第18回 Hakujuギター・フェスタ~ギターの名手が勢ぞろい。ポンセのソナタ全曲が聴きどころ
毎年夏の3日間、Hakuju Hallがギター一色に染まる人気フェスティバル「Hakuju ギター・フェスタ」。第18回を迎える今年は、2017年以来4回目となる“ラテンアメリカ”をテーマに、ヴィラ=ロボス、ピアソラ、ポンセなど、ラテンアメリカの作曲家を取り上げます。中でも出演者全員がポンセのギター・ソナタ全曲を分担して演奏するのが聴きどころの一つ。今年出演するギタリストや聴きどころについて、フェスティバル創設者であり初回から出演してきた荘村清志さんと福田進一さんに伺いました。
初回からチケット完売だった人気フェスティバル
――Hakujuギター・フェスタは今年で第18回を迎えます。3日間にわたりクラシック・ギターの魅力にどっぷり浸れる、他に類をみないこのフェスティバルは、どのようなきっかけで始まったのでしょうか?
荘村清志 ギター・フェスタが生まれたのは、2005年5月、Hakuju Hallでの福田進一さんと私のジョイント・リサイタルの打ち上げでのことです。当時ヴィオラの今井信子さんが、カザルスホールで「ヴィオラスペース」と題してヴィオラのフェスティバルを行なっていました。福田さんがギターで「ヴィオラスペース」のようなものを作りたいと提案し、ホール支配人の原浩之さんが賛成してスタートしました。
第1回が2006年8月で、タイトルは「武満徹へのオマージュ」。3日間でギターの魅力を聴いていただくフェスティバルを心がけました。支配人の原さんは、いきなり現代音楽でかなり心配だったようです。後日談として「あの時、お客さんが入らなかったら1回のギター・フェスタで終わったかもしれない」とおっしゃっていましたが、蓋を開けてみたら、3日間ともチケットが完売しました。
その後は、毎年国別のタイトルをつけて続けました。ゲストも弦、管、歌と多方面にわたりお招きしました。最近は原点に戻ってギターだけのフェスタにしており、今年は主に南米がテーマです。
2024年にデビュー55周年、喜寿を迎え、実力、人気ともに日本を代表するギター奏者としてますます充実した活動を展開している。9歳からギターを始め、父・荘村正人と、後に小原安正に師事。1963年、来日したナルシソ・イエペスに認められ、翌年スペインに渡ってイエペスに師事。69年日本デビュー・リサイタル。77年と80年に再びスペインに渡り、イエペスのもとでさらに研鑚を積み、ヨーロッパ各地でコンサート活動を行なう。以後リサイタルや、日本の主要オーケストラとの共演で活躍を続けている。現代のギター作品を意欲的に取り上げるだけでなく、日本人作曲家に多数の作品を委嘱、初演するなど、ギターのレパートリー拡大にも大きく貢献。とくに武満徹には《フォリオス》《エキノクス》を委嘱し、荘村のために編曲された「ギターのための12の歌」を初演・録音、《森のなかで》を全曲初演している。現在、東京音楽大学特任教授。©良知賀津也
再来年にはこのギター・フェスタが記念すべき第20回を迎えます。ここまで続けて来られたのは、毎年いらしてくださるお客様とHakuju Hallのバック・アップ、そしてなんと言っても福田進一さんという素晴らしいギタリストであり、好敵手でもある友と仲良くやってこられたからと、感謝の気持ちでいっぱいです。
大阪生まれ。1981 年パリ国際ギターコンクールでグランプリ優勝。以後約 40 年にわたり、ソロ・リサイタル、主要オーケストラとの協演、超一流ソリストとの共演を続け、ボーダーレスな音楽への姿勢は世界中のファンを魅了している。東京、 イタリア 、 ドイツ 、 アメリカなど の主要 国際ギターコンクールの審査員を歴任。2019 年公開の映画『マチネの終わりに』(監督:西谷弘、主演:福山雅治、原作:平野啓一郎)では、クラシックギター監修を担当した 。ディスコグラフィーはすでに 100 タイトルを超える 。2024 年 5 月には新譜『悪魔の奇想曲』 (マイスター ・ ミュージック) を リリース 。また、インターネットでは「福田進ー ザ・ギターレッスン」を開講。 OTTAVA TV 、ぶらあぼ cafe で配信、好評を得ている。平成 19 年度「外務大臣表彰」受賞。平成 23 年度芸術選奨「文部科学大臣賞」受賞。 公益社団法人日本ギター連盟 名誉理事。
https://shin-ichi-fukuda.themedia.jp
©Takanori Ishii
巨匠フェルナンデスを中心に、若手からベテランまで注目のギタリストが勢ぞろい
――今年も荘村さん、福田さんに加えて、注目の若手から巨匠まで、お二人が自信をもって選ばれた素晴らしいギタリストの出演が決まっています。それぞれの出演者について、簡単にご紹介いただけますか?
