ピアノデュオ・坂本彩、リサの25の扉<後編>ケンカはする?デュオならではの楽しさは?
若手音楽家たちが歩んできた道のりや、その人生観に迫るインタビュー連載「音楽家たちの25の扉」。今回は、ピアノデュオとして活躍する姉妹、坂本彩さんと坂本リサさんが登場します。冷静沈着で計画的な姉と、直感的で天真爛漫な妹――対照的な性格のふたりですが、その違いこそがデュオとしての大きな魅力になっています。後編では、“姉妹の日常”と“音楽観”を中心に深掘りします。
編集者、ライター。女性誌編集、ECサイト編集・ディレクター、WEBメディア編集長、書籍編集長などを経て現在。はじめてクラシック音楽を生で聞いたのは生後半年の頃。それ以...
“やっぱり姉妹っていいな”と思える瞬間
10. お姉ちゃん、妹がいてよかったことは?
坂本リサ(以下、リサ) それはめちゃくちゃあります。音楽的なところも、プライベートも。何でも相談できるし、分身だと思っています。小さなことでも、どうしようと思ったら、まず姉に相談する。考えることをやめて、1回姉に聞いてみようと。姉がいなかったら、生きていけないかもしれない。
坂本彩(以下、彩) 重いです(笑)。
――逆に、妹さんがいてよかったなと思うことは。
彩 私は思っていることがすべて顔に出ているようで、妹はそれが全部わかってしまう。お腹が痛いなと思っていたら、すぐ胃薬を持ってきてくれたこともありました。あと、苦手なことは全部やってくれる。例えば、虫を取ってくれたりとか。
リサ 私も虫は苦手なのに、姉は異常に苦手なので、小さい虫が歩いているだけで、お風呂に入っていても「リサ!虫取って!」と呼ぶんですよ(笑)。
彩 そう言いながらも、虫を取ってくれるので、助けられています。
福岡県出身。4歳よりピアノを始める。福岡女学院高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程ピアノ科を修了。修了時に、大学院アカンサス賞、藝大クラヴィーア賞を受賞。
第63回全日本学生音楽コンクール高校の部北九州大会第1位、全国大会第2位。第60回西日本国際音楽コンクールにおいて末永賞(グランプリ)。第11回ルーマニア国際音楽コンクールピアノ部門最高位及びNPO法人おおきな木スペース賞、その他多数受賞。2001年ポーランド室内クラクフ管弦楽団とピアノ協奏曲を共演。2005年九州サマー・フェスティバル、2013年新進演奏家育成プロジェクトオーケストラ・シリーズにて九州交響楽団と共演。カードゥッチ弦楽四重奏団、ダンテ弦楽四重奏団をはじめ、室内楽、器楽、声楽や合唱などのアンサンブルにおいても多数の共演を重ねている。
国内外のアカデミーにて、故F.W.Schnurr、P.Devoyon、D.Yoffeの各氏、他多くのマスタークラスを受講し研鑽を積んでいる。2013〜2015年ザルツブルク夏期国際音楽アカデミーに参加、アカデミーコンサートに選抜され出演。
これまでに、ピアノを巣山千恵、田中美江、徳丸聡子、草冬香、横山幸雄、三上桂子、本村久子、伊藤恵の各氏、室内楽を田崎悦子、藤井一興の各氏に師事。
坂本 リサ(さかもと・りさ)/写真右
福岡県出身。3歳よりピアノを始める。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、 東京藝術大学音楽学部卒業。卒業時に同声会賞を受賞。同大学院音楽研究科修士課程にて研鑽を積む。全日本学生音楽コンクール北九州大会において、第61回小学校の部第1位、第63回中学校の部第2位、第66回高校の部第1位。第7回エレーナ・リヒテル国際ピアノコンクール第1位。第61回西日本国際音楽コンクールにおいて西日本音楽協会賞受賞。第6回せんがわピアノオーディション最優秀賞受賞。せんがわ劇場にてリサイタルを開催。第22回コンセール・マロニエ21において第3位。2017年、学内にてモーニングコンサート出演者に選出され、高関健指揮、藝大フィルハーモニア管弦楽団と共演。ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンに出演。
