「黒柳徹子主演 海外コメディシリーズ」ファイナル公演

黒柳徹子とベルナール。2人の女優が時空を超えて繋がる舞台『ライオンのあとで』

イベント
2018.10.10

海外の良質なコメディを上演してきた「黒柳徹子主演 海外コメディシリーズ」が30年目の今年ファイナル公演を迎えます。
黒柳自身が再演を熱望したという舞台『ライオンのあとで』は、アルフォンス・ミュシャのポスターでも有名なフランスの大女優サラ・ベルナールの晩年を描いた名作です。公演に先立って行なわれた公開稽古で、女優・黒柳徹子の至芸を見た藤本優子さんが、この名作の魅力をたっぷりお伝えします。

藤本優子 文芸翻訳者
藤本優子
藤本優子 文芸翻訳者
東京都出身。桐朋女子高等学校音楽科を卒業後、マルセイユ国立音楽院に入学。パリ国立高等音楽院ピアノ科を卒業。ピアノは中島和彦、ピエール・バルビゼ、ジャック・ルヴィエ各氏...

日常と非現実の間(あわい)。役者は舞台の幕があがった瞬間に「聖なる怪物」となるのか、それとも舞台であろうがなかろうが、女優は女優なのか。音楽家も女優と同じく、つねに舞台という幻視を生きる人種なのかもしれない、ということをふと思った。

若い演奏家であれば、どんなにすぐれた才能の持ち主であろうと、空っぽのホールで練習していてさえ、人が客席に入ってくると、いきなり音が艶っぽくなるものだ。舞台空間にプラスして、観客に聴いてもらっているということで何かのスイッチが入るのだろう。キャリアを積んでいくにつれ、舞台での本番と普段の練習との在りようが一体化していく。もちろん個人差はあるだろう。たとえばホロヴィッツやアルゲリッチだ。ザ・ピアニストと呼ばれるようになってからも、「誰かに舞台に蹴り出してもらいでもしなければ」というほどの凄まじいステージフライトを抱えて生きる奏者も少なくはない。

現在六本木EXシアターで上演中の舞台『ライオンのあとで』で黒柳徹子が演ずるサラ・ベルナールは、ミュシャの絵そのままの個性的なアイメイクで、アールヌーヴォー調のゴージャスな衣装を身につける。オスカー・ワイルドに書かせてみずから主演をつとめた『サロメ』さながらの身ごなし。なのに、目に見えるような「オンとオフのスイッチ」がない。魅せるためのポーズをとってみせても、そこには死に物狂いの力みもなく、逆に自然体を「きわめる」というほどの作為もない。老練の、そして骨の髄まで女優。

みごとだった。

まるでミュシャのポスターから抜け出してきたような黒柳の衣装も魅力的

30年の歴史にフィナーレ「黒柳徹子主演 海外コメディシリーズ」

1989年に始まった「黒柳徹子主演 海外コメディシリーズ」は、30年間で31作品を上演してきた。なかでも、音楽ファンであれば、マリア・カラスのジュリアード音楽院での公開レッスンを描いた『マスター・クラス』、引退した音楽家たちが暮らすホームでの悲喜こもごもの『想い出のカルテット』など、音楽家たちの人生を題材とした作品タイトルをご記憶の人も多いだろう。

『ライオンのあとで』の作者ロナルド・ハーウッドはイギリスの劇作家で、『想い出のカルテット』(ダスティン・ホフマン監督、マギー・スミス主演で映画化されたのが『カルテット! 人生のオペラハウス』)、他には映画『小さな目撃者』(1970)、『戦場のピアニスト』(2002)などの脚本も手がけている。出世作の『ドレッサー(1980年)』をはじめ、舞台に生きる人々のバックステージや人生を切れ味よく描きだすことで知られている。
この『ライオンのあとで』も、「女優とそれを取り巻く人々」に光をあてたものだ。

黒柳徹子
大森博史
阿知波悟美

伝説的な女優の晩年を描く名作「ライオンのあとで」

舞台は1914年。サラ・ベルナールは9年前にトスカを演じたときの事故で右膝を強打し、痛みがひどく、舞台に立つことができなくなっている。
車椅子で舞台に登場するや、熱っぽく「仕事に戻りたいの。死んだら死んだとき」「そとみだけじゃないのよ、一流は(観る人の)想像力に火をつけるの!」と、手術をしぶる医師デセーヌ(桐山照史)を説得する。そして右足を切断。長年の痛みから解放される。

話題づくりや自身を広告塔とする腕にも長けていた老女優サラは、まずは最前線への慰問公演をおこなう。こうして「舞台復帰」を世間に知らせるが、舞いこんできた出演依頼はただ一つ、アメリカのサーカスからのものだった。義足をつけることを拒みながらも、それでも観る者の「想像力に火をつける」ために女優が取った手段は、歩くことなく演じること。
最後にハムレットの衣装を身につけて、皓々とスポットライトに照らし出される黒柳の姿は、まちがいなくサラ・ベルナールであり、もはや黒柳徹子とサラ・ベルナールの境目は見えなくなっている。女優という共通項で、つながるはずのない時空が重なるかのような、不思議なクライマックスだ。

ハムレットに扮するサラ・ベルナール(1899年ロンドンで撮影)
ラストシーンでサラが演じるハムレットを演じる黒柳徹子

劇場に足を運んでこそ味わえる“フォトジェニック”な瞬間

前半のクライマックスの戦地への慰労の場面で、軍医デセーヌ(桐山照史)にサラ・ベルナールが手を差しのべる。唯一、このときだけ、サラの女優の仮面がはずれる。不自由な動きを晒(さら)すのはイヤだと、座ったまま前線までやってきたサラが、さあ、演技をして兵士たちを鼓舞してくださいと連れて行かれながらも、重傷を負って意識不明のデセーヌに向かって手を延ばす。
全身を捻(ねじ)るようにしてデセーヌに呼びかけるサラ・ベルナール。このときだけは「女優らしさ」をかなぐりすてる。演出の妙技だ。

スチール撮影のために設けられた隣席でカメラをかまえた同行者が、このときパチパチっとシャッターを切った。幕間に見せてもらったが、演技や舞台の動きという意味での見どころとは少し違う、フォトジェニックな瞬間、という切り取り方も面白いな、と思った。おそらくこういう「1枚の絵」としてのインパクトは、あの場であの芝居を実際に観てみないと充分には味わいきれない。観た者だけの特権だ。

公演情報
黒柳徹子主演 海外コメディ・シリーズ ファイナル公演

公演日程:

EXシアター六本木
2018年9月29日 (土) ~2018年10月15日 (月) 

森ノ宮ピロティホール
2018年10月17日 (水) ~2018年10月21日 (日) 

作: ロナルド・ハーウッド

訳: 出戸一幸

演出: 高橋昌也・前川錬一

出演: 黒柳徹子、桐山照史(ジャニーズWEST)、大森博史、阿知波悟美、ほか

(上段左から)大森博史、桐山照史(ジャニーズWEST)
(下段左から)阿知波悟美、黒柳徹子
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