インタビュー
2021.03.25
マックス・リヒター&ユリア・マール インタビュー

「眠り」がテーマの超大作の制作秘話に迫る! 映画『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』

「演奏は8時間」「観客は何をしていても良い」「会場にはベッドが用意されている」。作曲家マックス・リヒターと、パートナーでプロデューサーのユリア・マールが作り上げた異例づくしのコンサート「SLEEP」の制作を追ったドキュメンタリー映画『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』が公開されます。2人がどんな想いで「SLEEP」を創りあげたのか、裏話も含め、よしひろまさみちさんがインタビューしました。

取材・文
よしひろまさみち
取材・文
よしひろまさみち 映画ライター・編集者

音楽誌、女性誌、情報誌などの編集部を経てフリーに。『sweet』『otona MUSE』で編集・執筆のほか、『SPA!』『oz magazine』など連載多数。日本テ...

マックス・リヒター(左)とユリア・マール

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3月19日の世界睡眠デーにあわせて、ドキュメンタリー映画『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』の先行上映がありました。

マックス・リヒターは御存知の通り、ポスト・クラシカルの旗手ともいえる人気作曲家。

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彼の「SLEEP」は、8時間半にも及ぶ超大作で、コロナ禍直前まで「観客を眠らせるコンサート」を世界各地で開催していたんですよ。そのライブが行なわれたLAのグランドパークをはじめとする会場の様子と、彼と彼のパートナーであるユリア・マールのコメントなどで構成されたドキュメンタリー映画が『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』です。

そこで、マックス・リヒター&ユリア・マールのお二人に、このプロジェクトの着想や裏話をうかがいました。

8時間の超大作! 発想の源はパートナーの実体験から

——「SLEEP」は、もともとリヒターさんが興味を持っていた「睡眠」をテーマにするだけでなく、睡眠と脳の関係や音楽が人間に与える影響などを脳神経学者にもヒアリングして作曲されたプロジェクト。そもそも、それを楽曲にしてしまおうという着想はどこから?

マックス・リヒター(MR) この楽曲のアイデアは、睡眠と音楽の関係を模索する、というものでした。休息のために音楽空間を作る、ということは、よくリラックスするためにあるシチュエーションではありますが、これをやるとなると生活の中のかなり多くの時間を割くことにつながります。

それって、音楽と時間、そして睡眠の3つの要素があわさらないといけないことですよね。実験的なプロジェクトであると同時に、「生活の一部を作り出す」という意味においては、とても実践的なプロジェクトになるんじゃないかと考えたのがきっかけです。

ユリア・マール(YM) この作品はとても個人的な思いを実現したものでした。15年くらい前に、子どもがまだ幼かったので、私はマックスのコンサートには同行できなかったんですよね。でも、ちょうどストリーミング配信が一般的になりつつあった時期でもあったので、どこのコンサートでも、私は家で子育てをしながら彼のパフォーマンスを観ることができました。でも、時差があるところだと、私は真夜中にそれを観なきゃいけなくなるんです。それが半分起きてて半分寝てるみたいな体験で。まるで夢の中にいるみたいな感覚だってことを、帰ってきたマックスに伝えたんです。その別世界での体験を曲で再現するとどうなるか、ということが「SLEEP」のはじまりでした。

マックス・リヒター(左)とユリア・マール。

——んまぁ……パートナーの体験を曲にしたためるだなんて、それだけでロマンティックな!

YM ウフフ(笑)。本当にそう。この曲は私たち自身を反映したものであり、その一方で私たちが誰かを観察したものを反映したものですね。

——眠らせるための音楽だから、ぶっちゃけ奏者も眠くなるんじゃないの? って思ったりするんですが、実際はどうでした?

MR じつは本当にハードなんですよ(笑)。奏者の体力が試される楽曲ですよね。体力だけでなく、心理的な面においても、過酷なスポーツをしてるアスリートと同じようなチャレンジがあると思います。だって、事前の調整は絶対に必要だし、演奏後もケアが必要だし、お客さんはみんな寝ているし(笑)。

コンサートの様子。ピアノ、ソプラノ、弦楽四重奏という編成。観客にはベッドが用意され、眠るのも、歩き回るのも自由だ。

MR ストリングスとソプラノ歌手は休憩時間をとっているんですが、ほぼずっとステージで演奏しているのは僕。だから、よく見えるんですよ。演奏中に寝落ちしてしまった奏者はいないんだけど、眠そうにしてるなー、っていうのはちょいちょい(笑)。

——数ある公演の中で一番たいへんだったのは?

MR 一番たいへんだったのは、プレミア公演ですね。なんせ8時間もある楽曲ですから、リハーサルで全曲の通しはできないんですよ。だから、奏者も一曲まるまる通しで演奏するのが本番で初めて、という状態だったんです。プレミアはまぁいろいろと……(笑)。

ライブだからこそ生まれるコミュニティの共同意識

——映画に収録されているLAのグランドパーク公演は特に、ですが、観客が寝てしまうことでセキュリティ対策など苦心される特殊なコンサートですよね。公演での思わぬハプニングは起きませんでした?

YM 当日にお客さまを巻き込んだ、なにか大きなハプニングが起きたことは一度もないんですよ。でも、映画で収録したLAは、セキュリティ面でかなり心配な場所ではありましたね。グランドパーク公演の当初の企画では、公園全体、誰でも行き来できて、どこでも聴ける、という状況を作ろうと思っていたんです。でも、アメリカですからね……。公演の直前、ラスベガスで銃乱射事件が起きてしまい、自治体からの要請でセキュリティレベルを上げざるをえませんでした。そのため、最初の計画よりも、かなりエリアを限定したものにはなりました。それでもあの規模で、何も事件が起きず、他の開催地と同様に平和的に美しく開催できたことが素晴らしかったですね。

——開催地によっての特徴はありました?

YM ありましたねー。睡眠って地域性が出るもので、家族やパートナーとベッドをくっつけたがるお客さんが多い国もあれば、個別のスペースを確保したがるお客さんが多い国もありましたよ。日本はどうです?

——ベッドごとに距離をとったほうがいいと思いますよ(笑)

YM そうしましょう(笑)。いや、本当に困ったことに、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、この先2年の予定がキャンセルになったんですが、その中には日本公演が含まれていたんですよ。しかも、これからのライブ興行というものは、おそらく、よりローカルに寄り添ったものになっていくと思うんですが、そうするとコロナ禍以前のように、国際的な活動に制限ができてしまいます。音楽を共有する方法を模索しないといけませんね。たとえば、「SLEEP」のプレミア公演の音源を、ラジオで34カ国同時配信という試みを昨年行なったんですよ。

——こんな時代が来るなんて誰も想像してませんでしたから……。よりライブパフォーマンスのありがたみを感じますよね。

MR そうなんですよね……。特に「SLEEP」はライブパフォーマンスであると同時に、そこにコミュニティの共同意識が生まれるイベントです。その体験機会が失われてしまったのは、あまりにも喪失感が大きいです。

将来的には「SLEEP」を映画館で?

——ライブ以外の発信方法としては、リヒターさんは「映画音楽」というチャンネルをもっていらっしゃいます。特に近年は引っ張りだこじゃないですか!

MR はい。ありがたいことに機会が増えましたね。

——劇映画と「SLEEP」の融合を考えたことはありませんか? 「インセプション」や「エターナル・サンシャイン」のように夢や深層意識をテーマにした映画ができるなら、眠りそのものをテーマにすることもできそうな気が。

YM それ、おもしろいですね。ただ、「SLEEP」は体力と準備が相当必要な企画で、映画制作は手間暇とお金がかかるもの。この2つを結びつけるには、ちょっと時間がかかりそうだけど(笑)。このドキュメンタリーも、8時間のコンサートを90分ちょっとに収めてくれたのは監督の手腕ですから、いい監督が見つかればアリかな(笑)

映画『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』
公開情報
映画『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』

2021年3月26日(金)公開

新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、

ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

 

監督:ナタリー・ジョンズ /製作:ステファン・デメトリウ、ジュリー・ヤコベク、ウアリド・ムアネス、ユリア・マール/撮影:エリーシャ・クリスチャン 出演:マックス・リヒター、ユリア・マール、(ソプラノ)グレース・デイヴィッドソン、(チェロ)エミリー・ブラウサ、クラリス・ジェンセン、(ヴィオラ)イザベル・ヘイゲン、(ヴァイオリン)ベン・ラッセル、アンドリュー・トール/2019年/イギリス/英語/99分/シネスコサイズ/原題:Max Richter’s Sleep/映倫:G

配給: アット エンタテインメント 

公式HP: max-sleep.com

2018 Deutsche Grammophon GmbH, Berlin All Rights Reserved

取材・文
よしひろまさみち
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よしひろまさみち 映画ライター・編集者

音楽誌、女性誌、情報誌などの編集部を経てフリーに。『sweet』『otona MUSE』で編集・執筆のほか、『SPA!』『oz magazine』など連載多数。日本テ...

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