2019年11月に開館!

池袋にオープンする東京建物 Brillia HALLの試みと、指揮者の西本智実が語る《ストゥーパ〜新卒塔婆小町〜》こけら落とし公演

インタビュー
2019.11.13

池袋駅東口、庁舎跡地エリア「Hareza(ハレザ)池袋」で、計画が進んでいる。豊島区はここを「国際アート・カルチャー都市としま」のシンボルとし、大小複数の劇場をつくって文化を発信、にぎわいを創出していく。
その中でもっとも大きい東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)が、この11月にオープン。劇場が飽和状態にも思える東京で、どのような構想をもって挑むのだろうか。
こけら落とし公演の芸術監督、西本智実さんにもインタビュー。この劇場ならではの演出や新しい劇場への期待を語っていただいた。

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写真:各務あゆみ
提供:公益財団法人としま未来文化財団
取材・文
堀江昭朗 音楽ライター/音楽ジャーナリスト
堀江昭朗
取材・文
堀江昭朗 音楽ライター/音楽ジャーナリスト
東京生まれ。横浜国立大学卒業後、(株)音楽之友社に入社。その後、(株)東京音楽社で「ショパン」や「アンカリヨン」の編集を担当。現在はフリーランスの音楽ライター/音楽ジ...
池袋駅東口から徒歩4分のエリア、ハレザ池袋の中心に、東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)の建物が立つ。
エントランスに一歩踏み入れると、赤い絨毯をイメージした大理石が迎え入れてくれる。
赤い階段、もしくはエスカレーターを上がると、東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)がある。
東京建物 Brillia HALLの運営は、3名が所属する公益財団法人としま未来文化財団が担う。
写真右:劇場運営部長を務める關愼吾さん。もともとは豊島区役所の職員だが、同財団に出向し対応にあたっている。
写真左:同じく劇場運営課長の岸正人さん。数多くの劇場の立ち上げ、運営に関わってきた経験をもつ。
写真中:劇場運営マネージャーの近藤恭代さん。クラシックや演劇に特化して専門性が進んだ昭和の終わり、専門のディレクターが自主事業を行なう平成と、多くの劇場やホールの変遷を見てきた。

目次

長期で利用できる「貸館」ができました

行政と財団の橋渡し役をしている劇場運営部長の關愼吾さん。この数年は、豊島区役所と豊島公会堂の建て替えに携わり、行政側から劇場の創設に尽力してきた。1300席の「東京建物 Brillia HALL」がオープン間近になると、運営側である財団に入り、より近い位置で新しい劇場の準備に取り組んでいる。

 旧・豊島公会堂の800席は、採算を考えると難しいというリサーチ結果を考慮して、根本から見直した席数が1300です。駅の西側にある東京芸術劇場のコンサートホールの1999席ともかぶりません。

また、豊島区の子どもたちの一世代(1学年)が約1300人であることにも由来しています。区内の学校による連合の音楽イベントなどに加え、過不足なく成人式ができる大きさでもあるのです。

これまで、公共ホールや劇場は、長期利用ができなかった。それを可能にしたことが、今回のもっとも大きな成果だ。

 公共施設は「利用の公平性」という考えが基本にあるため、長期利用ができない施設が多く利用しづらいという声があったことから、そこを改革すべく条例を作り、制度を整えて、1か月とか2か月という長期利用を可能にしました

料金体制も、使い手にとってわかりやすいように整えました。11000円×1300席、1130万円という計算を基本とし、舞台設備や楽屋はもちろん、フロントの案内など、公演に関わる基本的な費用がすべて含まれています。

予約は、長期であれば2年から2年半前から受け付けています。まだオープン前ですが、すでに2021年度まではスケジュールが埋まりました。今後は、劇場の多様な使用を考慮に入れて、短期や単発の催しを入れ込むことも、課題になるでしょう。

気になるのは、クラシックのコンサートが満足いく形でできるのか、ということ。

 クラシック・コンサートやオペラ公演など、長くても3日くらいの企画も、取り込んでいきたいと思っています。問題なく演奏は可能ですが、クラシック専用ホールのような豊かな響きはもってはいません。しかし、最近では生音と区別がつかないような、非常に優れたPAを使う場合もあるので、そういった利用方法も可能でしょう。そうしたことを理解のうえ、ぜひ使っていただきたいと思っています。

ステージから見た1300席の客席。多様なジャンルをカバーできる雰囲気の内装だ。

多くの観客が、池袋のにぎわいを作ってくれる

次にお話を聞いた岸正人さんは、劇場運営にずっと関わってきた人。青山のスパイラルホール、世田谷パブリックシアター、山口情報芸術センター・通称「YCAM(ワイカム)」、神奈川芸術劇場「KAAT」と、成功例ばかりが並ぶ。

 それらのあとに、平成19年に池袋に開館した300席の小劇場「あうるすぽっと」があります。

ここでまず、長期間の使用ができるようにしました。長期貸し出しへの懸念の声もありましたが、現在でも稼働率は97%。これが成功モデルとなり、今回につながったのです。

東京芸術劇場には、800席のプレイハウスがある。競合することは考えなかったのだろうか。

 あちらは野田秀樹さんが芸術監督を務め自主企画が主体。こちらでは貸館を主体にしたことで、差別化ができました。また、「東京建物 Brillia HALL」では商業演劇やミュージカルなど、人目を引く華やかな演目を舞台に乗せます。予算の潤沢な都立の広域行政とは異なり、限られた区の予算の中で、採算性を考えた結果でもあるのです。

たくさんの観客を集めることで、池袋という街のにぎわいを作るのも目的です。豊島区のブランディング作りですね。

演目は、専門家を入れた選定委員会を組織して、選定を行なっています。集客性の高いもの、長期であるもの、が基準で、抽選で決めるのではなく、劇場の設置目的に合った企画を選びます。

長期での貸し出しとなると、区民の利用は制限されるのだろうか。

 この「東京建物 Brillia HALL」のほかに、480席の区民センター、160席の小ホールも近接して作ります。こちらが区民の皆さんの、さまざまな発表の場として役立つことでしょう。

一つの大きな建物の中にすべてを収めるのではなく、分散していることで「劇場の街」としての池袋を創出できると考えています。

客席を外して花道を作ることも可能。
舞台装置などが置かれた奈落。都心の限られたスペースの中に、効率よく各部屋が収められている。

大都市・東京の池袋だからこそ、実現できるもの

劇場運営課コーディネーターの山本達也さんは、滋賀県栗東市にある栗東芸術文化会館の運営に長く関わってきた。地方の文化施設での創造性や未来の聴衆・観衆の育成が必ずしも成果を上げているわけではない状況を見てきた山本さんは、都市における劇場のあり方についても、多角的な視点をもっている。

山本 周辺都市を巻き込む東京には、すでに「劇場に通う人」が存在している。舞台に立って発表する経験を持たずとも、文化の担い手の片側となる「受け手」が確実にいるんですね。そういう人たちを「東京建物 Brillia HALL」に集めることができると思っています。

3日くらいの公演では、その評判が広まったときには、すでに終演してしまっていますが、長期で上演すれば、口コミで集客できます。さらに、作品も舞台に関わる人々も育つというメリットもあります。

劇場のあり方に、新しい方向性をもたらした

劇場運営マネージャーの近藤恭代さんは、金沢21世紀美術館での舞台芸術や地域の中での芸術活動支援のほか、地方の大きな多目的ホールにも関わってきた。誰もがクリエイターになりうる今の時代にこそ、貸館がふさわしいという。

近藤 令和に入る前から、多様性が求められるようになっています。スマホなどのデバイスによって最先端のテクノロジーが身近になり、一般の人たちが創造性を発揮できるようになりました。使う人の主導による、貸館メインの会場を作ったことは、新しい方向性を生み出したと思っています

私たちの役目はいわばコンシェルジュ。専門的な知識も技術ももっている私たちがサポートしつつ、「借主のあなたが主役になって、舞台を作ってください」というもの。図らずも「街全体が舞台の、誰もが主役になれる劇場都市」という池袋の新たな目標とも重なりました。

2階席に広くとられた車椅子スペース。
授乳専用の部屋も完備。託児室は、デッキを渡った隣の区民センター(同時オープン)内「パパママ☆すぽっと」が利用できる予定。

能、歌舞伎、宝塚といった日本の芸能文化をクラシック音楽と融合

初演以来、多方面から好評を博しているイノベーションオペラ《ストゥーパ~新卒塔婆小町~》が、「東京建物Brilla HALL」のこけら落とし公演に。脚本、演出を手がけ、そしてもちろん指揮もするのは、西本智実さんだ。

指揮者の西本智実さん。写真は、9月に開催された、としま国際アート・カルチャーフォーラム「指揮者 西本智実が語る音楽の道 ー地球儀を傍らにー」のときのもの。定員を大きく超えて300名ほどが参加したこのイベントのあと、インタビューを行なった。

