イベント
2024.11.15
11/27~12/1 東京文化会館で始まる新しい音楽体験。野平一郎音楽監督にきく

現代も古典も一緒に楽しめる!時を超える音楽祭「フェスティヴァル・ランタンポレル」

この秋、東京文化会館発の新しい音楽祭が始まります。現代音楽と古典音楽がクロスオーバーする「フェスティヴァル・ランタンポレル~時代を超える音楽祭」。時代にとらわれず幅広い層が楽しめるプログラムで日欧の音楽家が共演する、ボーダーレスな音楽体験に興味津々。同館音楽監督の野平一郎さんに、この音楽祭の趣旨や聴きどころについて、詳しく伺いました。

取材・文
伊藤制子  
取材・文
伊藤制子   音楽学・音楽評論

東京藝術大学、同大大学院修了。現在、東邦音大・同大学院、静岡文化芸大、日大講師。日仏の20世紀以後の音楽、音楽美学を研究するかたわら、音楽評論、海外オペラ取材なども行...

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現代音楽ファンだけではなく、幅広い聴衆が楽しめるフェスティバル

東京文化会館発の新しい音楽祭がこの秋に始動する。古典と現代の新しい出会いをテーマにしたフェスティヴァル・ランタンポレル」(11月27日~12月1日)だ。

「ランタンポレル」は、「時を超えた、非時間的な」を意味するフランス語。この企画を主導している同館音楽監督の野平一郎によれば、現代音楽ファンだけではなく、幅広い聴衆が楽しめるフェスティバルを意図しているという。

野平「現代音楽と古典音楽をクロスオーバーさせる企画を考えていた時、東京文化会館主催の東京音楽コンクールの顧問でもある作曲家フィリップ・マヌリから、ニームで2020年から始まったレ・ヴォルク音楽祭を参考にしてはどうかと助言されました。

この音楽祭では現代作曲家とその作曲家が影響を受けた古典作曲家の二人だけをテーマに展開し、ピリオド楽器とモダン楽器の双方の演奏をとりあげています。東京での『フェスティヴァル・ランタンポレル』では、まずこの音楽祭と提携し、同音楽祭の過去のプログラムにもとづいてコンサートを開催します」。

フェスティヴァル・ランタンポレルを企画した、東京文化会館の音楽監督・野平一郎 ©YOKO SHIMAZAKI

2人の現代作曲家と彼らが影響を受けた古典作曲家を組み合わせるプログラム

今回はベートーヴェンとフィリップ・マヌリ、シューベルトとヘルムート・ラッヘンマンを組み合わせて取り上げ、古典と現代との邂逅がもたらす新しい体験をめざすという。

野平11月28日には、優れたピアニストである阪田知樹さんが、マヌリの第2ソナタ《変奏曲》ベートーヴェンの《ディアベリ変奏曲》との組み合わせでリサイタルを行ないますが、フォルテピアノとモダンピアノの双方で演奏してもらいます。

阪田知樹のフォルテピアノ演奏は、古典と現代が出会うこの音楽祭だからこそ実現したもの ©Ayustet

マヌリは多彩な音響を追及している作曲家で、近代フランス音楽からの影響も感じられますが、ベートーヴェンなどにも強い関心を語っていますので、古典作品との関連性などを聴いていただけるかと思います。

ラッヘンマンはノーノやシュトックハウゼンらに師事し、1960年代からはさまざまな斬新な試みを行なっていますが、シューベルトの主題による変奏曲なども書いています。今回のフェスティバルでの両作を並べたプログラムでは、現代作品と古典の関係にも注目して、楽しんでいただければと思います」。

左:フィリップ・マヌリ(1952~)
上:ヘルム―ト・ラッヘンマン(1935~)

レ・ヴォルク弦楽三重奏団が初来日、東京音楽コンクール入賞者たちと共演

レ・ヴォルク音楽祭の音楽監督をつとめるキャロル・ロト=ドファンがヴィオラで参加しているレ・ヴォルク弦楽三重奏団も、今回の企画の中心である。彼らと共演するのは、東京音楽コンクール優勝のフルート奏者・上野由恵、そして同コンクール入賞者で構成された東京文化会館チェンバー・オーケストラのメンバー。プログラムも古典と現代の双方を味わえるものになっている。

