ソプラノ中村恵理が全編イタリア語のリサイタル~オペラ歌手として生きてきた原点へ
2008年に英国ロイヤル・オペラにデビューし、以後欧米各地の歌劇場で数々の役を歌ってきた中村恵理は、日本が世界に誇るプリマドンナである。現在もミュンヘンを拠点に活動を展開しつつ、日本では新国立劇場やびわ湖ホールなどでその歌声を聴かせてくれている。去年に引き続き、浜離宮朝日ホールでリサイタルを開催、今年は全編イタリア語によるプログラムを披露する。そんな中村恵理が語る、今回のリサイタルへの想い、そしてオペラ歌手としての生き方について。
東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...
イタリア語や声の美しさという基本に立ち返りたい
——今回のリサイタルでは、第1部がイタリア歌曲、そして後半の第2部がプッチーニのオペラからのナンバーとなっています。
中村 これまでリサイタルを開く場合には、必ず多言語のプログラムにするというのを自分に課してきたんですが、今回初めてイタリア語だけのプログラムを組みました。
というのも、ドイツを拠点に欧米の劇場で歌ってきてもう20年ぐらいになるんですが、イタリアのオペラがレパートリーの中心になってきました。そこで今、改めてイタリア語の美しさや声の美しさという基本的なところに立ち返りたいという思いがあったからです。
2008年英国ロイヤルオペラにデビュー。2010年から6年間にわたりバイエルン国立歌劇場の専属歌手として《魔笛》パミーナ、《ホフマン物語》アントニア、《トゥーランドット》リュー、《愛の妙薬》アディーナ、《ボリス・ゴドゥノフ》クセニアなど主要キャストを務める。また英国ロイヤルオペラ《カプレーティ家とモンテッキ家》ジュリエッタ、《フィガロの結婚》スザンナ、《ウェルテル》ソフィー、《トゥーランドット》リュー、《リゴレット》ジルダ、《蝶々夫人》蝶々さんをはじめ、ウィーン国立歌劇場、ワシントン・ナショナル・オペラ、ベルリン・ドイツ・オペラ、スウェーデン王立劇場、イングリッシュ・ナショナル・オペラ、サンティアゴ国立歌劇場、トゥールーズ歌劇場など客演多数。日本国内では、びわ湖ホール《つばめ》マグダ、新国立劇場《蝶々夫人》蝶々さん、同劇場《椿姫》ヴィオレッタなどで出演。今後は2025年12月にNHK交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団および札幌交響楽団《第九》、2026年2月に群馬交響楽団《カルメン》(演奏会形式)ミカエラ、新国立劇場《リゴレット》ジルダ、同5月にオペラ・コロラド《蝶々夫人》等に出演を予定している。東京音楽大学特任教授、大阪音楽大学客員教授。
プッチーニ・オペラのヒロインが生きる歌い方とは
——中村恵理さんというと、日本のファンとしては《蝶々夫人》が真っ先に思い浮かびますが、《トスカ》は舞台で演じられたことがないと伺い驚きました。
中村 去年のリサイタルのアンコールで初めて《トスカ》のアリア「歌に生き、愛に生き」を歌わせていただいて、お客様から好評をいただいたので、じゃあ今年は《トスカ》カヴァラドッシ役をレパートリーにされている工藤和真さんに来ていただいて、二重唱にも挑戦してみようということになりました。
——プッチーニのヒロインというのは、中村さんにとってはどういうイメージなんでしょうか。
中村 蝶々さんは愛を信じ抜いて正直に生きた「幸せな人」だと思います。その正直さが悲劇につながるわけですが、そこがイタリア・オペラの良さだなあと。
《つばめ》のマグダも正直に生きようとしますが、彼女の場合は最終的にそこに蓋をしてしまう。いっぽうトスカは蓋も何もない(笑)徹頭徹尾「女性」として生きた人ですね。ちょっとキッチュというか、昼ドラ的ではありますが、みんな「愛に生きた」ヒロインたちです。
——そのドラマとしてのキッチュさを、プッチーニの場合、演奏が高めてくれているのではないでしょうか。
中村 その通りです。プッチーニの楽譜はとてもト書きが多くて、基本的には楽譜通りに演奏すればうまくいくんです。でもそこにさらに何かを足していくとtoo much になってしまうので、そこがポイントだと思います。
変化を受け入れ、「こうあらねば」を少しずつ取っていく
——イタリア語だけのプログラム、そして《トスカ》への挑戦と、今回のリサイタルは中村さんにとって“チャレンジ”だと感じますが、何かきっかけのようなものはあったのでしょうか。
中村 コロナ禍で一時的に仕事がすべてなくなった時、結果的にそれがもう一度自分自身の声と向き合う機会になりました。
それまで「蝶々さんはこういう声で歌わねばならない」と思ってきたけれど、それは自分自身の魂に反することになると気づいたんです。声というのは魂や心とひじょうに近いところにあるので、魂に反することをすればそれは声に出てしまう。
キャリアを重ねてくると「こうあらねば」ということが増えてくるけれど、実はそれを少しずつ取っていく、自分の声を自分なりに磨いていくことが大切だという原点に立ち戻ったんです。
——身体の変化も含め、そうした変化というものを受け入れていくことが大切なんですね。
中村 まずは受け入れること。オペラ歌手は私も含めてみんな力んでしまうものなんですが、コアな部分の変化を受け入れることで、自然に声にもそれが反映されてくるのだと思っています。
日時:2025年12月3日(水) 19:00開演
会場:浜離宮朝日ホール
出演:中村恵理(ソプラノ)、工藤和真(テノール)、木下志寿子(ピアノ)
曲目
スカルラッティ:すみれ、私は心に感じる
ガスパリーニ:あなたへの愛を捨てることは
チェスティ:歌劇《オロンテア》より「私の偶像である人のまわりに」
ドナウディ:いま緑の香りが戻り、あぁ 私のいとしい人、いつまた君に逢えるだろうか
マスカーニ:花占い
レスピーギ:霧
レオンカヴァッロ:朝の歌(マッティナータ)
***
プッチーニ :
歌劇《つばめ》より 「お金のほかには何もないんだわ! 〜 お嬢さん、愛が花ひらいたよ」
歌劇《トスカ》より 第1幕二重唱「マリオ!マリオ! ….ここにいるよ!」、アリア「歌に生き、愛に生き」
歌劇《ラ・ボエーム》より「あなたの愛の呼ぶ声に」
歌劇《蝶々夫人》より 第1幕の愛の二重唱「夕暮れは迫り」
※都合により内容は変更となる場合がございます。
チケット:一般 5,500円、U30(30歳以下) 2,000円
問合せ:朝日ホール・チケットセンター 03-3267-9990(日・祝除く10:00~18:00)
詳細はこちら
関連する記事
-
ウィーン国立歌劇場が9年ぶりに来日!《フィガロの結婚》主要キャストが登壇
-
ステージプラスでウィーン国立歌劇場《フィガロの結婚》の配信映像が無料公開!
-
2年間無償で学べるサントリーホール オペラ・アカデミーが受講生を募集中
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly