イベント
2021.03.18
兵庫県立芸術文化センター/特集「ホールよ、輝け!」

「心の広場」をコンセプトに地元に寄り添い、愛される兵庫県立芸術文化センター

阪神・淡路大震災からの心の復興のシンボルとして2005年に誕生した兵庫県立芸術文化センター。開館から16年、芸術監督の指揮者・佐渡裕や兵庫芸術文化センター管弦楽団は、地元・阪神の文化に寄り添ってきた。コンセプトに掲げる「心の広場」には、どんな楽しみが待っているのだろうか。

取材・文
加藤浩子
取材・文
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2008 喜歌劇《メリー・ウィドウ》
撮影:飯島隆/提供:兵庫県立芸術文化センター

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地域に密着し、300もの主催公演でワクワク感を創出

阪急電鉄の西宮北口駅に直結し、大、中、小の3つのホールを擁する兵庫県立芸術文化センター(以下芸文)は、県民の心をがっちりつかんでいるホールだ。「地域の『心の広場』」「県民のためのパブリックシアターでありたい」(ホール関係者。以下同)という開館以来のコンセプトは、着実に浸透している。

兵庫県立芸術文化センター

支持されている一番の理由は、「レストランのメニューや百貨店のように、バラエティ豊かな公演を取り揃えている」ことだろう。オーケストラやオペラから、コーヒー一杯の値段で注目のアーティストの演奏を体験できる「ワンコイン・コンサート」のような気楽なコンサート、演劇まで、ラインナップは多彩だ。公演の数も多く、主催公演だけでも300公演にのぼるという。それもこれも、「芸文に行けば、なにか楽しいこと、ワクワクしたことがあると思ってもらえるようにしたい」という目的あってのこと。お手本は、阪神圏の文化の担い手として不動の人気を誇る「タカラヅカ」である。

お話を伺った兵庫県立芸術文化センターの事業部広報担当課・舞台芸術劇場業務専門職の岡本結香さんと、楽団部・広報担当マネージャーの大歳麻衣子さん。
©︎飯島隆

ホールが支持されている理由のひとつに、芸術監督をつとめる佐渡裕の存在がある。「地域に密着するというホールのコンセプトに、佐渡芸術監督のキャラクターがフィットした」。佐渡ならではのスター性と気さくなキャラクターに加え、開館前から商店街を回り、プロデュースオペラの前夜祭のようなイベントに率先して参加するなど、数々の試みを通じて精力的に地元に溶け込んできた。

若手演奏家の育成をコンセプトにしたオーケストラ「PAC」

佐渡と並ぶ兵庫芸文の「顔」が、専属のオーケストラ「兵庫芸術文化センター管弦楽団(略称PAC=Perfoming Arts Centerの略)」である。「若手演奏家の育成」をコンセプトに掲げ、オーディションの時点で35歳未満であることが団員応募の条件だ。在籍は最長3年で、ほかの団体のオーディションを受けることも推奨し、有望な演奏家を世界に送り出している。

来年5月には、PAC管の一期メンバーで、現在はミュンヘン・フィルに所属するクラリネットのラスロ・クティが定期演奏会のソリストとして登場する。「凱旋」と言っていいだろう。

佐渡裕指揮 兵庫芸術文化センター管弦楽団 ベルリオーズ:幻想交響曲

PACオーケストラが芸文の「顔」なら、芸文の「看板」は、2005年以来続いているプロデュースオペラだ。「色々な作品を見てもらいたい」という佐渡の方針のもと、モーツァルトの《魔笛》のような古典から、20世紀のブリテンやバーンスタインのオペラまで、幅広い作品を取り上げてきた。オペラに気軽に親しんでもらうため、チケット価格も海外ミュージカルや、「お手本」のタカラヅカを意識して、最高席で12,000円に設定。その分公演回数を増やしているが、いつも満席の盛況である。

佐渡裕芸術監督プロデュースオペラとして初めて夏に上演された、2006年の《蝶々夫人》(映像は2008年リバイバル時のもの)。

特に最初のうちはオペラに馴染みのない観客も多く、「上演中にみかんをむく匂いがした」り、「人が死ぬオペラより、楽しい方がいい」というストレートな感想があったりした。だが、回を重ねてリピーターが増え、オペラに馴染んできたそうだ。ホールが育てた観客である。

©︎飯島隆

震災復興のシンボルとして始まり、コロナ禍にもオンラインで交流を

兵庫芸文はもともと、1995年の阪神・淡路大震災からの心の復興のシンボルとして誕生した。震災10年後の2005年に、ベートーヴェンの《第九》で開館。節目の年には、追悼の意味を込めた楽曲を演奏しており、震災から25年後の開館15周年ではフォーレの《レクイエム》を演奏している。

兵庫芸術文化センター管弦楽団第120回定期演奏会「佐渡裕 フォーレ『レクイエム』」。
撮影:飯島隆/提供:兵庫県立芸術文化センター

そんな芸文は、「ホールは心の広場」という当初からのモットーのもと、コロナ禍でも「つながる」方法を模索している。「足を運べないのは仕方がないですが、何かあったときに思い出してもらえる存在でありたい」。そんな願いを込めて、昨春の緊急事態宣言下では、リモート配信で「HPACすみれの花咲く頃プロジェクト」を展開した。ホールに縁の深い「すみれの花咲く頃」を、PAC管のメンバーによるリモート演奏と、一般から募集した動画による演奏で公開し、23万のビューがあったという。

現在は、以前PAC管の定期演奏会で取り上げたベルリオーズの「幻想交響曲」を解説する「わくわくOnlineオーケストラ教室」を公開している。

華やかなオペラやワンコイン・コンサートで気軽に「ちょっとした非日常」を

ONTOMO読者に向けての来シーズンのおすすめは、まずはプロデュースオペラの《メリー・ウィドウ》。大金持ちの未亡人をめぐるラブコメディの名作だ。2008年に制作された舞台の改定新制作だが、2万人を動員した、プロデュースオペラ史上屈指のヒット作でもある。

「タカラヅカ調のショー」を念頭に、衣装もセットも華やかで、「誰が見ても楽しい」のに加え、「日本語上演でわかりやす」く、「関西らしいダイレクトな笑い」もふんだんだ。噺家の桂文枝も登場する。歌手も、若手からベテランまで文句なしの顔ぶれ。「憂さを吹き飛ばしていただけるような公演になることは確実です」

佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2008 喜歌劇《メリー・ウィドウ》
撮影:飯島隆/提供:兵庫県立芸術文化センター
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021  喜歌劇「メリー・ウィドウ」

会期: 2021年7月16日(金)〜7月25日(日)

会場: 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

料金: A 席12,000円/B席9,000円/C席7,000円/D席5,000円/E席3,000円

コンサートのおすすめは、名曲を一流アーティストで取り上げる「プロムナード・コンサート」。美貌と美演で大人気のハープの貴公子、グザヴィエ・ド・メストレや、日本を代表するヴァイオリニスト竹澤恭子など、贅沢なラインナップである。※年間ラインナップは3月末頃にホールウェブサイトに掲載予定。

プロムナード・コンサート 森麻季&林美智子 デュオ・リサイタル

日時: 5月29日(土)14:00開演

会場: 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

出演: 森 麻季(ソプラノ)、林 美智子(メゾ・ソプラノ)、多田聡子(ピアノ)

敷居が低いと言う点では、「ワンコイン・コンサート」。関西に縁のある若手アーティストが起用され、地元らしさもあるシリーズだ。注目の実力派である葵トリオなど、ぜひ体験したいところである。

ワンコイン・コンサート「小林佑太朗 〜さまざまな顔をもつファゴット」

日時: 2021年4月13日(火)11:30開演

会場: 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

料金: 全席指定 500円

出演: 小林佑太朗(ファゴット)、森 亮平(ピアノ)

クラシックコンサートというと、とかく身構えてしまいがち。けれど芸文の催しは、オペラなど一部を除いて料金もかなりお手頃だ。「ハードルは高くない」と担当者が言うのもうなずける。

とはいえ、コンサートの目的は「ちょっとした非日常を楽しむことにもある」。同感だ。おしゃれを楽しむ貴重な場として活用するのもありだろう。「心の広場」芸文が、もっと活用され、いつも人々の笑顔があふれる場所でありつづけることを、心から願っている。

兵庫県立芸術文化センター

[座席数]大ホール:2000席、中ホール:800席、小ホール:417席

[住所]〒663-8204 兵庫県西宮市高松町2-22

[問い合わせ]Tel.0798-68-0255(チケットオフィス)

https://www1.gcenter-hyogo.jp/

取材・文
加藤浩子
取材・文
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

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