イベント
2021.03.18
住友生命いずみホール/特集「ホールよ、輝け!」

音の響きが泡立つ住友生命いずみホールで、2021年は「多幸感」を味わう!

川をはさんだ反対側は大阪城公園という立地にある、住友生命いずみホール。ウィーンの楽友協会ホールをお手本にしたつくりで、企画でも連携をとってきた同ホールが、オリジナリティのある名物シリーズを生み、熱心なファンが定着している。どんな企画に惹きつけられているのか、2021年の注目公演とは?

取材・文
加藤浩子
取材・文
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

メイン写真:いずみシンフォニエッタ大阪の第44回定期演奏会より。西村朗に委嘱した新作「12奏者と弦楽のための〈ヴィカラーラ〉」のステージ(2020年7月) ©️樋川智昭

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音楽学者や専属の楽団とともに歩む

住友生命いずみホール(以下、いずみホール)は、「クラシック音楽」に期待したい、ちょっとした非日常を味あわせてくれる空間だ。

シックな雰囲気の広々としたホワイエからホールに入ると、豪華なシャンデリアと壮麗なオルガンが目に飛び込む。舞台へ向かってなだらかに下る客席は扇形に配置され、左右の高みに造られたバルコニーの落ち着いた佇まいも印象的だ。

内装には、程よい贅沢感を醸し出すのに加えて、ホールが誇る「反射音が細かく、泡立つ」豊かな音響を引き出すナラ材が使われている。

シューボックス型の住友生命いずみホール。
©️樋川智昭

いずみホールの内装や音響のお手本になっているのは、ウィーンの楽友協会ホールである。「音楽の都」ウィーンを代表するゴージャスなホールで、ウィーン・フィルの「ニューイヤーコンサート」の会場としてテレビでもお馴染みだ。楽友協会との関係は良好で、楽友協会合唱団をはじめ、関係の深い一流アーティストを招聘したり、「ウィーン音楽祭 in OSAKA」という名物コンサートシリーズも生まれている。

企画面でのいずみホールの最大の特徴は、「学者とともに歩むホール」をモットーに、一流の研究者をディレクターに迎えて、その視点を生かしたコンサートをプロデュースしていることだろう。前ディレクターの故礒山雅さんはバッハの世界的な権威で、「古楽最前線」「バッハ オルガン作品全曲演奏シリーズ」といった企画でファンをつかんできた。礒山さんの業績は『神の降り立つ楽堂にて』(アルテスパブリッシング)にまとめられているが、その中で礒山さんは聴衆の方々の熱心さに接し、「素晴らしいお客様だねえ」と感嘆の声をあげている。それは、ホールが創り上げた財産でもある。

この秋のシーズンからは、シューベルト研究家堀朋平さんが音楽アドバイザーに就任する。1979年生まれ、スタッフとともにホールの未来を創っていくことが期待されている。

シューベルト研究家の堀朋平さん。

ホール専属の楽団は、大阪出身の作曲家、西村朗さんの提案で結成された「いずみシンフォニエッタ大阪」。こちらは、現代音楽の紹介をモットーに活動している。いずみホールは、内装も中身もちょっとこだわりのあるホールなのである。

と言っても、間口が狭いわけではない。プログラムの大きな柱は、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンという「大」のつく王道。「ホールの特徴を生かせる、ホールにとって重要な作曲家」である三人の作品を内外の一流アーティストが奏でる企画はいつも大人気で、首都圏から駆けつけるファンもいるほどだ。

いずみシンフォニエッタ大阪の紹介動画(2016年公開)

コロナ禍で熱心なファンの声を耳にして

他のホール同様、いずみホールもコロナ禍で多くの企画が中止に追い込まれた。その中でスタッフが感じたのは「こういう時代だからこそ音楽を聴きたい、満たされたい人はたくさんいる」ということだったという。

