読みもの
2023.03.17
音楽ホール 最新事情2023~住友生命いずみホール

住友生命いずみホール~「ここに行けば良いものが聴ける」シックな空間と多彩な公演

住友生命いずみホールの大きな特徴は、研究者が音楽アドバイザーを務めていること。その地位にある音楽美学・シューベルト研究の堀朋平さんによるメイン企画は練りに練られたもので、シューベルト好きにはたまりません。初めて訪れる人も気軽に本物が楽しめるプログラムが揃っているこのホールの今シーズンについて、堀さんと企画部チーフプロデューサーの梅垣香織さんにお話を伺いました。

加藤浩子
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

住友生命いずみホールの内観 ©樋川智昭

この記事をシェアする
Twiter
Facebook
続きを読む
お話を伺った企画制作部チーフ・プロデューサーの梅垣香織さんと音楽アドバイザーの堀朋平さん(撮影:飯島隆)

本格派から子ども向けまで多彩なイベントを提供

住友生命いずみホールは、公共のコンサートホールが少ない大阪にあって、考え抜かれた本格派のコンサートから無料の「子どもカレッジ」まで、クラシックに関わる多彩なイベントを提供している貴重なホールだ。

「一流のアーティストのコンサートから子ども向けのイベントまで、地域の方に身近に感じていただけるようなイベントを提供しています。アーティストやスタッフの人材育成事業も行なっています」(広報の北嶋さん)

オープンは1990年。821席の空間は、ウィーンの楽友協会ホールにならったシューボックス型。レジデントオーケストラとして、現代音楽を積極的に取り上げる室内オーケストラ「いずみシンフォニエッタ大阪」を擁する。33年の歴史を通じて、内外の一流アーティストと信頼関係を築いてきたのも大きな財産だ。

いずみホールのレジデントオーケストラ「いずみシンフォニエッタ大阪」は、現代音楽を積極的に取り上げる室内オーケストラ ©樋川智昭

シューベルト好きは必聴!後期作品が中心の6回シリーズ

いずみホールの主催公演のいちばんの特徴が、研究者を「音楽アドバイザー」に迎え、メインの企画の監修を任せていること。現在の音楽アドバイザーは、音楽美学・シューベルト研究の堀朋平氏。昨シーズンは山田和樹の指揮で大阪の4つのオーケストラがシューベルトの交響曲全曲を演奏するシリーズを企画し、大きな話題を呼んだ。今シーズンも「シューベルト」はいずみホールの顔である。

「今シーズンは『シューベルト 約束の地へ』というタイトルで、6つのコンサートと1回のレクチャーコンサートを企画しました。今回は交響曲以外のジャンルで、室内楽からミサ曲、ピアノ、歌曲まで多彩なラインナップにし、シューベルトの後期作品を中心にプログラミングしました。後期作品に共通するのは、広い意味での宗教性です。『約束の地へ』というタイトルも、旧約聖書から取りました。メインの作品から見える『歴史』も意識したプログラムになっています。

アーティストも神尾真由子さん(8/4)からハーゲン・クァルテット(11/5)、テノールのイアン・ボストリッジ(24.1/17)まで内外の超一流の方をお招きしていますし、どのプログラムもオリジナルな、この企画でしか聴けないものになっています。アーティストの特性を見た上で、一歩二歩踏み込んだアイデアを投げると、みなさん真剣に考えてくださる。アドバイザーとしてとてもやりがいのある企画です。それを実現させてくれるホールのスタッフとアーティストのマネジメントも素晴らしいですね」

「Vol.5 いつまでも伝わるもの――自然、神話、そして心」(24.1/17)に出演するイアン・ボストリッジ(テノール)©Sim Canetty-Clarke

小菅優、大阪フィルハーモニー交響楽団、邦楽の新シリーズもスタート

今年度は新しい企画も3本スタートする。人気ピアニストの小菅優さんがプロデュースする「室内楽プロジェクト」は、「共演者を得た時の小菅さんの音楽の豊かさ、包容力を見ていただきたい」(梅垣さん)というスタッフの希望で生まれた企画。「小菅さんが、戦争の時代に音楽家として伝えられることを、と考えた結果、『祈り』『愛』『希望』というテーマで1年ずつ、3年間のシリーズを予定しています」(同)。今年は「祈り」をテーマに、メシアンやサン=サーンスなどが演奏される。共演は金川真弓(vn)、吉田 誠(cl)、北村 陽(vc)(24.3/7)。

 

3年間にわたる「室内楽プロジェクト」をプロデュースする小菅優(ピアノ) ©Marco Borggreve

大阪フィルハーモニー交響楽団とのコラボで、「モーツァルト ピアノ協奏曲プロジェクト」がスタートするのも聴き逃せない。

梅垣「以前から、いずみホールのような室内楽的なホールでこそできるものをやりたいと相談し、モーツァルトのウィーン時代のピアノ協奏曲を取り上げることで話がまとまりました。指揮は井上道義さんで、第1回のピアノは阪田知樹さんです」(10/4)

新シリーズで一番ユニークなのが、「邦楽をもっと身近に」という発想でスタートする「新・日本の響き 和のいずみ」だろう。

梅垣「箏奏者の片岡リサさんのプロデュースで、邦楽に親しみ、若い方に興味を持ってもらうような企画です。オープニング演奏を高校生に任せたり、1回ごとに一つの楽器にフィーチャーしつつ他の楽器と組み合わせたり、新作を委嘱するなどさまざま工夫を凝らしています。今年は関西出身の人気作曲家藤倉大さんに委嘱し、箏と尺八のための二重奏曲《momiji》が世界初演されます」(8/26)

いずみホール初心者におすすめの気軽に本物を楽しめるプログラム

凝った企画が目白押しだが、「季節に合ったプログラムを若いアーティストに演奏してもらい、笑いも取り入れて、よりくつろいで楽しんでいただける」(堀さん)「ランチタイム・コンサート」や、「音楽で元気になっていただけるような楽しい内容で、ジャンルレスなアーティストを招いている」(梅垣さん)「ミュージック・サプリ」などは、いずみホール初心者にもおすすめだ。

「これぞクラシック音楽」を味わってみたいなら、「午後の特等席」。エンリコ・オノフリ指揮のハイドン・フィルハーモニーが、ベートーヴェンの《運命》など王道プログラムを奏でる(7/4)。「ウィーン、ベルリンの名手がソリストを務めます。気軽に本物を楽しんでいただきたい」(梅垣さん)。

エンリコ・オノフリ指揮ハイドン・フィルハーモニーは、「午後の特等席」で《運命》など王道プログラムを奏でる(7/4)©Niklas Schnaubelt

より地域に開かれたホールを目指して、4月8日の開館記念日に「オープンハウス」を開催したり、人気の「葵トリオ」を招いて室内楽のマスタークラスを開催したり、「U-30」の割引制度を導入したりと、今年のいずみホールはとても意欲的だ。いずみホールファンの方も、いずみホール初めましての方も、満足のいくイベントが見つかる年になるに違いない。

大阪城公園駅から徒歩5分の立地にある住友生命いずみホール
住友生命いずみホール

[運営](一財)住友生命福祉文化財団

[座席数]821席

[オープン]1990年

[住所]〒540-0001 大阪府大阪市中央区城見1丁目4-70

[問い合わせ]Tel.06-6944-2828

https://www.izumihall.jp/

加藤浩子
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