オーケストラの名曲コンサートの醍醐味とは?「とっておき アフタヌーン」
平日午後のひとときを、エレガントに過ごせるコンサート「日本フィル&サントリーホール とっておき アフタヌーン」。2月2日(水)14時からのVol. 18に出演する指揮者の坂入健司郎さんと、ナビゲーターとしてトークで会場を温める俳優の高橋克典さんに、公演のプログラムだけでなく、そもそも名曲とは? について語り合っていただいた。
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
2月2日、サントリーホールで共演する二人の心持ちは?
——高橋さんはここ数年、クラシック関係のご活動が増え、とっておき アフタヌーンではナビゲーターとしてサントリーホールの舞台に立たれていますね。
高橋 本当にまさかの体験をさせていただいています。僕はもともと、両親がクラシックの音楽家という家庭環境で育ったため、逆にそこから距離を置いてきました。「クラシック音楽というのは素晴らしいものなのだ」と押し付けられることに、拒絶反応を起こしたのです。
でも、テレビでクラシック音楽番組のMCをやらせていただいたことをきっかけに、説明してもらうと音楽に入りやすくなることを実感するようになりました。クラシックを普段あまり聴かないという方と同じ側の人間が、たまたま舞台に立っている感覚です。
とはいえ、クラシックが流れる家庭で育っていますから、懐かしさや親しみは感じています。同時に、演奏家のみなさんが積み上げてきたものに敬意を払う気持ちは絶対に忘れないようにしています。
——坂入さんはこれまで会社員として働く傍ら指揮を続け、昨年いよいよ専業の指揮者として活動をスタートされました。今回はサントリーホールでの指揮デビューとなります。
坂入 学生オーケストラでチェロを弾いていたときに、一度サントリーホールのステージで演奏したことはありますが、指揮は初めてです。サントリーホールは名実ともに日本一のホールですからワクワクしま
ホールの響きは、指揮者が一番気を遣うところです。残響が長いホールなら、一つの音の響きがしっかり回るようにテンポを遅くするなど工夫します。初のサントリーホールですから、舞台と客席を行き来しながら音を比較してリハーサルを進めていきたいと思います。
つかみどころのない曲はどう聴いたらいい?
——「とっておき アフタヌーン」は、名曲コンサートというコンセプトながら、今回は趣向を凝らしたプログラムが用意されていますね。
坂入 当初出演予定だった沖澤のどかさんは、古典をテーマに、昔の曲から主題をとって変奏する作品を集めたプログラムを組んでいらっしゃいました。その後、僕が出演することになり、そのテーマを受け継ぎつつどうしようか考え、古典への憧れをコンセプトとすることにしたのです。
たとえば、グリンカのオペラ《ルスランとリュドミラ》は、ヨーロッパの古典音楽をロシアにもたらした最初の音楽ですし、レスピーギの交響詩《ローマの松》は、古代ローマの繁栄をオーケストラで描くような壮大な作品です。
プーシキンの物語詩をもとにしたグリンカのオペラ《ルスランとリュドミラ》
高橋 曲について予習したのですが、少しマニアックなところもあり、誰でも耳なじみがある選曲の次に踏み込んで、知り、感じたいような内容で(笑)、僕はすごく楽しいと思いました。
音楽も絵も、本来はわからないところから時間をかけて感じていくものなのかもしれませんが、それだとすごく時間がかかってしまいます。でも、こうしてお話でヒントをもらえると、一気に理解しやすくなりますよね。《ローマの松》など、実際に聴いてみたらまさにおっしゃっていたような情景が浮かんできましたよ。
坂入 あれは本当にすごい曲ですよね!
高橋 でも正直いうと、チャイコフスキーの《ロココ風の主題による変奏曲》は、心地よいムードは感じるのですが、つかみどころがなくて……あの曲は、どう聴いたらいいのでしょうか?