国内外のアカデミーにて、D.ヨッフェ、P.ドゥヴァイヨン、K.ヘルヴィッヒの各氏、他多数のマスタークラスを受講。2012年〜2015年ザルツブルク夏期国際音楽アカデミーにて、アカデミーコンサートに出演。各地でのソリストとしての演奏の他、 室内楽や歌曲伴奏の活動も積極的に行っている。
これまでに、ピアノを巣山千恵、田中美江、徳丸聡子、草冬香、横山幸雄、伊藤恵の各氏、ピアノデュオを加藤真一郎氏、室内楽を津田裕也、三界秀美の各氏に師事。
Piano duo Sakamoto
第70回ARDミュンヘン国際音楽コンクールピアノデュオ部門において、日本人デュオとして初の第3位入賞、併せて聴衆賞・特別賞を受賞。
第7回国際ピアノデュオコンペティション(ポーランド)にて第1位、第21回シューベルト国際ピアノデュオコンクール(チェコ)にて第1位を受賞するなど、国内外のコンクールにおいて入賞を重ねている。2022年日本センチュリー交響楽団 定期演奏会において、久石譲作曲「Variation 57~2台のピアノのための協奏曲~」管弦楽版を作曲者自身による指揮のもと世界初演。国内外のオーケストラとの共演や、各地でのリサイタル、音楽祭への出演など、積極的な演奏活動を行っている。姉妹ともに東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程ピアノ科で学んだのち、ロストック音楽・演劇大学(ドイツ)ピアノデュオ科修士課程および同大学の国家演奏家資格課程を最優秀の成額で修了。2021年度ブルーノ・フライ音楽賞、2023年度福岡市文化賞を受賞。2024年11月、fontecよりデビューアルバム"Duettist"をリリース。
幼い頃からの共通の趣味が、音楽にも通じている理由
11. 音楽以外の趣味は?
リサ とにかく野球が好きです。大の巨人ファン。シーズン中は、18時になったらそわそわしてしまいます。練習中に速報を見てしまうぐらい。球場にも応援に行きます。あとディズニーが大好き。本番が終わったら、ディズニーランドに行きます。
――彩さんも野球は好きなんですか。
彩 昔は好きだったのですが、留学して見なくなってから私は冷めています。
姉妹共通の趣味として囲碁です。両親の影響でピアノを始めたのと同じくらいの頃から続けています。ふたりとも囲碁三段の免状を持っています。
リサ 確かに囲碁も趣味のひとつです。今でもネットでプロの試合を見ます。
――囲碁とピアノの共通点はあるのですか。
彩 囲碁もクラシック音楽も、幼い頃からの鍛錬が必要な世界。この共通点から、囲碁棋士の方々とも親しくさせていただいています。クラシック音楽の演奏がひとつとして同じものはないように、囲碁も同じ局面が二度と生まれないといわれ、無限の可能性があります。時代とともに進化し続ける点でも、共通していると思います。
デュオゆえのすれ違いと乗り越え方とは
12. 息抜きの方法は?
彩 妹との練習で空気が悪くなったら、さっと外に出ます。スーパーまでの道のりを少し遠回りして歩くだけでも、私には気分転換になります。妹に隠れておいしいコーヒーを飲んだり。すぐに気分が切り替わるので、お散歩はおすすめです。
――ケンカすることもあるのですか。
彩 練習の時に空気が悪くなることはあります。
リサ ピリッとする(笑)。
彩 性格が違う分、音楽の方向性も違います。デュオになると意見が合わないことが多くて、それをすり合わせるのが大変です。2人とも譲れないところが多いので。
――それはどうやって解決していくのですか。
彩 その場で、言葉をぶつけ合って、どちらかが納得することもあったり、次の日になったらお互いにこだわらなくなったり。
――別々に過ごしたいと思う日もありますか。
彩 あまりないですね。別々に過ごすのは、お互いの友達に会う日ぐらいですね。
リサ いっしょにいることが普通なので。
甘党VSニンニク好き、姉妹の“食”のこだわり
13. 好きな食べ物は?
リサ 私はとにかく甘いものが好きで、いくらでも食べられます。毎日のようにケーキを食べています。イチゴも大好き。
彩 私は、オムライスとハンバーガーが好き。妹より脂っこいものが好きなのですが、そこはわかってくれません。あとニンニクも好きなので、こっそり料理に混ぜています。
リサ そこは分かり合えないです。ニンニクって匂うじゃないですか。
――普段はどんな料理を作るのですか。
彩 お料理は息抜きにもなって、ふたりとも好きなので、時間があるときはスパイスからカレーを作ったり楽しんでいます。味に納得できたことはないのですが。
リサ 留学をしていた時は、自炊を頑張りました。和食がとても恋しかったので、和食もどきを作って、定食みたいにして楽しんでいました。
今、ふたりが気になる“ほしいもの”
14. 好きな色は?
彩 赤です。昔から私のテーマカラーは赤で、似合う色も赤かなと自分では思っています。持ち物も赤が多いです。
リサ 私は昔からピンク。それこそ、持ち物もピンクばかりです。かわいいものが好きです。
15. お気に入りのアイテムは?
彩 とあるホールの方にいただいたハンドジェルが最近のお気に入りです。ハンドクリームと違って手がベタベタにならないのに、すごくしっとりします。手がシワシワだったのですが、シワが少なくなった気がします。
リサ ディズニーシーのリーナ・ベルというキャラクターがすごく好きで、最近小さいパペットを買いました。お気に入りで、一緒に寝ています。
16. 今ほしいものは?
彩 自分の肌に合うファンデーションを探しています。これまで下地だけだったのですが、年齢を重ねて、気になってきたので。たくさん試せるわけではないので吟味して買いたいと思っています。
リサ 私は、最新のiPhoneがほしいです。今、iPhone12を使っていて、カメラの画質が悪いんです。あとフィルムカメラも気になります。写真を撮るのが好きなので、いつも写真ばかり撮っています。ちなみに、姉は写真を撮るのが下手です(笑)。
貸せるもの、貸せないもの。姉妹のマイルール
17. 移動時の必須アイテムは?
彩 私は酔い止めです。最近、飛行機が揺れることが多くて、必ず持っています。
リサ 私はイヤホンです。移動時は音楽を聴くことが多いです。私は乗り物に乗るとすぐ寝るタイプで、寝て起きたら着いている感じです。
18. これだけは貸したくないものは?
リサ いいカメラを使っているので、姉には貸したくないです。使おうとはしないのですが、壊されたらいやだなって(笑)。
彩 私はないです。基本すべて共有しているので。でも、妹はピアスを開けていないので、ピアスの貸し借りはできないですね。
リサ 確かに。勇気が出ず、ピアスが開けられなくて。
姉がこっそり“マネした”こととは
19. こっそりまねしたことのあるものは?
彩 私は何でもじっくり調べてから買うタイプなので、最初は自分が好きなものを選ぶのですが、妹が使っているものを見て「これいいな」と思うと、ついまねして買ってしまうこともあります。
あと、大学生になった時に、妹のまねをして前髪を切りました。
リサ 今言われて確かに!気づいていなかったです。
20. 休みの日の過ごし方は?
