
韓国ミュージカル・プロデューサーが語る『マリー・アントワネット』の見どころ~作曲家が涙した歌声

注目の舞台人が、ミュージカルの魅力を語る連載。第16回は、韓国ミュージカルプロデューサーのソフィ・ジウォン・キムさんインタビューの後編! 2025年11月14日から上映される『マリー・アントワネット』を中心に、見どころや歌唱力についてお話しいただきました。

フランス留学後、ファッション誌『エル・ジャポン』編集部に入社。その後『ハーパース バザー』を経て、『エル・ジャポン』に復帰。カルチャー・ディレクターとして、長年、映画...
『マタ・ハリ』から始まった映像化プロジェクト
——「今、話題の「韓国ミュージカル」を、日本の映画館で鑑賞できる「韓国ミュージカルON SCREEN」。この企画で上映される5作品は、すべて「EMKカンパニー」のライセンスミュージカルです。そもそも、ミュージカルの舞台を映像化したきっかけとは?
ソフィ 今から10年前、『マタ・ハリ』という作品の初演がきっかけでした。私たちにとって記念すべき初のオリジナル作品でしたので、制作過程から本番までドキュメンタリーとして撮影することにしたんです。その背景には、韓国ミュージカルは3か月位の長期公演なのですが、作品の評判が海外に届くまでに時間がかかり、外国の方が観に来たいと思ったときは公演が終わっているという課題がありました。
そんな中、私は企画プロデューサーとして、作品の素晴らしさを高品質な映像で残そうと考えました。それが今回、上映されているラインナップです。そして10年が経った今、日本から映画館上映のオファーをいただき、日本のミュージカルファンの方にお届けできることを本当に嬉しく思っています。

EMKミュージカルカンパニー副社長
EMKエンターテインメント代表
大胆かつ先見の明を持ったプロデュースでEMKミュージカル時代を切り拓いたプロデューサー
2010年のミュージカル『モーツァルト!』を皮切りに、ミュージカル『エリザベート』や『レベッカ』などを手掛け、欧州ミュージカルの本格的な韓国進出とEMKミュージカル時代の幕開けに大きな役割を果たした。2012年に東宝株式会社とライセンス契約を結びミュージカル『ハムレット』を上演し、海外市場への進出の基盤を築き、2017年の『マタ・ハリ』、2018年の『笑う男』を日本でライセンス契約するなど、EMKオリジナルコンテンツのグローバル化を進めた。2023年には『Xcalibur』が宝塚歌劇で初めて韓国オリジナルミュージカルとして上演され、日本市場進出に新たな道を開いた。また、ミュージカルコンテンツの映像化製作にも積極的に取り組み、ミュージカルのオンライン配信『A KILLER PARTY』や『モンテ・クリスト伯:The Musical Live』など新たなジャンルを開拓している。
——現地に行かずとも、韓国ミュージカルを映画館で体験できるのは、素晴らしい機会ですね。11月から日本の映画館で上映される、『マリー・アントワネット』のみどころを教えてください。
ソフィ 『マリー・アントワネット』は、私にとってもすごく思い入れのある作品です。もとは日本で生まれ、 私たちが韓国でリニューアルして、今では両国で愛されている作品だからです。
この作品の一番のみどころは、やはり、フェルセン役を演じるNCTのドヨンさん! この作品は、人気アイドルのドヨンさんのミュージカル・デビュー作なので、その意味でも貴重な映像記録です。ファンの皆さんにはぜひそこも楽しんでいただきたいです。
——ドヨンさんは、オープニングの歌唱といい、デビュー作とは思えないほど堂々とした演技ですね。
ソフィ 彼は、この作品を通してミュージカルをすごく好きになったとおっしゃってくれて、これからもミュージカル俳優として活動していきたいと話してくれました。今年は韓国で『笑う男』にも出演されて、その演技力の高さに驚きました。ベテランのミュージカル俳優と比べても遜色ない素晴らしいパフォーマンスでした。

©2021 EMK Musical Company, All rights reserved
ミュージカルの発声のため1年前からボイストレーニングに励む
——『モーツァルト!』のキム・ジュンスさんなど、演技力と歌唱力を備えたK-POPアイドルの出演は、韓国ミュージカルの注目度を国際的に高めました。ただ、アイドル出身の方の場合、ポップスとミュージカルでは歌い方が大きく異なります。今回のドヨンさんや、『ファントム』のキュヒョンさん(「SUPER JUNIOR」)は、どのように適応されたのでしょうか?
ソフィ まずは彼らの事務所から相談がくることが多いですね。 「うちのアイドルグループの中で、この人は歌唱力や声量など、ミュージカルに適性があると思うので、今から育ててみませんか?」 というようなオファーです。可能性を感じる人材を提案してくださるので、私たちもその適性を見極めてキャスティングを決定します。

