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2022.07.15
10月29日・30日 神奈川県立音楽堂室内オペラ 日本初演

ファビオ・ビオンディが実現する、謎のオペラ《シッラ》を目撃せよ!

ファビオ・ビオンディがヘンデルの歌劇《シッラ》とともに待望の再来日!
2020年の春に予定され、リハーサルも済んで3日後に本番、というところで新型コロナのパンデミックで公演中止に。それから2年後のこの秋、いよいよ念願のプロジェクトが実現する。
イタリアのトリノで上演への想いを温めるビオンディに、オンラインインタビューを行なった。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

メイン写真:トリノの劇場にて
©Ryoko Fujihara

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はじめてでも大丈夫!バロック・オペラを愉しもう

2015年に神奈川県立音楽堂でビオンディと古楽器オーケストラ、エウローパ・ガランテと欧州の名歌手たちが繰り広げたヴィヴァルディの《メッセニアの神託》は、今でもオペラファンの間で語り草になっている。ビオンディ率いるエウローパ・ガランテのダイナミックで情熱的な演奏を背景に繰り広げられる名歌手たちの歌合戦、これぞ盛期バロックのイタリア・オペラの醍醐味だと大いに納得したものだ。

まずは、バロック・オペラを愉しむコツからご紹介しよう。

エウローパ・ガランテ
1990年、音楽監督であるファビオ・ビオンディによって設立された古楽アンサンブル。パルマのドゥーエ劇場を活動拠点とし、バロック、古典の時代に作曲された作品を当時の楽器で演奏する。バロックの器楽曲だけに限らず、ヴィヴァルディの《バヤゼット》《テルモドンテ川のエルコレ(ヘラクレス)》《メッセニアの神託》のほか、ヘンデルの《アグリッピーナ》《イメネオ》といったバロック・オペラ、オラトリオと、声楽を含む作品もレパートリーとしている。さらに、ローマのサンタ・チェチーリア音楽院と共同でアントニオ・カルダーラの《キリストの受難》、レオナルド・レーオの《カルヴァリオの丘の聖エレナ》のような前18世紀のイタリア・オペラの再発掘や復元に尽力している。イタリア国内だけでなく、世界中の一流ホールで演奏している。
コツ① バロック・オペラの鑑賞法

盛期バロックのイタリア・オペラは、登場人物たちのセリフは「レチタティーヴォ」で行なわれ、彼ら彼女たちの感情を「アリア」が表現。アリアはABA′のダ・カーポ形式。記譜されているのはABまでで最後は頭(カーポ)に戻ってAが再現される。例えば、Aは「私は悲しいのよ!」、Bはその理由、再びAに戻って「だから悲しいのよ」となる。ここで肝心なのは、歌手たちはBの最後のカデンツァやA′で楽譜にない即興的なパッセージをふんだんに盛り込んで歌う。

今回の来日公演のソリストはバロック歌唱のスペシャリストたち、どんな歌を聴かせてくれるか楽しみだ。

コツ② 謎のオペラ《シッラ》のあらすじを知ろう

《シッラ》はヘンデルのロンドン時代の初期のオペラで、1713年に3幕のオペラとして作曲されたものの、舞台上演の記録がない謎のオペラだ。

舞台は古代ローマ。シッラはローマの執政官。何でも自分の思うようにしなければ気が済まない、わがままな独裁者。その上好色で残忍。夫思いの妻メテッラがいるのに、護民官レピドの妻フラヴィアや副官カトゥルスの娘チェリアを強引に我が物にしようとし、恐怖政治で民衆を苦しめる。最後はシッラがシチリアへ向けて出帆すると、突然雷鳴や稲妻とともに巨大な彗星が現れ、強風で船が座礁。妻メテッラの必死の救助と軍神マルスの登場でシッラが改心。引退を宣言して幕となる。

ちなみにこのシッラは実在した人物で、モーツァルトが若い頃に書いた《ルーチョ・シッラ》でも取り上げられている。

オペラ《シッラ》の見どころ・聴きどころをビオンディに直撃インタビュー

バロック・オペラを愉しむコツがつかめたところで、さっそくビオンディに《シッラ》の魅力をいろいろ訊いてみよう。

——ヘンデルのオペラといえば《リナルド》や《ジュリアス・シーザー》が有名ですが、なぜこの《シッラ》なのでしょうか。

ビオンディ 私はしょっちゅう演奏されているような有名な作品よりも、あまり演奏されない作品を取り上げる方がよいと考えているのです。ただ知られていないというだけで、実際には完成度の高いものがたくさんあります。

《シッラ》もそうです。バロック時代のオペラは上演時間が長いものが多いのですが、この作品はコンパクトにまとまっていてしかもすばらしいアリアがふんだんに盛り込まれ、ヴァリエーションが豊か。その点で現代人にぴったり合っていると思います。

ファビオ・ビオンディ(音楽監督・指揮・ヴァイオリン)  
イタリアのパレルモ出身。12歳でソリストとしてイタリア国立放送交響楽団(RAI)と共演し、国際的キャリアをスタートさせた。1990年、イタリア・バロック音楽アンサンブル「エウローパ・ガランテ」を結成し活動を始め、さまざまな音楽祭や世界中のホールに招かれる。ソリスト、指揮者としては、サンタ・チェチーリア管弦楽団、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団、ハレ歌劇場管弦楽団、ノルウェー室内管弦楽団、モンペリエ国立交響楽団、マーラー室内管弦楽団など数多くのオーケストラと共演。2005年よりノルウェー・スタヴァンゲル交響楽団のバロック音楽のための芸術監督、2011年よりサンタ・チェチーリア音楽院の学芸員。
©Ryoko Fujihara

——《シッラ》は一言でいうとどんなオペラですか?

ビオンディ クレイジーなオペラ(笑)。主役のシッラはとんでもない独裁者で暴君。アンモラルで好色。物語自体も突然嵐になったり、軍神マルスの登場によって改心するのも唐突感がありますよね。

でも想像してみてください。たとえばヴィヴァルディが活躍した当時のヴェネツィアなどは、戦争や貧困など悲惨な現実生活の中でどう生きたらよいのかわからない人たちがたくさんいた。でもこうしたオペラを見ることで、もしかしたら明日はいいことがあるかもしれないという希望が持てた。それに独裁政治には無理があるというメッセージは、現代にも通じるものだと思います。

——グロッサ・レーベルから出ているビオンディさんのCD『歌劇《シッラ》』を毎日聴いていますが、まったく聴き飽きません。2時間の中にアリアや二重唱が22曲余り。しかもアリアは華やかな名人芸的なものからリリカルなものまで、ヘンデルの時代のさまざまなタイプがあり、いずれも感情表現が見事です。

ビオンディ そうです。ヘンデルのオペラのアリアは技巧的であると同時に、人間のあらゆる感情や細やかな心の動きを表現しています。

バロック期のオペラは古代に題材を採ったものが多いですが、18世紀の人々は、古代の人たちの感情が自分たちの感情と共通していることを知るために劇場に出かけたのです。

ヘンデルのオペラはこうした情感豊かなアリアが、見事な劇的構成の中で十全に生かされている。そこにこそ最大の魅力があります。

——特にお気に入りのナンバーはありますか?

ビオンディ 個人的に特に気に入っているのは、レピドとフラヴィアの愛の二重唱です。本物の愛の表現にあふれています。

第2幕より、レピドとフラヴィアのデュオ《私はあなたのためだけに》(2019年秋、ブカレストでのエネスク・フェスティバルのコンサート形式上演から)
権力を手にして思い上がったシッラは「俺はやろうと思えば何だってできるのだ」と言い放って神殿に祈る人々を蹴散らし、友人のレピドの妻フラヴィアに横恋慕して、彼女を自分のものにするためにレピドに離婚を命じる。復讐を考えるレピドにフラヴィアが寄り添い、2人は「私はあなたのためだけに生きている。愛があなたの腕の中で永遠でありますように」と互いへの愛を誓いあう。

——今回のソリストは、数人を除いてCDとほぼ同じ。《メッセニアの神託》にも出演したヴィヴィカ・ジュノーや人気歌手のロベルタ・インヴェルニッツィなど名歌手がそろっていますね。

ビオンディ 私が日頃から信頼し、私の意図に忠実な歌手たちばかりです。若い世代にも優れた歌手たちが出てきているので、新しい才能も紹介したいです。

——彌勒忠史さんの演出についてはどうですか?

ビオンディ 彼のアイデアは秀逸。日本の洗練された文化の伝統を少し入れ、しかも作品との調和も取れている。日本のみなさまには自分の家にいるような親しみを感じていただけると思います。

ビオンディ(写真・右)の構想から、彌勒(写真・左)の《シッラ》演出プランがあふれでる、化学反応の貴重な瞬間
©Ryoko Fujihara

——最後に一言、日本の聴衆へのメッセージをいただけますか?

