
サ・チェンが次世代のコンテスタントに望むこととは?「自分自身と作品との間に唯一無二の関係を築いてほしい」

第19回ショパン国際ピアノコンクールの審査員の方々に、ファイナル開催期間中にインタビューしました。最後は、サ・チェン。結果だけにとらわれず、一人ひとりの個性や音楽への向き合い方をどう受け取るのか。サ・チェンからのあたたかいメッセージをお届けします。

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...
2000年のショパン国際ピアノコンクールで第4位に入賞し、前回に続き審査員を務めるサ・チェン。審査において大切にしている視点や次世代のピアニストに伝えたいことなど語ってもらいました。

1979年、中国生まれ。四川音楽院で学び、94年、中国国際ピアノ・コンクールで優勝、96年にはリーズ国際ピアノ・コンクールで4位に最年少で入賞を果たしている。ロンドンのギルドホール芸術院で学んだのち、世界各国で演奏活動を行ない、名立たる指揮者やオーケストラと共演。2001年からはドイツに移住してハノーファー音楽大学で学ぶ。03年、『ショパン:作品集』にてCDデビュー。
今回のコンクールを振り返って
——ここまでのコンクールの印象を教えてください。
チェン 全体的に見ると、ステージを重ねるごとに印象の強さが増していったように感じます。どの出場者も、それぞれのラウンドで少しずつ異なる面を見せてくれました。ですから今は、彼らがステージの上でどんな気持ちでいたのかを、以前よりも多角的に理解できるようになってきたと思います。
——今年は29名もの中国人ピアニストが出場していますね。
チェン ええ、人数には私自身も本当に驚きました。まず何より、これほど多くの中国人ピアニストがコンクールに情熱を持って参加していることを、とても嬉しく思いました。そして、技術的にも音楽的にも、総合的に完成度の高い演奏をする人が多かったと思います。
もちろん、まだ若くてこれからさらに経験を積む必要がある人もいますが、それぞれの努力と成果を心から讃えたいです。たとえ次のラウンドに進めなかったとしても、彼らが見せてくれたもの、達成したことには価値があります。

結果に一喜一憂せず音楽そのものを楽しむためには?
——今回の採点システムについてはどう思われますか。
チェン 正直に言うと、この質問にはきちんと答えられません。私は審査員としてまだそれほど経験豊富ではありませんし、計算方法も完全には理解できていなくて……私、数学が本当に苦手なんです(笑)。
1から25までの点数をつけるのですが、人によって使うレンジが違います。1〜8を使う人もいれば、8〜15、18〜25を使う人もいる。そのあたりの感触はつかみにいですね。ただ、最終的には、ピアニストたちにとって納得でき、喜ばしい結果が出ることを願っています。審査員としての大きな責任だと思うので。
——コンクールである以上、結果はついてきてしまい、リスナーにとっても難しいところではありますが、お気に入りのピアニストが次のラウンドに進めなかったとき、どのように気持ちを切り替えればよいでしょう?
チェン 音楽のコンクールというのは、とても難しいものです。スポーツのように、記録やデータで明確に優劣を決められるものではありません。もちろん、演奏中に出来栄えに著しく影響があるようなミスや記憶の飛びがあれば評価に影響しますが、それでも音楽では「好み」という要素も大きいです。
だから、リスナーとしても「違いを楽しむ」ことが大切だと思います。審査員としてもそれは同じで、心も耳もオープンな状態でいるように心がけています。一人ひとりの個性の輝く部分を見つけていく。そうすれば、結果に一喜一憂せず、音楽そのものを楽しめるはずです。このコンクールで演奏するほどのピアニストたちには、必ずそれぞれの魅力があると思います。
楽譜を読み解いてそれぞれの作品が持つメッセージや「大切な瞬間」を見つける
——審査でもっとも大切にされていることは?
チェン まず、音楽が全体として「完成された形」で舞台に提示されていることです。エチュードであれ、バラード、幻想曲、協奏曲、幻想ポロネーズであれ、それぞれに異なるメッセージがあります。ショパンの偉大さは、すべての作品が異なるメッセージを持っている点にあります。
完璧に整った演奏が並んだとき、私は自分に問いかけます。「このピアニストから、どれほど個人的なメッセージを受け取れただろうか」と。それが、たとえ私自身の解釈と正反対であっても、説得力があり、思考や美的感覚を刺激してくれるかどうかで判断します。
私は常に、その演奏家の意図を理解しようと努めています。コンテスタントが、舞台上で何を伝えようとしているのかを。
——ショパンを演奏するうえで、もっとも大切なことはなんでしょうか?
チェン ショパンにおいて大切なことは、「ショパンのテイスト」だと思います。ショパンの様式の中でも、非常に芸術的な側面です。感情をこめすぎると上品さを失ってしまうし、繊細さが足りないと多くの内容が失われてしまう。ショパンの作品には、書法の中にとても多くの要素が詰まっています。だから、楽譜を読み解きながら、その作品が持つ「大切な瞬間」を見つけ出し、特に後期の作品では構造や和声、多声的な書法を感じ取らなければなりません。しかもそのすべてを、エレガントさを保ったうえでやるのです。
同時に、個性を生かすための余地も必要です。自分自身の感情や個人的なメッセージを作品の中に反映させることも、とても大事だと思います。

音楽そのものと深い関係を築き、大切にしてほしい
——次の世代のピアニストがショパンを演奏するとき、どんなことを大切にしてほしいですか?
チェン 今の若い世代は、とても成熟していると感じます。まだキャリアの途中でありながら、すでに非常に経験豊かなピアニストに見える人も多いですね。
だからこそ、ショパンに限らず、どんな作曲家の音楽でも、まずは「音楽そのものを楽しむ」ことを忘れないでほしい。そして作曲家の意図を掘り下げ、自分自身とその作品との間に、唯一無二の関係を築いてほしいと思います。それが音楽表現の核になります。
近年は「スター性」や「話題性」が注目されがちですが、どうか音楽そのものとの関係を大切にしてほしい。音楽との深い感情的なつながりを決して失わないでほしいというのが、私の一番の願いです。
——5年後のショパンコンクールの出場者たちに期待することは?
チェン 答えは音楽の中にあります。音楽は無限の可能性を秘めています。世界中のピアニストがすでに技術的に非常に高いレベルに達していると思いますが、音楽のおかげで私たちはさらに進み続けて、自分だけの声を見つけることができるのです。

——若い演奏家たちの演奏に刺激を受けることはありますか。
チェン もちろんです。彼らが音楽をどのように解釈しているかだけでなく、世界中から注目され強いプレッシャーがあっても一生懸命ベストを尽くそうとしている姿に、深く心を打たれます。
私自身もその立場を経験してきましたから、大変さがよくわかります。それでも舞台に立ち、自信をもって演奏する姿を見ると、励まされているように感じるし、エネルギーを受け取ります。そのエネルギーに支えられているようにさえ感じます。
コンクールで次のラウンドに進めなかったとしても、それは決して世界の終わりではありません。人生は長く、音楽の旅もまた長いものです。コンクールは大きな出来事ですが、人生はさらに長く、これからも多くの美しいことが待っています。
音楽や人生には、喜びと悲しみ、厳しさが混ざり合っていますが、そのすべての経験に価値があります。今この瞬間は二度と繰り返されません。だからこそ、このプロセス全体を特別な旅として大切にしてほしいと願っています。





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