インタビュー
2019.10.30
11月2日(土)京都でゲーム「From_. 」のコンサートが開催!

ゲーム音楽はこうして出来上がる! 元任天堂の作曲家、椎葉大翼に12の質問

ニンテンドーDSのソフト『トモダチコレクション』に登場して、ゲームファンにはお馴染みの作曲家・椎葉大翼(しいば・だいすけ)さん。現在は、コンサートでも演奏されることを前提にしたゲーム音楽作品を世に送り出している。11月2日(土)には京都で音楽提供最新作「From_. 」のコンサートを開催する椎葉さんに、ゲーム音楽のイロハとこだわりを訊いてみた。

ゲーム音楽について教えてくれた作曲家
椎葉大翼
ゲーム音楽について教えてくれた作曲家
椎葉大翼 作曲家/サウンドクリエーター

洗足学園音楽大学で作曲を専攻し、卒業後は新卒で京都の任天堂株式会社に入社。9年間ゲームの音楽制作に従事し、現在は東京でフリーランスの作曲家として活動中。音楽を担当した...

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昨今、盛り上りをみせるゲーム音楽のコンサート。これらはあくまでヒットしたゲーム作品ありきで開催されるものだが、ゲームのために作曲する段階から、コンサートで演奏されることを想定して音楽を作る作曲家が椎葉大翼さんだ。

椎葉さんは2005年から9年間、任天堂でサウンドクリエーターとして勤務し、『英語の苦手な大人のDSトレーニング えいご漬け』(ニンテンドーDS)、『トモダチコレクション』(ニンテンドーDS)、『いつの間に交換日記』(ニンテンドー3DS)などの音楽を担当。大ヒット作品『トモダチコレクション』に登場する「しいばくん」といえばピンと来る人も多いのでは?

現在は任天堂から独立し、ゲーム音楽の新たな道を進む椎葉さん。特殊なようで気になるけれど、見えづらいゲーム音楽の世界。編集部が12の質問をしてみた!

椎葉大翼に12の質問

Q1. 椎葉さんは今どんな活動をしているのですか?

フリーランスの作曲家として、主にゲームのための音楽を作曲しています。その作った音楽だけを集めて「個展」形式でコンサートを開く、という活動も行なっています。

Q2. ゲーム音楽とは?

世の中のゲーム音楽がどんな歴史をたどってきたか、どんな音楽があるのかについて語るのは簡単ではありません。それらについて詳しく書かれている『チップチューンのすべて All About Chiptune: ゲーム機から生まれた新しい音楽』『ゲーム音楽ディスクガイド』という2冊をおすすめします。

オペラやバレエ、映画音楽との大きな違いを、作り手側からひとつ述べますと、ゲームはそれらより圧倒的に長い時間(何十時間、何百時間)遊ぶことになります。そんな長いプレイ時間の「友」となってくれるような音楽を作ることができるのが醍醐味ですし、そうありたいと考えて取り組んでいます。

Q3. リスペクトするゲーム音楽作品・作曲家は誰ですか?

たくさんいるのですが、ひとり挙げますと崎元仁(さきもと・ひとし)さんです。

従兄の家で遊んだスーパーファミコンの『伝説のオウガバトル』の音楽を聴いて、「ゲーム機の中にオーケストラがいる!」「なんてワクワクする音楽なんだろう!」と感じたことを鮮明に憶えています。

また、スネアドラム、ティンパニ、ドラムセット……といった打楽器全般の使い方が飛び抜けて格好いいです(後から知ったのが、崎元さんは吹奏楽部で打楽器担当だったとのことで、納得しました)。

伝説のオウガバトル プレイ映像

Q4. ゲーム音楽の作曲家になるにはどうしたらいいのでしょうか?

もしゲーム音楽作曲家を目指していて、任天堂のWebに掲載されているこれらの記事をまだ見たことがない方はぜひ、一度ご覧いただきたいです。

サウンドクリエイター 〜BGMや効果音を作るひと〜

ゲームクリエイターになりたいアナタへ(サウンド編)

20年近く前の記事ですが、今見ても古びていない内容です(自分も公開当時、食い入るように見ていたひとり!)。

付け加えるとすれば、和声法・対位法・管弦楽法といった科目を(可能ならばレッスンに通って)身に付けると、あらゆる分野に応用が利くのでお薦めいたします。

Q5. 一般的には、ゲーム音楽はどのよう流れで作られるのですか?

まずゲームの「全体像」と「各場面の詳細」を把握します。「全体像」は曲が必要なシーンを一覧にしたリストを、クライアント自身に作成してもらいます。「各場面の詳細」については、ゲームが実際に遊べる場合は自分の手元でプレイできる環境を用意してもらい、それがかなわない場合は、遊んでいる様子の動画を見せてもらいます。

それすら出来上がっていない場合は、絵と文で曲を使う場面を説明したものを用意してもらうようにしています。これらを用意してもらうと発注者側も「どんな音楽が欲しいのか」ということを整理できるというメリットがあります。

こうして摑み取ったイメージを元に作曲していき、最終的にクライアントに納品します。

Q6. 椎葉さんならではの創作プロセスや、こだわりは?

