イベント
2020.10.17
2021年開催の東京国際音楽コンクール〈指揮〉が発表!

指揮コンクールの醍醐味とは——尾高忠明審査委員長と入賞者の熊倉優にきく

コンクールの人気ぶりがメディアで取り上げられるようになって久しいが、それに拍車をかけたのが、2018年の第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉。1~3位までを日本人が独占し、若き入賞者たちの活躍も目覚ましい。
その記憶も新しいうちに、2021年9月に開催される次回の開催が発表。そこで、前回第3位に入賞した熊倉優さんと、同コンクールの審査委員を長年務め、新たに審査委員長に就任した尾高忠明さんに、このコンクールで経験したこと、出場時の思い出、指揮コンクールを聴くポイントなどについて語ってもらった。

取材・文
山田治生
取材・文
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

写真:各務あゆみ

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予選からプロ・オーケストラを振るということ

——熊倉さんは、2年前に東京国際音楽コンクール〈指揮〉で第3位に入賞されました。

熊倉 このコンクールは、事前の映像審査を通れば、第一次予選から実際のオーケストラが振れます。そして曲目も多岐にわたっています。

プロのオーケストラを振るということは、若手の指揮を志す人にとっては、特別な経験であり、貴重な機会です。2015年(第17回)は映像審査でダメでした。ですから2018年(第18回)は映像審査に通っただけでも、とてもうれしかった記憶があります。

熊倉優(くまくら・まさる)
1992年生まれ、東京都出身。桐朋学園大学卒業及び同大学院音楽研究科修了。指揮を梅田俊明氏、下野竜也氏に師事。第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉で第3位、第26回京都フランス音楽アカデミーにて最優秀賞(第1位)、第12回ドナウ国際指揮者コンクールで第2位受賞。2016年から2019年までN響首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィ氏のアシスタント、および同団アシスタントとして定期公演等に携わる。これまでに広響、N響、九響、群響、東響、兵庫芸術文化センター管、都響等と共演。洗足学園音楽大学非常勤講師。

——予選への出場が決まってからどのような準備をしましたか?

熊倉 プロのオーケストラを指揮した経験がほとんどなかったですし、演奏とリハーサル(練習)をする第一次予選は時間が20分と短いので、そこで自分なりに何ができるか、何を作りたいのかを想像しました。

間違えたくないという気持ちに走らず、限られた時間のなかでより良い選択肢を選ぶように、音楽的にも実務的にもいろいろな出来事やパターンを頭に思い浮かべて(実際はそのようにならないのですが)、できる限り、平静に対応できるように心がけました。

リハーサルを見て、将来が楽しみな人を選ぶ

——コンクールではリハーサルの進め方も審査されますね。

尾高 昔は、本選以外は練習なしの一発勝負でした。いつからか、審査委員から練習を見たいと言われるようになりました。練習を見れば、言うべきことを言える人かどうかわかります。

でも、このコンクールは、経験の豊富な人を選ぶコンクールではありません。プロとしての練習ができなくてもいい。この人は、これから先、こういう風になっていくだろうと楽しみな人、伸びしろがある人を選びます。前回の3人の入賞者(第1位:沖澤のどか、第2位:横山奏、第3位:熊倉優)も、それぞれの良さを持ち、三者三様、キャラクターが違います。

尾高忠明(おたか・ただあき)
1947年生まれ。国内主要オーケストラへの定期的な客演に加え、ロンドン響、ロンドン・フィル、BBC響、バーミンガム市響、ベルリン放送響、フランクフルト放送響等へ客演している。第23回サントリー音楽賞受賞。1993年ウェールズ音楽演劇大学より名誉会員の称号を、ウェールズ大学より名誉博士号を、1997年英国エリザベス女王より大英勲章CBEを授与された。さらに1999年には英国エルガー協会より日本人初のエルガー・メダルを授与されている。2012年有馬賞(NHK交響楽団)受賞。
現在NHK交響楽団正指揮者、札幌交響楽団名誉音楽監督、BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団桂冠指揮者、東京フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者、読売日本交響楽団名誉客演指揮者、紀尾井シンフォニエッタ東京桂冠名誉指揮者を務めるほか、東京藝術大学名誉教授、相愛大学音楽学部客員教授、京都市立芸術大学音楽学部客員教授として後進の指導に当たっている。