ビオンディ たくさんあります(笑)。何よりも音楽という世界共通言語でみなさまと心を通わせることができるのが、本当にうれしい。私にとって日本との関係はとても大切なものです。はじめて日本に来た時から、家族と一緒にいるような気持ちになりました。世界がひとつになるべき今この時に、音楽でつながりを持てることに大きな喜びを感じています。

ビオンディも絶賛!演出・彌勒忠史に訊く《シッラ》の世界観、ここだけの話……

彌勒忠史(演出)
カウンターテナー、演出家。千葉大学卒業。同学大学院修了。東京藝術大学声楽科卒業。国内外のオペラ・コンサート、TV・ラジオ番組に出演。イタリア国立G.フレスコバルディ音楽院講師、東京藝術大学音楽学部声楽科教育研究助手を経て、現在、放送大学、学習院生涯学習センター非常勤講師。日本音楽コンクール、全日本学生音楽コンクール、東京音楽コンクールの審査員を務める。在日本フェッラーラ・ルネサンス文化大使。日本演奏連盟、二期会会員。中世やルネッサンス、バロックの声楽曲に笑いあり、涙ありの抜群の表現力を示しただけでなく、現代作品にも果敢に取り組み、集中力が高く優れた完成度の歌唱と、志高く幅広い活動を行なったことにより、平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣新人賞(音楽部門)受賞。
©Ryoko Fujihara

ビオンディからの信頼も厚く、《シッラ》の演出を担当する彌勒に、誰も見たことがない世界観を舞台上に実現するアイデアの秘密を伺った。

彌勒 歌舞伎とオペラは洋の東西の違いはありますが、時代的にもほぼ同じ頃に誕生し、発達しましたし、歌舞や演劇、スペクタクルな要素など共通点が多くみられます。

そこで今回は、舞台も衣装も歌舞伎や能など日本の古典芸能をイメージしました。シッラの衣装はアニメの『北斗の拳』のラオウのキャラクターからインスピレーションを得ました。

空中芸のエアリアルは、シルク・ドゥ・ソレイユなどでも活躍した日本を代表するパフォーマーの方にお願いし、台本的にも重要な黙役は、アクロバティックな芸のできる俳優さんが演じます。

日本の古典芸能とアニメからインスピレーションを得た、シッラ役の力強く美しい衣装
©友好まり子
どこから現れるのか注目のエアリアルは、動きやすさも考慮した、ふわりと軽やかなデザイン
©友好まり子

それから盛期バロックのオペラは、「ダ・カーポ・アリアのたびに劇の進行が止まる」とよく言われますが、僕は常にドラマを進行させなければならないとは考えていません。ミュージカル同様、バロック・オペラもアリアを楽しむものですからね。セリフで芝居の筋を進めて、アリアで涙する。それは前回の《メッセニアの神託》(彌勒さんが演出を担当した)も同様でした。次々に歌手が登場して華麗な歌唱を披露していきます。音楽があまりにも雄弁なので、存分に歌ってもらいたいと思っています。僕自身歌手ですからね。歌手たちのアジリタ(技巧的なアリア)に酔いしれたいのです。

1年半待ったので、全員がやる気200パーセント。この機会を逃さずに、神奈川県立音楽堂にいらしていただきたいと思います。

今秋、謎に包まれたオペラ《シッラ》が神奈川県立音楽堂に降臨する
©tamako☆

ビオンディはこれまでに何度か《シッラ》を演奏しているが、今回の公演がエウローパ・ガランテとの完全舞台版世界初演となる。

新たな伝説の誕生を見逃すな!

公演情報
音楽堂室内オペラ・プロジェクト第5弾 ファビオ・ビオンディ指揮 エウローパ・ガランテ ヘンデル《シッラ》全3幕 日本初演(イタリア語上演 日本語字幕付)

日時:2022年10月29日(土)・30日(日)15:00 開演

会場:神奈川県立音楽堂

キャスト&スタッフ

音楽監督:ファビオ・ビオンディ(指揮・ヴァイオリン)

演奏:エウローパ・ガランテ

ソニア・プリナ(コントラルト/ローマの執政官シッラ)
ヒラリー・サマーズ(コントラルト/ローマの騎士クラウディオ)
スンヘ・イム(ソプラノ/シッラの妻メテッラ)
ヴィヴィカ・ジュノー(メゾ・ソプラノ/ローマの護民官レピド)
ロベルタ・インヴェルニッツィ(ソプラノ/レピドの妻フラヴィア)
フランチェスカ・ロンバルディ・マッズーリ(ソプラノ/シッラの副官の娘チェリア)

ミヒャエル・ボルス(バリトン/神)

神谷真二(スカブロ/シッラの臣下 黙役)

桧山宏子 板津由佳(エアリアル)ほか

台本:ジャコモ・ロッシ

演出:彌勒忠史

美術:tamako☆

衣裳:友好まり子

照明:稲葉直人(ASG)

立師:市川新十郎

台本・字幕翻訳:本谷麻子 

舞台監督:大澤裕(ザ・スタッフ)

料金:全席指定・税込 S席 15,000円、 A席 12,000円、 B席 10,000円、24歳以下7,500円、高校生以下 無料、車椅子S席15,000円(付添1名無料・要事前予約)

*開演前 14:15~ ファビオ・ビオンディと彌勒忠史によるプレトークつき(日伊逐次通訳)

詳しくはこちら

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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