
音楽が深い余韻を残す戦争映画3選

戦後80年――戦争をテーマにした名作映画は、実はさまざまなシーンで音楽が印象的に使われています。音楽的な観点から映画を観てみると、ワーグナーやプロコフィエフの音楽によって、あらすじや登場人物の心情が鮮明に浮かび上がってきます。
今回は、「音楽で観る戦争映画」3本をご紹介します。

茨城県生まれ。東京音楽大学付属高校と同大学で作曲を学んだ後、同大学院では音楽学を専攻。修了後は東京音楽大学の助手と和洋女子大学の非常勤講師を経て、現在は桐朋学園大学 ...
さまざまなメディアで「戦後80年」というフレーズを耳にした2025年。普段より時間ができる年末年始に、戦争では音楽が“加害者”になりかねないのだと気づかされる名作映画を観てみませんか?
契約しているサブスクの見放題に入っていなくても、数百円払えばレンタルしてすぐに観られる作品ばかりです(最後の一作は、英語字幕なら無料で観られます)。
『地獄の黙示録 ファイナル・カット』
このテーマで選ばれる定番すぎて、何を今さらと思われるかもしれません。ですが、実際に映画を観ていないと、その意味や恐ろしさをちゃんと理解できていなかったりします。
そもそも映画音楽と一言でいっても、大雑把にいうと「ソースミュージック」と「アンダースコア」の2種類に分けられます(あるいは前者を「ダイアジェティック・サウンド」、後者は「ノンダイアジェティック・サウンド」と呼ぶこともあります)。簡単にいえば、物語の登場人物にも聞こえるのが「ソースミュージック」で、観客だけに聴こえているのが「アンダースコア」という分け方です。

© 2019 ZOETROPE CORP. ALL RIGHTS RESERVED.
ベトナム戦争(1955〜75)を題材にした『地獄の黙示録』(1979)では、ヘリコプターが日常生活をおくる一般の民衆を撃ち殺していく場面において、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」(楽劇《ワルキューレ》より)が流れる、非常に有名なシーンがあります。この場面が真に衝撃的なのは、軍人がヘリコプターの外についているスピーカーから戦略的にワーグナーを流しているからです(観客だけに聴こえている「アンダースコア」ではないのです!)。
ワーグナー「ワルキューレの騎行」
現場を仕切るビル・キルゴア中佐は、「朝日を背に突っ込んで音楽をスタートさせる」「ワーグナーを鳴らすんだ 奴らは震え上がる 面白いぞ」「こちら隊長機 神経戦だ 音を上げろ 行くぞ ダンスのお時間だ」と指示を飛ばします。
こうして、死んだ兵士を神々の城の護衛につかせるべく馬に乗って戦場を飛び交うワルキューレたちと、ヘリコプターの姿が重ねられていきます。そして主旋律を吹くホルンは、もともと狩りの際にやり取りする狩猟ホルンが起源ですから、狩りのイメージも想起せずにはいられません。まるで貴族が趣味で狩りをするかのような構図が音楽によって浮き彫りになることで、戦争の狂気が観客にまで伝わってくるのです。
ちなみに「ワルキューレの騎行」は、映画音楽として使われた回数が非常に多い楽曲です。そのなかで最古の例のひとつと思われるのが、サイレント時代の重要作『國民の創生』(1915)。映画史を語る上で欠かせない作品でありながら、著しい黒人差別を正当化する内容のため、扱いに困る問題作です。
D.W.グリフィス監督の意向のもと、ジョゼフ・カール・ブレイルが映画に合わせて生演奏するための音楽を作曲しているのですが、終盤で白人至上主義の団体クー・クラックス・クランが黒人たちを制圧するシーンにも「ワルキューレの騎行」が流れます。
『フルメタル・ジャケット』
既存のクラシック音楽を巧みに用いたことで有名な映画監督スタンリー・キューブリックですが、初期作以外で珍しくクラシック音楽を使っていないのが、これまたベトナム戦争を題材にした『フルメタル・ジャケット』(1987)です。

