インタビュー
2024.09.16
世界のオーケストラ楽屋通信 Vol.10 渡辺恭子(ビルバオ交響楽団オーボエ奏者)

スペインのグルメタウン・バスク地方のビルバオのオーケストラで唯一のアジア人団員!

世界各国のオーケストラで活躍する日本人奏者へのインタビュー連載。オーケストラの内側から、さまざまな国の文化をのぞいてみましょう!
第10回は、スペインのビルバオ交響楽団の渡辺恭子さん。

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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陽気で人懐っこいスペイン人に惹かれオーディションへ

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——所属されているオーケストラについて教えてください。

渡辺 ビルバオ交響楽団は、1922年に設立された北スペイン・バスク地方の都市ビルバオを本拠地とするオーケストラです。30年ほど前にグッゲンハイム美術館の開館やインフラの整備などが始まり、その一環で現在のコンサート会場のエウスカルドゥナも建設されました。以前は造船所だったのでその一部がそのまま残してあります。ここで毎年3月にラ・フォル・ジュルネが開催されています。

本拠地のコンサート会場、エウスカルドゥナ

渡辺 4管編成なのでプログラムはマーラーやブルックナー、ショスタコーヴィチなど大編成の曲目が多いです。定期演奏会以外は年に3回のオペラ公演や夏の巡業公演、室内楽などがあります。

ここ数年、ドイツやイギリスなどのオケにいたUターン組のスペイン人や若い世代に入れ替わり、とても活気のある雰囲気になってきました。アジア人は私1人で管楽器はほぼ全員スペイン人です。スペイン、とくにバレンシア地方は吹奏楽がとても盛んなので、団員もやはりバレンシアの出身が多いです。

渡辺恭子(わたなべ・きょうこ)
愛知県出身。高校の吹奏楽部にてオーボエを始める。東京藝術大学卒業。在学中に安宅賞受賞、モーニングコンサートにて藝大フィルと共演。同声会主催新人演奏会に出演。第73回日本音楽コンクールオーボエ部門にて3位入賞。チューリッヒ音楽大学大学院オーケストラコースを修了後、2009年よりビルバオ交響楽団首席オーボエ奏者を務める。これまでにオーボエをトーマス・インダミューレ、松山敦子、小畑善昭、和久井仁、宮澤香、小川和代の各氏に師事。モーリス・ブルク、アルプレヒト・マイヤー、クリストフ・ハルトマンの各氏のマスタークラスを受講。

——なぜこのオーケストラに入ろうと思ったのですか?

渡辺 スイスの大学院を修了する半年前に、ちょうどここのオーケストラの募集がありました。私のいたクラスにはスペイン人がたくさんいたので、こんなに陽気で人懐っこい人たちのいる国なら楽しそうだなとちょっと興味もあったので受けに行きました。でもまさか本当に自分が受かるとは思いませんでしたが……。

——楽団員とのコミュニケーションは何語でされていますか?

渡辺 スペイン語です。スイスに留学していたときにドイツ語をちゃんと勉強していなかったせいでいろいろ苦労したので、その反省も踏まえ、入団するまでビザの関係でしばらく時間があったので、語学学校に通ったりして受験以来久しぶりに勉強しました(笑)。 

スペインの中でもバスク地方、カタルーニャ地方、ガリシア地方にはそれぞれ独自の言語があり、最近は復興させようとする動きがとても盛んで、学校での授業はほぼバスク語になってきているみたいです。スペイン語とはまったく違う語族でとても難解な言語なので、もちろん私は挨拶程度しかわかりませんが、バスク人の団員同士では時々バスク語で会話しています。

楽団員と一緒に

おしゃべりが好きで食事は1日5回!?

——お国柄を感じたエピソードや日本とは違うなぁと感じる点を教えてください。

渡辺 日本のオケだとリハーサルの1時間前にはほぼ全員が集まって音出しをするなどしていますが、スイスにいたときもですが、ここでも30分前くらいにだんだん集まり始めます。弦楽器の人はかなりギリギリに来る人もいますし、早く来てもゆっくりカフェをしたり、とてものんびりしています。

スペイン人はお喋りが大好きで沈黙が苦手な人が多いです。話している途中で楽器の演奏中のように息継ぎをするのを初めて見ました(笑)。 

そして皆さん話し声がとても大きいです。バルやレストランでも周りがとてもうるさいので、自分も声を張り上げて話さないと聞こえないくらいです。

——これまでに一番カルチャーショックだったことはなんですか?

渡辺 基本的にレストランは昼食は14時、夕食は22時と食事の時間が遅いことです。スペインの朝食はカフェとトーストのみの人が多く、12時ごろ休憩時間にピンチョスを食べながら一杯飲み、夕方にもまた軽く食べ、一日に5食食べるのにはびっくりしました。

美食の街としても知られるビルバオ

——「この国に来てよかった!」と感じるのはどんなときですか?

渡辺 いろいろな場面で感じますが、ここに来たときはまったく知り合いがいない状態でしたが、団員の方たちがとても親切にしてくださり、スペイン人の明るさと優しさに随分助けられ、このオケに入団できて本当によかったなあと思いました。

あとはやはり食事でしょうか(笑)。

ここは大西洋に面しているので魚介類がとても新鮮ですし、バレンシアオレンジやPlatanosというカナリア諸島のバナナ、桃などの果物も甘くて美味しいです。イチゴは1kg500円ほどで買えます。秋には日本では見たことのないさまざまな種類のきのこが山で採れます。バスクは食材が豊富なので、美食の街としても有名で、ミシュランの星付きレストランもたくさんあります。

Ajo blanco(ニンニクとアーモンドがベースの冷製スープ)
バスクの美食倶楽部TXOKO(会員制のキッチン)にて。持っているのは1KgあるChuletón(牛の巨大ステーキ)

——今のオーケストラで一番思い出に残っている演奏会や曲目を教えてください。

渡辺 昨年、ピアニストの辻井伸行さんをソリストにお迎えして、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏したのですが、本当に素晴らしかったです。まるでピアノが身体の一部のようで、辻井さんの奏でる音にオケ全体が引き込まれて終始よい緊張感があり、お客さん全員がスタンディングオーベーションの大盛況でした。

——おすすめのローカルフードがあれば教えてください。

渡辺 ピンチョスというスライスしたバゲットの上に色々な具材を乗せて楊枝で串刺しにしたものです。バルによっては小皿料理のように注文するピンチョスもあります。隣町のサンセバスチャンの旧市街はとくに有名で、美味しいバルが軒を連ねているのでピンチョ・ポテ(日本でいうはしご酒)をするのが定番です。ちなみに日本で流行ったバスクチーズケーキのオリジナルのバルもここにあります。

あとスペインと言えばトルティーヤ(オムレツ)が有名ですが、バスク地方のものは格別だと思います(笑)。外はしっかり、でも中はトロトロの絶品トルティーヤを美味しいバルでぜひ試していただきたいです。

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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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