インタビュー
2023.10.08
舞台人が語る「WE LOVE MUSICAL!!」第8回

廣瀬友祐「芝居として自分のパーソナルな部分を染み込ませた歌を」〜『スリル・ミー』で挑む2人だけの舞台

注目の舞台人が、ミュージカルの魅力を語る連載「WE LOVE MUSICAL!!」。第9回は、話題のミュージカルにひっぱりだこの廣瀬友祐さんが登場。現在、東京で舞台出演中の『スリル・ミー』への思いや共演している尾上松也さんとのエピソード、転機になった舞台などについてうかがいました。

取材・文
NAOMI YUMIYAMA
取材・文
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...

写真:各務あゆみ

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廣瀬さんが出演するミュージカル『スリル・ミー』は、1920年代、全米を震撼させた2人の天才によって引き起こされた事件を基にした心理劇。スリルを味わいたいために誘拐殺人事件を起こした青年—“私”と“彼”—を主人公に、2人の過去に秘められた衝撃的な真実を描く。

2005年にオフ・ブロードウェイで開幕し、日本では栗山民也さんの演出で2011年に初演。廣瀬さんは尾上松也さんとペアを組み、スリリングな100分間の二人舞台に挑む。舞台は東京で上演後、10月7日から大阪公演がスタート。

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『スリル・ミー』の100分間に詰め込まれた魅力

——舞台に登場するのは、“私”と“彼”と一台のピアノだけ。ミュージカル『スリル・ミー』は、そんなミニマルな舞台で緊迫した心理戦を繰り広げる作品です。現在、東京で“彼”役で出演中ですが、作品の感想はいかがですか?

廣瀬 およそ100分という時間の中に衝撃的なことがいっぱい詰まっていて、ひとつのテーマに収めることができないほどいろんな魅力のある作品です。本当に多くの要素が詰まっているので、演じる側としては“やりがいの塊”ですね。

廣瀬友祐(ひろせ・ゆうすけ)
1985年生まれ、東京都出身、山梨県小淵沢育ち。代表作としてミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『太平洋序曲』『1789 ~バスティーユの恋人たち〜』『ウエスト・サイド・ストーリー』Season 2 『フラッシュダンス』『エニシング・ゴーズ』『イントゥ・ザ・ウッズ』など。『モダン・ミリー』で第30回読売演劇賞最優秀男優賞を受賞するなど、多彩な舞台で活躍。音楽活動も展開しており、今年6月に最新アルバム「refresH」をリリースし、東名阪ツアーも開催した。

——世界ではこれまで33か国で上演され、日本でも8度再演されるほど愛されているこの作品に、新キャストとしてオファーされた時の気持ちは?

廣瀬 実はオファーされるまで、僕自身はこの作品を観たことはなかったんです。でもなんとなく以前からいろんな方に「廣瀬がやるなら“彼”だよね」と言われていたので、ぼんやりとした“彼”のイメージはありました。出演が決まるとすぐ、知人たち—新納信也さんや田代万里生さん、福士誠治さん—に話を聞いたり、資料をもらったりして準備を進めました。

——本作はかなりセンセーショナルな内容で、以前、廣瀬さんも「舞台に出ることに初めて恐怖を感じた」とコメントされていました。今はその気持ちに変化はありますか?

廣瀬 この作品の舞台に立つ前、恐怖を感じた要素はいろいろあります。一番は、この物語が、実際に起こった凶悪殺人を描いた物語だったことです。どんなに考えても、殺人を起こした2人のマインドやその答えを理解することはできないんじゃないか。そんな思いを抱えたま、本番が始まった気がします。ただ、稽古で演出家の栗山さんが、何度か「人間は不条理なものだ」とおっしゃったんです。その言葉に、自分の中で何かが腑に落ちました。

——初演からこの作品を手掛けている栗山民也さんは日本を代表する演出家の一人ですが、ほかに印象に残った事はありますか?

廣瀬 僕は演劇に携わるなかで、“ザ・喜び”、とか“ザ・悲しみ”とか、セオリーどおりのわかりやすい表現があまり好きじゃなかったんです。そんななか、栗山さんは役者の演技に対して「わかりやすいことをするな」じゃないんですけど、「あそこはもうちょっとわかりづらく」とおっしゃるんですよ。その言葉に「意味がわかりづらいほうがおもしろいよね」という栗山さんの感性を感じて嬉しかったですね。お客様を無視するわけではないのですが、舞台の二人にしかわからない表現があってもいいんじゃないか。そこにチャレンジさせてくれた稽古はとても楽しかったです。

——今回ペアを組んだ“私”役の尾上松也さんとはいかがですか?

廣瀬 松也さんとは役作りについては何も話をしなかったんです。他愛のない話はいっぱいしたんですけど(笑)。ただ、松也さんの“私”は最初から“彼”より1枚も2枚もうわてな感じで、稽古場で松也さんが第一声を発した瞬間、これは“私”の物語で、そこに自分が“彼”としてどう立てばいいかが見えたんです。尾上松也、すげーな! って思いましたね(笑)。松也さんとなら普段はできないような実験的な試みや、現代アートのようにお客様に能動的に感じていただける舞台を作れる気がしています。

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