尾高 沖澤さんは、学校で振る棒は空回りしていた部分がありましたが、コンクールの頃から当たりだし、おおらかさも出て、本選のメンデルスゾーン(序曲《静かな海と楽しい航海》)はとても良い演奏になりました。

横山君は3人の中では経験値が高く、ある意味、手慣れた棒で、オーケストラの中でいろいろな人とのコミュニケーションを味わっている人。

熊倉君は棒が上手い、頭も良い。これからどういう経験が積めるか。早く留学すればいいと思うのですが、コロナに阻まれています。

第1位・沖澤のどか、第2位・横山奏、第3位・熊倉優と日本人が占めた2018年開催の紹介映像

予選と本選で異なるオーケストラへのアプローチ

——予選が始まってからはいかがでしたか?

熊倉 どんどん詰め込まれているスケジュールに精一杯取り組みました。ラウンドごとに反省点があり、頭がグルグルしましたが、次に次にと、切り替えないといけませんでした。

ハイドン(交響曲第82番)、バルトーク(管弦楽のための協奏曲)、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番などが課題でしたが、曲が違うだけでなく、ジャンルごとに指揮者に求められるアプローチが違うことを体験させてもらえました。

コンチェルトはほとんど経験がなかったですから、ソリストとの事前の打ち合わせの時間をもらっても、「打ち合わせって何をするの?」という感じでした(笑)。

尾高 コンクールでは、オーケストラもソリストも何度も演奏しますので、指揮者が間違って振っても、彼らが合わせてしまうことがあります。出てくる音だけでは判断ができないところがある。その意味でコンチェルトの審査は難しいです。

——本選ではリハーサル後のコンサートを審査されますが、どうでしたか?

熊倉 本選は2日間練習ができるので、時間運びが予選とは違います。この2日間をどう配分するか、オーケストラは演奏したことのある曲なので、そこで自分が指揮している意味、何が色づけられるかを考えました。

オーケストラは、本選で課題曲(メンデルスゾーンの序曲《静かな海と楽しい航海》)を3回演奏するので、同じ曲の繰り返しということで、オーケストラの雰囲気や状態を考えないといけないことを、そのときに思い知りました。

オーケストラから教わる

——入賞者にはご褒美の入賞デビューコンサートもあるのですね。

熊倉 名古屋フィルと東京都交響楽団(都響)を振らせていただきました。大きな経験となりました。コンクールから時間を置いてのコンサートだったので、本選のリハーサルでの反省点も活かせました。

都響とのコンサートでは、チャイコフスキーの幻想序曲《ロメオとジュリエット》を指揮しました。リハーサルでゆっくりめのテンポのを選んだのですが、リハーサル後に第2ヴァイオリンの首席奏者の方が楽屋に来て、「流れが悪い」とアドバイスしてくださいました。ありがたい経験でした。

指揮者は(悪い状況の)結果がわかっても、原因がわからないことが多い。演奏者の方が教えてくださるのはありがたいことだと思います。

尾高 指揮者は、学校を出たら教師はいなくなりますが、ずっとオーケストラという教師に囲まれています。オーケストラは、リトマス試験紙でもあります。

僕は、民主主義的な英国のオーケストラからたくさん教わりました。彼らは、僕が練習で理にかなっていないことをすると、ちゃんと嫌な顔をしてくれる。学校では教われないことをオーケストラから教わりました。

入賞デビューコンサート以降も続く、コンクールの影響力

——尾高さんも、第2回(1970年)に参加され、第2位に入賞されましたね。当時の思い出を語っていただけますか?