——事務所から推薦された方のオーディションも実施されるのですか?
ソフィ 作品によってはオーディションを行ないます。ただ、ドヨンさんの場合は、いきなりキャスティングしたわけではなく、事務所からの提案を受けて、「この人なら適役」と判断してお願いしました。舞台に立つのは初めてでしたから、相当なトレーニングが必要でしたが、ご本人も本当に熱心に練習に取り組んでくれました。
——歌の指導はどのように行われるのですか?
ソフィ 公演の6か月前、場合によっては1年前にキャストが決定します。その時点で、ボイストレーニングを開始して、ミュージカル特有の発声ができるように指導します。特にミュージカルデビューされる方には、かなり集中的にトレーニングを受けていただきます。1日何時間という決まりはないですが、皆さんアイドルとしてのスケジュールが忙しい中、誰もが「レッスンを受けたい」と積極的に取り組んでいます。
——会社に専属のボイストレーナーがいらっしゃるのですか?
ソフィ 専属ではありませんが、信頼してお任せできる先生が何人かいるので、その方々にお願いしています。 特にアイドル出身の方には、このような指導を徹底してやっていきます。
作曲家が涙したアントワネットの歌声
——ドヨンさん以外のキャストについてはいかがですか?
ソフィ タイトルロールのキム・ソヒャンさんは韓国では歌唱力で非常に定評があり、演技をしながら歌うことが非常に自然で上手なんです。
私たちの作品を上演する際、この作品を作ったクンツェさんとリーヴァイさんが韓国にいらしたんです。そのとき、ソヒャンさんの演技をご覧になったクンツェさんが涙を流されたんです。作家さんがご自身の作品をご覧になって涙を流すなんて、めったにないことですよね。
クンツェさんは、「久しぶりに泣いてしまった。ソヒャンさんの歌を聴きながら、アントワネットが目の前にいるような感覚を覚えた」と。これ以上ない、最高の褒め言葉だと思いました。
日本と韓国におけるミュージカル文化の違い
——日本のミュージカルについて、どのような印象をもっていますか?
ソフィ 韓国ミュージカルは2000年代から急激に成長しました。だから、歴史はまだ25年程度です。ビジネスとして、産業として成長しています。そのため、オリジナル作品もたくさん制作しますし、今、一生懸命取り組んでいます。
一方、日本のミュージカルは、すでに長い伝統があります。ですからミュージカルは産業というより、伝統的な文化ですし、保存して守ろうという意識を感じます。韓国ではエンターテインメント産業として、どれだけ収益を上げられるかという視点も重要視されます。そのあたりが少し違うなと思います。
——今後の日本とのコラボレーションについては?
ソフィ 私たちが日本からライセンスを取得した作品には、『マリー・アントワネット』『四月は君の嘘』『ベルサイユのばら』があります。日本からは時々、「一緒に制作しませんか」というオファーもいただきますので、最初から共同で舞台を制作することも考えています。
——最後に、「韓国ミュージカルON SCREEN」をご覧になる方にメッセージをお願いします。
ソフィ この企画では、このあと『マリー・アントワネット』、『笑う男』、『モーツァルト!』と話題作が続きます。なかでもパンデミックの時期、私たちは『モーツァルト!』を上演したのですが、ロックダウンで韓国にお越しになれなかった日本の方も多かったと聞きます。今回、この機会に作品を見ていただけることになり、嬉しく思っています。
また、この上映で初めて「韓国ミュージカル」と出会う方もいらっしゃると思いますが、この機会に楽しさを感じていただけたら、ぜひ本場の韓国ミュージカルをご覧ください。ミュージカルの醍醐味は、お客様と俳優が劇場でエネルギーを共有することなので、それを劇場の客席で楽しんでいただくことが、私の目標です。

©2021 EMK Musical Company, All rights reserved

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『マリー・アントワネット』
2025年11月14日(金)~27日(木)
『笑う男』
2026年1月9日(金)~22日(木)
『モーツァルト!』
2026年3月6日(金)~3月19日(木)
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