映画『バトル・ロワイアル』の深作健太がベートーヴェン唯一のオペラを演出
公益財団法人東京二期会は、2020-2021シーズンの開幕作品として、今年生誕250年を迎えたベートーヴェン唯一のオペラ《フィデリオ》を上演する。
2020年9月3日から6日まで、新国立劇場オペラパレスにて行なわれる公演で演出を担当するのは、映画監督・演出家の深作健太。
父・深作欣二監督の映画『バトル・ロワイアル』では脚本・プロデュースを務め、第24回日本アカデミー賞優秀脚本賞、第20回藤本賞新人賞を受賞し、続編では監督としてメガホンを取った。2000年に公開されたこの映画、ヴェルディの「レクイエム」を象徴的に使った天野正道の音楽とともに、強い衝撃を受けた方も多いのではないだろうか。吹奏楽ファンにとっては「交響組曲第7番〈BR〉より」としてもお馴染みだろう。
深作はオペラにも造詣が深く、東京二期会での演出は、R.シュトラウス《ダナエの愛》(2015)、ワーグナー《ローエングリン》(2018)に続いて3作目となる。
今回《フィデリオ》の演出にあたっては、以下のようにコメントしている。
――深作さんにとっての、ベートーヴェンの「原体験」を教えてください。
1989年、僕が高校一年生の時、ベルリンの壁が壊れました。その時、バーンスタイン指揮の記念コンサートの映像で「第九」を聴いたのが、最初のベートーヴェン体験です。それはもう衝撃的でした。歌詞のFreude (歓喜) を、あえてFreiheit (自由) に変えて歌っていて。冷戦が終わり、これからヨーロッパがひとつになる新しい時代が来るんだ、という実感と共に、二百年も前の時代にベートーヴェンさんが音楽に籠めた、壮大な〈自由〉への祈りに、全身が震えました。
――『フィデリオ』の演出を決められたときの心境を教えてください。
とても嬉しかったです!『フィデリオ』はベートーヴェンが遺した唯一のオペラ。それを生誕250周年の記念の年に、演出させていただけるなんて。だけど演出家としては、ものすごく難しい作品なんですよね。台本の構成がシンプルすぎて、そのまま演出したのでは、ベートーヴェンさんが当時、訴えたかったはずの、激しいまでの〈自由〉への渇望が、現代の観客には伝わらなくなってしまう。
フランス革命当時の、女性が男性に化けて夫を救うという設定の、ジェンダーの問題しかり。国家権力と闘って、政治犯として監獄に囚われる事の意味も、現代とはかなり違う訳で……。そのあたりをどう演出するか、大きな挑戦が必要だと思います。
――最初にオペラ演出をされた『ダナエの愛』のときに、楽譜をとおして、作曲家リヒャルト・シュトラウスと、対話するということおっしゃっていました。『ローエングリン』のときは、ワーグナーが深作さんの夢枕に立たれたとか…今、『フィデリオ』からは作曲家のどのような言葉が聞こえてきているのでしょうか。
ベートーヴェンさんの時代に比べて、今の僕達は、平和で豊かですよね。だからこそ、聴こえてこない〈音〉ってあると思うんです。楽譜を読んでると、「おい。君達は今、本当に自由なのか?〈自由〉って何だ?」って、ベートーヴェンさんに問いただされている気がして(笑)。ひょっとしたら、まだあまり〈自由〉になれてないんじゃないかって思うんですよ。
今年は、戦後75年の節目の年でもあるんですが、世界中で何千万人の死という大きな犠牲を経て、親達から受け継いだはずの〈自由〉の根底が今、大きく崩れ始めています。格差は開く一方だし、不安だから、弱い僕達はまた、せっかく壊したはずの〈壁〉を、国境にも、自分達の心にも、あちこちに建て始めている。それはとても後ろ向きで、哀しい事です。芸術は常に、他者を拒む〈壁〉ではなく、他者を繋ぐ〈橋〉にならなくてはなりません。ベートーヴェンさんの音楽に響く情熱を、いかに〈国境〉を越えて次の世代に伝えるか。とても大切な責任だと思っています。
――今回の『フィデリオ』は、どのような公演にされたいですか。お客様にむけたメッセージをお願いいたします。
今は危険なウイルスが蔓延して、チケットをお求めになるお客様も、御自身の健康や公演の成否など、とても不安な時かと思います。だからこそ、このメッセージが〈希望〉を込めて、皆様に届きますよう。これから世界がどうなってゆくのかは、まだ誰にもわかりません。だけど人類は、いくつもの大きな戦争や災害、パンデミックを乗り越えて、自分達の〈自由〉を獲得して来ました。その永い闘いはこれからも続くし、その一端に〈芸術〉も存在しています。ベートーヴェンさんもまた音楽を武器に、数多くの苦難と闘い続けた先輩でした。
僕達は今、この降り注ぐ苦難が、一刻も早く収束する事を祈りつつ、世界中で活躍される同年代のマエストロ、ダン・エッティンガーさんや、大好きな東京二期会の歌手の皆さん、東京フィルハーモニー交響楽団の皆さんと力を合わせ、現代に生きる僕達でしか響かせられない音楽を、お届けしたいと願います。ベートーヴェンさんがいつもそうであったように、革新的な冒険心を忘れずに。
これは戦後75年に及ぶ、〈自由〉をめぐる人類と〈壁〉の闘いのオペラです。「希望よ、来たれ!」とは、劇中でレオノーレが歌う大切なアリアですが、今こそ、それが歌われるのに、最もふさわしい時だと思います。
〈復興〉への願いと、祈りを込めて――
指揮は、シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、イスラエル歌劇場音楽監督のダン・エッティンガーが東京二期会に初登場。桂冠指揮者を務める東京フィルハーモニー交響楽団とともにオーケストラピットに入る。
オペラファンのみならず、音楽ファン・映画ファンも必見の舞台となりそうだ。
公演日:
2020年9月3日(木)18:30開演
4日(金) 14:00開演
5日(土) 14:00開演
6日(日) 14:00開演
会場: 新国立劇場オペラパレス
チケット:
【9月3日(木)4日(金)公演ウィークデー・スペシャル料金】
S席16,000円 A席13,000円 B席10,000円 C席8,000円 D席5,000円 学生席2,000円
【9月5日(土)6日(日)公演】
S席17,000円 A席14,000円 B席11,000円 C席8,000円 D席5,000円 学生席2,000円
指揮: ダン・エッティンガー
演出: 深作健太
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
キャスト:
土屋優子/木下美穂子(レオノーレ)
福井 敬/小原啓楼(フロレスタン)
黒田 博/小森輝彦(ドン・フェルナンド)ほか
関連する記事
-
シェーネル? シェーナー? 現代ドイツ流の発音で「第九」を歌ってみよう!
-
ベートーヴェンの生涯と主要作品
-
2023年年末のベートーヴェン「第九」 全国のオーケストラ別公演情報
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly