パーカッショニスト加藤訓子が伝える三善晃の世界
1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...
ライヒ、ペルト、クセナキス、バッハの代表作を、打楽器演奏という自身の言語に落とし込み、驚くべき発想と完成度によって提示してきたマリンパ/パーカッション奏者の加藤訓子(かとう・くにこ)。作品のもつ輝きや熱量を届ける過去5作のアルバムは、それぞれに名誉ある賞を受けてきた。
この秋にリリースされた待望の第6作目は、三善晃作品集「Tribute to Miyoshi」。三善晃(1933~2013)が残したマリンバ・ソロのための作品、そしてマリンバと弦楽合奏のための協奏曲を収録。
これまで、編曲や多重録音も駆使しながらアルバムを制作してきた加藤だが、今回は作品そのものへのアレンジの手は加えていない。「三善作品の魅力を日本国内だけでなく、世界中に、そして次世代へと広く伝えたい。作曲家の意図した内容を忠実に表現し、それを世界に対してきちんと積み上げていきたい」と語っている。
1962年作曲の組曲「会話」独奏マリンバのためのは、ほのぼのとした親子の会話を思わせる可愛らしさのある世界観と、マリンバの音色が放つ木の湿度をもいくらか感じさせる録音だ。三善は子どものためのピアノ小品を数多く残しているが、「『会話』はその流れにある作品」と加藤は捉えている。マリンバ学習者にとっては身近に感じられる作品とのこと。
三善晃:組曲「会話」独奏マリンバのための
「マリンバと弦楽合奏のための協奏曲」は、加藤の生まれ年の1969年に書かれた作品で、加藤が桐朋学園大学在学中に、秋山和慶指揮による大学オーケストラと共演したという思い出深い作品。
「スコティッシュ・アンサンブルとは今回の録音が初共演でした。弦楽器とマリンバでは発音体が異なり、彼らにとって私は“異物”。小節ごとに変拍子となる作品ですが、彼らは縦のリズムをしっかり強調できるアンサンブルなので、コンサートマスターのジョナサンとの合図を取りながら、大きなフレーズ感を持って音楽を作ることができました」と加藤は振り返る。
たしかに、弦楽器の音の立ち上がりも減衰もスッキリとまとめられ、加藤との対話によって音楽としての大きなうねりを形成していく。空間を埋めていく音の行方、若干乾いた印象の響きが、一音ごとの意味や色合いを伝える録音だ。
三善晃:「マリンバと弦楽合奏のための協奏曲」
1999年に第2回マリンバ世界コンクールの二次予選のために作曲された「リップル 独奏マリンバのための」は、放たれた音の余韻や間合いの美しさ、超絶技巧によって展開されてゆく音運びの面白さ、独特の緊張感と温かみとが交差する。
三善晃:「リップル 独奏マリンバのための」
アルバムにはそのほかに、1968年作曲の「トルスIII」、未出版作品である2001年の「六つの練習前奏曲」も収められている。
来る11月5日(木)は、トッパンホール(東京)にて「三善晃マリンバの世界」を開催。今回のアルバムには収めていない2台のマリンバのための「協奏的練習曲」、3台のマリンバのための「トルスV」も共演者とともに演奏する。
11月21日(土)から3日間では、豊橋市民文化会館(愛知)にて「ミュージックデイ・イン豊橋『三善晃の世界』」をプロデュースする。三善晃による子どものための作品講座や、日本のうたにも焦点を当てた演奏会、シンポジウムなどが開催される。
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