅する現代の“ピアノの詩人”アレクサンドル・タローは、昨年リリースの2枚組アルバム『CINEMA』で同テーマ曲を含むサルド作品を複数とりあげていたし、

最近でも人気チェリストのゴーティエ·カピュソンが最新アルバム『Destination Paris』に〈エレーヌの歌〉を収録。

彼の兄でフランスを代表するヴァイオリニストのルノー・カピュソンも、来年2月発売の新譜『Les Choses de la vie (Cinema2)邦題:すぎ去りし日の…』のアルバム・タイトルに選ぶほど、大きくフィーチャーしている。

Renaud Capucon / Les Choses de la vie (Cinema2)
ルノー・カピュソン / すぎ去りし日の…(シネマ2)

2024年2月16日発売予定

タローも「サルドが得意とするのは、表現しようのなさ、最高に繊細な曖昧さ、動揺する感情」とライナーで称賛していた、ピアノとオーケストラによるこの主題曲を、ぜひ本編と共にじっくりと味わって欲しい。

『スイング・ホテル※原題 Holiday Inn 』(1942年)Prime Videoでサブスク視聴可能

お次は、これからの季節にぴったりな楽しくて心温まる古典的名作を。1942年公開の『スイング・ホテル(原題Holiday Inn)』は“クルーナ”唱法の確立者でトップシンガーのビング・クロスビーと、不世出のダンサーでもあるフレッド・アステアの2大スターが共演したミュージカル映画。

音楽家で舞台俳優のジム(クロスビー)が引退してコネティカットで農場を始めるが上手くいかず、家をホテルに改造し祝祭日だけ営業してゴージャスなショーを観せるクラブ「ホリデイ・イン」を開業。しかし、かつての相棒テッド(アステア)がやってきたことで、店の看板女優であるリンダ(マージョリー・レイノルズ)をめぐって恋のバトルが巻き起こるというお話。

音楽を担当したのは、1930~50年代に最初の黄金期が形成されたブロードウェイで活躍したいわゆる“5大作曲家”のひとりであるアーヴィング・バーリン(1888-1989)。作詞と作曲の両方をこなせる天才で舞台作品も多いが、世界初のトーキー作品『ジャズ・シンガー』(1927年)や『トップ・ハット』(1935年)など映画のための音楽を手掛けたことでも名高い。『スイング・ホテル』はその代表作で、とりわけ劇中でクロスビーが歌った〈ホワイト・クリスマス〉はシングル盤で空前の大ヒットを記録し、映画音楽の枠を超えた永遠の名クリスマス・ソングとして今なお世界中で愛され続けているのはご存じの通り。

他にも〈ハッピー・ホリデイ〉を筆頭に、〈ビー・ケアフル、イッツ・マイ・ハート〉(ヴァレンタイン・デー)や〈アブラハム〉(リンカーン生誕記念日)、〈イースター・パレード〉(復活祭)、〈ソング・オブ・フリーダム〉(独立記念日)…と、バーリンがそれぞれの祝祭日に結びつけて書いた曲はどれも素敵で聴き逃せない。

ちょうど年明け1月には「ビング・クロスビーの生誕120年」を記念して過去の名盤たちが国内盤CDで復刻発売され、その中にこの映画のオリジナル・サウンドトラック盤も含まれているので、映画を楽しんだ後にチェックしてみてはいかがだろうか。

『シラノ』(2022年)Prime Videoでレンタル可能 (※DVD/Blu-rayでも発売中)

ミュージカル映画といえば、大傑作なのに公開期間も短くてあまり話題にならなかったのが残念な、昨年のこちらの作品も超お薦め。

これまでに何度も舞台上演され映画化もされてきたロスタンの戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』を、HBO制作のテレビ·ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011~2019年放送)でブレイクして世界的なスター俳優となったピーター·ディンクレイジを主役に起用し、2018年に新しい視点でミュージカル劇化したプロダクションをベースに、英国の名匠ジョー・ライト監督が完成させた『シラノ』(2022年)。

本作の魅力はイタリアのシチリア島でロケをしたというダイナミックな風景と、当時の素朴で荒々しい人々の暮らしを鮮やかに映し出す映像美。それから、主役3人の説得力のあるキャラクター設定(悲しげな瞳の愛すべき最強の男シラノ、ハンサムで純粋な青年クリスチャン、自らの意志で運命を切り開いていくキュートで自立した女性ロクサーヌ…)にもあるが、ここではやはり音楽劇としての楽曲の素晴らしさを推したい。

舞台版から引き続き音楽を担当したのは、1999年にオハイオ出身の5人で結成された米国のロック・バンド「ザ・ナショナル」のメンバーであるブライス&アーロン・デスナー兄弟(双子)。共にバンドの屋台骨を担うギタリスト・コンポーザーの二人はそれぞれ独自にも活動し、イェール大学の修士号を取得しているブライスはアカデミックで“現代音楽”志向(坂本龍一やクロノス・クァルテットらと交流を結びオーケストラとの共演も多い)。一方のアーロンはインディ系ロック・シーンでネットワークを築き、テイラー・スウィフトのアルバム等のプロデューサーとしても手腕を発揮した名職人。そんなデスナー兄弟が手をとり合って珠玉のナンバーを生み出している。

その作風は初期フォークやカントリーにルーツを持つ「アメリカーナ」と呼ばれるジャンルに近いロック。ミュージカル映画の楽曲としては少し骨太で野暮ったい印象だが、その分誰でも身構えることなくすっと入っていける。加えてそのサウンドにも秘密が…映画版からレコーディングに加わったロンドン・コンテンポラリー・オーケストラの奏でるミニマル・ミュージックが、えもいわれぬ高揚感を与えて、聴く者の心をかき乱す。

さらにはデジタル時代のハイブリッド・ピアニスト、ヴィキングル・オラフソンを全面的にフィーチャーしたことでミニマル感を加速させ、それぞれのトラックによりエモーショナルな雰囲気がプラスされているのだ。

『異人たちとの夏』(1988)U-NEXTで視聴可能/Prime Videoでレンタル可能~『異人たち』2024年春公開

以上ここまで、配信によりプライベート空間で“ソロ活”鑑賞できる音楽映画を紹介してきたが、最後に番外編として2024年春·劇場公開の新作映画を。これも配給がウォルト·ディズニー・ジャパンなので恐らく、ゆくゆくは公式動画配信サービスの「Disney+」でも視聴できると予想されるが、先ずは映画館に一人で足を運び、思いっきり泣きはらした目で帰路について欲しい。

その作品とは、日本のドラマ史に大きな足跡を残し、惜しくも今年11月29日に89歳で亡くなった名脚本家・山田太一が1997年に発表した長編小説『異人たちとの夏』を再映画化したもの。監督は2012年の長編第2作『ウィークエンド』で脚光を浴び、サンフランシスコに住むゲイの友情を描いた米国のテレビ·ドラマ『ルッキング』(2014~2016年放送)が人気を呼び、長編第3作『さざなみ』(2015年)と同第4作『荒野にて』(2017年)を高く評価された、英国が誇る名匠アンドリュー・ヘイ。

舞台は東京からロンドン(とその郊外)へ場所を移されているものの、12歳の頃に死別したはずの自分の両親や同じマンションに住む謎めいた年若い恋人とのふれあいを通して、主人公の日常に変化が訪れるプロットは原作のまま。出演者がたった4人だけの厳粛で抒情的な雰囲気が如何にもヘイ監督らしく、主演の二人にアンドリュー・スコットとポール・メスカルという注目株を配し、両親を演じるジェイミー・ベルとクレア・フォイの味わい深い演技が脇を固めるキャスティングも最高。

何よりも、あのヒリヒリするような心の痛みや深い孤独感は“ゲイ設定”だからこその説得力を持ち、全体に漂うどこか世阿弥の「幽玄」や「花」にも通じる静謐な佇まいにも心を掴まれる。

すでに10月に開催された第36回東京国際映画祭におけるアジアン・プレミアでも、観客から惜しみない絶賛の声を集めており、本年度の映画賞レースの行方も気になるところだ。

音楽的には80年代のヒット・チューンが満載で、しかもペット・ショップ・ボーイズやフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドらによる“ゲイ・アンセム”が深い感動を呼ぶはず。

なお、大林宣彦監督による1988年の旧映画版『異人たちとの夏』も現在、配信にて視聴可能で、こちらも両親との再会場面などノスタルジックなテイストが実に大林監督的な名作であり、しかも劇中で往年の二期会ソプラノ、名古屋木実が歌うオペラ·アリア〈私のお父さん〉が使用されているのも見どころなので、『異人たち』公開の前に“予習”しておくのもいいと思う。

東端哲也
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

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