冬迫る……第九を聴くひとときにぴったりのワインはいかが?
ソムリエの資格をもつワインライター、近藤さをりさんの連載スタート! 忙しい日々、ホッとひと息リラックスタイムを音楽とお酒で堪能しませんか?
初回はベートーヴェンの第九とワイン。
ワインは、食卓を囲んで語り合いつつ飲むお酒であり、料理とのペアリングや、ゲストの嗜好を考えてのアイテム選びはワクワクするという近藤さん。そういう社交的な飲み物である一方、音楽を聴きながら静かに味わう愉しみも捨てがたい。
さあ、音楽に寄り添って選ばれたワインを手に、乾杯!
日本ソムリエ協会認定 ソムリエ / ジャパンビアソムリエ協会認定 ビアソムリエ。大学では哲学を専攻。卒業後に渡独し日本企業現地法人勤務を経てワイナリーに転職。帰国して...
11月のワイン新酒はボジョレだけじゃない!
この時期、旬なワインは何か?
11月に断然注目を浴びるのは、第3週目の木曜日に販売解禁となるフランスのボジョレ・ヌーヴォー。毎年テレビでも新聞でも、良い年だと報道される。
これよりひと足先の11月11日、聖マーティンの日に解禁となるのがオーストリアの新酒、ホイリガーだ。自家製のホイリガーを簡単な料理とともに提供する酒場、ホイリゲはウィーン郊外に多く、新酒の季節に限らず観光客を迎えている。
ホイリゲの歴史は、神聖ローマ帝国皇帝ヨーゼフ2世が自家製ワイン販売許可を発令した1789年に遡る。つまり、20世紀後半に新酒解禁日が定められたボジョレよりも古くから、変わらず守られ続けている日にちなのだ。
寒さが増すこの季節、聴きたくなる音楽といえば?
冬が近づくにつれ、第九コンサートの情報がチラホラと入って来る。日本の年末の風物詩の1つだ。この曲に季節を感じられるのは日本に住んでいる我らの特権だろう。コンサートに出向かずとも、この信号に脳が刺激を受けて、そろそろ今年も聴いてみようかなという気持ちになるのが、音楽ツウではない一般人にありがちな傾向というもの。
でも、なんか食卓のBGMには向かない気が……。ということで、くつろぎタイムにチビチビ飲んで美味しそうなワインを探した。
第九が生まれた家「ベートーヴェンハウス」のあるワイナリー
1683年創立の「マイヤー・アム・プァールプラッツ」はウィーン郊外のハイリゲンシュタットにある、人気のホイリゲをもつワイナリー。この敷地内には、ベートーヴェンが住んでいた家屋が現存する。
ベートーヴェンは難聴が進むなか、1802年に耳の治療も兼ねて当時温泉養地だったハイリゲンシュタットに逗留し、1803年~1804年に交響曲第3番エロイカを完成させた。そして1817年、この家を見つけて移り住み、第9番の作曲に取り組む。
ベートーヴェンはたびたび住居を変えていたので「ハイリゲンシュタットの遺書」をしたためた現在のベートーヴェン記念館とは別の建物だ。
作品の展開と共に飲み進んでみよう
このベートーヴェンゆかりのワイナリーが生産する白ワイン2アイテムを紹介する。
長い作品だから、1から2の順序で飲んで欲しい。開封した日のうちに飲み干さなくても大丈夫。スクリューキャップだから、きっちり閉めて冷蔵庫で保管すれば2~3日はもつ。
1. グリューナー・ヴェルトリーナー ベートーヴェン第九ラベル 2017年
ラベルには肖像画と「No.9」の文字がある。曲のイメージに合う、とかフワッとした理由でなく、ドンピシャなワイン。グリューナー・ヴェルトリーナーはオーストリアを代表する固有品種。爽やかな柑橘系の香りに仄かな胡椒のニュアンスを感じる。心地よい酸と繊細なハーブの香りに溢れる。
第1楽章から飲み始め、第3楽章の美しい旋律と軽い酔いが相俟って陶然としてきたところで、次のワインに切り替えよう。
2. ウィーナー ゲミシュター・サッツ 2017年
ゲミシュター・サッツとは、英語で言えばフィールドブレンド。一般的なブレンドはブドウ品種別に醸造したワインを混ぜて仕上げるのに対して、これは混植混醸。つまり畑に植えられている時点でブレンドされている。法規定では最低3つの白品種が1つの畑に一緒に植えられていること、1品種が50%を超えないこと、3番目に比率の大きい品種が最低10%は占めていることが条件。
2017年ヴィンテージの品種構成は、グリューナー・ヴェルトリーナー30%、リースリング28%、ツィアファントラー12%、ロートギプフラー9%、ヴェルシュリースリングとノイブルガーとトラミナー3品種合計が21%。馴染みのない固有名詞が並ぶが、いろいろ混ざってるんだな、と思っていただければいい。
1品種の個性だけが突出しない比率構成により、各品種の特性が活きた味わいのワインになる。
オーケストラと合唱とソロと、全部ある中に調和と融合がある第4楽章そのものと言える。1~3楽章に共通するテーマ、つまりグリューナー・ヴェルトリーナーの存在も感じながら、新境地の味覚に展開していく。
まさに、飲み終わった頃には、歓喜に寄せて、という高揚感の余韻を楽しめるに違いない。
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