セント・パトリックス・デイ みんながアイリッシュになれる日
街中が緑色に染まる様子を、海外のニュース等で見たことのある人も多いのでは? 3月17日はアイルランドの祝祭日、「セント・パトリックス・デイ」。意味や由来を知らずともお祭りは楽しいものですが、知っていたらより楽しめる! ということで、アイルランドの歴史をちょっと覗いてみましょう。
現代だからこそ、アメリカ社会を支えるアイルランド系移民たちの生き方に学ぶことも多いかもしれません。
今年の3月17日は、一緒に緑色に染まろう!
1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...
3月17日は、アイルランドの守護聖人セント・パトリックの命日であり、祝祭日だ。この日は多くの人が緑色を身にまとい、お祝いする。ニューヨークやシカゴの街中で顔を緑に塗った人がパレードしたり、緑色のビールを飲んだり、川が緑色に色づけされたのが海外からのニュースとなり、日本にも伝えられた。
アイルランドを訪れたことがある方なら、誰でも覚えていると思う。飛行機の翼の下に見えたエメラルド・アイル(Emerald Isle)と呼ばれる常緑の島を。夏でも冬でも、なぜかアイルランドは緑で覆われている。この色はアイルランドを象徴するナショナル・カラー。その緑色に全世界が染まる日がある。それがセント・パトリックス・デイだ。
日本では1992年より東京表参道でも大規模なパレードが行なわれており、たくさんの人たちが参加するようになった。ここ数年はパレードの終点近くの代々木公園でI LOVE IRELAND FESTIVALという大規模なイベントも行なわれ、昨年はなんと11万人を動員したそうだ。ここでは飲食関係を中心にアイルランドの様々な文化を体験できるようになっている。
セント・パトリックって、そもそも誰?
さて、このセント・パトリックとはいったい誰なのか。簡単に言ってしまえば5世紀の後半、アイルランドにキリスト教を広めた人物で、この地にもとから存在したケルトの土着的な多神教的信仰とキリスト教を平和的に融合させた偉人と考えられている。
セント・パトリックは、子どもの頃海賊に誘拐され、最初はアイルランドに奴隷としてやってきた。しかし命からがら脱出し、故郷で神学を学んだあとアイルランドに再び舞い戻り、キリスト教の布教に勤めたという。既に7世紀にはアイルランドでこの聖人を祭るセント・パトリックス・デイが存在していたというのだから驚きだ。
いくつか説は有るものの、セント・パトリックはウェール人かスコットランド人だったという説が有力のようだ。彼のどこがそんなに素晴らしかったのか。数々の逸話?は残るものの、あまりに昔のことで、その裏を取るすべもない。
アイルランド系移民の心の支え――セント・パトリックス・デイに行なわれた記念すべきスピーチ
しかし彼がアイルランド人の心の支えであり、象徴であることは間違いない。
2年前、このパトリックス・デイに当時のアイルランド首相、エンダ・ケニーがアメリカを訪問し、トランプ大統領の前でアイルランド人移民がいかにアメリカ社会に貢献したかスピーチした。移民をたたえたそのスピーチは大喝采を受け、これが大きなニュースとなった。アメリカはこの小国の首相の言葉を無視することはできない。というのも、アメリカには3,000万人を超えるアイルランド系の移民たちが住んでいるからだ。
「セント・パトリックは、移民だった。そして今やアイルランドばかりでなく、彼は全地球上の移民の守護聖人ともなっている。ここアメリカで、3,500万人のアイリッシュの血を受け継ぐ人々が、経済的、社会的、政治的そして文化的に、この素晴らしい国を200年ささえてきた。アメリカへみんな自由を求めて、機会をもとめて、安全をもとめて、そして食べるために移住してきたのだ」
「我々は自由の女神の灯がともる40年前、アメリカの海外にうようよと押しかけた悲惨な難民だった。私たちは避難所としてのアメリカを信じ、アメリカの思 いやりを信じ、アメリカなら成功の機会があるだろうと信じてやってきたのだ」
「私たちはここへやってきて、そしてアメリカ人になった。ジョン・F・ケネディが打ち明けるずっと前から、我々は彼の言葉を生きてきた。アメリカが何をしてくれるかではなく、アメリカのために何ができるか問うたのだ。そして今でもそれを問うている」
(筆者訳)
ちなみにアイルランド移民を描いた映画では、シアーシャ・ローナン主演のこちらの映画が素晴らしいので、是非見て! もちろん人生の岐路に立ち、悩む女性の生き方にも共感を覚えるが、当時のアイルランド移民の様子も非常に繊細に描かれている。
自分の未来を見つめて、世界を少しでも優しい場所にするために――何よりも今を楽しむために、是非3月17日はアイルランドを体験してほしい。ちなみに今年も東京だけではなく、松江、名古屋、北海道でもパレードが計画されているとのこと。
詳しくはIRISH NET WORK JAPANのウェブサイトをチェックしてほしい。毎年天候には恵まれているパレードだけど、果たして今年は……?
日本では3月は別れの季節でもありますね。
アイルランドにおける「蛍の光」的存在の歌「別れの杯 The Parting Glass)」
関連する記事
-
ケルティック・ハープってどんな楽器? 松岡莉子が語る奥深い世界
-
国民楽派の進化系!? 伝統音楽とクラシックを武器にポップ・ミュージックを作り出す...
-
成功のバロメーターは来場者数ではなく「質」〜GWは琵琶湖も楽しみに音楽祭へ!
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly