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2022.06.08

クライバーン・コンクールはセミファイナルへ!これまでの振り返りと今後の聴きどころ

ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールも最初の2ラウンドが終わり、残すところあと2ラウンドとなりました。しかしここからまだ、「セミファイナル:60分のリサイタルとモーツァルトのピアノ協奏曲」、「ファイナル:2曲の協奏曲」の演奏が残されています。そこで、コンテスタントたちのここまでの演奏の印象などにも触れつつ、このあとのラウンドの聴きどころを、かいつまんでご紹介してみたいと思います。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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これまでの予選クォーターファイナルを経て、6月8日7:30p.m.(現地時間)からスタートするセミファイナルへの進出者は以下の方々です。

Dmytro Choni(ウクライナ、 28歳)

Anna Geniushene(ロシア、 31歳)

亀井聖矢( 日本、 20歳)

Uladzislau Khandohi(ベラルーシ、 20歳)

Honggi Kim(韓国、 30歳)

Yunchan Lim(韓国、18歳)

Jinhyung Park(韓国、26歳)

Changyong Shin(韓国、28歳)

Ilya Shmukler(ロシア、27歳)

Clayton Stephenson(アメリカ、23歳)

Yutong Sun(中国、26歳)

マルセル田所(フランス/日本、28歳)

アンナ・ゲニューシェネ おおらかでダイナミックな演奏

アンナ・ゲニューシェネのセミファイナル、ファイナルの曲目

セミファイナル リサイタル

ベートーヴェン:7つのバガテルop.33

ヴェルディ=リスト:《アイーダ》から神前の踊りと終幕の二重唱

プロコフィエフ:ソナタ第8番 

セミファイナル モーツァルトの協奏曲

モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番

ファイナル 協奏曲

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番

女性が少ない状態でスタートした今回のコンクール、ここにきて唯一の女性となったのは、アンナ・ゲニューシェネAnna Geniusheneさんです。

私は彼女を2019年のチャイコフスキーコンクールでも聴いていますが、その時とまた印象が違い、こんなにおおらかでダイナミックな演奏をされる方だったのかと驚いているところです。

ご本人は、「あの時とはかなりレパートリーを変えているから」とおっしゃっていましたが、たとえ数年とはいえ、技術的、音楽的な変化もあったのかもしれません。

ここまでラフマニノフ、ブラームス、バルトークなどで、強靭なタッチから繰り出される重厚感のある音を楽しませてくれました。

セミファイナルのリサイタルでは、プロコフィエフの「ピアノ・ソナタ第8番」で再びあのキレの良い音楽を聴くことができそう。「《アイーダ》から神前の踊りと終幕の二重唱」もおもしろい選曲です。

亀井聖矢 超絶技巧を要する作品で客席を熱狂させる

亀井聖矢のセミファイナル、ファイナルの曲目

セミファイナル リサイタル

ベートーヴェン:ソナタ第21番《ワルトシュタイン》

リスト:パガニーニによる大練習曲第3番《ラ・カンパネッラ》

ラヴェル:夜のガスパール

バラキレフ:東洋風幻想曲《イスラメイ》

セミファイナル モーツァルトの協奏曲

モーツァルト:ピアノ協奏曲第19番

ファイナル 協奏曲

サン=サーンス:ピアノ協奏曲第5番

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番

日本の亀井聖矢さんは、その優れたテクニックが発揮される華やかな作品で客席を沸かせてきました。

今後も、リサイタルではベートーヴェン《ワルトシュタイン》、リスト《ラ・カンパネッラ》やバラキレフ《イスラメイ》、ラヴェル《夜のガスパール》、ファイナルの協奏曲ではラフマニノフの第3番と、超絶技巧を要する作品がふんだんに盛り込まれています。客席が熱狂することも間違いなさそう!

