オルガニストはタッチに命をかける! コンサートホールの残響音まで計算し尽して演奏する神技!
同じ鍵盤楽器でも音を出すメカニズムがピアノとはまったく異なるオルガン。
ダイナミックな音楽を演奏しているときでも、とても繊細なオルガンのタッチを近藤さんが熱く語ります。飯田さんはサントリーホールの大オルガンであの名曲に挑戦!
さぁ、華やかで、奥深いオルガンの世界へあなたも!
東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。同大学別科オルガン科修了。同大学大学院修士課程音楽研究科(オルガン)修了。2006年文化庁派遣芸術家在外研修員としてフランス(パリ)に...
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...
タッチに命をかけています!
―― ストップやペダルを使った機能の大切さはさることながら、鍵盤の弾き方によって、やはり表現が大きくかわるのですよね。
近藤 はい。オルガンはピアノと違って、鍵盤を強く弾いても弱く弾いても、音の強弱や音色の差がつかないんです。ですから、個々の音の「長さ・短さ」を巧みにコントロールして音にコントラストを与えます。送風装置で作られた風は、楽器の中に流れ込み、パイプが立ち並んでいるところの足元にある「風箱」にやってきます。風箱の中にはパイプに風を通すための「弁」があり、その弁の開け閉めが鍵盤(キー)と連動しています。
つまり、鍵盤を押すと風箱の中の弁が開きパイプに風が注がれて音が出て、鍵盤を戻すと弁が閉まりパイプの音が鳴り止みます。弁の開け閉めのスピードを素早くしたり、ゆっくりしたり、それだけでも音の表情が変わるので、鍵盤に触れる指先・足先を意識的にコントロールして音楽的な表情をつけます。笛を吹く時に舌を使ってタンギングしますが、それを手足を駆使して鍵盤上でやっている訳です!
近藤 また、音と音を途切れさせずにつなげて鳴らしたいのか、それとも1音1音、はっきりと区切って発音させたいのか、そういった操作も鍵盤のタッチの仕方で決まります。バロック時代の作品ならば、言葉の子音を立たせるようなイメージで、1つ1つはっきり響かせることが多いですが、ロマン派や近現代の作品ならば、音と音とがほとんど重なるのではないかというくらいにつなげて、大きなレガートを作ることがあります。作品の時代様式によってパイプの「歌わせ方」を変えるのです。
―― となると、キーのアタック(鍵盤を押し下げる)とリリース(鍵盤を戻す)が、音楽表現の鍵となりますね。
近藤 そうなんです! いかにして風をパイプに注ぎ、鳴り止めるのか……。タッチの表現には命をかけています!
そこが雑だと、音像や音楽そのものも雑になってしまいますから。どんなにステキなレジストレーションにしていても、何も伝わらない演奏になってしまう。中でもリリースの表現はとても大切に考えています。
鍵盤を素早く戻せばスパッと歯切れ良く音が鳴り止み、ゆっくり戻せば音が減衰していくように鳴り止ますことができます。言葉で言うと簡単なんですが、これが両手両足をフルに使って何声ものフーガを弾くと考えてみて下さい! 恐ろしいほどのやり甲斐……(笑)。そこにはオルガンの表現の奥深さ、素晴らしさがあると感じています。
タッチのコントロールと言えば、空間によってその表現を変化させることもしばしばあります。
例えばコンサートホールは、満席時で2秒ほどの残響がありますが、ヨーロッパの教会なら5、6秒は当たり前、10秒以上というところもあります。オルガンと空間は切っても切り離せないですから、その場に合うテンポや音の長さを考慮して、空間をどう鳴らすのが音楽的か常に考えます。
奏者はコンソールから離れられないので、空間全体でどう響いているのかを聴くことができませんが、録音機を客席において自分でチェックしたり、信頼できるアシスタントの人に聴いてもらってアドヴァイスをもらうこともあります。
日本はオルガン見本市!?
―― それにしても、昨今ではコンサートホールに立派なオルガンがたくさん設置されていますね。それぞれに個性があるのでしょうから、いろいろ聴いてみたくなります。
近藤 今や日本には、さまざまな時代様式に即した、各国の個性豊かなオルガンが、ホールや教会にたくさん設置されています。公共ホールにオルガンが入るようになったのは1970年代初頭から。その種類の多さには、海外からやってきたオルガニストたちが驚くほどです。日本はまさに、オルガン見本市!
―― 見本市! そんな恵まれた環境にいるのなら、いろいろなオルガンを聴いてみなくては。サントリーホールのオルガンには、どんな特色がありますか?
近藤 こちらのオルガンは、オーケストラと合わせられることが使命の一つ。ですから、バロック・ピッチや古典調律ではありません。A1=442ヘルツに合わせてあります。
とはいえ、古い時代の作品から近現代まで、ソロからアンサンブルまで、あらゆる時代の音楽・ジャンルに対応できるスペックをもっています。水平トランペットという、水平に突き出た巨大なパイプなど、大きな楽器に備わっていてほしい機能はすべて備わった、懐の大きい楽器ですね。
近藤 また、こちらのオルガンは昨年、大規模なオーバーホールを行なったばかりです。一段と個々の音色のキャラクターがはっきりとして、それでいてさまざまな響きが見事に溶け合います。私が初めてこちらのオルガンを弾かせていただいたのは学生の頃でしたが、その頃とは音色・鳴り方がかなり変わりました。ホール自体も昨年の改修工事を行なって変わり、角が取れた調和の美しい響きを楽しんでいただくことができると思います。
―― オルガンもメンテナンスはもちろん、経年によって響きが変わっていくのですね。
近藤 常に満遍なくパイプに風が送られて鳴り続け、また同時に、たくさんのパイプが鳴ることで、個々のパイプは鳴るポイントを覚え、自然とパイプ間の調和も高まります。
自動車を新車で買っても乗らなければダメになるのと同じように、オルガンも多くの奏者に愛情をもって演奏してもらい響き続けることが大事です。そして、それを常に見守るメンテナンスの方々、オルガンに関わる皆さんすべての協力があって、オルガンはますます成長していくのです!
ピアニストとしても活躍する飯田さんも、サントリーホールの大オルガンを前にちょっと緊張気味?
日時:2018年9月17日(月・祝)13:30開演(12:50開場:15:30終演予定)
会場:サントリーホール 大ホール
チケット料金:指定席2,000円 U29席1,000円
【出演】
オルガン:近藤 岳
バンドネオン:三浦一馬
ナビゲーター:川平慈英
【曲目】
J. S. バッハ:プレリュードとフーガ ハ長調 BWV 545
三浦一馬:ピアソラの主題によるバンドネオン・ソロ・メドレー(マルコーニのモチーフによる)
ピアソラ:バンドネオン協奏曲「アコンカグア」より 第3楽章
メシアン:『キリストの昇天』より
第2曲「天国を請い願う魂の清澄なアレルヤ」
第3曲「キリストの栄光を自らのものとした魂の歓喜の高まり」
ほか
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