難易度の高い現代曲も集中して仕上げるエストニアのオーケストラ
世界各国のオーケストラで活躍する日本人奏者へのインタビュー連載。オーケストラの内側から、さまざまな国の文化をのぞいてみましょう!
第12回は、エストニアの首都タリンを拠点に活動するエストニア国立交響楽団の川口仁和さん。幼い頃から海外経験が豊富な川口さんから見たエストニアの魅力とは?
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
IT先進国のエストニアで巨匠ネーメ・ヤルヴィも指揮するオーケストラ
——所属されているオーケストラについて教えてください。
川口 バルト三国のエストニアを代表するオーケストラ、エストニア国立交響楽団で働かせていただいています。もともとは3人で立ち上げられた放送オーケストラとして始まり、ぐんぐんと成長を果たし、今では世界でも一流のレベルを誇るオーケストラのうちのひとつとなりました。活動内容は現代曲からバロック音楽、エストニア音楽にも力を入れており、とてもバラエティーに富んでいます。雰囲気はとても皆があたたかく、つらいときでもジョークが飛び交うような、とても居心地の良いオーケストラです。
外交官・川口周一郎の娘で1990年、カナダで生まれる。3歳でヴァイオリンを始め、エチオピア、スイス、ブラジルと移動するも音楽の勉強は続け、スイスへ留学後、エストニア交響楽団のファースト・ヴァイオリンの席を獲得する。 15歳のとき、最年少でブラジルのパウロ・ボッシオ・コンクールで優勝を果たし、その後も2014年フランスのエグ・ヴィーヴ・モーツァルト・コンクールで優勝および審査員による優秀賞、2017年ハンガリーのダニューブ音楽コンクールで2位を得る。最近は室内楽のほうにも活躍の幅を広げ、2024年にダヌービア国際音楽オンライン・コンクール室内楽部門で金賞。クープラン国際音楽オンライン・コンクール室内楽部門でプラチナ賞および最優秀賞を獲得する。 2012年にプロジェクト「日本の童話絵本を世界へ」のための音楽の演奏をタンザニアで、当時駐タンザニア日本大使であった岡田眞樹大使と共演。
——なぜこのオーケストラに入ろうと思ったのですか?
川口 仕事を探してオーケストラでのオーディションの募集を調べていたときに、エストニア国立交響楽団の募集が目に留まりました。そしてエストニアが世界最先端ともいえるIT国家と聞いて興味を持ち、また巨匠ネーメ・ヤルヴィ氏が指揮するオーケストラで弾きたいと思いオーディションを受けました。
——楽団員とのコミュニケーションは何語でされていますか?
川口 基本的にリハーサル中はエストニア語です。ただ、日常会話は皆さん英語がとても達者なので、ついつい気づいたら英語で喋ってしまっています。
音楽の世界に大差はない!
——お国柄を感じたエピソードや日本とは違うなぁと感じる点を教えてください。
川口 演奏不可能と思われるような難易度の高い現代曲や、あまり演奏されないマイナーな曲を弾くことがたまにあるのですが、エストニア人は逆境に耐える忍耐力と、それを越える力がすごいと感じます。必ず本番では素晴らしい演奏に仕上げてしまいます。幼少期から日本にあまり住んでなかったので、日本と違うところといわれてすぐにはぱっとでませんが、あえてあげるとすればお酒に強いところでしょうか。
上:オーケストラが主催する室内楽コンサートより
——これまでにいちばんカルチャーショックを受けたことはなんですか?
川口 ないです。音楽の世界はわりと世界中どこでも一緒です。
——「この国に来てよかった!」と感じるのはどんなときですか?
川口 エストニア国立交響楽団のコンサートマスター、Triin Ruubel さんがとても上手く、彼女との共演は毎回良い刺激になります。
——今のオーケストラでいちばん思い出に残っている演奏会や曲目を教えてください。
川口 先ほど挙げたTriin Ruubelさんがコンサートマスターを務めたシェヘラザードのソロと、マーラーの8番のソロです。こんなに素敵な演奏はめったにないので、ぜひ聴いてもらいたいです。またロシアに占領された苦難の過去があるため、ウクライナには強い想いがあり、今でも定期演奏会の1曲目はウクライナ国歌を演奏しています。
——おすすめのローカルフードがあれば教えてください。
川口 お肉の煮凝り(英語では肉のゼリー寄せと呼ばれてます)Sültがお勧めです。酢やレモン、ホースラディッシュをお好みでつけて、ジャガイモやパンと一緒に食べます。
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