お話を伺った、企画部 事業制作グループリーダーの梅垣香織さん。
©飯島隆

これまでもいずみホールは、会報誌「Jupiter」をはじめ、いろいろな方法で会員サービスに努めてきたが、今回、払い戻しの手続きなどを介してお客様の生の声を聞く機会が増え、「思いがけず、会員との長い関係性が培われていることを発見できた」「熱心なリピーターの方が百人単位でいて、支えてくれていることがよくわかった」そうだ。「そういう方たちと直接触れ合えたことが、コロナ禍で一番の収穫だったかもしれません」。

緊急事態宣言中には、以前からアーカイブを公開していた「いずみシンフォニエッタ大阪」の動画に加え、2022年春からいずみホールでバッハのオルガン・シリーズを始める注目のオルガニスト冨田一樹さんが、ホールの誇るフランス・ケーニヒ社製のオルガンでバッハを演奏する動画を公開。心を支えてくれるバッハの音楽に励まされたひとも少なくなかったことだろう。

2016年バッハ国際コンクールオルガン部門で日本人初の第1位と聴衆賞を受賞したオルガニスト、冨田一樹さんによる演奏

多幸感を味わえるモーツァルトほか、入門にオススメの公演とは

コンサートは昨年6月から再開されたが、コロナ対策に加えて客席販売は年度末まで半分に限るなど、慎重に再始動している。

春からのラインナップは、「こんな時代だから聴きたい」音楽を先取りしたようなプログラム。いちばんの目玉は、「多幸感を味あわせてくれる作曲家」であるモーツァルトのシリーズだ。

「偶然ですが、この春からモーツァルト・シリーズが始まるのは今の状況にぴったりだと感じます。モーツァルトでぜひ幸せな気持ちを味わっていただきたいし、それを続けていかなければと考えています」

それ以外にもそそられるコンサートが並ぶが、その中から、とくにONTOMO読者にイチオシのコンサートをセレクトしていただいた。

モーツァルト・シリーズには海外アーティストも登場予定。パイプオルガンの新シリーズやいずみシンフォニエッタ大阪の公演なども含めて、「聴いていただきたいものばかり」と梅垣さんは胸を張る。
©飯島隆

1. 「モーツァルト・シリーズ」から、神尾真由子 with Friends

人気ヴァイオリニスト、神尾真由子さんが率いる室内楽。「室内楽をやりたい」という神尾さんの希望で、神尾さんの昔からの仲間との共演。「弦楽五重奏曲 ト短調」など、モーツァルトのとびきりの名曲が聴ける。

2. 「スペシャル・コンサート」から、一流アーティストたちのリサイタル

諏訪内晶子(10月21日)、小曽根真(12月22日)、樫本大進(2月)ら、今をときめく一流アーティストたちのリサイタル。

美貌と美演で人気の諏訪内さんはヴァイオリン1本で奏でる無伴奏の作品を、ベルリン・フィルのコンサートマスターとして活躍する樫本さんは、ピアノ伴奏つきで王道のヴァイオリン・リサイタル。そしてジャズとクラシックを行き来するスーパースター小曽根さんは、還暦記念ツアーの大阪公演。821席の空間で小曽根さんを聴けるのは贅沢だ。

3. 「モーツァルト・シリーズ」から、大阪フィルの演奏会

オーケストラを聴きたい方には、やはり「モーツァルト・シリーズ」から、大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏会を。

ベテランの井上道義マエストロに率いられ、ワルター・アウアー吉野直子という人気ソリストが、名曲「フルートとハープのための協奏曲」を奏でる。「モーツァルトの多幸感が味わえる」、とっておきのプログラムだ。

住友生命いずみホール

[運営]一般財団法人 住友生命福祉文化財団 住友生命いずみホール事業局

[座席数]821席

[オープン]1990年

〒540-0001 大阪府大阪市中央区城見1-4-70

[問い合わせ]Tel.06-6944-2828(代表)

http://www.izumihall.jp/

取材・文
加藤浩子
取材・文
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

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