福田進一 今年は、ウルグアイの巨匠エドゥアルド・フェルナンデスさんをメインに、長年日本に住みタンゴを中心に活躍されているアルゼンチンの名手レオナルド・ブラーボさん、そしてベテランの村治奏一さんにご登場いただきます。
フェルナンデスさんは、1989年に初来日。以後、休むことなく世界を舞台に演奏活動を展開しています。私とのデュオも、1995年の初共演から30年近くが経ちました。今夏はチェコのブルノ国際フェスティバルに共に招かれ、その直後の来日となるので、非常に練られた内容になるかと期待しています。
1952年、ウルグアイ生まれ。7歳でギターを始める。75年アンドレス・セゴビア国際ギターコンクール(スペイン)第1位。77年にニューヨーク・デビュー以後、毎シーズンアメリカで有名オーケストラとの共演やソロ・リサイタルを開催。83年ウィグモア・ホールにてロンドン・デビュー。古楽器にも興味を持ち、しばしば19世紀のピリオド楽器を使用して演奏する。世界最高峰のギタリストとして知られ、世界中のマスタークラスや講座に招かれている。2002年からは毎年、ドイツの国際ギター・フェスティバル「ギターと自然」でマスタークラスを開催。ディスコグラフィーは、デッカ、エラートなどのレーベルから多数リリースされ、DENONからは福田進一と3枚のデュオ作品を制作。最近ではバッハのリュート組曲全曲、19世紀のピリオド楽器を使用した「ロマンティック・ギター」、ラテンアメリカ作品集、オール・ジュリアーニのCDがリリースされた。©Robert Yabeck
ブラーボさんは昨年、韓国の大邱(テグ)で行なわれたフェスティバル参加の折、素晴らしい本物のタンゴ演奏(共演:近藤久美子さんvn)の一夜が忘れられず、今回のメンバーに加わっていただきました。
アルゼンチン生まれ。国立ロサリオ大学芸術学部音楽学科卒業。アルゼンチン国内を始め南米、北米、ヨーロッパ各地でコンサートを行ない、ギタリスト、作曲家として数々の賞を受賞。また指導者として、1991~2003年ロサリオ国立大学でギターの教授を務める。03年に来日し、日本を拠点に演奏活動を開始。04年日本デビュー・リサイタル、05年のリサイタル・ツアーは各方面より高評を得る。以後日本国内の他アジア、欧米各地でギターソロ、デュオ、アンサンブル等の演奏活動を展開。10年レオナルド・ブラーボタンゴ楽団を結成。ソロCD「El alma en la raiz エ ル・アルマ・エン・ラ・ライス(魂の根より)」はイギリスとフランスのギター誌で高く評価された。クラシック全般をレパートリーとするが、とりわけ祖国の音楽であるアルゼンチンタンゴ、フォルクローレに造詣が深い。
村治奏一さんは、今までなぜ参加してもらわなかったの?と思えるほど、いまや確実な技巧と音楽性を備えた日本を代表する中堅ギタリストですね。
東京生まれ。幼少よりギタリストの父・村治昇の手ほどきを受け、福田進一、鈴木大介の両氏に師事。1997年クラシカル・ギター・コンクール、98年第41回東京国際ギター・コンクール他数多くのコンクールで優勝。ニュー・イングランド音楽院でD.レイズナー、E.フィスク教授に、マンハッタン音楽院でD.スタロビン教授に師事、卒業時にアンドレス・セゴビア賞を受賞。06年米国デビュー。14年S&R財団ワシントン・アワードを受賞。バッハから映画音楽までこれまでに10枚以上のソロ・アルバムを発表。リサイタル、室内楽を始め、NHK交響楽団、読売日本交響楽団、東京都交響楽団、東京フィル、日本フィルほか国内外のさまざまなオーケストラと共演。現在全国各地のカフェやお寺、ギャラリー等でも演奏し注目を集めているほか、最近ではチャットGPTを利用した「AI村治奏一」を公開し、ファンとの交流を深めて話題になっている。
