読みもの
2020.02.10
週刊「ベートーヴェンと〇〇」vol.9

ベートーヴェンと年齢

年間を通して楽聖をお祝いする連載、週刊「ベートーヴェンと〇〇」。ONTOMOナビゲーターのみなさんが、さまざまなキーワードからベートーヴェン像に迫ります。
第9回は、ベートーヴェンと年齢。12月16日生まれらしい……けれど、ベートーヴェン氏、誕生日どころか自分の年齢もよくわかっていなかったようです。

ベートーヴェンを祝う人
飯尾洋一
ベートーヴェンを祝う人
飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

写真:ボンにあるベートーヴェンの生家

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「私は何歳?」

今年はベートーヴェン生誕250年。ベートーヴェンは1770年に生まれ、1827年に56歳で世を去った。誕生日はよくわからない。12月17日に受洗したことだけがわかっているので、たぶん、その前日の12月16日が誕生日なんじゃないかな、と推定するほかない。

誕生日くらいはっきりしてくれよ! 思わずそうベートーヴェンに言いたくなるかもしれないが、実はベートーヴェン本人は誕生日どころか、自分が何歳かもよくわかっていなかった。

ベートーヴェンの年齢認識は揺れ動いている。おおむね実年齢より1歳、あるいは2歳、若くカウントしている。有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた1802年10月の時点では、ベートーヴェンの実年齢は31歳だったはずだが、この手紙の中で彼は「28歳で哲学者になるのはたやすいことではない」と嘆いており、ここに至っては3歳のズレがある。

そして1810年、実年齢39歳のベートーヴェンは友人に宛てた手紙で「私は自分が何歳だかよく知らないまま生きてきた。戸籍簿を持っていたのに失くしてしまった。だからボンへ行って洗礼証明書をもらってきてくれないか」と書いた。

洗礼証明書を求めたのは、おそらくベートーヴェンが当時、結婚を考えていたからと思われる(実現しなかったが)。

ドイツ、ボンにあるベートーヴェンの生家。ここには「1770年12月17日午前に生まれた」と書かれている。

そしてベートーヴェンは洗礼証明書を入手した。そこには1770年12月17日と書いてあったはずだ。これで一件落着……のはずだが、なぜか、ベートーヴェンはこの記述を信用しなかった。これは自分よりも先に生まれ、生後間もなく亡くなった同姓同名のルートヴィヒのことだろうと推測しているのである。つまり、自分はもっと若いはず、と認識しているのだ。

ベートーヴェンは自分の年齢を話題にされることを好まなかったという。本当の年齢など知ってどうする。なにも変わらないではないか。そんな気持ちもあったのかもしれない。

ベートーヴェンを祝う人
飯尾洋一
ベートーヴェンを祝う人
飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

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