インタビュー
2021.06.27
『「ピーターと狼」の点と線』著者が迫る!

川瀬賢太郎が魅力を語る! 知れば知るほど愛情が深まる《ピーターと狼》

2021年7月10日(土)に神奈川フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会でプロコフィエフの《ピーターと狼》を指揮する川瀬賢太郎さん。近刊『「ピーターと狼」の点と線』でこの作品の魅力をたっぷりと伝えた著者の菊間史織さんが、“演奏する側の声”を引き出します。

取材・文
菊間史織
取材・文
菊間史織 音楽学者

1980年東京都生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科、同大学院修了(音楽学博士)。音楽教育に携わりながらプロコフィエフ研究を続ける。最近の論文に「ソ連版《シンデレラ》と...

『「ピーターと狼」の点と線』表紙の色見本と一緒に。
写真:各務あゆみ

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《ピーターと狼》の専門家と指揮者の対談が実現!

このたび拙著『「ピーターと狼」の点と線』への推薦コメントをいただいた関係で、指揮者の川瀬賢太郎さんとお話させてもらえることになった。昔大学の助手や中学校の音楽科教員をしていたときに、指揮者の先生たちのお人柄に触れる機会が多くあったが、先日、川瀬さんからいただいたコメントを拝見した瞬間、私の知る指揮者の方たちに共通する「圧倒的な牽引力」「パッション」というものを確信し、胸がいっぱいになった。

『「ピーターと狼」の点と線』
菊間史織著、音楽之友社刊
帯には川瀬賢太郎さんによるコメントが!

2021年6月26日頃発売予定。

春休みに「ピーターと狼」の宿題に取り組む中学生の「僕」。
そこへ風変わりな「道化師の妻」が現れ……!?
彼女に手渡された1冊の本。
この曲のうしろにある壮大な歴史が、いま明かされる。

キーワードは、ソ連、おとぎ話、ディズニー映画。
本格的な研究を、ファンタジックな物語仕立てでお届けします!

《ピーターと狼》を指揮する立場の意見を聞くことなど滅多にできないという嬉しさと、作品解釈の方向性をある程度限定してしまうかもしれない楽理的研究を、実のところはどのようにお読みになってくださったのだろうという不安とが入り混じった気持ちで、インタビューに臨んだ。

川瀬さんは質問の一つひとつに、あふれるユーモアをまじえて丁寧に答えてくださった。本の執筆を含め、いつも私の仕事の相談相手である小3の息子からの「何拍子が得意ですか?」という質問にまで(お答えは4拍子)!

川瀬賢太郎(かわせ・けんたろう)
1984年東京生まれ。2007年東京音楽大学音楽学部音楽学科作曲指揮専攻(指揮)を卒業。指揮を広上淳一氏等に師事。06年東京国際音楽コンクール<指揮>において1位なしの2位(最高位)に入賞。
神奈川フィル常任指揮者、名古屋フィル正指揮者、オーケストラ・アンサンブル金沢常任客演指揮者、三重県いなべ市親善大使。
第64回神奈川文化賞未来賞、16年第14回齋藤秀雄メモリアル基金賞、第26回「出光音楽賞」、横浜文化賞文化・芸術奨励賞を受賞。東京音楽大学作曲指揮専攻(指揮)特任講師。

《動物の謝肉祭》や《ピーターと狼》で各楽器の特色を耳にしてからショーソンを味わう

——7月10日(土)に開催される神奈川フィルの定期演奏会第370回で《ピーターと狼》をとりあげることになった理由を聞かせていただけますか?

川瀬 まず、メインにショーソンの「交響曲変ロ長調」をやりたいというところから決まりました。それから前半について考え、フランスつながりで、サン=サーンスの《動物の謝肉祭》が決まりました。もう1曲はプーランクの《牝鹿》など、いろいろ組み合わせのパターンがあったのですが、動物というテーマが浮かんで、フレンチではないけれどプロコフィエフの《ピーターと狼》をやろうかという話になりました。《動物の謝肉祭》には、僕がこの世でもっとも愛する猫が出てこないのですが、《ピーターと狼》には出てくるので(笑)。