また、ラヴェルやサン=サーンスのように、これまでのプログラムに入っていなかったフランスものでどんな色彩を聴かせてくれるのかも楽しみです。

ユンチャン・イム 最年少が挑む超絶技巧練習曲全曲

ユンチャン・イムのセミファイナル、ファイナルの曲目

セミファイナル リサイタル

リスト:超絶技巧練習曲

セミファイナル モーツァルトの協奏曲

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番

ファイナル 協奏曲

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番

最年少18歳、ここまで最終奏者としてステージに立ってきたユンチャン・イムYunchan Limさん。予選ラストに登場したときには、芯の強さが感じられる演奏に、この歳でこれは逸材だ……と唸ってしまいました。

選曲も、クープランやスクリャービンを入れたり、バッハなら《音楽の捧げ物》を、ショパンなら「《ドン・ジョヴァンニ》の〈お手をどうぞ〉による変奏曲」を選んだりと、一風変わったセンスを感じます。

そこにきて一転、ここから先はガッツリしたレパートリーで勝負。ファイナルの協奏曲はラフマニノフの第3番とベートーヴェンの第3番、そしてセミファイナルのリサイタルはなんとリストの超絶技巧練習曲全曲。2013年に優勝したホロデンコさんもこの曲で勝負していたことが思い出されますが、それはそうと、18歳の彼がどんな意図でこのプログラムを選んだのか、気になります。

さらに楽しみなのは、モーツァルトの第22番のコンチェルト。天才性を発揮してくれるのではないかと想像が膨らみます。

マルセル田所 意外だからこそ楽しみなファイナルの選曲

マルセル田所のセミファイナル、ファイナルの曲目

セミファイナル リサイタル

ラモ―:鳥のさえずり

スクリャービン:3つの練習曲 op.65

ラフマニノフ:コレッリの主題による変奏曲 op.42

ドビュッシー:夜想曲

ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲 op.35

セミファイナル モーツァルトの協奏曲

モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番

ファイナル 協奏曲

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番

マルセル田所さんは、ここまででもフランス・バロックを序盤に置きつつ、さまざまな時代の作品を満遍なく組み込む選曲で、幅広いスタイルへの理解を披露してきました。

セミファイナルのリサイタルも、ラモーの《鳥のさえずり》を置いたのち、スクリャービン、ラフマニノフ、ドビュッシー、ブラームスと、多様な作曲家を並べます。

ファイナルの1曲は、繊細で内向的な演奏をされるマルセルさんの印象からすると、個人的にはちょっと意外、しかしだからこそ楽しみな、プロコフィエフの第3番。内に秘めたなにかの爆発に期待しましょう。

クレイトン・スティーブンソン ガーシュウィンでジャズの素養を披露

クレイトン・スティーブンソンのセミファイナル、ファイナルの曲目

セミファイナル リサイタル

ベートーヴェン:ソナタ第21番《ワルトシュタイン》

リーバーマン:ガーゴイル op.29

ブラームス:ソナタ第1番

セミファイナル モーツァルトの協奏曲

モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番

ファイナル 協奏曲

ガーシュウィン:へ調の協奏曲

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番

加えて、プログラミングについて、興味深い話を聞かせてくれたコンテスタントのお話。

クレイトン・スティーブンソンClayton Stephensonさんは、リサイタルの3ステージで、まったく印象の異なるプログラムが組まれていました。そのことについてお聞きしてみると、「ピアニストというよりは、ディレクターとして考えて、3つの異なるストーリーを組み立てた」とのこと。

クォーターファイナルで弾いたリストの「バラード」について、その題材となっているへローとレアンドロスの悲しく美しい愛の物語を聴衆と分かち合いたかった、と熱く語っていました。

ちなみにプロコフィエフの第7番の《戦争ソナタ》の演奏には、戦争映画—『プライベート・ライアン』や『ダンケルク』から多くのインスピレーションを得たと話していたのも印象的でありました。

彼は、ハーバードとニューイングランド音楽院の両方で研鑽を積む、「ハーバードNECプログラム」で学ぶピアニスト。さすが知的で現代的な感性の持ち主です(今回のコンテスタントには、こういうバックグラウンドを持つ方がけっこういました)。

彼にはジャズの素養もあるということで、この後のステージでやっぱり期待してしまうのは、ガーシュウィンの「へ調の協奏曲」です。唯一のニューヨーク・スタインウェイ選択者なので、ピアノの音色の違いにもご注目ください。

本当はすべての方をご紹介したいところ、ごく一部をピックアップする形となってしまいましたが、他にも高い実力を持つピアニストがたくさん。

まずはセミファイナル、たっぷり60分のリサイタルと、各人の技術と音楽性があらわになってしまうモーツァルトの協奏曲で、ピアニストたちの個性を存分に楽しみましょう。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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