西本 先日、劇場を見学させていただきました。舞台と客席の距離感が近く、客席にいると舞台が迫ってくる印象でした。舞台上の「息遣い」が客席に直に伝わる距離です

《ストゥーパ》は、能の演目「卒塔婆小町」を題材に、西本が脚色した作品だ。

西本 小野小町の歌をモチーフに、お能の「五番立」を意識し、1幕仕立ての舞台に構成しました。

舞台装置は最小限に、オーケストラピットを橋掛かり(註:能舞台の一部で揚幕と本舞台をつなぐ通路)に見立て、合唱はコロス(註:古代ギリシャ劇で劇の状況を説明する合唱団)の役割。イルミナートフィルが和楽器に見まがう音をも作り出し物語を運びます。

「小野小町」は女優の佐久間良子が演じる。今回は、「従僧=深草少将」に歌舞伎から中村扇雀、「僧」には元宝塚スターの杜けあきが、西本によってキャスティングされた。 

西本 芸術監督・指揮をしました『音舞台 泉涌寺』で佐久間良子さんと初共演。美しく圧倒的な存在の佐久間さんによってインスピレーションを与えられ、生まれた作品です。

歌舞伎役者の中村扇雀さんは、女形の技量も生かして下さり、宝塚歌劇団出身の杜けあきさんには、僧という男役と、現代の場面では女性管理職の役を。お三方の様式が、浮き立ち融合する舞台となりますように心がけています。

この劇場は、この先に歌舞伎と宝塚歌劇の公演も上演していかれると伺いました。ご縁を繋いでいただき、この記念すべきキャスティングが決まりました。クラシック様式と和様式、それだけでなく新たな可能性が一層広がる舞台づくりをしたいと考えています。

絶世の美女・小町が、生と死、そして時代を超えて観客に訴えかけるものは、現代を生きる私たちが内包する「歪み」をも痛烈に指摘する。

西本 小野小町の和歌、その歌の行間に立ち昇る光が見せてくれた物語を作りました。

それを構成するうちに、日本の文化も接木のように表現されていることに気がつきました。時代を越え、さまざまな人たちによって作品が作られてきたことを知り感動します。

私は『まんが道』が大好きで、「トキワ荘」のような劇場があればいいな……と考えたり、今もいろいろと空想するが好きなんですよ。世界中から人々が集まる新たな池袋、若人たちが世界に羽ばたく夢の劇場になりますように!

劇場は1〜3階席まである。1300席は間近に感じられるサイズだ。1階席の前3列はオーケストラピットにもなる。
「バルコニー席(※2~3階の脇)に座ってみたんです。特別感があって、独特の感じ。裏の仕事が見えるから、私だったらそこを選びますね」と西本さん。
西本智実(にしもと・ともみ)

イルミナートフィルハーモニーオーケストラ芸術監督(IPO)、中国広州大劇院(オペラハウス)名誉芸術顧問。大阪音楽大学客員教授。松本歯科大学名誉博士。大阪国際文化大使第1号。平戸名誉大使第1号。東洋文庫ミュージアム諮問委員。
名門ロシア国立交響楽団、サンクトペテルブルクミハイロフスキー歌劇場で指揮者ポストを歴任、英国ロイヤルフィル始め世界約30カ国の各国を代表するオーケストラ、名門歌劇場、国際音楽祭より指揮者として招聘。2013年よりヴァチカン国際音楽祭に毎年招聘され、2014年ヴァチカンの音楽財団よりアーノンクール氏と共に【名誉賞】が最年少で授与され、2017年にはIPOに名誉パートナーオーケストラの称号を授与。2019年には中国7都市8公演を成功に導いた。国家戦略担当大臣より感謝状など受賞多数。
2007年ダボス会議のヤンググローバルリーダーに選出。2015年と2016年G7サミットの海外向けテレビCMに起用。アメリカの3つの財団から奨学金給付を受け、ハーバード大学ケネディスクール“エグゼクティブ教育”修了。
舞台芸術の演出も芸術監督として手掛け、『音舞台 泉涌寺』(MBS放送)は、ニューヨークのUS国際映像祭TVパフォーミングアーツ部門で銀賞を受賞。ワールドメディアフェスティバル ドキュメンタリー芸術番組部門で銀賞を受賞。芸術監督として制作する各演目は再演が続いている。
能「卒塔婆小町」を題材に脚色・演出し、名優・佐久間良子に献呈したINNOVATION OPERA 「ストゥーパ ~新卒塔婆小町~」を、東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)で11月16、17日に上演。

公式サイト https://www.tomomi-n.com/

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