サン=サーンス《動物の謝肉祭》

川瀬 それと、定期演奏会というと、ちょっと敷居が高いイメージがあると思うのですが、前半に親しみやすい曲を並べることによって、今まで「定期演奏会だから……」と躊躇されていた方にも足を運んでいただきたい、という願いがありました。

《ピーターと狼》は、曲の存在を知っていても、実は生で聴いたことがないという方が結構いると思います。それで、このような並びになりました。

プロコフィエフ:子どものための音楽物語《ピーターと狼》

《ピーターと狼》を指揮するのは3~4回目という川瀬さん。

——ショーソンの交響曲というのは標題も楽しい物語もついていない、3楽章形式の交響曲ですが、《ピーターと狼》を聴きにきた小学生が、この交響曲も集中して聴くことができるでしょうか?

川瀬 音楽鑑賞教室で、大人がチョイスした、子どもはこういうのが好きであろうという曲はお決まりのものがあります。でも、子どもたちのほうがピュアに現代音楽とか、「なんじゃそれ」というような曲を聴けると思うのです。

しかも、ショーソンの交響曲は時間も30分くらいなので、飽きないぎりぎりの時間だと思います。すごくカラフルでもあり、すごく宗教的でもあり、ダンスのような場面があるかと思えば、フィナーレは神様にお祈りするような感じで終わるというように、たまらない曲です。

ショーソン「交響曲変ロ長調」

川瀬 演奏会を最初から聴いていただいたら、それぞれ楽器の魅力も伝わりやすい。《動物の謝肉祭》や《ピーターと狼》で、それぞれの楽器の特色を耳にしたあとにショーソンを聴いて、単純に知らない曲を聴くというよりも、「さっき猫をやっていたクラリネットだ!」とか、「アヒルをやっていたオーボエってこういう音色も出せるんだ」という聴き方につながってくれればなあと思います。

動物の外見やキャラクターまで想起させる楽器の使い方

——川瀬さんがお考えになる《ピーターと狼》の一番の魅力は何でしょうか?

川瀬 無駄なく、それぞれの楽器が適材適所にいるということ。どういう猫か、ということが、プロコフィエフが書いた音楽でわかる。スマートではなく、あまり顔が整っていなくて、短毛種よりは長毛種という気がする。あのクラリネットのメロディを聴いただけで、猫の性格から猫の種類や顔がイメージしやすい。それはアヒルも一緒。昔はあたりまえだと思って聴いていたのですが、いざ自分が指揮をして楽譜を読むとなると、なんて適材適所なんだ! と思うのです。

《ピーターと狼》より猫が初めて登場する場面

川瀬 プロコフィエフは空気をつくることとか、こまかいところを描くのが得意な作曲家だったと思います。ある意味、映画の背景になりうるような楽器の使い方が魅力で、あらためて楽譜を読んで感動するポイントかもしれません。

音楽との緻密なコネクションが要求される語り手

——今回、奥様でテレビ朝日アナウンサーの松尾由美子さんが《ピーターと狼》の語り手をなさいますね。

川瀬 誰にしようかなあと、ずっと探していました。あの曲は意外と難しいのです。「ここまでの3小節の間にこれを言わなきゃいけない」「この言葉があるからここにメロディがこなきゃいけない」というように。無駄なすき間が0.5秒でもあるとパッと現実の世界に戻されてしまうという怖さがあります。

オペラのように、言葉の温度とか速度が自然と音楽に移り、それをまた言葉がもらう、という感じにしたい。「言葉、はい、オーケストラ……」と分かれてしまっているのはよく聴くのですが、それだとおもしろくないし、この曲の本当の魅力は伝わらない。それで語りを選ぶのにすごく慎重になっていました。

《ピーターと狼》では「言葉とオーケストラの融合が難しく、コンビネーションが大切」と語る川瀬さん。

川瀬 いないなぁと思っていたのですが、うちの奥さんが家で子どもに読み聞かせをしていて、ある日、あれ? と思ったのです。身内自慢ではないですが、彼女の言葉はすごく聞き取りやすい。でも、意外とキャラクターのようなものもできる。

ああ、これはいけるんじゃないかなと思いはじめ、しかも、これだけそれぞれのコネクションに緻密さが要求されるのだから、もし彼女が本当にナレーターになったら、毎日家でリハーサルできるとも思いました。

それで試しに奥さんに聞いてみたら、たまたま奥さんも小さいときから《ピーターと狼》を聴いていて、「やってみたい」と言うので、じゃあちょっと提案してみようと。こんな近場にいたんだと思って(笑)。傍から見ると、「ああ、(神奈川フィルの常任指揮者)ラストイヤーに夫婦共演もってきたんだ」と思われるかもしれないけど、全然そういうことではないんです。

松尾由美子さんからのメッセージ

——これからおふたりでたくさん練習されるのですね?

