インタビュー
2023.01.30
オルガン・コンサート・シリーズ「オルガンavec」第1弾が2月11日に開催

バッハの時代のように身近で聴けるパイプオルガン×弦楽器の響きを中田恵子がプロデュース!

神奈川県民ホールでオルガン・アドバイザーを務める中田恵子さんにインタビュー! 新シリーズ「オルガンavec」の企画について、選曲の意図や今後の展望など、詳しくお話をうかがいました。第1弾では、小ホールだからこそ叶うパイプオルガンを身近に感じられる響きによって、バッハが活躍した時代のようなアンサンブルを楽しむことができます。

取材・文
道下京子
取材・文
道下京子 音楽評論家

2019年夏、息子が10歳を過ぎたのを機に海外へ行くのを再開。 1969年東京都大田区に生まれ、自然豊かな広島県の世羅高原で育つ。子どもの頃、ひよこ(のちにニワトリ)...

©Taira Tairadate

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小ホールで身近に感じるあたたかいオルガンの響き

——神奈川県民ホールのパイプオルガンを、初めて弾いたのはいつごろですか?

中田 神奈川県民ホールのオルガンは、ドイツのクライス社製で、東京藝大の教室にある楽器と同じ会社のものです。なので、受験の時期にオルガンの練習のために県民ホールに訪れたのが最初です。

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——中田さんは、さまざまなホールのオルガンを演奏されていますが、神奈川県民ホールのオルガンの特徴や響きの魅力などを教えてください。

中田 オルガンが置かれているのは、大ホールではなく、小ホールです。

オルガンは、大ホールに置かれているケースが多いと思います。そのほとんどのオルガンは、客席から遠く離れた高い場所にあります。

神奈川県民ホールのオルガンは、舞台の真正面に置かれているので、とても近くにあるような感じがします。客席も430席程度ですので親しみやすいと思います。オルガニストがどのように弾いているか、どんな動きをしているかを見ることができ、オルガンと客席との距離も近いのでダイレクトに聞こえます

オルガンは建物に備え付けられており、空間そのものがひとつの楽器のようです。

中田恵子(なかた・けいこ)
東京女子大学文理学部社会学科卒業後、東京藝術大学音楽学部器楽科オルガン専攻卒業。同大学院音楽研究科修士課程を卒業時、修士論文ではJ.S.バッハ《トッカータ ハ長調》(BWV564)をめぐる演奏解釈を論じ、日本オルガニスト協会年報誌JAPAN ORGANIST 第38巻に掲載される。その後渡仏。パリ地方音楽院で研鑽をつみ、審査員満場一致の最優秀の成績で演奏家課程を修了。これまでにオルガンを湊恵子、三浦はつみ、廣野嗣雄、廣江理枝、クリストフ・マントゥの各氏に師事。チェンバロを大塚直哉、鈴木雅明、ノエル・スピートの各氏に師事。
2013年にフランスのビアリッツにて行なわれた第11回アンドレ・マルシャル国際オルガンコンクールにて優勝。併せて優れた現代曲解釈としてGiuseppe Englert賞を受賞する。帰国後もヨーロッパ、ロシア演奏ツアーをはじめ、国内外で幅広い演奏活動を行なう。2021年4月より神奈川県民ホールオルガン・アドバイザーに就任。
©Taira Tairadate

——音色はいかがでしょうか?

中田 音色は、わりとしっかりしていますが、キーンとした響きではなく、心地よいです。ドイツ製の楽器なので、ドイツの作品に向いていると思いますが、幅広くいろいろなレパートリーにも対応できます。音の選び方で、曲目に合わせてうまく表現を作ってくれるような良さもあり、あたたかみの感じられる楽器だと思っています。

神奈川県民ホール小ホールのパイプオルガン
©Hiroshi Togo

——中田さんは、「オルガン avec」のシリーズ第1回で、バロック・アンサンブルと共演します。他の楽器と共演するシリーズを企画しようとした理由を教えてください。

中田 ホールの大きさが、バロックのアンサンブルにも適していると思いました。バッハが活躍していた時代は、アンサンブルをポジティフオルガン(一段の手鍵盤のみの小さいオルガン)ではなく、備え付けのパイプオルガンで演奏していたそうです。

オルガンが教会に置かれている場合、バルコニーに置かれていることがほとんどで、そのバルコニーには器楽を演奏する人が入れるくらいのスペースがあります。そのバルコニーの様子を再現する空間に、小ホールの舞台はちょうどいい大きさなのではないかと思いました。

バッハがカントル(音楽監督)を務めていたライプツィヒの聖トーマス教会のオルガンバルコニー。

パイプオルガンが弦楽器を包み込むような響きに

——演奏する曲について、ドイツ語圏のバロックから古典派の作品が並んでいます。選曲のコンセプトを教えてください。

中田 アンサンブルのなかで、オルガンが活躍する曲を入れたいなと思ったのですが、オルガンが目立つものばかりではなく、オルガンが伴奏的な役割をする作品も入っています。

バッハは、オルガン協奏曲を作曲していません。でも、カンタータの作品のなかには、オルガンが華々しく活躍する独奏部分を含むカンタータもあり、そういう作品を弾いてみたいと思っていました。オルガン独奏の協奏曲のような作品ですね。

モーツァルトの教会ソナタのように、オルガンが通奏低音(バロック音楽の伴奏形態の一種)を演奏するようなところもあります。これらも弦楽器のアンサンブルのなかでオルガンが独奏のように活躍する作品もあり、オルガン・バルコニーで演奏されていました。

通奏低音にしても、独奏として活躍する曲にしても、備え付けのオルガンを使い、こうした小ホールの親密な空間でアンサンブルをする機会はあまりないと思います。ずっとやってみたかったことを詰め込んだプログラムとなりました。

神奈川県民ホールの小ホール
©Hiroshi Togo

中田 バッハ作曲のチェンバロ協奏曲もプログラムに入っていますが、当時、鍵盤楽器は明確な区別なく使われていた背景もあるので、チェンバロ曲をオルガンで弾いてみてもいいかなと思いました。今回演奏するチェンバロ協奏曲 第4番の原曲は、オーボエ・ダモーレの協奏曲だったと言われています。バッハ自身、一つの協奏曲を違う楽器のために臨機応変に編曲していたということですね。

私のソロも入れました。《トッカータとフーガ へ長調》のトッカータはかなり壮大で、たった一人で協奏曲を演奏するような曲です。

——オルガンは、空気で音が発せられる楽器です。弦から音が紡ぎ出される弦楽器とのアンサンブルって、ユニークですね。

中田 オルガンは、ピアノのような減衰してしまう音ではなく、厚みのある音をもっています。通奏低音の演奏の際、左手は弦楽器のチェロやコントラバスと同じパートを弾くので、発せられる音が膨らんでは消えていく弦楽器の響きに合わせなければなりません。それを、はみ出ないように少し早く切ったり、早く出過ぎないようにうまく重ねたりします。弦楽器とオルガンが重なり合った音は、すごく魅力的だと思っています。

——今回の共演で、オルガンとバロック・アンサンブルの双方の、どんな面が引き出されると思いますか?

中田 大オルガンで弾くことにより、弦楽器を包み込むような響きになるのではないかと思います。協奏曲の独奏部分では、ポジティフオルガンで弾くよりも、奥行きや迫力が出るのではないかな。バルコニーで鳴っていた当時のバランスに近付けたらいいなと思っています。

——弦楽器は、ガット弦(羊の腸でできた弦)を使うのですか。

中田 はい。小ホールの空間でバロック楽器の魅力を存分に味わっていただけるのではないかと思っています。

——共演者について教えてください。

中田 ヴァイオリンの長岡さんは、藝大時代のバッハカンタータクラブの先輩です。そのときから、音楽的にも精神的にも頼れる先輩でした。横浜シンフォニエッタなどでの共演はありますが、小さな編成で共演させていただくのは初めてです。今回は、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタもご一緒します。バロック・ヴァイオリンと大オルガンの通奏低音がどんな響きを生み出すか、今から楽しみです。