Ⓒ 1987 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
この映画は2部構成になっており、第1部(約46分)は海兵隊の訓練所、第2部(エンドクレジット込みで約70分)はベトナム戦争が舞台になっています。
シンセサイザーで作られたという緊張感のある「アンダースコア」は、監督の娘であるヴィヴィアン・キューブリックが、アビゲール・ミードという名義で作曲しました。加えて、要所要所で流れてくるベトナム戦争当時にリリースされた1960年代のポップソングが非常に印象的です。しかし今回注目したいのは、劇中で2曲だけ聴こえてくる行進曲(マーチ)です。どちらも「ソースミュージック」——つまり、劇中の登場人物にも聞こえる音楽として、第1部と第2部のそれぞれ終盤に登場します。
1曲目の《海兵隊賛歌》はオッフェンバックのオペラが原曲で、訓練所の卒業式で流れてきます(この後にあの有名なシーンが続くわけです……ガクガクブルブル)。そして問題となる2曲目の行進曲ですが、あえて曲名を伏せておきましょう。第2部ラストとなる戦闘シーンのあと、生き残ったアメリカ軍の兵士たちが行進しながらア・カペラで歌い出します。この場面を初めて観たときの衝撃といったら!
音楽によってアメリカの暴力性・独善性があまりに見事に強調されており、言葉を失うような体験でした。でも落ち着いて見返してみると、実は卒業式からその後の夜のシーンにかけての台詞に、2曲目の行進曲に関する伏線が張られているのも興味深いです。
アレクサンドル・ネフスキー
最後は「ソースミュージック」ではなく、「アンダースコア」が印象的な戦争映画をご紹介しましょう。ロシア・ソ連の名映画監督エイゼンシュテインによる『アレクサンドル・ネフスキー』(1938)です。音楽を手がけたのはセルゲイ・プロコフィエフで、映画公開の翌年には映画音楽を仕立て直したカンタータとしても『アレクサンドル・ネフスキー』は知られるようになりました。

提供:合同会社 文輝堂
戦争を描いた音楽として有名なのが、1242年にネフスキー率いるノヴゴロド公国軍とドイツ騎士軍が戦った「氷上の戦い」を描いた、映画のクライマックスとなる場面です。長尺の戦闘シーンに音楽をあてる際のモデルにもなり、とりわけソ連の音楽が大好きだったジョン・ウィリアムズが多大な影響を受けています。もっとも有名なのは、『スター・ウォーズ エピソード5:帝国の逆襲』の序盤に登場する「惑星ホスの戦い」でしょう。見比べてみると、面白いと思います。
※製作したモスフィルムが公式で無料公開しています。
「氷上の戦い」は55分20秒あたりからです。
さて、『アレクサンドル・ネフスキー』は、エイゼンシュタイン監督作品のなかでもっとも人気を得たのですが、それにはいくつかの理由があります。公開された1938年は、第二次世界大戦がはじまる前年ですが、対立関係にあったソ連とナチス・ドイツは既に緊張が高まっており、反ドイツ感情がソ連での映画のヒットにつながりました。そして『アレクサンドル・ネフスキー』は、1939年8月にソ連とドイツが不可侵条約を結ぶと公開できなくなり、1941年6月にドイツがソ連に侵攻をはじめると再び公開されました。つまりプロコフィエフの音楽も含めて、第二次世界大戦の戦意高揚に利用されたことは疑いようがないのです。
関連する記事
-
イベントチェロ奏者・宮田大ら若き奏者が弦楽四重奏で築いた絆
-
イベント菅野美穂と小松莊一良監督が語るフジコ・ヘミングの素顔~映画『永遠の音色』
-
イベント映画『ブーニン 天才ピアニストの沈黙と再⽣』が2026年2⽉20⽇に公開!
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
新着記事Latest
