チャイコフスキー《ロココ風の主題による変奏曲》
坂入 僕も最初そう感じたので、わかります(笑)。ソリストのチェロにフォーカスして聴いても、華やかな超絶技巧が続くわけでもありませんし、全体的に柔らかい感じがするんですよね。
ロココというのは、
先日、ソリストの佐藤晴真さんの演奏を聴いたのですが、本当にすばらしかったです。
チェロ奏者 佐藤晴真のトップトラック
坂入 僕もチェロをやっていたから余計に感じるのですが、彼は超人的な天才なので、指揮者とオーケストラもがんばらなくてはいけません(笑)。優雅な波で客席を飲み込んでいけるような、ドラマティックな演奏を目指したいと思います。
高橋 演奏家は本当にすごいですね。僕も番組でチェロに挑戦する機会がありましたが、一音出すだけでもあんなに難しい楽器であれだけの曲を演奏し、それを究めていくのは、本当に凄まじいことだと思います。
名曲とは、自分の心のひだに響くもの
——その意味で改めて考えると、“名曲”とは有名な曲なのか、知られていなくても優れた曲のことなのか、一体なんなのでしょう?
坂入 名曲とは人それぞれにあるもので、初めて聴いたときに鷲掴みにされる曲だと思っています。
僕の場合、幼稚園のときに心を鷲掴みにされたのが、まずサン=サーンスの交響曲《オルガン付き》、ラヴェルの《ボレロ》、そして今回演奏する《ローマの松》の「アッピア街道の松」なんです。今回は、そんな根源的な感覚から名曲を選びました。
レスピーギ《ローマの松》の「アッピア街道の松」
——そもそも坂入さんは、いわゆる“名曲”というよりは、わりとマニアックな曲を取り上げる指揮者というイメージがありますよね。
坂入 そうですね(笑)。いわゆる“名曲”だけを取り上げることにはあまり関心はなくて、自分が名曲だと思うものを紹介するのが指揮者の務めだという考えです。
僕も高橋さんがおっしゃったように、クラシックは高尚ですばらしいものだと押し付けられると、拒絶反応を覚えるほうなんです。それぞれの人にとって、聴いて肌で感じることでのめりこむ音楽があって、それこそが名曲というべきだと思いますね。
——最近クラシックが身近になった高橋さんにとっては、いかがですか?
高橋 僕はまだ名曲を語れるところまでいかないので、幼稚園からのめり込んだ坂入さんは、さすがクラシックで生きるような方だなと思ってしまいます。僕も幼稚園の頃から聴いていたはずなんですけれどね(笑)。
僕からすると、クラシックの曲はやはり長くて、聴くべきところがたくさんありすぎる。だからこそ、知っている曲でも新しい発見があるので、近寄って部分を見たり、引いて全体を見たりしながら、一つの曲を聴くということをしています。自分も成長していろいろな感情を知り、少しずつ心のひだのようなものが増えてきて、心に響くようになってきたのかもしれません。
そのときにしか生まれない炎を体験してほしい
——多くの名演がある、いわゆる“名曲”を演奏するにあたっては、どのように新しい音楽や自分の表現を見つけていくのでしょうか?
坂入 僕は指揮者の中でも、かなりいろいろな録音を聴くほうだと思うのですが、それは、イメージを固定化させないためです。フルトヴェングラーがどうとかカラヤンがどうとか、覚えていられないくらい何十種類も聴きます。
そして実際に演奏するときには、設計図を組み立てていたとしても、オーケストラが出したい音との兼ね合いで音楽が変わります。リハーサルで面白いアイデアが生まれてくれば、そちらにもっていくので、毎回自然と新しくなりますね。
——高橋さんは俳優として、今のお話に感じるところはありますか? 何度も作品化され名優が演じてきた役をやるときに、自分がどうするかという状況と重なるのかなと思いますが。
高橋 昨年、『酔いどれ天使』の舞台(三池崇史監督)で真田役を演じたとき、もちろんもとの映画版の黒澤明監督も志村喬さんもすばらしいので、それを踏襲しようという気持ちはあるのですが、でもどこか関係ないと考え、縛られずに演じることも大切だと思いました。
その意味で、ロックもジャズもクラシックも同じ音楽だと捉えている立場からクラシックの世界を見ていると、時代は変わっているのに、歴史に縛られすぎて窮屈なのではと感じるときがあります。レンガを一生懸命積み上げて壁を作っている感じというか。
もはやクラシック音楽は、一つのレンガを積み上げる以外のものでもよいのではないでしょうか。もちろん、そこを究めようとする方もいないと困るのでしょうけれど。伝統にとらわれすぎると、古いものになってしまうのではないかと思います。
高橋 音楽番組のMCをするなか、音楽家の人間的な一面を知ることで、人の根本は変わらない、ただ時代によって感情の出し方が変わるのだと改めて感じました。昔の作曲家も、酒好きだったり女好きだったり、なんだか今も昔もその辺の意識は変わらなくて、身近に感じることができますね(笑)。
坂入 作曲家で指揮者だったマーラーは、伝統とは灰を崇拝することではなく、炎を継承することだと言っています。僕が目指すのも、まさにそれです。ただ有名な曲を演奏するのではなく、オーケストラとともに、そのときにしか生まれない炎をお客様に体験していただきたいです。
生ならではのスペクタクルな響きと、配信ならではの自由な環境を楽しんで!