ひとつは、音楽の方向性が決まった時点で、奏者とスタジオのスケジュールを確保すること。こうしておくと「この日までに楽譜を渡さなければならない」と自分を追い込むことでアドレナリンが出て、普段の力以上のものを作曲できるからです。

最初からコンサートの演目にできるように作曲しておくことも、こだわりのひとつ。具体的に言うと「繰り返しができるように作りつつ、曲の終わりもちゃんと作っておく」ということで、こうするとゲーム中では無限ループして聴くことができて、コンサートでは新たにコーダを付けなくてもいい、という利点があります。

あとは現在では珍しい、オープンリールのテープを備えたスタジオでアナログ録音をすることでしょうか。今やゲームの音楽どころか、世間一般の音楽においても極めて稀な録音手段で、テープ独特の中低音がふくよかなサウンド、奏者が「せーの」で一斉に演奏するライブ感を味わうことができて、音楽を一段も二段も上質なものにしてくれます。

さらに付け加えると、綺麗なメロディ、やや意外性のあるハーモニー進行、人の心を打つ音楽を作りたいといつも心がけています。

Q7. 先輩たちに学んだゲーム音楽の極意を教えていただけますか?

「金太郎飴のような音楽」にするということを教わりました。ひとつのステージ中ではどこを切っても同じ調子であることが望ましい、ということです。音楽に変化があるとゲームで何か事件が起こったのかな、とユーザーに思われてしまうからです。

変化は違う場面の曲でつけるようにして、ゲーム全体を大きな組曲のようにするべし! というのは今でも心に留めていることですね。

Q8. 作曲にあたって意識していること、ゆずれないポイントを教えてください

依頼主の要望を満たすことを前提としつつも「自分がこのゲームを遊んでいて聴きたい音楽」を作るようにしています。

Q9. 楽譜の出版のきっかけはなんですか?

先にサウンドトラックCDを出したところ、「楽譜も出しますか?」とTwitter上でユーザーの方から反応をいただいたのがきっかけです。

録音の段階で既に楽譜は書いているので、それを一冊にまとめればすぐに出せる!  と考えて自費出版に漕ぎ着けました。ピアノを弾いている方のレパートリーのひとつに加われば、こんなに嬉しいことはありません。

楽譜は以下のリンクから購入・試し読みができます!

From_. Music for Piano Solo[ピアノ楽譜]/椎葉大翼

Q10. 今回演奏される「From_.」の音楽はどのような経緯で作られたのでしょうか?

東京ゲームショウで、制作者の仲島せりなさんと知り合ったのがきっかけです。そのときはそれぞれ別のゲームを作って出展していました。そこで仲島さんが自分の作ったゲームの音楽(弦楽四重奏による作品)を聴いて「この人に音楽を頼みたい」と思ってくださったそうです。

全曲ピアノの音楽というオーダーで、舟で移動するゲームだったので、1曲目に「舟歌」を作曲して音楽の方向が固まりました。演奏は、高校時代の同級生で、当時からピアノが上手だったピアニスト四條智恵さんにお願いし、情感たっぷりの音楽ができあがりました。

「From_.」録音風景 すべて生のピアノでオープンリール録音

椎葉大翼さんと録音を担当し、コンサートでの演奏も担当するピアニストの四條智恵さん。

四條智恵(しじょう・ちえ)
東京音楽大学音楽学部器楽科(ピアノ)卒業、同大学院鍵盤楽器研究領域(伴奏)修了。その後3年間ピアノ伴奏助手を務める。在学中より、オーストリアやドイツにおいてサマーアカデミーを受講、ディプロマを取得。第5回 ちば音楽コンクール優秀賞。第9回 日本アンサンブルコンクール 優秀演奏者賞及び全音楽譜出版社賞受賞。現在、ソリストとしてだけでなく、声楽・器楽のアンサンブル奏者として国内外の多数のコンサートへの出演、CD制作、演奏会企画等、意欲的に活動している。ゲーム「From_.」「ネコの絵描きさん」「World for Two」「サリーの法則 for Nintendo Switch」の音楽でピアノを演奏した。

Q11. コンサートを開催しようと思ったきっかけは?

録音のときにも立ち会ってもらった仲島さんから「コンサートしましょう」という一言が出たのが発端でした。東京での公演(2018年7月)はお陰様で満員となり、多くのお客様とひとつの空間でFrom_.の音楽を共有することができた、思い出に残る体験です。

11月2日(土)のコンサート当日配布予定のプログラム。「From_.」は手紙が題材のゲームであることにちなんで、ポストカード型のプログラムにしてあるとのこと。

Q12. 今後の活動展開を教えてください

次回コンサートするとしたら「フルート四重奏(フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)」による作品を集めた個展を開きたいと考えています。現在レパートリーが溜まりつつある状況です。

これ以外にも、今までやったことがないジャンルとして映画音楽、オペラ、ピアノ協奏曲を作曲できたらと考えています。

椎葉さんの音楽をライブで!
room6 / Polaris-x presents From_. + Piano Works Concert in Kyoto -Music by Daisuke SHIIBA-

日時 2019年11月2日(土)13:30 開場 14:00 開演

会場 NAM HALL(ナムホール)平安神宮から徒歩5分
京都市左京区岡崎天王町54-2 NYビル地下1階

出演 四條 智恵(ピアノ) 椎葉 大翼(作曲) 仲島 せりな(From_. 開発)

演目 (※全曲関西初演)

World for Two
ネコの絵描きさん
Project Circle
サリーの法則 for Nintendo Switch
From_.
以上、作曲:椎葉大翼

切符 前売:3,500円 当日:4,000円(全席自由)

ハッシュタグ #FromPf

ゲーム音楽について教えてくれた作曲家
椎葉大翼
ゲーム音楽について教えてくれた作曲家
椎葉大翼 作曲家/サウンドクリエーター

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