インタビュー
2023.10.01
世界のオーケストラ楽屋通信 Vol.5 夏目友樹(シンガポール交響楽団テューバ奏者)

多様性を受け入れる文化も魅力! 東南アジアの中心的役割を担うシンガポール交響楽団

世界各国のオーケストラで活躍する日本人奏者へのインタビュー連載。オーケストラの内側から、さまざまな国の文化をのぞいてみましょう!
第5回は、シンガポール交響楽団テューバ奏者の夏目友樹さん。多様性を受け入れるシンガポールの文化ならではの過ごしやすさや独特のお休み、訛りの強い英語のことなどを教えてもらいました。

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

©︎Singapore Symphony Orchestra

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東南アジアの西洋音楽文化を牽引するオーケストラ

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——所属されているオーケストラについて教えてください。

夏目 私が所属するシンガポール交響楽団は、ナショナルオーケストラとして、また東南アジアの中心のオーケストラとして、西洋音楽文化の牽引役のような立ち位置にいるのかなと思っ ています。

プログラムではバロックから現代音楽まであらゆるジャンルを幅広くとりあげ、大編成にも小編成にも対応します。 シンガポールという国柄を反映するように、オーケストラは多国籍で、特に管楽器セクションは7割ほどがシンガポール外から入団した方々です。シンガポールという国に感じる印象と同様に、他を尊重できる良い職場だなと思っています。

夏目友樹(なつめ・ともき)
大阪府生まれ。関西学院大学経済学部を卒業後、チューリッヒ芸術大学(スイス)にて学士号及び修士号を取得。2018・2019年度ヤマハ音楽振興会奨学生。
在学中オーディションに合格し、アジアユースオーケストラ(2014)、ルツェルンフェスティバル・オーケストラアカデミー及びヴェルビエフェスティバル・ジュニアオーケストラ(2017)、シュレスヴィヒ-ホルシュタイン祝祭管弦楽団(2018)、パシフィックミュージックフェスティバルオーケストラ(2019)へ参加する。
また、国内外のコンクールにおいて賞を受賞し、ポルチア国際チューバコンクール2016(イタリア)においてファイナリスト、ディプロマ取得。チャイコフスキー音楽院チューバコンクール2017(ロシア)において第2位、2019年日本管打楽器コンクールにおいて第3位を受賞。
これまでにチューバを吉野竜城、鈴木浩二、アネ=イェレ・フィサーの各氏に師事。シンガポール交響楽団首席チューバ奏者、ビュッフェ・クランポンアーティスト。

——なぜこのオーケストラに入ろうと思ったのですか?

夏目 基本的にテューバ奏者はオーケストラで1人だけというポジションのため、団員募集がそもそも少ないなかで、運とタイミングに恵まれたのかなと思っています。 学生の頃から劇場のオーケストラよりシンフォニーオーケストラに入りたいと思っていたので、アジアの中でも比較的大きな規模を持つシンガポール交響楽団はとても魅力的でした。

——楽団員とのコミュニケーションは何語でされていますか?

夏目 私は英語でコミュニケーションをとっていますが、なかには中国語やドイツ語、ロシア語等 でコミュニケーションをとっている楽団員もいます。

外国人だということを忘れるくらいのびのびとしていられる

——お国柄を感じたエピソードや日本とは違うなぁと感じる点を教えてください。

夏目 日本では一般企業でしか働いたことがないので、日本の音楽業界との比較はできません が、私が以前働いていた会社では、なかなか自分の練習時間や趣味の時間等は取ることが難しかったです。それに比べてシンガポールでは、オーケストラ並びに一般企業においても、自分や家族の時間を大切にする人が多いなという印象です。

シンガポールならではの休みもあります。中華圏や華人・華僑の多い国・地域では、旧正月は国の祝日で、我々のオーケストラでは 2 週間ほどお休みをいただいています。また、毎年開催される F1(フォーミュラ 1)の時期には、街中の道路が F1レースのため通行禁止となり、コンサートホールに辿り着くことが不可能となるため 1 週間ほど休みとなります。

私はテューバ奏者なので曲目の関係上、上記の休みに加えて月まるまる休みなんてこともあるので、同僚からも友達からもよくうらやましがられます(笑)。

主要ホールの一つ、エスプラナード・コンサート・ホールでの演奏会より。収容人数1800人の大規模なホール。
©︎Singapore Symphony Orchestra
エスプラナード・コンサート・ホールの外観。

——これまでに一番カルチャーショックだったことはなんですか?

夏目 シンガポールでは英語が公用語ですが、その訛りゆえにシングリッシュと言われることがあります。最初にこの国に来たときには、本当に何語で喋っているのかわからず、慣れるまでとても苦労しました。

また、クリスマスのシーズンになるとシンガポールでも街中クリスマス一色なのですが、 みんな半袖です。汗をかきながら過ごすクリスマスは日本育ちの私からすると奇妙な光景ですが、常夏の国で四季がなくても、各シーズンを楽しんでいます。 

——「この国に来てよかった!」と感じるのはどんなときですか?

夏目 たまに私がここでは外国人だということを忘れるくらい、シンガポールには多様性を受け入れる文化があると思います。さまざまな考え方があるので、ヨーロッパで勉強していたときは、 自分が外国人であるというせいで嫌な思いをすることもありましたが、ここではのびのびと自分らしくいられる幸せを感じます。

またオーケストラの活動においては、海外からのソリストや指揮者と共演できる機会が多いことを私は嬉しく思います。たくさんの素晴らしい音楽家に関われて、毎回学生に戻ったような気持ちで勉強させてもらっています。

もう一つの主要ホール、ヴィクトリア・コンサート・ホールの外観。
©︎Singapore Symphony Orchestra

——今のオーケストラで一番思い出に残っている演奏会や曲目を教えてください。

夏目 最近のコンサートになりますが、R.シュトラウスの《英雄の生涯》をシンガポール交響楽団で演奏できたことが感慨深かったです。 まだ日本で経済学部の学生だった頃にこの曲を演奏する機会があり、それ以来の取り組みでした。 初めてこの曲を演奏したとき、私は大学4年生で、音楽家を目指すか、音楽を趣味にするかを迷っていました。そこから9年の時を経て音楽家となり、良き同僚達とこの曲に取り組めたことを本当に幸せに思います。 ・

——おすすめのローカルフードを教えてください。

夏目 ローカル“フード”ではありませんが、東南アジアのコーヒー、コピという飲み物が好きです。コピとはマレー語でコーヒーを指しますが、ロブスタ種のコーヒー豆を使った苦味が強い飲み物で、コンデンスミルクを入れて飲みます。リハーサルの合間や練習前にいつも飲んでいます。

コピの淹れ方にもこのように少し特徴があります。店内で飲むとき以外は暑いので、アイスにして持ち歩くことも。
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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