読みもの
2022.05.31
ドラマチックにする音楽 vol.14

映画『ホリック xxxHOLiC』現実と幻想の世界の境界線上で誘う渋谷慶一郎の音楽

映画やドラマをよりドラマチックに盛り上げている音楽を紹介する連載。
第14回は、映画『ホリック xxxHOLiC』。蜷川実花の描く色鮮やかな世界や、人の心の闇に寄り憑く「アヤカシ」から逃げる青年の葛藤に立体的な奥行きを深めるのが、渋谷慶一郎のサウンドトラックだ。以前手がけた『ミッドナイトスワン』のピアノ音楽から一転、電子音楽をベースに書かれた音楽が果たしている役割とは?

桒田萌
桒田萌 ライター

1997年大阪生まれ。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。音楽をはじめとする、幅広いジャンルで取材・執筆を行う。『まいどなニュース』『デイリ...

©2022映画「ホリック」製作委員会  ©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社 

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人の心の闇に寄り憑く「アヤカシ」がみえてしまう、一人の青年

私たち人間は、日常生活を送る中で、他者の心の闇を感覚的に認識することはできても、物体として見ることはできない。しかし、それが見えてしまう稀有な能力を持つのが、『ホリック xxxHOLiC』の主人公だ。

主人公の四月一日君尋(神木隆之介)。アヤカシが見えてしまう能力を消したいと悩んでいる。

彼の名は、四月一日君尋(わたぬききみひろ、神木隆之介)。人の心の闇に寄り憑く「アヤカシ」が見え、周囲と同じように生きられず孤独に過ごしてきたが、対価を払う代わりに願い事を叶えてくれる「ミセ」と、主人の壱原侑子(柴咲コウ)に出会う。

アヤカシが見える能力を捨てたいと願う四月一日に、侑子は「対価として、いちばん大切なものを差し出しなさい」と言う。ミセで働き、同級生の百目鬼静(松村北斗)九軒ひまわり(玉城ティナ)と出会うことで、四月一日はどんな「大切なもの」を見つけるのか――。

「ミセ」の主人、壱原侑子(柴咲コウ)。対価の支払いによって、願いを何でも叶えてくれる。

境界線上をシームレスにつなげる渋谷慶一郎のサウンドトラック

『ホリック xxxHOLiC』では、オカルティックかつファンタジックな世界と、人間が地に足つけて生きる現実世界との境界線を行き来する。

人の心に魔物のように寄り憑くアヤカシだけでなく、本当に願いを叶えたい人にだけふと現れる「ミセ」もまた、2つの世界の境界に存在するわけだ。四月一日も、時に現実なのか夢なのか区別がつけられず、双方の境界で意識があやふやになっている。どんな願いも叶えてみせる侑子もまた、どこか現実離れした存在だ。

その境界線をシームレスに繋ぐのが、渋谷慶一郎のサウンドトラックだ。全体を俯瞰して観てみると、サウンドトラックもまた、何か対照的な物事を行き来しているように感じさせる。

一つが、キャラクターのテーマソング。オペラのライトモチーフのように登場する四月一日と侑子のテーマは、一方はCメジャー、もう一方はCマイナーだ。現実で地をはうように生きる四月一日と、浮世離れしている侑子は、一見対照的ではあるが、実はどこか表裏一体なのだとも感じるわけだ。

そしてもう一つが、教会音楽と声明。作品のテーマソングでもあり四月一日のテーマである『HOLiC』は、シンセサイザーで奏でられているものの、どこかバロック的な教会音楽の趣を感じさせる。一方で声明は、真言宗の僧侶で声明演奏家の藤原栄善が担当している。仏教の声楽である声明が参加することで、長く葬られていたアヤカシの存在が血生臭く感じられ、よりオカルティックな空間を作り出していた。

高野山真言宗 六甲山鷲林寺の住職であり、1200 年の歴史を持つ高野山に伝わる仏教音楽・南山進流声明家、藤原栄善。

西洋と東洋、キリスト教と仏教、電子音と生声。異なる要素やバックグラウンドがぶつかっているようも思えるが、サウンドトラック全体の多層的な響きによって、不協和をまったく感じさせない。これこそが渋谷作品の醍醐味でもあるのだろうが、現実と非現実の世界の境界を描く映像と、どこか祈りの漂う物語にマッチしていた。

新たな映画音楽による演出

渋谷は2020年に、前作の映画『ミッドナイトスワン』では全曲ピアノで制作。今作ではうってかわり電子音や民族楽器、ノイズなどを取り入れた。ミックスはキリ・ステンスビー、マスタリングはエンヤン・アービクス。

アコースティックに繊細な人間の心に添うのではなく、エレクトリックなサウンドで幻想世界そのものを作り出す。そこに音楽家でサウンドアーティストのevalaによる、アヤカシのおぞましい動きにつけられたサウンドデザインが加わることで、一層「この世ならざるもの」が形として迫ってくる。

音楽家、サウンドアーティストのevala。アヤカシのサウンドデザインを手がけている。新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」主宰。

渋谷率いる音楽家たちが手がけたサウンドトラックは、物語の舵を切る役割までも果たす。ただ寄り添うのではない、鮮やかに冴え渡った映像と一体化させる。映像と物語の演出上、より効果的に見せようと映画音楽は引き算したりされることが多い中、新たな風景を見せてくれた。

Keiichiro Shibuya
『ATAK025 xxxHOLiC』
2022年4月27日(水)発売
ATAK-025/¥2,500
発売元:ATAK
渋谷慶一郎

作曲家。東京藝術大学作曲科を卒業し、2002 年に音楽レーベル ATAK を設立。手がける作品は電子音楽からピアノソロ 、オペラ、映画音楽 、サウンド・インスタレーションまで、多岐にわたる。
代表作は人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』(2012)、アンドロイド・オペラ®『Scary Beauty』(2018)など。
2020 年に映画『ミッドナイトスワン』の音楽を担当、毎日映画コンクール音 賞、日本映画批評家大賞映画音楽賞を受賞。
2021 年8月東京・新国立劇場でオペラ作品『Super Angels』を世界初演。2022年3月にはドバイ万博でアンドロイドと仏教音楽・声明、UAE 現地のオーケストラのコラボレーションによる新作アンドロイド・オペラ®『MIRROR』を発表。人間とテクノロジー、生と死の境界領域を作品を通して問いかけている。
作品情報
映画『ホリック xxxHOLiC』

監督:蜷川実花 
出演:神木隆之介、柴咲コウ、松村北斗、玉城ティナ、磯村勇斗、吉岡里帆
原作:CLAMP『xxxHOLiC』(講談社『ヤングマガジン』連載)
脚本:吉田恵里香
音楽:渋谷慶一郎
製作:映画『ホリック』製作委員会
配給:松竹、アスミック・エース

©2022映画「ホリック」製作委員会  
©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社 

桒田萌
桒田萌 ライター

1997年大阪生まれ。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。音楽をはじめとする、幅広いジャンルで取材・執筆を行う。『まいどなニュース』『デイリ...

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