イベント
2022.03.18
住友生命いずみホール/春の特集「ホールの1年間」

「音楽学者と共に歩むホール」の新たな出発〜住友生命いずみホール

大阪城公園の北側、大阪ビジネスパーク内にある住友生命いずみホールは、ウィーンの楽友協会をモデルにした、美しく音響の良いホールです。音楽学者をアドバイザーに迎え、こだわりの企画で定評がありながら、初めての人でも気楽なコンサートも用意されています。新シーズンはどんな目玉企画が用意されているのでしょうか。

取材・文
加藤浩子
取材・文
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

2021年4月のレクチャー&コンサート「モーツァルトの楽園」でピアノの久元祐子とトークで共演する音楽アドバイザーで音楽学者の堀朋平。写真提供:住友生命いずみホール ©樋川智昭

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インタビューに答えてくれたのは、住友生命いずみホール企画部事業制作グループリーダーの梅垣香織さん(左)と、音楽アドバイザーの堀朋平さん。©️飯島隆

山田和樹が全曲指揮する交響曲だけではない!シューベルトの年

加藤 来シーズンのラインナップを拝見しましたが、とても意欲的で、例年にも増して幅広いですね。

梅垣 この2年間は、コロナ禍のために多くの公演を断念せざるを得ませんでしたが、4月からは、その経験を踏まえて、たとえ外国人アーティストが来られなくても、柱になる公演は開催できるように、ラインナップを組んでいます。

加藤  一押しのプロジェクトは、9月8〜12日の「シューベルト交響曲全曲演奏会」ですね。

梅垣 はい、昨年度からホールの音楽アドバイザーに就任した堀朋平さんの専門でもあるシューベルトの交響曲全8曲を、4回に分けて取り上げるシリーズです。

加藤  在阪の4つのオーケストラが集結するのも、画期的ですよね。

梅垣 コロナ禍で中止に追い込まれたオーケストラ公演が多く、ホールとオーケストラで連携できるものを考えました

加藤  指揮は全曲、山田和樹さん。今もっともエキサイティングな指揮者の一人です。

梅垣 高い芸術性と未来に向けた発信力があり、人気も高い方です。「シューベルトの交響曲はやったことがないけれど、とても興味がある、やるならぜひ全曲を」と言っていただきました。堀さんも、山田さんは音楽の向こうにあるものを考えているスケールの大きな方だと絶賛してらして、どんな演奏になるのかワクワクしています

それに合わせて、堀さんがナビゲートする、無料のレクチャーコンサートも企画しています。

 シューベルトの独自性は、言葉をもとに音楽を書いていること。交響曲にも歌曲の世界が潜んでいます。このレクチャーコンサートでそれを解き明かします。

梅垣 シューベルトは、今シーズンの縦糸でもあるんです。

4月6日に予定されているアンドレアス・シュタイアー(ピアノ)とアレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)のジョイントコンサート、来年2月に予定されるロータス・カルテットのコンサートは、いずれもシューベルト・プログラムです。

年間を通して、シューベルトにスポットを当てているというメッセージを込めました

第一線のアーティストが続々登場、定評あるオルガンにも新企画

加藤  豪華なアーティストも続々やってきますね。

庄司紗矢香(12月)樫本大進(2023年2月)、サー・アンドラーシュ・シフ(10月2023年3月といった超一流のアーティストを、贅を尽くした800席の空間で体験できるのは、このホールの特権です。

音楽評論家の加藤浩子さんがインタビュー。©️ヒダキトモコ

梅垣 ホールに華を添えているのが、フランス・ケーニヒ社製のオルガンです。壮麗だけれど、ホール全体に溶け込むように設計されていて、調和の取れた佇まいです。

これまでこのオルガンでは、バッハの名作が主に演奏されてきましたが、昨年からは在阪の世界的オルガニスト、冨田一樹がプロデュースするバッハのシリーズ(2023年3月)に加えて、このオルガンに本来向いているミシェル・ブヴァール プロデュース「フランス・オルガン音楽の魅惑」シリーズ(演奏:トマ・オスピタル、11月)がスタートしました。お客さまに、「楽器が喜んでいる」と言われました。バッハのときには聞けなかった感想です

