イベント
2021.06.10
6月11日から20日まで! テーマは「バッハの救世主」

音楽の街ライプツィヒのバッハ音楽祭2021が配信と有観客で急遽開催!

バッハ後半生の活躍の舞台となったドイツのザクセン州北部ライプツィヒ。街の顔とも言える1904年創設の「ライプツィヒ・バッハ音楽祭」は、コロナ禍の影響で去年に続き2021年もオンライン開催を予定していました。しかし! ワクチン接種の広まりで、急遽、有観客でのコンサートも開催が決定。
現在から過去まで音楽が息づく街ライプツィヒ、そして、日本からはバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が遠隔出演する「バッハの救世主」シリーズの魅力を、2000年から2019年まで1回も欠かさずバッハ音楽祭に出かけている加藤浩子さんが教えてくれました。

加藤浩子
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

ライプツィヒの聖ニコライ教会。バッハ音楽祭ののぼりが見える。

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現在と過去が「音楽」で繋がる、バッハゆかりの街ライプツィヒ

ライプツィヒは、音楽ファン垂涎の街の一つ。ライプツィヒには、音楽の「歴史」と「現在」があるからだ。

バッハやメンデルスゾーンが活躍し、ワーグナーが生まれ、シューマンがクララと恋に落ちた街。ライプツィヒ最古のコーヒーハウス「カフェバウム」には、シューマンが仲間と集った一角が残っている。

ライプツィヒの旧市庁舎
(以下、特記以外の写真は筆者撮影)

そんな「歴史」を辿れる一方で、ライプツィヒはドイツを代表するオーケストラで、世界最古の市民オーケストラでもあるゲヴァントハウス管弦楽団の本拠地であり、ドイツ指折りの歌劇場も抱える、活動的な音楽都市であり続けている。

アウグスト広場から見たゲヴァントハウス。1781年開館で、今の建物は1981年に完成した3代目ゲヴァントハウス。
ライプツィヒ歌劇場は、1693年までルーツを遡ることができるヨーロッパ最古のオペラ劇場の一つ。オーケストラ・ピットにはゲヴァントハウス管弦楽団が入る。

とはいえ「音楽の街」ライプツィヒの顔といえば、なんといってもヨハン・セバスティアン・バッハだろう。65年間の人生のうち、38歳から亡くなるまでの27年間をライプツィヒで過ごしたバッハは、この街で《マタイ受難曲》をはじめとする多くの傑作を書き、ドイツ屈指の少年合唱団である聖トーマス合唱団や、ゲヴァントハウス管弦楽団のルーツの一つとなったコーヒーハウスでのコンサート「コレギウム・ムジクム」を指揮した。バッハは作品を遺しただけでなく、21世紀のライプツィヒの音楽生活に直結する活動を共有していたのである。

左: ライプツィヒの聖トーマス教会と、その前に建つバッハ像
上: かつてバッハが、公開コンサートを指揮していたコーヒーハウス跡にあるプレート

筆者の知人であるゲヴァントハウス管弦楽団のコントラバス奏者は、楽団のコントラバス奏者を遡ったら、バッハが指揮していた「コレギウム・ムジクム」に所属している奏者がいた、と胸を張っていた。ここでは、過去と現在はひと繋がりなのだ。

ワクチン普及で2021年「ライプツィヒ・バッハ音楽祭」が急遽、有観客開催!

1904年に創設された「ライプツィヒ・バッハ音楽祭」も、音楽の街ライプツィヒの顔である。旧東独時代は古楽の潮流から取り残された時期もあったが、ドイツ統一後、とりわけ今世紀に入ってからの規模の拡大と内容の充実はめざましく、世界の一流バッハ奏者が集う音楽祭へと発展した。

ライプツィヒはバッハ研究の本拠地でもあり、その成果も取り入れた意欲的なプログラムが組まれている。2018年には、バッハのカンタータの代表作30曲を一挙に上演する「カンタータ・リング(ワーグナーの《指環》にちなんだ命名)」プロジェクトが大きな話題となった。

現在の芸術監督は、2005年にバッハの作品を「発見」したことでも知られる有名なバッハ学者のミヒャエル・マウル氏。「カンタータ・リング」もマウル氏らの発案だ。だが周知の通り、昨年はコロナ禍で音楽祭は中止。その代替として、音楽祭期間中に「バッハ・マラソン」と題した一連のコンサートがネット配信された。

2018年「リング・カンタータ」公式動画

今年は、「救済 Erlösung」をテーマとしたプログラムが、かなり早くから発表されていたが、やはりコロナ禍のため予定通りの開催は断念。メインの企画である「バッハの救世主 Bach’s Messiah」と題された一連のカンタータ演奏会が、無観客でストリーミング配信されることになっていた。

だがこのところ、ライプツィヒでもワクチン接種が急速に普及し、感染状況が大幅に改善。それを受けてコンサートも有観客で行なわれることになり、6月11日のオープニングに先立って、7日からリアル鑑賞のチケット発売が開始されている。まさに急展開である。

もともと予定されていた「救済 Erlösung」のフライヤー。
「バッハの救世主Bach’s Messiah」のフライヤー。どちらもライプツィヒの画家Michael Triegel氏によるイラスト。

2021年はBCJも登場! 「バッハの救済主」シリーズ

「バッハの救世主」は、受胎告知から復活に至るイエス・キリストの生涯を、バッハのカンタータやオラトリオ、コラールでたどるプロジェクト。

演奏家には、音楽祭を主催する「バッハ・アルヒーフ」の総裁でもあるトン・コープマン、ドイツを代表する古楽オーケストラであるベルリン古楽アカデミーなどと並んで、鈴木雅明&バッハ・コレギウム・ジャパンもクレジットされている。鈴木とBCJは現地には行けないので、彼らの日本の拠点の一つである、神戸の松陰女子学院チャペルでの演奏を録画、それをコンサート当日、ライプツィヒから配信するという。

2018年の「カンタータ・リング」に出演した鈴木雅明とバッハ・コレギウム・ジャパン

「バッハの救世主」は全12回、6月11日から15日まで(BCJは13日と15日に登場)。ストリーミングの1回券は14ユーロ、シリーズ全回のセット券は99ユーロで、1年間視聴可能。

音楽祭最終日の20日には、毎年ファイナル・コンサートで恒例の《ロ短調ミサ曲》が、バッハゆかりの聖トーマス少年合唱団などにより上演される(こちらはリアル公演のみ)。

「神への捧げ物」として創られたバッハの音楽には、私たちの心を支えてくれる確固とした何かがある。今年はストリーミング配信でも、いつかぜひ、バッハの故地で、かつてバッハが吸った空気の中で、バッハの音楽を体験していただきたい。

加藤浩子
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

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