リサ お休みという概念があんまりないので、練習は毎日必ずします。デュオになって、ひとりの練習と合わせの練習で時間がさらに必要なので、できる限り練習をしています。でも、本番の翌日は「今日は遊ぶ日にしよう」と決めて、ディズニーに行くこともあります。
――練習しない日はないですか。
彩 移動でできない時以外は、なるべく時間を見つけてピアノを弾いています。
――朝は何時に起きますか。
彩 夜にリサイタルがある日は、朝はゆっくり起きますが、マチネの場合は、朝6時ぐらいには起きています。同じ時間にアラームをかけているのに、妹はずっと寝ているので、先に起きてご飯を作っています。
リサ ありがたいことに、朝ごはんは姉が作ってくれます。
デュオはたし算ではなくかけ算
21. デュオならではの楽しさ、難しさは?
彩 デュオのおもしろいところは、上手な人同士が組んだからといって必ずしもよい演奏になるわけで
リサ ピアニストは基本的に孤独な職業です。ひとりで練習して、ひとりで舞台に出る。だからこそ、デュオではいっしょに演奏できる安心感があって、以前より本番が楽しくなりました。
22. 演奏するのが楽しい曲は?
リサ 演奏していて楽しいなと思うのはフランスの作品です。この間のリサイタルで、デュカスの交響詩 「魔法使いの弟子」とか、ラヴェルの「スペイン狂詩曲」を弾いたのですが、すごく楽しかったです。なかでも、プーランクの「2台のピアノための協奏曲」はいちばん楽しいかもしれません。ふたりの掛け合いもオーケストラとの掛け合いも、その場のインスピレーションで表現できるところもあって。
彩 最近よく演奏している曲でいうと、中田喜直さんの《
演奏家として、人として、大きな影響を受けた存在
23. 影響を受けた演奏家は?
リサ 私はラベック姉妹が大好き。私たちと同じように姉妹でピアノのデュオを演奏していて、どの曲を聴いても、ラベック姉妹の演奏だとわかるくらい、彼女たちのカラーがあります。憧れでもあるし、大好きな音楽家です。
彩 今まで習ってきた先生方がいちばんですが、特に伊藤恵先生はピアニストとして尊敬しています。すべての音に対する真摯な気持ちが演奏に表れています。演奏だけでなく、音楽と向き合う過程も含めて、人としても尊敬している先生。学生時代のとても多感な時期に教えていただいていたので、気持ちが壁にぶつかった時に先生の言葉を思い出して、いろいろなことを乗り越えられています。
――どのような言葉がいちばん印象に残っていますか。
彩 うまくいかない時期もたくさんありましたが、ありのままの私を認めてくださるような言葉をかけていただいて。そんなに理想を高くせず、もっと自分に自信を持つようにと、自分を認めてくれるような言葉をかけてくださったのを思い出します。
デュオの楽しさを伝えるのがライフワークに。
24. おすすめのピアノデュオ曲は?
彩 ラヴェルの「マ・メール・ロワ」です。音数が少ないのに、その和声の響きがびっくりするほど美しくて、ひとりで弾いていてもふたりで弾いていても、不思議な世界に入っていくような魅力があります。音楽の背景にストーリーもあるので、聴きやすく、わかりやすい作品だと思います。
リサ モーツァルトの「2台のピアノのための協奏曲」は私たちにとっても思い出がある曲です。モーツァルトらしい冗談を言っているような表現が多く、2台のピアノの掛け合いとオーケストラとの掛け合いが明確で、聴いていてハッピーでポジティブな気持ちになれます。
25. 今後挑戦したいことは?
彩 もっとデュオ曲を知っていただくために、デュオの楽しさを伝えていくことをライフワークにしたいです。邦人作品や現代曲にも取り組んでいきたいなと思っています。
リサ 最近、私たちも知らなかった作品を見つけて、そういう曲を集めた企画ができたらいいですね。
日時:2025年05月23日(金)
15:00開演(14:30開場)、19:30開演(19:00開場)
※約1時間/休憩なし
会場:Hakuju Hall
プログラム:
G.ビゼー:子供の遊び op.22 より
C.ドビュッシー:6つの古代のエピグラフ
C.ドビュッシー:小組曲
F.シューベルト:大ソナタ 変ロ長調 D 617
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