野平「古楽、現代の双方ですぐれた技量をもつレ・ヴォルク弦楽三重奏団は、初来日になります。11月27日のコンサートでは、上野さんにはマヌリの《Silo》で共演してもらい、ベートーヴェンの弦楽三重奏曲のピリオド楽器による演奏も披露されますので、古楽ファンにも関心をもっていただけると思います。

12月1日のコンサートでは、ラッヘンマンとシューベルトの組み合わせによるプログラムで、オーケストラのメンバーはモダン楽器によるシューベルトの八重奏曲での共演になります」。

レ・ヴォルク音楽祭の音楽監督をつとめるキャロル・ロト=ドファン。彼女がヴィオラで参加するレ・ヴォルク弦楽三重奏団が今回初来日する。彼女と同じくピリオド楽器オーケストラ、レ・シエクルに所属するロビン・マイケル(チェロ)、モンペリエ国立管弦楽団のコンサートマスター・オード・ペラン=デュロー(ヴァイオリン)がメンバーで、11月24日に静岡音楽館AOIでも公演がある

無声映画に現代作曲家が音楽を付ける企画も

レ・ヴォルク音楽祭との提携と並んで「フェスティヴァル・ランタンポレル」のもうひとつの柱が、IRCAM(フランス国立音響研究所)との協力で実現した映画と現代音楽とのコラボレーションだ(11月29日)。

野平「無声映画の音楽付き上演企画は、フランスではかなり以前から存在し、私もかかわったことがあります。今回のような企画では、映画の選択がとても大切だと思いました。

衣笠貞之助監督、川端康成原作の『狂った一頁』は当時の前衛といえるもので、先進的な映像技法が使われた作品です。1926年の映画に100年の時を超えて気鋭の平野真由さんが書いた音楽付きで上演します。

平野さんの音楽は『狂った一頁』の場合もそうですが、ひじょうに自由で変化に富んでおり、さまざまなシチュエーションに合わせて柔軟に書かれているところに魅力を感じます。同じ日本人として一世紀前の日本映画をどうとらえているのかというのも、この企画の面白さではないでしょうか」。

平野真由は1979年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理専攻修了。2014-15 年 IRCAM研究員。電子音響やライヴエレクトロニクス作品のほか、映像や特殊な空間配置を伴ったものや伝統的技法のものまで、作品は多彩

野平監督のもと、東京文化会館が新しい試みを発信する場に

マヌリ、野平、そしてヴィオラのキャロル・ロト=ファンが集うトークセッション、さらに気鋭の若手が受講するマスタークラスも開催されるなど多岐にわたる内容のフェスティバルだが、音楽界において、東京文化会館の役割は今後ますます重要になると、野平監督は語る。

野平「私の世代はまだ今日ほどホールも多くない時代でしたので、東京文化会館のオーケストラピットを備えた大ホール、小ホールはまさに海外への窓でした。私自身の経験から導き出したことも踏まえながら、この上野の東京文化会館から新しい試みを発信していけたらと考えています」。

フェスティヴァル・ランタンポレル Festival de l’Intemporel~時代を超える音楽~
レ・ヴォルク弦楽三重奏団 et 上野由恵(フルート) ~ベートーヴェン&マヌリ~

日時:2024年11月27日(水)19:00開演
出演
レ・ヴォルク弦楽三重奏団
 ヴァイオリン:オード・ペラン=デュロー
 ヴィオラ:キャロル・ロト=ドファン
 チェロ:ロビン・マイケル
アルトフルート:上野由恵 *第2回東京音楽コンクール木管部門第1位
エレクトロニクス:今井慎太郎
サウンド・ミキシング:フィリップ・マヌリ
ナビゲーター:沼野雄司(音楽学者)

曲目
フィリップ・マヌリ:パルティータI ヴィオラとエレクトロニクスのための
フィリップ・マヌリ:Silo アルトフルートとヴィオラのための
フィリップ・マヌリ:ジェスチャー 弦楽三重奏のための8楽章
ベートーヴェン:弦楽三重奏曲 ハ短調 Op.9-3(ピリオド楽器による演奏)