チェロ&ヴィオラ・ダ・ガンバのジラールさんは、以前からCDやコンサートで演奏を聴かせていただいて、その音楽に惹かれ、いつかご一緒したいと思っていました。ヴィオラ・ダ・ガンバの音色が好きで、バッハのヴィオラ・ダ・ガンバのソナタをガンバとオルガンで試してみたいと思っていたので(本来はヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロで演奏する)、プログラムにも入れさせていただきました。

コントラバスの西澤さんは、バッハ・コレギウム・ジャパンで通奏低音を一緒に弾かせていただいたことがあります。そのとき、私は初めてバッハ・コレギウム・ジャパンで演奏させていただのですが、緊張しつつも西澤さんのコントラバスに支えられて弾くのが楽しくて仕方なかったんです。

ヴァイオリンの大光さん、ヴィオラの吉田さんは私は初めての共演なのですが、さまざまな場面でのご活躍を拝見しており、今回の出会いを本当に光栄に、楽しみに思っています。

長岡聡季(ヴァイオリン)
大光嘉理人(ヴァイオリン)
吉田篤(ヴィオラ)
エマニュエル・ジラール(チェロ、ヴィオラ・ダ・ガンバ)
©︎Fotofolly
西澤誠治(コントラバス)
©︎読響

オルガンとさまざまなジャンルの化学反応を楽しむシリーズ

——このシリーズでは、今回はバロック・アンサンブルですが、今後はどういう共演を見ることができるのでしょうか?

中田 まだ考えている段階ですが、楽器との共演にとどまらず、オルガンとさまざまなジャンルをかけ合わせていくシリーズにしたいと思っています。

県民ホールの空間を活かし、他ジャンルとの化学反応を楽しめるようなことをやっていきたいですね。

——演奏の舞台となる神奈川県民ホールについて教えてください。

中田 県民ホールのすぐそばには海があります。それだけでも、気持ちがワクワクします。そして、近くに大きな客船が泊まっていて、汽笛の音がホールのなかにも聞こえるのです。

横浜は、海外から文化が入ってくる玄関口だったと思います。芸術に対しても、とても開かれた思いをもたせてくれます。海からの新風を受けて、お客さまも私自身も自由にいられる、そんな雰囲気を感じられる素敵なホールだと思っています。

公演情報
オルガン avec バロック・アンサンブル

日時: 2023年2月11日(土・祝)15:00開演

会場: 神奈川県民ホール小ホール

出演: 中田恵子(オルガン)、長岡聡季、大光嘉理人(ヴァイオリン)、吉田篤(ヴィオラ)、エマニュエル・ジラール(チェロ、ヴィオラ・ダ・ガンバ)、西澤誠治(コントラバス)

曲目: J.S.バッハ/カンタータ《心も魂も乱れはて》BWV35より「シンフォニア(協奏曲)」、ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ第1番 ト長調 BWV1027、モーツァルト/教会ソナタ 第1番 KV67、第10番 KV244、第17番 KV336、J.S.バッハ/トッカータとフーガ ヘ長調 BWV540、ヘンデル/オルガン協奏曲 第4番 ヘ長調 op. 4-4 HWV292、J.S.バッハ:ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 BWV1023、チェンバロ協奏曲 第4番 イ長調 BWV1055

料金: 3,500円、学生(24歳以下・枚数限定)2,000円

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取材・文
道下京子
取材・文
道下京子 音楽評論家

2019年夏、息子が10歳を過ぎたのを機に海外へ行くのを再開。 1969年東京都大田区に生まれ、自然豊かな広島県の世羅高原で育つ。子どもの頃、ひよこ(のちにニワトリ)...

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