インタビュー
2021.04.23
4月の特集「嘘」/アニメ『四月は君の嘘』作曲者インタビュー

『四月は君の嘘』という転機〜横山克が語る作曲における「嘘」とは?

数々のアニメやドラマの劇伴を手がける作曲家・横山克さんにインタビュー! クラシック音楽を題材にしたアニメ『四月は君の嘘』は、横山さんの音楽人生を大きく変えた作品だそう。自身の経験と重なるこの作品の登場人物について、そして「音楽と嘘」の関係について、アニメをすべて観ている室田尚子さんがお話をうかがいました。

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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主人公は音が聴こえなくなってしまった15歳の男の子

4月といえば嘘(エイプリル・フールだから)、ということで特集「嘘」で取り上げるにふさわしい、その名も『四月は君の嘘』(略称「君嘘」)というマンガがあることをご存知でしょうか。『月刊少年マガジン』に2011年5月号から2015年3月号まで連載され、2013年講談社漫画賞少年部門を受賞した新川直司のヒット作です。2014年秋から15年春にかけてアニメ化され、また2016年には実写映画も公開されています。

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主人公の中学3年生の少年・有馬公生は、かつて「神童」と呼ばれ、数々のコンクールを総舐めにしたピアニストですが、指導者だった母親の死をきっかけに、ピアノの音が聴こえなくなってしまいます。そんな公生が同い年のヴァイオリニスト・宮園かをりとの出会いをきっかけに音楽の世界に復活し、再びコンクールに挑戦することになります。しかし、かをりは不治の病に冒されており、公生のコンクールの当日、ついに帰らぬ人に。その後公生に届けられた手紙には、かをりが隠していたある「嘘」が綴られていたのでした……。

アニメ『四月は君の嘘』PV

アニメ版には、サン=サーンス「序奏とロンド・カプリチオーソ」、ショパンの「エチュード」作品10-4、クライスラー「愛の悲しみ」など数々のクラシックの名曲が登場。ほかにも、美しいアニメーションにピッタリと合った音楽がとても印象的な作品です。今回、そのアニメ版の音楽を手がけた横山克さんにお話を伺うことができました。作曲家・横山克が考える「音楽と嘘」の関係とは。

アニメ『四月は君の嘘』コンピレーションアルバムより
サン=サーンス:「序奏とロンド・カプリチオーソ」、ショパン:「エチュード」作品10-4、クライスラー:「愛の悲しみ」

音楽とアニメーションの幸福な融合

——アニメ『四月は君の嘘』でいちばん驚いたのは、絵と音楽が見事にマッチしていたことです。クラシック作品がそのまま使われている場面も、またアレンジが施されている場面もありましたが、音楽制作はどのように行なわれたのでしょうか。

横山 まず、作中で流すクラシック作品のほかにどのようなサウンド感が必要なのかを、プロデューサー、監督、音響監督、アニメーション監督と一緒に話し合いながら決めていきました。そして、僕がそれぞれのモティーフやイメージに沿って曲を作り、そこから音響監督の明田川仁さんがシーンに合わせて選曲をしていきます。この作品は本当に特別で、関わる全スタッフ……監督、脚本、プロデュース、役者、美術、アニメーター、CG、宣伝、音響……書ききれないくらい本当にすべての人が原作の世界の素晴らしさに感銘を受けていたので、プロデューサーは「決してお仕事としてやってくれるな」という姿勢でもあり、時間は非常にたっぷりととられていて、一度も締め切りに追われるようなことはありませんでした。関わる人全員が、「君嘘の世界に」に真摯に取り組んだ作品だったと思います。

横山克(よこやま・まさる)
1982年生まれ、長野県出身の作曲家/編曲家。長野工業高等専門学校電子情報工学科、国立音楽大学作曲学科卒。
大学在学中の2005年より作曲家として活動し、ドラマ、アニメ、映画、ドキュメンタリーなどの映像音楽を中心にアーティストへの楽曲提供やCMなどの作編曲も手掛ける。映画では『ちはやふる』『ヒロイン失格』『心が叫びたがってるんだ。』、アニメでは『四月は君の嘘』『機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ』、ドラマでは『Nのために』『夜行観覧車』『僕のヤバイ妻』、ドキュメンタリーでは『クローズアップ現代+』『ファミリーヒストリー』など多数。ももいろクローバーZ「Chai Maxx」「白金の夜明け」などの楽曲提供でも知られる。

——ところで、最終話で、公生がショパンの「バラード第1番」を演奏しますが、そこにかをりのヴァイオリンが絡んできて二重奏になります。あのアレンジは本当に背筋がゾクゾクしました。

横山 公生が最後に弾く曲は、原作漫画の担当編集の方の提案だったんですが、かをりと一緒に弾くというアイデアが出たとき、僕は「難しいですよ」と言ったんです(笑)。でも、実際の演奏担当がピアノ・阪田知樹さんとヴァイオリン・篠原悠那さんという実力者だったので、お二人なら叶うと思ってアレンジしました。作中ではとうとう一度しか一緒に演奏できなかった公正とかをりへのプレゼントでもありました。

自分の経験とも重なる「君嘘」が作曲家としての転機に

——クラシック音楽を題材にしたアニメの音楽を担当するというのは、なかなか勇気が必要だったのではないかと思うんですが……。

横山 このお話をいただいたとき、たしかに怖さもあったんですが、それ以上に運命的なものを感じました。原作漫画に描かれているエピソード、例えば上手に弾けないとピアノの椅子を蹴られるとか、楽譜を投げつけられるとか、そういうピアノのレッスンにまつわるあれこれは、自分も経験してきたことで……音楽というのは楽しいだけじゃなくて苦しいことがたくさんあって、それを乗り越えていかなければいけないんだということが描かれていたことに感銘を受けたんですね。これほど自分の生き様すら揺さぶられる作品で自分の最高の表現が成し得なかったら、僕は音楽家として何者にもなれないという覚悟を持って臨みました

——実際に作曲していくうえで大切にしていたことはありますか。

横山 僕はもともと、クラシカルなオーケストラとコンピュータでしかできない音響表現との間を行き来している人間ですが、今の時代、そのこと自体はまったく新しいことではありません。でも、それらの素材の組み合わせによって面白いものが生まれると思っていて、実は「君嘘」でその作業を相当追求しました。

例えば、「ピアノの音が聴こえない」という状況を表現するにはどんな音響がいいのか、「(公正の日常がかをりに出会って)カラフルに色づいていく」ことを表現するのはどんな音楽なのか。そうしたクラシックの楽器を元にした音響表現を本当にたくさん考えました。だから「君嘘」は僕の今の音楽スタイルを決定づけた作品と言っていいと思います

映画『耳をすませば』が大好きだという横山さん。「君嘘」も自身の経験に通じるものがあり、かをりの音楽家としての覚悟に胸を打たれたそう。

——かをりがずっとついていた「嘘」が最後に明かされるわけですが、作曲上「嘘」というテーマは意識されていたんでしょうか。

横山 僕だけかもしれませんが、「君嘘」は「青春ラブストーリー」じゃないと思ってるんです。苦しくても辛くても、音楽を求め続け、それを乗り越えていくことで人はなんとか前を向けるということが描かれていて、それは作中でかをりが言う「私たちはそうやって生きていく人種なの」というセリフに象徴されています。そういう感情が、最後にかをりの「嘘」によって浄化されていく。それを表現したいと考えていました。

——かをりに与えられていた音楽がとてもポジティブなものだったのは、横山さんの彼女に対する共感があったからでしょうか。

横山 ほかに選択肢はない、何を捨てても、何が起こっても、私は音楽をやる、だから曲がらない強さをかをりは持っていますよね。僕も作曲をやりたいと言ったときに周りのほとんどの人に猛反対されて、それでも僕の一度きりの人生にはこれしかないという思いでやってきたので、同じなんです。僕も今でも厨二病なんですよ(笑)。

ものをつくることは壮大な「嘘」

——横山さんはアニメや映画、ドラマなどのいわゆる「劇伴」を数多く手がけていらっしゃいますが、そうしたコンテンツの魅力はどこにあると思われますか。

横山 アニメにしてもドラマ、映画、絵画だって、すべての表現は「作りもの」、つまり壮大な「嘘」ですよね。フィクション、虚構だからこそ描けるものがあるというのがとても面白いと思うんです。実はクラシック音楽も同じで、その時代時代で革新的なものは、「嘘」を積み重ねてきたところから生まれてきたのではないでしょうか。そしてそんな「嘘」の積み重ねから生まれた表現が、人に真摯な感動を与えるというところが、芸術の面白さだと思います

——ものを作ることは壮大な「嘘」なんですね。

横山 だから僕は、音楽単体よりも何らかのコンテンツと結びついた表現にこだわっていきたいと思っています。1+1が2ではなく3や5や10になるのが面白い。僕の音楽という「嘘」が、コンテンツという「嘘」と結びついたときに起きる化学変化にすごく興奮させられるんです。

コロナ禍では大好きな旅行や映画館、美術館などを控えなければならず、創作意欲にも影響があり、心の豊かさに直結していることを感じたという。
横山克さんも出演!『四月は君の嘘』の音楽を生演奏で楽しめる
ノイタミナ presents シネマティックオーケストラコンサート

日時: 2021年5月29日(土) 15:00開演、19:00開演の2回公演、5月30日(土)11:00開演、15:00の2回公演

会場: 東京国際フォーラム ホール C

出演: 菅野祐悟、横山克、小畑貴裕、サラ・オレイン(30日のみ)、米田覚士(指揮)、東京21世紀管弦楽団(オーケストラ)

曲目: アニメ『図書館戦争』『四月は君の嘘』『約束のネバーランド』より

料金: S 席8,000 円、A 席7,000 円、B 席(スクリーンの一部が見切れる可能性があります)6,000 円(税込/全席指定)

来場者特典として会場にてオリジナルグッズプレゼント

問い合わせ: サンライズプロモーション東京   0570-00-3337  (平日 12:0015:00

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取材・文
室田尚子
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室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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