異彩を放つオルガニストの謎に迫る!

自らデジタル・オルガンを企画開発した鬼才、キャメロン・カーペンターのクリエイティビティ

インタビュー
2018.10.02

一見、奇抜なファッションで度肝を抜かれる異色のオルガニスト、キャメロン・カーペンター。
自ら企画開発したデジタル・オルガンはもちろん、その出で立ちも、すべてが計算されているようですが、それとは裏腹に(?)取材陣にもとても気さくで紳士な接し方。2013年の公演を体験した小田島久恵さんにインタビューしていただきました。

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写真:各務あゆみ
通訳:川田三奈子
インタビューされた人
キャメロン・カーペンター オルガニスト
キャメロン・カーペンター
インタビューされた人
キャメロン・カーペンター オルガニスト
1981年ペンシルヴェニア生まれ。鍵盤楽器の天才で、11歳でJ.S.バッハ「平均律クラヴィーア曲集」を弾き、その後1992年にアメリカ少年合唱団にボーイ・ソプラノとし...
聞き手・文
小田島久恵 音楽ライター
小田島久恵
聞き手・文
小田島久恵 音楽ライター
岩手県出身。地元の大学で美術を学び、23歳で上京。雑誌『ロッキング・オン』で2年間編集をつとめたあとフリーに。ロック、ポップス、演劇、映画、ミュージカル、ダンス、バレ...

驚異的な演奏技術でオルガンという楽器の概念を変え、作曲家としても鬼才ぶりを発揮しているスーパー・オルガニスト、キャメロン・カーペンター。

2013年にサントリーホールで行なわれた来日公演では、ダンスをするような華麗なペダルの足さばきで聴衆をエキサイトさせ、きらびやかなエンターテイナーとしての存在感のみならず、つねにリスクや試練を恐れない求道者としての姿勢も感じさせてくれた。

新作のレコーディングを終え、久々の来日を果たしたキャメロンは、意志的な強い声で話す未来的な芸術観の持ち主だった。

自ら企画開発したツアー用デジタル・オルガンを所有して

——2013年の初来日公演では素晴らしいパフォーマンスでオーディエンスに強い印象を残したキャメロンさんですが、あのサントリーホールでの夜のことを覚えていますか?

キャメロン よく覚えています。あのときはサントリーホールのオルガンで演奏しましたが、翌年のツアーからは自分自身で企画開発した移動可能なデジタル・オルガン、私はこれをITO(International Touring Organ)と呼んでいますが、これを使用してツアー公演するスタイルを確立しました。

このオルガンを使うようになってから、かなり多くのことが実現可能になりました。今はそのツアー用のオルガンと、他に2台のオルガンを所有しています。

キャメロン・カーペンター専用のツアー用オルガン
キャメロン・カーペンターがツアー会場に持ち運ぶという、自分仕様につくったツアー用デジタル・オルガン

——サントリーホールのオルガンはどういう点がキャメロンさんのオルガンと異なっていたのでしょう?

キャメロン すべてです。オルガンというのは人間と同じで、一つひとつにユニークな特徴があります。サントリーホールのオルガンはアジアによくあるシンプルなもので、18世紀のバロック時代にドイツで作られたタイプに倣っています。

私が使っているものはアメリカ始動型で、さまざまな時代のオルガンの特徴を融合したものです。

ホールのオルガンというのは、そこを訪れるすべてのオルガン奏者が使いづらくないようにユニバーサル・デザインが採用されていますが、私が使用しているデジタル・オルガンは、まったく違うコンセプトで作られています。

——デジタル・オルガンでは具体的にどのようなことが可能になったのでしょう?

キャメロン 一つひとつの音の表現力です。繊細なものからダイナミックでパワフルなものまで、本当に“すべて”が表現できるようになりました。

次にリリースされるアルバムは、それを証明していると思います(日本でのリリースは未定)。昔は個々のオルガン奏者が使用する楽器というのは決まっていて、オルガン奏者が訪問した先の楽器を使うようになったのは、比較的近代になってからのことなんです。僕が自分のオルガンを使って演奏しているということは、時代を遡っているとも言えると思います。

困難こそに興味をひかれる

——シンフォニーのオルガン編曲やオリジナルな作曲など、既に100曲以上の曲を書いてこられましたね。マーラーの5番のシンフォニーをオルガン編曲したものなど、そのスケール感には圧倒されます。

キャメロン この曲はオーケストラで演奏されるべき、しかしこの曲はピアノで……という制限をすべて取り払っているんです。ある曲をある楽器で演奏しなければならない、という決まりごとはないと思っています。適切である・不適切である、という基準もありません。

オルガンとピアノを比較するなら、そこで扱う情報量は圧倒的に違うんです。オルガンは小さな情報を膨大に積み重ねて表現していくものなので。

——作曲家のリストがピアノ独奏でワーグナー・オペラのトランスクリプションを弾くのとは違うのですね。

キャメロン 圧倒的に違います。やっていることがまったく違うんです。

——そもそもキャメロンさんがピアノよりオルガンに魅かれたのも、そこに理由があったのだと思います。

キャメロン ピアノも習っていましたが、私にはオルガンのほうが興味深い楽器だったんです。演奏するのが難しいし、チャレンジングでした。

——あの見事なペダルの足の動きも、ピアニストには不可能でしょうね。

キャメロン いや、逆にやってることは一緒なんです(笑)。脳が行なっていることは手も足も同じ。足でやっていることが弊害となっては、演奏そのものがナンセンスなものになってしまいますから。

——キャメロンさんの脳は特別だと思いますよ……。

キャメロン 僕だけができることをやっている、という意味ではないですからね(笑)。

ただ、困難に思える要素こそが、一番興味をひかれる部分でもあるんです。私自身、大きな失敗やチャレンジを繰り返してきて今があると思っています。オルガンは“計算機”のような性格もあって、こういう音を出したいと思ったときに数学的にアプローチしていけば、結果を確実に出してくれます。アイデアを証明できる楽器なんです。

——計算機というと、オルガンという楽器から連想する宗教的な世界とは違うものになりますね。

キャメロン (強い口調で)オルガンとクリスチャン精神は関係がないと思っています。もともとの起源はギリシア時代にあるし、オルガンに宗教的なイメージがついたのは20世紀に入ってからなんです。

いろいろな劇場でゴスペルなどが演奏されるようになって、そういう先入観が生まれたのであって、宗教とは切り離して考えるべきだと思います。

僕が使用しているデジタル・オルガンは従来の楽器に比べると、“アンチ・パイプオルガン”と呼ぶべきものかも知れません。でも、大きな視点から見ると実際は似ていて、どちらも同じ親から生まれた子どものようなところがあります。

強い感情を目覚めさせるためにはクラシック音楽が有効

――とても興味深いです! では最後にお伺いします。ベルリン・フィルと組んで子どもたちにオルガンのレクチャーなども行なわれていますが、未来の世代に何を伝えたいと思っていますか?

キャメロン クラシック音楽全体が衰退の傾向にありますが、クラシックといえど、個々の音楽家が生きた感情を投影して作り上げたものですから、本質はとてもリアルで、人間が生きていること自体と深い関係があると思っています。

経験的に現代の子どもたちは感情表現が希薄で、エモーションが少ないと感じることがあります。強い怒りや感情を目覚めさせるためにも、クラシック音楽は有効なトリガー(きっかけ)になれると考えています。

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