カウンターテナー藤木大地が魅せる新たな夏の風景~フランス・イギリス歌曲集の午後
2017年にウィーン国立歌劇場で鮮烈なデビューを飾って以降、世界的に活躍し続けるカウンターテナーの藤木大地さん。歌曲、オペラともに多彩なレパートリーで聴衆を魅了する彼は、2022年から浜離宮朝日ホールで「Encounter-tenor ~カウンターテナーとの出逢い~」というリサイタルシリーズを行なっています。新たな挑戦や出会いに満ち、これまでとはまた違うものとなりそうな第4回について、お話を伺いました。
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...
フランス歌曲を歌うために「自分が話す言葉」にする日々
――今回はシリーズ初のフランスとイギリスの作曲家の作品を中心としたプログラムですね。
藤木 第3回がオムニバス的な内容だったので、まずは歌曲集を、そして時期的に夏を意識したものにしたい……ということからベルリオーズの《夏の夜》を決めました。この曲は昨年長野で初めて歌ったものですが、ピアニストとのやりとりが面白く、ぜひ今回東京でお聴きいただきたいと選んでいます。
ピアニストの松本和将さんとは長年共演していますが、彼にとっては初めてのレパートリーとなるので、一緒にいろいろな意見を出し合いながら演奏したいですね。
――フランス歌曲《夏の夜》も楽しみです。
藤木 ドイツ語や英語は得意な言語ということもあり歌う機会が多いのですが、フランス語は実際に話す機会が少ないため、歌うとなるとかなりの準備と精神力が必要です。自分が話す言葉かどうかというのは音楽表現にも大きく関わってきます。
身体に鞭打ちながら、そしてフランス語の先生や語学アプリに助けてもらいながら取り組んでいます。また《夏の夜》にはオーケストラ版があるので、いつかオーケストラと共演もしたいですね。
さらに今回のプログラムにはブリテンのカンティクル第2番《アブラハムとイサク》 とヴォーン・ウィリアムズの歌曲集《旅の歌》が並びます。前者は作曲者が、テノール歌手のピーター・ピアーズのために書いた愛に満ちた歌曲集で、第2番は宗教劇のテキストから取られています。
後者は小説『宝島』でも有名なスティーヴンソンの詩につけられた、シューベルトの《冬の旅》を思わせる曲集です。
2017年、オペラの殿堂・ウィーン国立歌劇場にライマン《メデア》ヘロルドで鮮烈にデビュー。東洋人のカウンターテナーとして初めての快挙で、大きなニュースとなる。2012年、第31回国際ハンス・ガボア・ベルヴェデーレ声楽コンクールにてハンス・ガボア賞を受賞。同年、日本音楽コンクール第1位。2013年、ボローニャ歌劇場にてグルック《クレーリアの勝利》マンニオでヨーロッパデビュー。国内では、主要オーケストラとの公演や各地でのリサイタルがいずれも絶賛を博している。新国立劇場2020/21シーズン開幕公演では ブリテン《夏の夜の夢》にオーベロンで主演、続けてバッハ・コレギウム・ジャパンとのヘンデル《リナルド》でもタイトルロールを務め、その圧倒的な存在感と唯一無二の美声で聴衆を魅了し、オペラ歌手としての人気を不動のものにする。2022年から自身がプロデューサーを務めた横浜みなとみらいホールで、オーケストラ公演や室内楽公演を次々と企画。2025年度はマカオ管弦楽団《マタイ受難曲》、新国立劇場《こうもり》オルロフスキー公爵をはじめ、各地でのリサイタルやオペラ公演に出演。洗足学園音楽大学客員教授。横浜みなとみらいホール 初代プロデューサー(2021-2023)。2024年度より大和高田さざんかホール レジデント・アーティストwww.daichifujiki.com
イギリス歌曲の魅力はノスタルジー
――イギリスの歌曲は藤木さんにとって、とても重要なレパートリーですね。藤木さんの感じている魅力を教えてください。
藤木 ノスタルジーです。日本人が聴いて“懐かしい”と感じるメロディが散りばめられていて、曲を知らなくても、聴いた瞬間にイギリスの牧草地などの風景が目に浮かんでくるかのようです。
――今回歌われる《旅の歌》は、たしかにそうですね。藤木さんご自身は、旅はお好きですか?
藤木 大好きです。最近はどこか遠くに行くとなると仕事、ということがほとんどで、プライベートな旅行はできていませんでしたが、年始にはポルトガルに行きました。20代でイタリア留学していたときに行って以来で、遠いのでいま行かなければもう行けないかもしれないと思って。いろいろなところを巡り、素晴らしい時間を過ごしました。こういう経験は、歌にも生きるところがあります。
――曲にもよると思いますが、実際に歌われるときは、なにか情景などを思い浮かべていらっしゃるのでしょうか?
藤木 練習のときに、浮かんだ情景を膨らませていくことが多いです。本番はオーディエンスとのコミュニケーションですから。
テノール宮里直樹との共演で新たな展開
――今回は、シリーズ初のゲスト歌手を迎えますね。ブリテンではテノールの宮里直樹さんと共演されます。
藤木 せっかく“encounter”と題したシリーズなので、誰かと共演したいなと思っていたのですが、昨年12月に共演した時に、宮里さんがフィンジの歌曲を歌われて素晴らしかったことを思い出し、お願いしました。
宮里さんはコンクールで競い合い、私が負けたり、友人として親しくお付き合いもする間柄です。彼がウィーンに留学中、私が国立歌劇場で仕事をした際にルームシェアをさせてもらったりもしました。
歌の素晴らしさはもちろんですが、”作りすぎたから“といってパスタを食べさせてくれたり、とてもやさしい人です。今回共演するなかでどんな音楽を一緒に作り出せるか、とても楽しみですね。
日時:2025年8月29日(金)13:30開演
会場:浜離宮朝日ホール
曲目
加藤昌則:風のうた ※藤木大地委嘱作品(2025)
ベルリオーズ:歌曲集《夏の夜》 Op.7
ブリテン:カンティクル第2番《アブラハムとイサク》 Op.51(テノール客演:宮里直樹)
ヴォーン・ウィリアムズ:歌曲集《旅の歌》
チケット:一般5,000円 U30 2,000円
問合せ:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
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