https://www.soichi-muraji.otohako.jp/
それから、恒例の「旬のギタリストを聴く」シリーズとして、昨年のイタリア・ピッタルーガ国際ギターコンクールで見事優勝に輝いた山田唯雄さんがデビューします。
京都市立京都堀川音楽高等学校、東京音楽大学、ウィーン国立音大にて第一課程修了後、ワイマール フランツ・リスト音楽大学修士課程を卒業。現在同大学Konzertexamen課程に在学中。2023年、世界で最も権威のあるギターコンクールのひとつ ミケーレ・ピッタルーガ国際ギターコンクール(イタリア)にて日本人として30年ぶりの優勝を果たす。この他にも数多くのコンクールで優勝および入賞。各地で演奏活動を行なう他、秋田勇魚、井本響太とのギタートリオ「へっぽこどりぃむ」などアンサンブルによる活動も行なう。1stアルバム「1.0 (one)」は『レコード芸術』特選盤に選出。 これまでに山田直樹(父)、荘村清志、アルヴァロ・ピエッリ、リカルド・ガレン、トーマス・ミュラー=ぺリング他に師事。©Guido Werner
2006年の第1回から、レギュラーの荘村清志さんと私とでいろいろと悩みながら企画してきましたが、このフェスタも今回で第18回を迎えます。年を重ねるとともに充実した内容になってきたことを嬉しく思います。
ギターの重要なレパートリー、ポンセのギター・ソナタが全曲聴ける
――今年のテーマは「ラテンアメリカ 4 ~ポンセのギター・ソナタ全曲」となっています。ポンセのギター・ソナタを全曲聴けるというのが大きな目玉になると思いますが、詳しく教えてください。また、毎年恒例の委嘱デュオ作品にも期待が高まります。
福田進一 今回はゲストの皆さんのソロ・プログラムに、近現代メキシコを代表する作曲家マヌエル・マリア・ポンセ(1882-1948)のギター・ソナタ全曲を加えて構成しました。このギター・ソナタは、全曲が巨匠アンドレス・セゴビアに献呈された、ギターの重要なレパートリーです。
まず、村治奏一さんの「第1番/メヒカーナ(メキシコ風)」(8/16)、フェルナンデスさんの「第4番/クラシカ(ソル讃歌)」(8/16)、そして荘村さんの「南のソナチネ(小ソナタ)」(8/17)、ブラーボさんの「ソナタ第3番」(8/17)、最後に私が「第5番/ロマンティカ(シューベルト讃歌)」(8/18)という構成です。
第2番は紛失しているので、これが現存する全5曲です。フェスタに来ていただければポンセのソナタのすべてが聴けるわけですが、そこに山田唯雄さんによる(ソナタではありませんが)同じポンセの大曲「スペインのフォリアの主題による20の変奏曲とフーガ(抜粋)」(8/17)が加わりまして、フェスタが大きなテーマ性を持ちました。
フィナーレでは、ブラーボさんが編曲したてのラテン名曲(8/18)をアンサンブルでお楽しみいただき、さらに毎年恒例の委嘱デュオ作品は、大活躍中の加羽沢美濃(8/18)さんにお願いしました。加羽沢さんには20年ほど前にソロ小品を書いていただいたのですが、今回はその発展形で2楽章の歌とリズムにあふれた素敵な作品になっています。これも初演が楽しみです。