詳細はこちら

阪田知樹ピアノ・リサイタル ~ベートーヴェン&マヌリ~

日時:2024年11月28日(木)19:00開演〈予定公演時間:約75分〉
出演
ピアノ/フォルテピアノ:阪田知樹
曲目
フィリップ・マヌリ:第2ソナタ「変奏曲」
ベートーヴェン:ディアベリのワルツの主題による33の変奏曲 ハ長調「ディアベリ変奏曲」 Op.120

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IRCAMシネマ「狂った一頁」~ポンピドゥー・センターと歴史的無声映画のコラボレーション~

日時:2024年11月29日(金)
15:00開演〈上映時間約70分〉
19:00開演〈上映時間約70分〉
★17:30からトークイベント開催。各回のチケットをお持ちの方が入場可能。

上映映画
「狂った一頁」1926年(復元版)
監督:衣笠貞之助
原作:川端康成
脚本:川端康成、衣笠貞之助、犬塚稔、沢田晩紅
フィルム 35mm、モノクロ、無声 67 分
寄贈:ポンピドゥー・センター日本友の会(2019年)
作曲:平野真由(2021年)
演奏(録音):Jean-Marie COTTET(ピアノ)、粟谷明生(能シテ)、Eve PAYEUR(打楽器)、Elisa URRESTARAZU CAPELLÁN(ソプラノ・サクソフォン)、Séverine BALLON(チェロ)

トークイベント出演
平野真由(作曲家)
モデレーター:沼野雄司(音楽学者)

詳細はこちら

務川慧悟ピアノ・リサイタル ~シューベルト&ラッヘンマン~

※チケット予定枚数終了

日時:2024年11月30日(土)19:00開演
〈予定公演時間:約75分〉

出演
ピアノ/フォルテピアノ:務川慧悟

曲目
ヘルムート・ラッヘンマン:シューベルトの主題による5つの変奏曲
ヘルムート・ラッヘンマン:ゆりかごの音楽 ※チラシでは作曲年を「(1964)」と表記しましたが、正しくは「(1963)」です。
ヘルムート・ラッヘンマン:セリナーデ ピアノのための
シューベルト:ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D958

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レ・ヴォルク弦楽三重奏団&東京文化会館チェンバーオーケストラ・メンバー ~シューベルト&ラッヘンマン~

日時:2024年12月1日(日)15:00開演
★14:30からプレトークあり

出演
レ・ヴォルク弦楽三重奏団
 ヴァイオリン:オード・ペラン=デュロー
 ヴィオラ:キャロル・ロト=ドファン
 チェロ:ロビン・マイケル

東京文化会館チェンバーオーケストラ・メンバー
 ピアノ:大崎由貴 *第18回ピアノ部門第2位〈最高位〉
 ヴァイオリン:依田真宣 *第4回弦楽部門第2位
 チェロ:上村文乃 *第5回弦楽部門第2位
 コントラバス:白井菜々子 *第13回弦楽部門第3位
 クラリネット:アレッサンドロ・ベヴェラリ *第15回木管部門第1位
 ファゴット:鈴木一成 *第13回木管部門第1位
 ホルン:濵地宗 *第8回金管部門第2位

プレトーク:沼野雄司(音楽学者)

曲目
ヘルムート・ラッヘンマン:アレグロ・ソステヌート クラリネット、チェロとピアノのための
ヘルムート・ラッヘンマン:弦楽三重奏曲第2番「我が告別」
シューベルト:八重奏曲 ヘ長調 D803

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フェスティヴァル・ランタンポレル トークセッション

日時:2024年11月30日(土)14:00開演
登壇
フィリップ・マヌリ(作曲家)
キャロル・ロト=ドファン(レ・ヴォルク音楽祭芸術監督)
野平一郎(東京文化会館音楽監督)
モデレーター:沼野雄司(音楽学者)
※日本語通訳付

演奏
フィリップ・マヌリによるマスタークラス受講生
ピアノ:島多璃音 *第21回東京音楽コンクールピアノ部門第2位及び聴衆賞
曲目
フィリップ・マヌリ:練習曲集第2巻より
 「Réseaux」
 「Dérèglements」

詳細はこちら

取材・文
伊藤制子  
取材・文
伊藤制子   音楽学・音楽評論

東京藝術大学、同大大学院修了。現在、東邦音大・同大学院、静岡文化芸大、日大講師。日仏の20世紀以後の音楽、音楽美学を研究するかたわら、音楽評論、海外オペラ取材なども行...

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