天野正道~吹奏楽との出会い、仕事、魅力を語る【後編】
ありとあらゆるジャンルで活躍を続けてきた作・編曲家で指揮者の天野正道さん。後編では、いつも側にあった「吹奏楽」のお話を中心に、作編曲の流儀、作曲家・三善晃さんとの歴史的エピソード、そして吹奏楽の可能性を伺いました。インタビュアーは指揮者で、吹奏楽の世界でも大活躍中の野津如弘さんです!
1977年、仙台生まれ。早稲田大学第一文学部卒。東京藝術大学楽理科を経てシベリウス音楽院指揮科修士課程終了。現在、常葉大学短期大学部音楽科非常勤講師。 HP http...
ジャンル問わず、クラシックだけではなくジャズもポップスも演歌もできる。それだけ吹奏楽には表現力があるという証だと思います 天野正道
天野正道の吹奏楽作・編曲論~三善晃の名曲のきっかけに?
——吹奏楽作品についてはいかがでしょうか?
天野 例えば《ラ・フォルム・ドゥ・シャク・アムール・ションジュ・コム・ル・カレイドスコープ》という作品があります。これは元々アンサンブルの《ラ・フォルム・ドゥ・シャク・アムール》という作品と《カレイドスコープ》という作品を、秋田市の先輩である佐川聖二さんの依頼でくっつけたものなのです。「先輩の命令は絶対!」ということで(笑)。
▼天野正道:《ラ・フォルム・ドゥ・シャク・アムール・ションジュ・コム・ル・カレイドスコープ》
天野 柏市立柏高校の石田修一先生(当時)がコンクールで取り上げた際には、いろいろ付け加えたりもしています。僕は、コンクールでやる場合はあまり制約しないんです。その団体によって事情があるだろうから。オーボエがいないからフルートでやってもいいですか? とか、縦が合わないからサスペンディド・シンバルを加えてもいいですか? とか。臨機応変にOKしています。その代わり、定期演奏会でやるときは元に戻してね、という具合です。
ちなみに《ラ・フォルム・ドゥ・シャク・アムール》に出てくる《シェエラザード》からの引用は、高3の時初めて全国大会に出場した自由曲《シェエラザード》第2楽章を吹いた思い出です。
——秋田南高校のためにアレンジされた作品についてもお聞かせください。
天野 髙橋紘一先生の時には僕から提案していました。先にも挙げた作品で5年連続金賞を受賞した翌年の特別演奏ではオリジナル作品《Jeux III》を演奏してもらいました。三善先生の作品をアレンジした時には、先生のお宅へ電話をしてアレンジの許諾をいただきました。後日、全国大会のLPをお持ちしたのところ、手紙をいただいて「吹奏楽でこんなことができるんですね!」とびっくりなさっていました。「楽譜も送ってちょうだい」とおっしゃって「へえ、こうなるんだ!」などと感想をちょうだいしました。その後、《交響三章》などもアレンジして、三善先生ご自身も吹奏楽の可能性を見出され、のちの課題曲《深層の祭》をお書きになるきっかけになったのではないかと思います。
——歴史的なエピソードですね!
▼三善晃が吹奏楽コンクールのために作曲した伝説的な作品《深層の祭》
天野 その頃はとにかくオリジナルの響きにどう近づけるか、を念頭にアレンジしていました。三善先生の作品は声部が多いので、弦のディヴィジなどどう吹奏楽で再現するか悩みました。その結果クラリネット1本1パートで9パートという形になりました。できるだけオリジナルの雰囲気を壊さないように腐心してアレンジをしました。
後にラヴェル作品をアレンジした際は、逆にそのままやったら鳴らないという体験もしました。オーケストレーションがあまりに素晴らしいから、吹奏楽に移した際に、間引かないといけないのです。最初はまずスコア通りに埋めて、音にしてみて間引いていく作業ですね。
木管パートにフリューゲルホルンを加えることで、新たな響きを生み出そうという工夫もしています。今はサックスを上手に配置するのが普通ですが、あえてアドルフ・サックスも提唱していたようにサックス群を後ろに並べて、隣にフリューゲルを横向きに配置して吹かせることで木管の響きを補おうという方法です。
また、《ラ・ヴァルス》では冒頭、ユーフォニアムの2人とチューバの2人がコントラバスに回ってイントロはコントラバス6本にしたり。これは毎年秋田南高校にいって、その年の編成や技量を見て決めています。後にシエナでやった時は流石にコントラバス6本は無理だということで、ピアノを入れたりしています。
▼ラヴェル/天野正道による吹奏楽編曲:《ラ・ヴァルス》 秋田県立秋田南高等学校による演奏(抜粋)
ジャンル問わず、クラシックだけではなくジャズもポップスも演歌もできる。それだけ吹奏楽には表現力があるという証
——現在、取り組まれている作品について教えてください。
天野 9月には川崎・大阪で、「エヴァンゲリオン・ウインドシンフォニー」コンサートが開催されます。そのアレンジに取り組んでいます。10月にはOsaka Shion Wind Orchestraの第7回京都定期演奏会があり、《GR》の新バージョンをパイプオルガン付で、オケ版から作り直しています! また、ロンドンでのレコーディングのために鷺巣さんの作品のアレンジも並行してやっているところです。
——大忙しですね!
天野 移動の時も曲を書いていますし、僕はもともと睡眠時間が短くても平気で、若い時から3〜4時間で済んでいるのです。歳を取ってきた最近の方が長くなって4〜5時間でしょうか。そして、いつでも曲のことを考えていますから。最初にスケッチを書いてコンデンス・スコアを作るのですが、そこは時間がかかるものの、オーケストレーションは早いです。頭の中で音が鳴るので。そして、オーケストレーションをしながら今度は別の曲のスケッチ作って、という具合です。
——昨年のバンドジャーナル委嘱作品《クヮドリュプレ》も出版されるそうですね。
天野 はい、バンドジャーナル45周年記念《ル・ボゥ・ジャポン》は陸上自衛隊中央音楽隊をはじめさまざまなバンドに演奏していただきました。《クヮドリュプレ》は小編成から演奏可能ですので、ぜひ演奏してください。
——最後に天野さんにとっての、吹奏楽の魅力をお聞かせください。
天野 ジャンル問わず、クラシックだけではなくジャズもポップスも演歌もできる。それだけ吹奏楽には表現力があるという証だと思います。聴き手も演奏者も老若男女問わず、地域と密着した活動も魅力です。何かに偏らない良さを楽しめるのが吹奏楽の良さでしょう。
【川崎】
日時:2024年9月1日(日) 16:00開演
指揮:天野 正道
ゲストシンガー:高橋 洋子
ゲストトランペット:エリック・ミヤシロ
吹奏楽:東京佼成ウインドオーケストラ
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
【大阪公演】
日時:2024年9月8日(日)15:30開演
指揮:天野 正道
ゲストシンガー:高橋 洋子
ゲストトランペット:エリック・ミヤシロ
吹奏楽:Osaka Shion Wind Orchestra
会場:大阪国際会議場 メインホール
詳細はこちらから
日時:2024年10月5日(土) 14:00開場/15:00開演
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