——坂入さんは、日本フィルにはどんな印象がありますか?
坂入 優しさのある、心が通う演奏をするオーケストラという印象です。演奏って、ミスをしないようにとか、伝統に従おうという意識が強すぎるとつまらなくなりますが、お客さんにこれを伝えたいという素直な気持ちが一番に出ると、その問題はやすやすと越えられるんです。日本フィルは心が熱い演奏をされるので、楽しみです。
——高橋さんは、生でオーケストラを聴く魅力をどうお感じになりますか?
高橋 最近サントリーホールでウィーン・フィルの演奏を聴きました。すべてのパートが一つの楽器で演奏されているのかと思うほど、まったくずれがなく、同時に、それぞれの楽器があれだけの数必要な理由もはっきりわかる、迫力の演奏でした。聴いて本当によかったと改めて思うすばらしさでした。
僕はオーディオ・オタクなのですが、もともとジャズやロックのためにオーディオを組んでいたので、クラシックを聴くと、まったく音のイメージが合わないんです。それで研究しはじめたら、まあきりがなくて。だったら1回、ホールに生の演奏を聴きに来たほうがいいと思いました(笑)。
坂入 特に《ローマの松》は、最後にサントリーホールのオルガンも使います。その大スペクタクルな響きは、客席の椅子から伝わる振動も含めて、ぜひ生で体感していただきたいです。
——一方で、会場に来られない方は配信で聴くこともできます。
高橋 これはまた、別の楽しみ方ができますね。配信を聴きながら良い景色を見るとか、喫茶店に座って現代の街を行き交う人を眺めてみるとか、ビジュアルを自由に選ぶこともできます。
それぞれのお好みのオーディオで、ヘッドフォンで楽しむのもいいですね。どこにマイクを立てるのかも楽しみです。
坂入 遠方にお住まいの方にも、日本を代表するサントリーホールでの演奏を聴いていただけることはとても素敵だと思うので、どんどん広がってほしいです。
アーカイブ配信もありますので、たとえば、後からみんなで配信を聴きながら指揮者がSNS上でみなさんの質問にお答えする、なんていうこともできます。これは生のコンサートでは絶対にできないコミュニケーションですよね。
——最後に、公演に期待してほしいことをお聞かせください。
高橋 僕はやはり、坂入さんがもとは会社員としてぴあにいらして、人の心を動かすあらゆるエンターテイメントをご覧になった結果、クラシックを選んだ方だということに期待しています。ジャンルを越え、いろいろな方が自分の感覚で掴むことのできる、伝わる音楽を聴かせていただけそうで、楽しみですね。コンサートホールで、日常とは違う感覚、まるでサントリーの山崎17年のような特別な味わいを感じられるのではないでしょうか。
坂入 今回のプログラムは、まったく異なる毛色の作品を集めてあるので、どんなタイプの曲が好きな方でも楽しめるのではないかと思います。初めてクラシックを聴く方も、気になった種類の音楽から広げていっていただけたら嬉しいです。
日時: 2022年2月2日(水)14:00開演
会場: サントリーホール 大ホール
出演: 坂入健司郎(指揮)、佐藤晴真(チェロ)、高橋克典(ナビゲーター)、日本フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
曲目:
グリンカ:オペラ『ルスランとリュドミラ』序曲
チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲 イ長調 作品33(オリジナル版)
サン゠サーンス:『動物の謝肉祭』より「白鳥」(チェロとハープによる)
レスピーギ:組曲『リュートのための古いアリアと舞曲』第3集
レスピーギ:交響詩『ローマの松』
コンサートチケット: S席5,500円、A席4,400円、B席3,300円(全席指定・税込)
詳しくはこちら
有料オンライン配信視聴券: 2,200円(ライブ&リピート配信)
※視聴可能期間 2022年2月8日(火)23:00まで
配信はこちら
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