日時:8月16日(金)19:00開演
Part1 村治奏一
出演:村治奏一(ギター)
アンコール・ゲスト:荘村清志
曲目
L.ブローウェル:魅惑の瞳
H.ヴィラ=ロボス:「12の練習曲」より 第4番 ト長調
C.ジョビン:フェリシダージ
A.バリオス:過ぎ去りしトレモロ
F.ショパン(L.アルメイダ編):夜想曲 第2番 op.9-2
M.ポンセ:ソナタ・メヒカーナ 第1番
A.サルデーニャ:ラメントス・ド・モロ
Part2 エドゥアルド・フェルナンデス
出演:エドゥアルド・フェルナンデス(ギター)
アンコール・ゲスト:福田進一
曲目
J.S.バッハ(E.フェルナンデス編):リュート組曲 第3番 イ短調 BWV 995
M.ポンセ:ソナタ・クラシカ(ソル讃歌)
山田唯雄 リサイタル
日時:8月17日(土)14:00開演(約45分)
出演:山田唯雄(ギター)
曲目
R.S.デ・ラ・マーサ:ラ・フロンテーラ・デ・ディオス より Ⅰ.アルバダと風景
E.S.デ・ラ・マーサ:組曲「プラテーロと私」
M.ポンセ:スペインのフォリアの主題による20の変奏曲とフーガ (抜粋)
日時:8月17日(土)18:00開演
Part1 荘村清志
出演:荘村清志(ギター)
アンコール・ゲスト:福田進一
曲目
H.ヴィラ=ロボス:「5つの前奏曲」より 第3番 イ短調 “バッハへの讃歌”
H.ヴィラ=ロボス:「12の練習曲」より
第1番ホ短調、第7番ホ短調、第8番嬰ハ短調、第9番嬰ヘ短調
M.ポンセ:「24の前奏曲」より 第1番ハ長調、第2番イ短調、第3番ト長調、第4番ホ短調、第5番ニ長調、第6番 ロ短調
M.ポンセ:南のソナチネ
Part2 レオナルド・ブラーボ
出演:レオナルド・ブラーボ (ギター)
ゲスト:近藤久美子(ヴァイオリン)
【レオナルド・ブラーボ ソロ】
曲目
A.ラミレス(L.ブラーボ編):アルフォンシーナと海
M.ポンセ:ソナタ 第3番
A.ピアソラ(L.ブローウェル編):タンゴ
【近藤久美子&レオナルド・ブラーボ】
曲目
J.プラサ:ノクトゥルナ
A.バルディ:恋人もなく
A.ピアソラ:タンティ・アンニ・プリマ
A.ピアソラ:「タンゴの歴史」より Ⅱ.カフェ 1930
A.ピアソラ:アディオス・ノニーノ
日時:8月18日(日)15:00開演
Part1 福田進一
出演:福田進一(ギター)
アンコール・ゲスト:エドゥアルド・フェルナンデス
曲目:
M.ファリャ:ドビュッシー讃歌
A.タンスマン:バラード 「ショパン讃歌」
M.ポンセ:ソナタ・ロマンティカ 「シューベルト讃歌」
Part2 ギター・アンサンブル~委嘱新作・世界初演
出演:荘村清志、福田進一、エドゥアルド・フェルナンデス、レオナルド・ブラーボ、村治奏一(以上、ギター)
曲目:
加羽沢美濃:第18回 Hakuju ギター・フェスタ 2024 委嘱作品/世界初演
A.トロイロ(L.ブラーボ編):ラ・トランペラ
A.ピアソラ(L.ブラーボ編):エスタモス・リストス
H.ヴィラ=ロボス(L.ブラーボ編):センチメンタルなメロディー
会場:Hakuju Hall
問合せ:Hakuju Hall チケットセンター 03-5478-8700
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