尾高 審査のときのオーケストラが読売日本交響楽団で、指揮者の棒のまずいところも棒の通りに音にする凄いオーケストラでした。応募者が50数人しかいないなか、小泉和裕さんが第1位で、井上道義さん、小林研一郎さんが入選で、かなり濃かったです(笑)。

尾高 入賞後、入賞デビューコンサート(当時は入賞記念コンサート)で、札幌交響楽団、読売日響、名古屋フィル、大阪フィル、九州交響楽団を振らせてもらえたのはうれしかったですね。コンクールのあとに思ったのは、外国に行ってみたいということ。行くならウィーンに決めていました。1972年に東京フィルの第150回定期演奏会を振らせていただいたあと、ウィーンに留学しました。

翌年、東京フィルから定期演奏会と演奏旅行を振る話をいただきました。そのオファーを受けて帰国していなければ、ウィーンで全然違う展開があったかもしれませんし、東京フィルの常任指揮者にもなっていなかったかもしれません。

——これから東京国際音楽コンクール〈指揮〉を受けてみたいと思っている人へメッセージをお願いします。

熊倉 指揮者は、オーケストラが目の前にいないと経験が始まりません。僕はここでの経験が生きています。そのチャンスが得られるこのコンクールに、一人でも多くの方にチャレンジしていただきたいと思います。

尾高 ニコライ・マルコ国際指揮者コンクールで、一緒に審査したウィーン国立歌劇場総裁のドミニク・マイヤーさんと、第2位の人が一番素晴らしかったと話していたら、マイヤーさんは、翌シーズン、ウィーン国立歌劇場で、第1位の人ではなく、第2位の人を早速起用していました。コンクールでは順位よりも、誰かが見ているかもしれないということのほうが大きいかもしれません。

違いを見つける楽しさがある

——最後に、東京国際音楽コンクール〈指揮〉の楽しみ方を教えてください。

尾高 指揮者はなるべくしてなった人、そういう人しか生き残れません。厳しい指揮教育を受けた人ほど、そういう教育を受けていない指揮者をとやかく言う傾向がありますが、極端にいえば、指揮者は、ピアノが弾けなくても、耳が悪くても、良い音楽が出てくることが一番大事なのです。

指揮者は特殊な職業で、続けてやってきている人には必ず何かの良さがある。それも才能の一つです。審査委員が揃って賞を出す人は確実ですが、それだけがすべてではありません。第一次予選で落ちた人にも凄い人がいることは大いに有り得る。審査委員が選んだ人と違ってもいい。ぜひ、第一次予選からご覧になって、金の卵を見つけてください。

熊倉 コンクールはいろいろな才能が見られるところ。結果はどうであれ、自分はこの人と思って、単純に楽しむと面白い。数年後は状況が違っているかもしれない。そういう最初の芽を見つける楽しさがあるかもしれません。

本選の課題曲では、同じ曲を、同じオーケストラで、違う指揮者の指揮で聴くことができます。指揮者が違うと音楽がどう違うのか、音楽的な面白さが味わえます。普通のコンサートでは聴くことができないので、僕も聴きたいくらいです(笑)。

本選の自由曲は、その指揮者の自信のある曲、やりたい曲なので、その人のキャラクターが出やすい。その時点でのその人の人間性が見られる面白さがあります。

取材は、コンクール事務局がある一般財団法人民主音楽協会内の民音音楽博物館にて行われた。
開催概要
第19回東京国際音楽コンクール〈指揮〉

日程:

  • 第一次予選:2021年9月27日・28日(演奏:東京フィルハーモニー交響楽団)
  • 第二次予選:2021年9月29日・30日(演奏:東京フィルハーモニー交響楽団)
  • 本選:2021年10月3日(演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団)

会場: 東京オペラシティコンサートホール

審査委員会:

[委員長]尾高忠明

[委員]

  • シャーン・エドワーズ(初)
  • ダン・エッティンガー(初)
  • 広上淳一
  • 井上道義
  • オッコ・カム(初)
  • ライナー・キュッヒル
  • 準・メルクル(初)
  • 高関健

申し込み受付: 書類・映像による選考2021年2月1日~5月6日

参加規程はこちら

取材・文
山田治生
取材・文
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

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