船舶免許を取得!? ホルン奏者・福川伸陽が自然とのふれあいや新譜のモーツァルトを語る
ホルン奏者の福川伸陽さんがコロナ自粛期間に船舶免許を取得したらしい……ということで、「避暑」特集で海のお話を、そして、2021年8月11日に発売される新譜『モーツァルト:ホルン協奏曲全集/福川伸陽&鈴木優人』についても詳しくうかがいました!
1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...
避暑を満喫していそうなホルン奏者・福川伸陽さんを直撃!
避暑と言っても、その過ごし方は千差万別。そして、発想を逆転させ、普段の生活そのものを、まるで避暑のようなスタイルに変えてしまうという人も、このリモートワークが叫ばれるコロナ禍の状況の中ではいるかもしれない。
音楽業界ではどうなのか、といろいろと探ってみると、ホルン奏者の福川伸陽さんが「船舶免許」を取ったという噂を耳にした。
ホルン吹きが船舶免許。トランペット吹きのタモリさんも船舶免許の保持者として有名だが、管楽器奏者には船舶免許を持っている人が多いのだろうか? などと素朴な疑問がわいてくる。そこで、8月に新譜のリリースも控えている福川さんを横浜市内のとあるホールでキャッチして、お話を聞いてみた。
海の上で自然からインスピレーションを受け取る
福川 実は3年前に、都会の一隅から海辺の街へ引っ越しました。家は山側にあるのですが、海岸まで散歩に行ける距離で、時にはSUPを楽しんだりする毎日です。
海が苦手な筆者には耳慣れない言葉だったが、SUP(サップ)とは「Stand Up Paddleboat」の略で、浮力のある専用ボードに立って、パドルで水の上を進むというウォーター・アクティビティだそうだ。
福川 ボードはハードの物もありますが、空気を入れて膨らますタイプの物もあり、それをクルマに積んで浜辺まで行って、空気を入れて膨らまし、パドルで海に漕ぎ出すという遊び方です。海の上の散歩、という感じですね。
もともと乗り物好き、しかも海が好きということで、生活の拠点を海の近くに移した福川さんだが、新型コロナ・ウイルスの流行もあり、少し時間に余裕ができたので、船舶免許にも挑戦したという。
福川 でも、2級船舶免許というのは意外に簡単に取れるものなのですよ。座学もありますが、実技も入れてほぼ3日で取れてしまう。それで20トン未満の船を近海で運転できるようになります。
さすがに自前のボートを港に係留する、というところまでは進んでいないそうだが、演奏で行った先の港にあるレンタルの船は操縦できるそう。
福川 SUPもそうですが、海の上に出ていると、自然から受け取るインスピレーションがとても豊富になります。普段の生活は音楽中心なので、オフのときには音楽以外のインプットが欲しくなります。海も含めて、自分を取り巻く自然は、多くの物を与えてくれますね。
撮影:福川伸陽
最近は、移動のクルマの中で朗読(例えば太宰治の小説など)を聴いていることも多いと話すが、演奏家の多くはさまざまな趣味を持って、気分転換を計りつつ、普段の演奏への備えをしているのだなと改めて感じる。
モーツァルトが親友のために書いた協奏曲を、親友・鈴木優人の指揮で録音
ところで、この8月にはモーツァルトの『ホルン協奏曲全集』のリリースを控える福川さん。録音は2021年、つまり今年の2月にサントリーホールで行なわれた。
福川 これも、ある意味、新型コロナ・ウイルス流行の副産物と言えるかもしれません。あるところから、その日のサントリーホールのコンサートがキャンセルされたので、ホールをなにか有意義に使いませんかというお話をいただいたので、それなら以前から録音したかったモーツァルトのホルン協奏曲を録音できないか、とすぐに動き出しました。
指揮は鈴木優人、オーケストラのメンバーもNHK交響楽団のコンサートマスターを勤める白井圭などを中心に声をかけ、奇跡的にうまくスケジュールが合ったメンバーが集合した。
福川 鈴木さんとは同い年で、実は最初の出会いは作曲家と演奏者として、でした。ホルンの新作を委嘱したことが始まりで、それ以降、さまざまなところで共演を重ねるようになりました
それぞれの個性が際立つカデンツァにも注目!
今回の録音は、モーツァルトの「ホルン協奏曲第1〜4番」のほかに、《コンサート・ロンド》K.371を加えた5曲が収録されているが、大きな話題としては、藤倉大(第4番)、挟間美帆(《コンサート・ロンド》)、鈴木優人(第3番)がカデンツァを書き下ろしたことが挙げられる。
福川 モーツァルトのホルン協奏曲のエピソードは、音楽ファンならよくご存知でしょうが、彼の親友でホルン奏者でもあったヨーゼフ・ロイトゲープ(1732〜1811)のために書いた作品でした。本当にふたりは親しい関係だったらしく、ホルン協奏曲の自筆譜の中には、そのロイトゲープに向けた一種のいたずら書きのような文字も残されています。そんな作品を自分の親しい音楽仲間たちと録音できたことは、本当に幸せな時間でした。
カデンツァも録音をお聴きいただければわかるように、それぞれの作曲家によって個性豊かなものになっている。
福川 藤倉さんのカデンツァはナチュラルホルンでも吹けるような、自然倍音を活かしたものになっています。鈴木さんのカデンツァではチェンバロが乱入してきますが、もしかしたら、モーツァルトとロイトゲープが一緒に演奏していたら、そんなふうにカデンツァを展開したかもと思わせてくれます。挟間さんのカデンツァは、まさに彼女の世界観を教えてくれますが、その中にしっかりモーツァルトの世界が組み込まれています。
本当に短い期間でお願いしたのに、こんなにバラエティ豊かなカデンツァが集まるなんて、すごいことだと自分でもびっくりでした(笑)。
モーツァルトの短い、しかし多忙な人生の中で、彼が遠くの街へ避暑に出かけたという記録はないようだ。ウィーン近郊のバーデン(温泉保養地)に妻コンスタンツェが療養のために滞在していたことは、「アヴェ・ヴェルム・コルプス」を書いたエピソードから知られているが、モーツァルトはどうやって気分転換していたのだろうと、ふと思う。いや、音楽を書くことそのものが天才にとっては一種の気分転換だったのかもしれない。この「ホルン協奏曲」の新しい録音に感じる素敵な瞬間が、それを教えてくれるようだ。
関連する記事
-
ウィーン・フィル×ムーティの「第九」200周年記念公演が映画に!
-
小林海都、鈴木愛美が本選へ! 第12回浜松国際ピアノコンクール第3次予選結果
-
シューマン「神と並ぶほどに愛してやまない君にすべて知ってもらいたい」結婚前にクラ...
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly