インタビュー
2022.05.05
異なるバックグラウンドをもつデンマーク発の3人組

国民楽派の進化系!? 伝統音楽とクラシックを武器にポップ・ミュージックを作り出すドリーマーズ・サーカス

デンマーク出身の3人組、ドリーマーズ・サーカス。彼らの音楽を強いてひとつのジャンルで括るとすれば、トラッドということになるのだろう。トラッドというと、アイリッシュに代表されるような「人々の生活に深く根ざしたダンス音楽」という印象があるけれど、彼らは決してそれだけに終始しない。クラシックをはじめ実に多様なジャンルの要素を取り込んだ彼らの音楽は、都会的でこの上なく美しいポップ・インストともいえる。今年は日本のゲーム音楽とのコラボレーションも実現し、ますます注目が集まりそうな3人に、話を聞いた。

取材・文
山﨑隆一
取材・文
山﨑隆一 ライター

編集プロダクションで機関誌・広報誌等の企画・編集・ライティングを経てフリーに。 四十の手習いでギターを始め、5 年が経過。七十でのデビュー(?)を目指し猛特訓中。年に...

写真:atacamaki photography

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伝統音楽のベースをもち、クラシックの教育も受けたエリート集団

北欧と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろうか? 人によってさまざまだとは思うけれど、シンプルで洗練されたデザイン、オーガニックなライフスタイルをはじめ、清潔で趣味がいい、というのが大方の意見ではないだろうか。音楽でいえば、各国ともクラシックの伝統があり、ジャズやポップスにしてもセンスがいいという印象がある。そして、ここで紹介するデンマーク出身の3人組、ドリーマーズ・サーカスも、そんな北欧のイメージを裏切らない、まさにセンスのかたまりのようなバンドである。

2009年にコペンハーゲンで結成されたドリーマーズ・サーカス。メンバーはルネ・トンスゴー・ソレンセン(ヴァイオリン)、アレ・カー(ブズーキ)、ニコライ・ブスク(ピアノ/アコーディオン)の3人だ。それぞれに伝統音楽の素地があり、また大学でクラシック音楽の教育を受けてもいる。

(左から)ルネ・トンスゴー・ソレンセン(ヴァイオリン)、ニコライ・ブスク(ピアノ&アコーディオン)、アレ・カー(ブズーキ)
2009年結成。結成のわずか6ヶ月後、デンマークのロイヤル・アカデミー・ホールにて、ルネがモーツァルトの「ヴァイオリン協奏曲第5番」にソリストとして出演した際、第三楽章のカデンツァ部分でアレとニコライがステージに躍り出て演奏に加わり、観客の度肝を抜いた。
2011年にはコペンハーゲン・フィルに招かれ、「夢の60分間」という、ドリーマーズ・サーカスの音楽をオケと1時間まるまる共演するというプログラムを行なう。2013年に、そのフォークのルーツとシンフォニックな特性をブレンドさせたデビュー作「ア・リトル・シンフォニー」をリリースするや大絶賛を呼び、栄誉あるデンマーク・フォーク・アワードで3冠を達成するという快挙を成し遂げる。同年10月にはデンマーク王室から「ライジング・スター賞」を授かり、シドニーのオペラ・ハウスに招かれ、そのパフォーマンスで観客を魅了した。現在、ヨーロッパ中で旋風を巻き起こしている、北欧フォーク&クラシック界の超大型新人である。

ルネのヴァイオリンは、とにかく歌う。トラッド的な歌い回しもクラシカルな表現も自由自在に操り、両者が根っこでつながっているんだよ、と教えてくれるようでもある。彼はコペンハーゲン・フィルで5年間コンサートマスターを務めたほか、デンマーク弦楽四重奏団の第一ヴァイオリン奏者としても活動するなど、クラシック音楽の最前線で活躍する俊英だ。ちなみにデンマーク弦楽四重奏団はECMからアルバムをリリースしている。

アレの持つ楽器、シターンはブズーキの系統にあり、彼はこれでロックのようなノリを出したり、抒情的なソロも披露するなど、楽曲に豊かな表情をつけていく。ニコライはリヒテルやグールドを愛する一方でジャズにも深く傾倒し、バンドのサウンドに都会的な響きを加えるキーマンだ。

そんな3人が集まると、あくまでトラッドを土台にしつつ、クラシック、ジャズ、ポップス、そしてアンビエントやエレクトロニカの要素までをも感じさせるバラエティに富んだ楽曲が続々と飛び出してきて、まさにサーカスのよう。そして、どこでどんな音を、どのように出すべきか、表現のセンスがとにかく素晴らしい。そうして編み出される曲の数々はすべてが絵画のように色彩豊かで、物語のように雄弁なのである。

豊かな創造力がマジックを生みだすバンド

2019年の来日公演時に、ドリーマーズ・サーカスの3人に会うことができた。取材場所に現れた3人は、揃って黒を基調としたシックな出で立ち。端正なルックスも相まって、普通に街を歩いていても人々の目を惹いたに違いない。現場では、たまたま置いてあった三線を珍しそうに手に取ってポロンポロンつま弾いてみたりして、見るものすべてに興味津々という感じである。

「デンマークから見れば、日本という国はまるで地球の裏側にあるような感覚なんだ。こんな遠くまで来てドリーマーズ・サーカスの音楽を披露して、それを聴いて楽しんでくれる人がいる。ありがたいと同時に、とても不思議な気持ちになるんだ」(ルネ)

もの静かだけど、その目は常に何かを思索しているようで、要所では熱く語ってくれるルネ。対してアレとニコライの2人はバンドのスポークスマン兼やんちゃ担当、といった感じ。特にアレは「ア、ソウデスネ!  ワカリマシタ!」などと覚えたての日本語を駆使して場を温めてくれる。

「僕はメンバーの中でいちばん日本語を勉強してると思うよ。日本の観客はしっかり音楽を聴いてくれるし、終演後は列をなしてサインや握手を求めてきてくれる。そうやってファンが楽しんでくれるのがとてもうれしいんだ。もうずっと日本にいてもいいんじゃないかな(笑)」(アレ)

「この前は習字を教えてもらったんだ。『音楽』という漢字を書いて、先生に意味を尋ねたら『音を楽しむこと』だという。わぁ、これは自分たちのためにある言葉だ! と思ったよ。日本はオーディエンスも素敵だけど、こんな素晴らしい体験もさせてくれる日本のエージェンシーには心から感謝しているよ」(ニコライ)

音を楽しむ、音で遊ぶ。そういうバンドの姿勢は、「ドリーマーズ・サーカス」という名前に凝縮されている。名は体を表すとはまさにこういうことだと思う。

「サーカスというのは、いろんなアトラクションがあって、楽しいものだよね。僕たち3人はそれぞれが異なったバックグラウンドをもっていて、持ち寄るアイデアも幅が広い。僕らの強みは、それらを極めて高い次元で、シンプルに楽しめる音楽として聴衆に提供できることだと思う」(ニコライ)

アレ・カー(ブズーキ)

「そしてドリーマーズというのは、ストレートに言えば『夢を見る人』ということだけど、このバンドにおいては『確固としたビジョン』や『クリエイティブなアイデア』を持ちつつ、『無限の可能性』を秘めた3人。そんな意味で捉えてくれたらうれしいな」(アレ)

「『マジック』といってもいい思うよ。ドリーマーズ・サーカスは豊かな想像力がマジックを生みだすバンドなんだ」(ルネ)

ニールセンが作った歌はいつも心の中にある

さて、彼らの音楽性についても話を聞こう。先に触れたように、非常に多彩な引き出しを持つドリーマーズ・サーカスの音楽の土台には、伝統音楽がある。そのフィジカルの強さが彼らの音楽を単なるファッションではなく、血の通った、タフでロマンチックなものに昇華ささせているのだ。その昔、国民楽派と呼ばれる作曲家たちは、自国の民謡や舞曲の要素を作品に取り入れることで独自性を示したが、彼らはその進化形といえるかもしれない。

「音楽を作るとき、どんなアイデアが出てきても、僕たちはいつもオープンに考えて受け入れるようにしているよ。トラッドな音楽は、その上にどんな要素を乗せて遊んでもビクともしない強さがあるからね。だけど、僕たちは決して最初からそう考えていたわけではなくて、結成してから10年近く試行錯誤を続けてきた結果なんだ」(アレ)

そして、クラシック音楽ファンなら、デンマークと聞けばまず頭に浮かぶのがカール・ニールセンの名前だろう。交響曲と並んでヴァイオリン曲でも知られている。彼はヴァイオリン奏者でもあったのだ。

以前、やはりデンマークのトラッド・ミュージシャンに話を伺った際、ニールセンの影響について熱く語るのを聞いたことがある。ニールセンはトラッドな歌曲をたくさん書いていて、デンマークの子どもたちは学校で必ず習うのだそうだ。同じことを、デンマーク出身のジャズ・ミュージシャンからも聞いた。ニールセンの作った歌はデンマーク人の心の中にいつもある、と。ルネにもニールセンについて聞いてみた。

「ニールセンの影響はもちろんあるよ! デンマークでは歌の伝統が強いんだけど、その理由のひとつは、ニールセンが素晴らしい曲をたくさん書いているからなんだ。クリスマスをはじめ、お祝いの席では今でも歌われているよ。僕たちもニールセンの曲をアレンジして、弦楽四重奏団と演奏したりもしているし、僕たちにとってもニールセンは切っても切れない存在だよ」(ルネ)

「なんたって、僕の息子の名前はカールだからね!」(ニコライ)

ニコライ・ブスク(ピアノ&アコーディオン)

ゲーム音楽とのコラボと、自然体で臨んだ新作

今年は待望の新作が発表されるほか、ゲーム『クロノ・クロス:ラジカル・ドリーマーズ エディション』に実装された新規アレンジ楽曲も手がけた。

ヨーロッパ伝統音楽の熱烈なファンとしても知られる光田康典による作品を4曲、ドリーマーズ・サーカスがアレンジしてレコーディングしたのだ。ゲーム音楽ならではのファンタジックな世界観と3人の音楽センスが見事に融合し、スケールの大きなサウンドに仕上がっている。6月22日に発売予定のアナログレコード『CHRONO CROSS: THE RADICAL DREAMERS EDITION Vinyl』にも、その4曲は収録されている。

『クロノ・クロス:ラジカル・ドリーマーズ エディション』~「航海 アナザー・ワールド」ミュージックビデオ

©1996, 1999, 2022 SQUARE ENIX CO.,LTD. All Rights Reserved.
(株)スクウェア・エニックスは、1999年に発売した『クロノ・クロス』のリマスター版『クロノ・クロス:ラジカル・ドリーマーズエディション(CHRONO CROSS: THE RADICAL DREAMERS EDITION)』をNintendo Switch™、PlayStation®4、Xbox One、Steam®にて2022年4月7日に、Steam®版は4月8日にダウンロード専用で発売。

2022年6月22日には、LP『CHRONO CROSS: THE RADICAL DREAMERS EDITION Vinyl』を発売予定。

「全部で4曲収録したんだけど、光田さんはいい曲を書くなぁ、と思う。そして、彼が僕らに課した条件は『感じるままに、好きにやること』だったんだ。これって、すごいよね!? 彼が僕たちのことを信頼してくれていると知って感動したし、とっても楽しかったよ」(ニコライ)

「スタジオは僕らが着いた時点で準備万端だったし、スタッフも素晴らしかった。僕らはただ音楽をすれば、それでよかったんだ。全部で10時間の作業だったけど、あっという間だったよ」(ルネ)

ルネ・トンスゴー・ソレンセン(ヴァイオリン)

「スタジオにはハルモニウムをはじめ、楽器がたくさん用意されていて、床一面にパーカションがズラリ! いい遊び場だったよ(笑)。僕らが考える理想の作業環境があったんだ。僕たちはいつもこうして録音しているからね」(アレ)

待望の新作に関しては、インタビュー時にはレコーディングを終えたばかりの状態で、ルネによると「ミックスを終えてみないと、まだ全体像が見えてこないな」とのことだったが、2020年に『Blue White Gold』と名付けられ発表された(日本盤も6月にリリース予定)。その柔軟な音楽性は変わらず、より深く研ぎ澄まされた印象だが、わかりやすさはそのまま。より多くの人にアピールできる傑作だと思う。

「以前よりもリラックスしてレコーディングに臨めたよ。より自然なバンドの姿を収めることができたと思う。今まではオリジナル曲にこだわってきたけれど、今作ではトラディショナルの曲も入れてみたんだ。大人な感じになったかな」(アレ)

「僕たちはベストを尽くしたから、あとはリスナーの皆さんが判断してくれたら、と思う。ひとりでも多くの方に聴いてもらいたいな」(ニコライ)

ワールドミュージックのファンの間では既に注目を集めているドリーマーズ・サーカス。クラシック音楽のファンも、これを聴いたらファンになる人が多いのではないだろうか。「クラシックの技術や知識をポピュラー音楽に活かしたい」なんて人も、聴いて損はないはず。そして何より、伝統音楽というものが、アイデア次第でこれだけ幅の広いものになるということを知るだけで、心が豊かになった気がするのである。

公演情報
ドリーマーズ・サーカス来日公演2022

日時: 6月15日(水)19:00開演

会場: 渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール(東京)

ゲスト: 光田康典(作曲家)

問い合わせ: 地球音楽プロジェクト 実行委員会 Tel.03-6273-9373

 

日時: 6月17日(金)19:00開演

会場: 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

問い合わせ: 芸術文化センターチケットオフィス Tel.0798-68-0255

 

日時: 6月19日(日)14:00開演

会場: 所沢市民文化センター ミューズ キューブホール(埼玉)

問い合わせ: ミューズチケットカウンター Tel.04-2998-7777

取材・文
山﨑隆一
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山﨑隆一 ライター

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