インタビュー
2023.12.18
新シーズンもウィーンで活躍した作曲家の「ウィーン・ライン」をさらに深めていく

新日本フィル音楽監督・佐渡裕 オーケストラ音楽の王道を届け人々に「心のビタミン」を

2023年4月、新日本フィルハーモニー交響楽団の第5代音楽監督に、指揮者の佐渡裕が就任しました。佐渡さんはオーストリアで古い歴史を持つトーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督も8年来務めており、欧州の拠点をウィーンに置いて世界的に活躍中。新日本フィル音楽監督就任の際に掲げたテーマ「ウィーン・ライン」を、2024年4月からの新シーズンでもさらに深めていくとのことで、改めてこのテーマの意図するところ、そして新日本フィルだからこそできる地域との関わり方について伺いました。

取材・文
片桐卓也
取材・文
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

絶品の音響を誇るすみだトリフォニーホール、ホワイエにて
撮影:飯島 隆

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新日本フィルの存在が街の誇りとなるように

東京都墨田区の錦糸町駅近くに「すみだトリフォニーホール」がある。そこを本拠地とするのが新日本フィルハーモニー交響楽団。墨田区と新日本フィルはフランチャイズ契約を結んでいて、オーケストラはこのホールで定期演奏会を開くほか、そのためのリハーサルを行なっている。フランチャイズ契約を地元自治体と結んで活動しているプロフェッショナルのオーケストラは実は日本では珍しく、自治体とオーケストラの協力による<相乗効果>が注目されている

新日本フィルの音楽監督に2023年から就任したのが佐渡裕。海外ではトーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督を2015年から務め、日本では兵庫県立芸術文化センターの芸術監督を務めるなど、日本を代表する指揮者のひとりとして活躍中で、新日本フィルとの関わりも深い。

「新日本フィルはかつてハイドンの交響曲の全曲演奏会をカザルスホール(東京・御茶ノ水)で行なっていましたが、僕がこのオーケストラにデビューして主催公演を指揮したのも、そのシリーズのひとつの公演でした。実は今、ウィーンでも、交響曲の父と呼ばれるハイドンの作品はあまり取り上げなくなっていますが、ハイドンはとても魅力的な作曲家で、その作品の面白さは改めて注目してほしいと思っています」と佐渡裕は語る。

佐渡 裕(指揮)
Yutaka Sado,conductor
京都市立芸術大学卒業。1987年アメリカのタングルウッド音楽祭に参加。その後、故レナード・バーンスタイン、小澤征爾らに師事。89年ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。95年レナード・バーンスタイン・エルサレム国際指揮者コンクールで優勝し、「レナード・バーンスタイン桂冠指揮者」の称号を授与される。
これまでパリ管、ベルリン・ドイツ響、ケルンWDR響、バイエルン国立歌劇場管、ベルリン・フィル、ロンドン響等欧州の一流オーケストラに多数客演を重ねている。またエクサンプロヴァンス音楽祭の《椿姫》(パリ管)、オランジュ音楽祭のプッチーニ《蝶々夫人》(スイス・ロマンド管)等海外でのオペラ公演も多数指揮。現在はオーストリアで110年以上の歴史を持つトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督を務め、欧州の拠点をウィーンに置いて活動している。国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラ首席指揮者、サントリー「1万人の第九」総監督などを務めている。
CDリリースは多数あり、『チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番(BBCフィルハーモニック/辻井伸行p)』、『佐渡裕ベルリン・フィル・デビューLIVE』、『ベートーヴェン《運命》、シューベルト《未完成》』(ベルリン・ドイツ響)などの海外楽団とのCD、『ブラスの祭典』シリーズ(シエナ・ウインド・オーケストラ)などが好評を得ている。最新盤はトーンキュンストラー管を指揮した18枚目のCD「マーラー:交響曲第3番」を23年4月にリリース。
著書に『僕はいかにして指揮者になったのか』(新潮文庫)、『棒を振る人生~指揮者は時間を彫刻する~』(PHP新書)、絵本『はじめてのオーケストラ』(小学館)等がある。
2023年4月より新日本フィルハーモニー交響楽団第5代音楽監督に就任

オーケストラの土台をつくるのはウィーンの作曲家たちの作品だという想いがある

取材した時はちょうど、ハイドンとブルックナーというオーストリアを代表するふたりの作曲家の作品を並べた定期演奏会の時だった。そのふたりを含むウィーンを中心に活動した作曲家たちを、佐渡は「ウィーン・ライン」と呼ぶが、ベートーヴェン、モーツァルト、マーラーなどクラシック音楽、オーケストラ音楽の王道と言うべき作曲家たちの作品が、2024/25シーズンでも新日本フィルの土台を作っていく。

「もちろん、それ以外にも客演指揮者の方々のさなざまな個性を活かすプログラムもありますし、定期演奏会以外の〈すみだクラシックへの扉〉シリーズではロシア音楽なども取り上げて行きます。しかし、オーケストラの土台を作るのはウィーンの作曲家たちの作品だという想いがあります

地元自治体である墨田区との関わりもより深めていきたいと語る佐渡。

「兵庫県立芸術文化センターでの経験もありますが、やはりコンサートに足を運んでいない地元の方にも、この街にオーケストラがあるということを誇りに思ってもらえるような存在になるのが理想です。僕は『オーケストラは心のビタミン』だと思っていて、それが自然に地域全体に共有されていってほしいのです。そのためには僕も楽員も街へ出かけて、地域の方々と触れ合いたい。それを東京でできるオーケストラが新日本フィルだと信じています」

他にも久石譲とのコラボレーションをはじめ、さまざまな活動を展開している新日本フィルの活動を、墨田区に出かけて感じてみよう。

新日本フィルハーモニー交響楽団2024/2025シーズン 定期演奏会 佐渡裕が指揮する公演

2024年

#22 すみだクラシックへの扉 4月12日(金)14時13日(土)14時・すみだトリフォニーホール

佐渡裕/指揮

角野隼斗*/ピアノ

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 Op.23*

チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 Op.64

 

#655 定期演奏会   4月19日(金)19時・サントリーホール20日(土)14時・すみだトリフォニーホール

佐渡裕/指揮

ウエンツ瑛士*/妖精パック

小林沙羅*/ソプラノ

林美智子*/メゾ・ソプラノ

柏少年少女合唱団・流山少年少女合唱団他*/合唱

ベートーヴェン/交響曲第2番 ニ長調 Op.36

メンデルスゾーン/劇音楽《夏の夜の夢》Op.61より*

 

#658 定期演奏会   9月21日(土)14時・すみだトリフォニーホール22日(日)14時・サントリーホール

佐渡裕/指揮

ハイドン:交響曲第6番 ニ長調 Hob.I:6「朝」

ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調 WAB 107

 

2025年

#660 定期演奏会   1月25日(土)14時・すみだトリフォニーホール26日(日)14時・サントリーホール

佐渡裕/指揮

マーラー:交響曲第9番 ニ長調

 

#28 すみだクラシックへの扉   1月31日(金)14時2月1日(土)14時・すみだトリフォニーホール

佐渡裕/指揮

山川永太郎*(新日本フィル首席)/トランペット

キュウ・ウォン・ハン**/バリトン

調整中**/ボーイソプラノ

栗友会/合唱

イベール:室内管弦楽のためのディヴェルティスマン

アルチュニアン:トランペット協奏曲*

フォーレ:レクイエム Op.48**

 

問合せ:新日本フィル・チケットボックス 03-5610-3815(月~金:10~18時 土:10~15時  日祝:休)

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取材・文
片桐卓也
取材・文
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

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