4段の鍵盤に5898本のパイプ!! サントリーホールに鎮座する“楽器の王様”パイプオルガン
オルガンと聞いてみなさんは何を連想するでしょうか。音楽室? 教会?
実は日本の音楽ホールには、世界もうらやむ素晴らしいパイプオルガンがたくさんあるのです! オルガニストの近藤岳さんと、クラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さんの2人と一緒に、普段は見られないサントリーホールのオルガンの「操縦部」を探検してみましょう。
東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。同大学別科オルガン科修了。同大学大学院修士課程音楽研究科(オルガン)修了。2006年文化庁派遣芸術家在外研修員としてフランス(パリ)に...
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...
二千数百年も昔に誕生したといわれる“楽器の王様”オルガン。何本ものパイプから音を出す楽器で、その発音の仕組みは「管楽器」、でも音を出すために演奏するのは「鍵盤」…… オルガンは管楽器と鍵盤楽器両方の仲間に入るような不思議な楽器なのです!
1本1本のパイプはまさに「笛」であり、リコーダーと同じ仕組みで音が鳴ります。リコーダーは人間が息を吹き込みますが、オルガンは送風機装置で作られた風をパイプに送り込んでいます。リコーダーにはいくつも穴が空いていて、それらを指で塞いで音の高さを変えますが、オルガンのパイプは1本につき、決まった高さの音だけしか出さないのです(贅沢な作り!?)。数センチしかない細いパイプからはとても高い音が、10メートルを超えるような太いパイプからはとても低い音が出ます。
また、オルガンはさまざまな音色を出します。パイプの材質や形、太さ細さによって音色はガラリと変わりますが、フルートやトランペットのような音、弦楽器のような音など、いろんな種類の音色があります。音色1種類に対しても、鍵盤の数だけパイプ1本が当てられています(やっぱり贅沢!)。よって「鍵盤の数×音色の数」の分だけ、ものすごくたくさんのパイプが必要になるのです。
では、日本が誇るクラシック音楽ホールの殿堂、サントリーホールのオルガンには何本のパイプがあるのでしょう。客席から見えるパイプは実はほんの一部。全部でなんと5898本もあります! オルガニストは、それだけの数のパイプを駆使して、たった1人で壮大な響きを生み出すのです。
手で弾く鍵盤は全部で4段あり、足で弾くペダル鍵盤もあります。さらに、音色の数は74種類もあり、それらの組み合わせによって柔らかな響きから華やかで力強い響まで豊かな音色を作りだします。
ではここで、オルガニストの近藤岳さんに、オルガニストがどのようにして演奏しているのか、教えてもらいましょう!
ストップの組み合わせ・レジストレーションが大事!
オルガンの操縦席「コンソール」
―― オルガニストが座っているところは客席から遠いので、普段あまりよく見えませんが、鍵盤に近づいてみると、たくさんの鍵盤やペダルやボタンのようなものがありますね!
近藤:オルガニストが座っているこちらは「コンソール」と呼ばれます。「演奏台」という意味です。ここはオルガニストが楽器を操るための1番大事な場所。手鍵盤、足鍵盤、そして左右にストップがズラリと並んでいます。
「ストップ」とは、オルガンの「パイプの音色」のことを言い、どのパイプの音色を使うのか、選ぶことができます。つまり、ストップを変えれば、同じキーを押していても音が出るパイプが切り替わるわけです。
演奏中はアシスタントがストップを手で出し入れすることもありますが、あらかじめオルガンの記憶装置にストップの組み合わせを記憶させておいて、ボタン1つで瞬時に呼び出すことができます。一斉に複数のストップを変えることができるんですよ!
―― ハイテクなんですね!
近藤:なお、こちらのメイン・コンソールに対して、ステージ上に設置できる「リモート・コンソール」もあります。皆さん、「テレビのリモコン」というと簡単にイメージしやすいでしょうか、つまり離れた場所から操作できる演奏台…… そう、なんとステージ上でオルガン本体を鳴らすことができるんです。
リモート・コンソールは、メイン・コンソールの分身! オルガニストがリハーサルのときにストップの組み合わせを決めたり、オルガンの音の全貌がどう聴こえるか確認したいときによく用います。もちろん本番でも大活躍。ステージ上で他の演奏家やオーケストラと共演するときに使用します。
パイプは音色と音量をきめる
―― ところで、音色にはどんな種類があるのですか? ストップに何か書いてあるのは、音色の名前でしょうか。
近藤:そうなんです、ストップにはそれぞれ名前が付いています。オルガンの基本的で中心となる音色のプリンシパルをはじめ、フルート、オーボエ、トランペットなど管楽器を模倣したストップや、ヴィオラ・ダ・ガンバなど弦楽器の音色を模したものもあります。
変わったところだと、フランス語で“人の声”という意味の「ヴォワ・ユメーヌ」、“天上の声”を意味する「ヴォワ・セレステ」という名前のストップなどがありますよ。ヴォワ・セレステは、ほんの少しだけピッチが高く作られていて、別のストップと合わせて使うことで、音に柔らかなうねりを出すことができます。
1番長いパイプは約6メートル!
―― ストップには数字も書いてありますね。
近藤:8とか4とか、16とか……たくさんありますね。これは音の高さを表す数字なんですが、オルガンでは音の高さを表すときに「フィート」という単位を用います。
1フィートは約30cm。「8’」(=8フィート)は、ヘ音記号の楽譜で加線2本を下に引いた、低いドの音(CC音)を出すために必要なパイプの長さが「8フィート(約2m40cm)」なことから、これを基準にして、ピアノの鍵盤と同じ高さの音をオルガンでは「8フィート」の高さ、と呼びます。ですから、オルガンでピアノと同じ高さの音を出すには「8フィート」のストップを選びます。
逆に、倍の「16’」はパイプの長さが倍になるので、実際に弾いたキーよりも1オクターブ低い音が出ます。逆に「4’」は半分の長さのパイプになるので、1オクターブ高い音が出ます。
サントリーホールのオルガンには、1番低い音の出せるパイプが2種類あります。32フィートという大きくて長いパイプです。低音により重厚感のある響きを加えたいときに、このパイプが活躍します。
―― 最低音はもう、ほとんど地鳴りのような響きですね! 振動がすごいです。逆に、1番高い音は、どんな響きなのでしょう?
近藤:1フィートという、小指の先くらいのような細くて短いパイプから出る音です。
―― 高すぎて、もはや音程がわからないくらいですね! ところで、分数が書いてあるストップもあります。
近藤:たとえば「2 2/3’」と書かれているストップを引くと、鍵盤で弾いた音よりも1オクターブ+完全5度上の音が出ます。これは、倍音列の第3倍音にあたります。倍音というのは音の構成要素で……まぁこれ以上の深追いは複雑になるので、やめておきましょうか!(笑)
―― でも、ひとまずストップとは、オルガンの音色のことで、響きの特色も、音の高さも実にさまざま、そしてそれらをいろいろ組み合わせることで、音の響きや大きさ、高さも自在に変えることができることがわかりました。
近藤:そうなんです! それと、使用するストップの数を増やすと、鳴らすパイプの数が多くなるわけだから、音量も比例して大きくなるんですよ。足元の「クレッシェンド・ペダル」を踏み込んでいくと、ストップの数を自動的に増減させることができます。
窓を開け閉めして音量調節「シャッター・ペダル」
―― なるほど! オルガンはピアノのようにタッチの仕方で強弱は付けられないけれど、パイプの数で変えることができるんですね。どんどんストップが出入りする様子は迫力がありますね。ちょっと怖い……(笑)
近藤:強弱をつける方法は他にもあって、サントリーホールのオルガンには足元に2つの「シャッター・ペダル」があります。これを使うと、Ⅱ鍵盤とⅢ鍵盤それぞれのパイプ群が設置された部屋の窓を開け閉めできるので、シャッターを閉じれば部屋の中で鳴るパイプの音を小さく聴こえさせ、シャッターを開ければ音が飛び出し大きく聴こえさせることができる訳です。
この機能は特にロマン派以降の音楽を演奏する際に欠かせません!
オルガン1台1台に個性がある
近藤:曲や曲想に応じてストップを増やしたり減らしたり、またシャッター・ペダルの開閉なども併用しながら、強弱の微細な差をつけていきます。
たとえば音楽の中で、「この8小節間にわたるクレッシェンドはどんな感じで大きくしていこう? 滑らかに増やすには?」どのストップをどのタイミングでどう増やしていくか、シャッター・ペダルをどう使うか……といったことを考えながら、実際に音を鳴らして確かめて決めていったりします。
―― 音色、高さ、そして数。ストップをどう使うかによって、同じ曲でもまったく違った響になるわけですよね。オルガニストの腕の見せ所の一つと言えるのだと思いますが、それを考えるのって大変そうです。
近藤:ストップの組み合わせのことを「レジストレーション」と言いますが、レジストレーションを考えるのは、オルガニストにとって大変大事な作業です。オルガンを演奏するのと同じくらい大切なことと言っても良いかもしれません。
楽器によってストップの種類も数も違うので、事前に演奏するホールのオルガンのストップリストを見ながら、どう組み合わせるかを考えておかなければなりません。今は、各ホールのオルガンのストップリストがウェブ上で公開されていたり、冊子で入手できたりします。
でも実際に楽器を鳴らしてみると、イメージとは少し違うこともあります。この曲よりもあの曲が……とか、この作曲家よりもあの作曲家が……などとインスピレーションを働かせて選曲ができるので、欲を言えばリハーサルよりももっと前に楽器に触れられるのが理想です。
―― そこが、マイ楽器で練習のできる他の楽器奏者とは違って、オルガニストは大変ですね。
近藤:そうですね、1台1台すべて違いますからね……。オルガンの置かれた空間、楽器のスケールはもちろん、鳴り方や弾き心地、鍵盤の重さ、鍵盤や椅子の高さなども本当にまちまちです。楽器によって、よく弾かれている、あまり弾かれていない、などの差も多分にあります。
それでも、オルガニストはそのオルガンでいい音楽表現ができるように、自分自身がその楽器に合うように微調整しながら寄り添わないといけないんですよ。いろいろ試されることは多いですけど、でもそこがオルガンを演奏する醍醐味の一つなのかもしれませんね!
それいけ! オルガン探検隊 もぐらん隊長とオルガンのひみつ
日時:2018年7月21日(土)
1回目 11:00集合(12:30終了予定)
2回目 13:30集合(15:00終了予定)
会場:サントリーホール 大ホール
出演:オルガン 勝山雅世、花澤絢子
おはなし 近藤岳
ピアノ 谷合千文
助手 もぐらん隊長
-
- 入場料:1,000円
- ※小学生対象(4歳以上入場可) ※定員300名
問い合わせ: 0570-55-0017
- https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20180721_M_2.html
おとなのオルガン探検
日時:2018年7月21日(土)16:00開場 16:10開演(18:00終了予定)
会場:サントリーホール 大ホール
出演: オルガン 勝山雅世、花澤絢子
おはなし 近藤岳
ピアノ 谷合千文
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- 入場料:1,500円
※未就学児の同伴・入場不可 ※定員400名
問い合わせ: 0570-55-0017
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20180721_M_3.html - 入場料:1,500円
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