人気劇伴作曲家・石塚玲依「現代のシューベルティアーデがやりたかった」~時代が求めた新音楽家コミュニティ誕生
映画やドラマの音楽を手掛ける、いわゆる劇伴の作曲家が、映像作品から独立したコンサート用の音楽を発表する機会が近年ますます増えている。これまでは委嘱がきっかけとなるケースが多かったように思われるが、このたび発足したDICT Music DAO Classics(ディクト・ミュージック・ダオ・クラシックス)では、劇伴作曲家が自主的に新作の録音と楽譜を発表したり、演奏家が新しいレパートリーを発見したりできる、新しい形のコミュニティが目指されている。
大島ミチル、山下康介といったビッグネームの楽曲も配信予定だというが、今回はすでに20曲以上のピアノ曲を提供している作曲家・石塚玲依と、DICT Music DAO Classicsの運営・プロデュースを務める三留丈樹に話をうかがった。
東京音楽大学の作曲専攻を卒業後、同大学院の音楽学研究領域を修了(研究テーマは、マイルス・デイヴィス)。これまでに作曲を池辺晋一郎氏などに師事している。現在は、和洋女子...
仕事としての作曲ではなく、みんなで一緒にどこまで楽しめるか
これまでに『進撃の巨人』や『プリキュア』シリーズのエンディングテーマや、『ポケットモンスター』シリーズの劇場版などの音楽を手掛けてきた石塚はなぜ、このコミュニティでピアノ曲を発表することにしたのか?
石塚 出版社に楽譜の出版をお願いして起こり得ることって正直なところ、ある程度まで想像がつくと思ったんです。それならばこの新しいプロジェクトで、みんなで一緒に作り上げながら手の届く範囲でどれだけ楽しめるのか? 仕事として作曲することは劇伴の方でできていて満足しているので、そうではなく演奏家と温かみのあるやり取りをしながら作品を発表していきたい。
僕はクラシック音楽が大好きなんです。だからこそシューベルトが仲間たちのために音楽をつくったシューベルティアーデみたいなことを僕もやってみたいと思ったんですよ。あの時代にあった良さを出したいのです。
今は劇伴の世界で活躍する石塚だが、もともとは東京音楽大学で西村朗から作曲のレッスンを受けていた。
石塚 作曲専攻のあいだには無調を書かなきゃいけないという無言の圧力みたいものがあったように思います。めちゃくちゃ調性音楽を作曲するのがうまい人が、現代音楽が好きなわけでもないのに無調を書くのを見ているのは、すごくツラかったですね。
僕自身は現代音楽も好きなので全然嫌ではなかったんですけど、西村先生に“君の書いている音楽は良いんだけど、これは日本じゃ評価されないと思うよ”と言われたのは衝撃で、頭をガーンとやられました。冷静に考えてみて、すごく納得してしまったこともあり、現代音楽のコンクールを目指さずに、10年以上にわたり劇伴の世界でやってきました。
東京音楽大学作曲指揮専攻(芸術音楽コース)卒業。TVアニメ『進撃の巨人』や『わんだふるぷりきゅあ!』エンディング曲や『カッコウの許嫁』、『雨と君と』、『地球外少年少女』他多数のアニメ作品で音楽を担当。2024年からはDICT Recordsよりピアノソロ作品を継続的にリリースしている
砂場のように、心置きなく好きなものが作れる場所を
学生時代はクセナキスやシャリーノといったヨーロッパの前衛的な音楽から影響を受けていた石塚が、DICT Music DAO Classicsでは印象派、新古典主義を思わせるフランス近代の系譜に連なるピアノ曲を発表している。
石塚 大学時代の思い出も和らいできて、今ではオリジナリティを追求するのではなく、本当に自分が好きだった音楽のような曲を素直に書けばいいんじゃないかと思えるようになったんです。革新的なことをして歴史に名を残すんだと意気込むより、一瞬でも誰かを熱狂させられればいいんじゃないかなと。もうひとつ、劇伴ではどうしても映像に合わせなきゃいけない制約があるので、自分の力をフルで出せる場所を求めていたんです。
三留 僕が以前、別のレーベルで働いていた時は、売れるために細かいちょっとした部分まで作曲家さんに直してもらっていたのですが、このDICT Music DAO Classicsでは作曲家の表現したい、自分のなかにあるものを残したいというような気持ちを最大限に引き出したいと思っていて。