住友生命いずみホール所蔵のフランス・ケーニヒ社製パイプオルガンを弾く、オルガニストの冨田一樹

本格的なクセナキスも、気軽なランチタイムも

加藤  もう一つ、住友生命いずみホールの名物には、いずみシンフォニエッタ大阪がありますよね。

梅垣 はい、大阪出身の作曲家・西村朗さんの提案で、ホールの専属楽団として2000年に結成されました。いずみシンフォニエッタヴィルトゥオーゾ(名手)揃いなので、どんな編成でも対応できるんです。

7月は、生誕100年を迎えるクセナキスを特集し、来年の2月は、ジャンルを超えてマルチな活躍を見せる鈴木優人さんが、自選のプログラムで登場します。優人さんは、バロックからロマン派、現代音楽までを、チェンバロやプリペアドピアノ、指揮、編曲で結びつけます。

いずみシンフォニエッタ大阪の第47回定期演奏会「協奏燦然!」(2022年2月5日)。関西出身若手作曲家委嘱プロジェクト第8弾となる坂田直樹《残像の器》を、飯森範親の指揮で演奏。©️樋川智昭

加藤  本格的なプログラムばっかり、と思う人におすすめのものはありますか。

梅垣 ランチタイム・コンサート」がおすすめです。堀さんのナビゲートで、映画音楽から旬のアーティストのリサイタルまで、「肩の力を抜いて」楽しめます。お隣にあるホテルニューオータニ大阪でランチを楽しめるセット券もあって、とても好評なんですよ。

勉強会も行ない、大阪の文化を豊かにする

梅垣 それから、子どもや障がいのある方を対象にした催しや、マスタークラスなどの人材育成事業にも力を入れています。音楽を通じて地元・大阪の文化を豊かにするにはどうしたらいいか、いつも考えています。オルガンの冨田一樹さんのような、大阪出身の世界的なアーティストを応援するのもその一つです。

一つのイベントで、すべての皆さんに満足していただくのはなかなか難しいので、内容や方針を1年ごとに変えて、いろんな興味をお持ちの方にアピールしていきたいです

加藤 住友生命いずみホールの情報誌「Jupiter」は、読み応えがあることで好評ですよね。

堀 そうなんです。カラーの図版も多めに載せられる貴重な媒体ですから、この誌面を使って音楽の“聴き方”を提案したいんですいろんな作曲家について、たとえば歴史や哲学や映画がどう音楽に結びつくのか、その関連を示しながら、「こういうふうに聴いてみたらいかがでしょう」と提案していきたいのです

堀さんがトークで出演した、2021年4月レクチャー&コンサート「モーツァルトの楽園」(第1部)

梅垣 住友生命いずみホールは、「音楽学者と共に歩む」ホールです。これまで、長い時間をかけて故 礒山雅先生と歩いてきました。これからは、堀さんと共に歩んでいきたい。ホールの会員限定で、堀さんを囲む勉強会も計画しています。お客様の声に堀さんと耳を傾けながら、新しい方向に進んでいきたいと考えています

住友生命いずみホール

[運営](一財)住友生命福祉文化財団 住友生命いずみホール事業局

[座席数]821席

[オープン]1990年

[住所]〒540-0001 大阪府大阪市中央区城見1-4-70

[問い合わせ]Tel.06-6944-2828(代表)

http://www.izumihall.jp/

取材・文
加藤浩子
取材・文
加藤浩子 音楽物書き

東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院博士課程満期退学(音楽史専攻)。音楽物書き。主にバッハを中心とする古楽およびオペラについて執筆、講演活動を行う。オンライン...

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