川瀬 そうですね。いまは最初にいただいた台本の日本語訳のどこを削るかという作業をしているところで、少し彼女のオリジナリティを出してもいいなとも思います。遊べるところをどこにしようか、ということも話し合っているところです。突然ニュース口調になるとかね、「こちら現場です」みたいな(笑)。

語りの最後は、ちょっと中途半端だと感じています。語りが「ほら、よく耳をすませて」と言って、オーボエがかすかに鳴って、チャチャチャチャ……それでおしまいだから、語りの最後が難しい。その辺についても話し合っています。でも、けっしてプロコフィエフが書いたものを壊すつもりはなく、作曲家に対してのリスペクトとの兼ね合いですね

『「ピーターと狼」の点と線』を読んで深まった曲への愛情

——『「ピーターと狼」の点と線』を読んでくださって、なにか印象に残ったことや演奏に生かせそうだと思った点はありますか?

川瀬 もちろん演奏にはすごく生かせるし、プロコフィエフ自体の文献というのが多くないので、貴重ですよね。《ピーターと狼》についてなにか調べようとしても、だいたい何行か書いてあってどれも同じような感じで……。

少し照れながらも自著の感想を聞いて喜ぶ菊間さん。プロコフィエフの母国語のロシア語が音楽にも表れているか? など、興味津々な川瀬さんと会話が弾む。

川瀬 知らなかったことを知れば知るほど、曲に対しての愛情は深まっていきます。あの時代を生きた作曲家として、あれだけ困難な時代にあったなかで、こんなにすばらしい曲を書いてくれて、そこには垣根がない。彼がもともと持っているやさしさに対して、愛をもって取り組まなきゃいけないんだなぁということを再実感することができました。

あとは、この本の設定もわかりやすかったです。僕は大人だから、あれだけの情報をふつうに音楽文献として読んでも、なるほどと思いますが、ああいうふうにストーリーになっているのはすごくわかりやすかったです。僕よりも奥さんのほうが先に読んだのですが、「すごく楽しい本だよ」と言っていました。

「聴き終えたときに、1冊の絵本を読んだような気持ちになってもらいたい」という川瀬さんの音楽作りを、菊間さんも楽しみにしている。
演奏会情報
神奈川フィルハーモニー管弦楽団 定期演奏会第370回

日時: 2021年7月10日(土)14:00開演

会場: カルッツかわさき

出演: 川瀬賢太郎(指揮)、津田裕也(ピアノ)、務川慧悟(ピアノ)、松尾由美子(ナレーター)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団

曲目: サン=サーンス/組曲《動物の謝肉祭》、プロコフィエフ/交響的物語《ピーターと狼》、ショーソン/交響曲変ロ長調Op.20

料金: S席 6,000円、A席 4,500円、B席 3,000円

問い合わせ: 神奈川フィルハーモニー管弦楽団 事務局 045-226-5045(平日 11:00~16:00)

詳しくはこちら

配信情報

ライブ配信「《ピーターと狼》からヒモ解く! プロコフィエフの時代と音楽」

YouTubeのONTOMOチャンネルでは、7月1日(木)19時から約1時間、対談「《ピーターと狼》からヒモ解く! プロコフィエフの時代と音楽」をライブ配信します。

 

菊間史織さんと 音楽学者の伊東信宏さんが、「《ピーターと狼》が世界中で愛される理由」「ソ連の児童劇場ってどんなところ?~作品が生まれた時代背景」「プロコフィエフの人物像に迫る」をテーマに対談!

ぜひチャンネル登録・リマインダーを設定してお待ちください。

取材・文
菊間史織
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菊間史織 音楽学者

1980年東京都生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科、同大学院修了(音楽学博士)。音楽教育に携わりながらプロコフィエフ研究を続ける。最近の論文に「ソ連版《シンデレラ》と...

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