作曲家だけでなく、一緒に関わっていただける演奏家の皆さんのこういう音楽を弾きたいという思いを最優先して、あえてディレクションをしていないんです。この集まりをサンドボックス・コミュニティと呼んでいるのは、砂場で子どもが心置きなく好きなものを作ったり、誰かがそれを手伝ったりするような場所を目指しているからでもあります。
東京音楽大学作曲指揮専攻(芸術音楽コース)を卒業。これまでに、環境省気候変動適応国際協力PV収録楽曲やOECD日本共同研究プロジェクト制作楽曲他多数の楽曲をプロデュースした他、音や音楽が人間の心身にもたらす影響等を研究している。株式会社Virgoならびに株式会社SoundBrain取締役、東北大学 加齢医学研究所 分野研究員、医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院 国際未病医療センター 顧問、湘南先端医学研究所 研究員
仲間がいれば遠くまでいける
石塚 実は2023年にも自分で(シングルとアルバムの間のフォーマットである)EPとして『Teleport』と『Stanley』をリリースしているんですけど、ひとりでやると早々に頭打ちになったし、将来予想ができちゃうからこそモチベーションが続かなかったんです。ところが三留くんは数年単位でプロジェクトを考えていて、僕ひとりじゃこんなに我慢できないなと思いました(笑)。長く続けるにはスピード(回転数)よりも、トルク(回転力)が大事なんですよね。
三留 今はピアノソロが多いんですけど、先々には他の楽器の独奏曲、室内楽曲、もちろんオーケストラまでやっていきたいと思っています。それに劇伴の作曲家だけでなく、ふだんは無調の音楽を主に書いている現代音楽の作曲家でも、調性のある音楽を発表できる場所になれたらなと考えています。
このコミュニティは11月18日(火)に東京音楽大学TCMホールで開催する創設記念演奏会をもって正式にローンチ、一般メンバーの募集を開始します。まずはこの公演にお越しいただき、どんな音楽をどんなコンセプトで作っているのかを知っていただけたらと思っています。
これから多くのリスナーが直感的に楽しめる音楽が生まれていくに違いない。まずはすでに配信されている石塚玲依の楽曲をチェックしてみてはいかがだろうか?
日時: 2025年11月18日(火)18:30開演
会場: 東京音楽大学TCMホール( 東急東横線「中目黒駅」「代官山駅」より徒歩5分)
チケット: 一般 ¥3,000円/学生 ¥2,000円(当日券は各500円増)
詳細はこちら
本公演をもって正式にローンチされる「DICT Music DAO Classics」(ディクト・ミュージック・ダオ・クラシックス)は、Web 3.0 / DAOの仕組みを活用し、作曲家たちのバックボーンにある、芸術性の高い作品を自律分散的に生み出すとともに、その楽曲の演奏権等一部権利をオープンソース化することにより、コンテンツの利活用を促進させ、作曲家と演奏者のより良い活動環境の循環醸成と、新しいクラシック音楽文化の樹立を目指す取り組み。
大島ミチル、山下康介、石塚玲依をはじめ、主にアニメやドラマ、映画等の音楽を手掛ける作曲家たちが参加し、器楽奏者のための新しいレパートリーを創出。現在までに20曲以上がリリースされ、今後さらに多くの作品が自立分散的に生み出され、リリースされる。
「演奏者も聴衆も楽しめる楽曲」をコンセプトに制作された、今回演奏される楽曲は、どれもピアノ奏者にとって今後の重要なレパートリーとなりうる楽曲であると言える。
なお、公演中には演奏のほかに、作曲家、演奏家、イラストレーターによるパネルディスカッションが予定されている。
※本公演観覧者にはDICT Music DAO Classics 会費1年間無料クーポンを配布予定
DICT Music DAO Classics は月額980円(税込/初月無料)の会費を支払うことで、下記の特典を受けることができる。
・当コミュニティ全管理楽曲の「演奏権」の付与
・楽譜特価ページへのアクセス権
・会員限定イベントの参加資格ならびに会員限定サービスの利用資格
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