廣津留すみれが英国KEFの最新スピーカーで自身のファーストCDを聴いた
多方面で活躍するヴァイオリニストの廣津留すみれさんが、2月に待望のファーストCDをリリースした。メンデルスゾーンとバッハの演奏を、英国の名門ブランドであるKEFの最上位スピーカー、BladeとReferenceの2モデルで聴きながら、録音のエピソードや今後の抱負をうかがった。
神奈川県横浜市出身。出版社勤務を経て独立後、オーディオ専門誌を中心に執筆。趣味はコントラバス演奏やオペラ鑑賞。近著に「はじめて愉しむホームシアター」(光文社)、「ネッ...
メンデルスゾーンを弾き振りで!
——メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は、デア・リング東京オーケストラを弾き振りした演奏でした。特に気を配ったことはありますか。
廣津留 リハーサルでは団員の方たちとのコミュニケーションを大切にして、意見を交換したり、音楽観を共有することができたと思います。本番で新鮮だったのは、演奏の勢いに乗る“波乗り感”があったことですね。指揮者の横で弾くと、音の波が脇を通っていくイメージなんですが、今回は真ん中で弾いたので、音の波が均一にくるんですよ! とても気持ちよく弾けましたし、私の場合、波に乗ることがいい演奏につながるんです。
——今回のオーケストラは、舞台上の楽器の並び方もいつもと違いますね。
廣津留 全員が前を向いているので、私のことも見やすいですよね。本番ではアイコンタクトまでいかなくても、タイミングなど指示を出しやすかったです。弦楽器は一人ひとりが良い意味でしっかり弾いているというか、あえて溶け込もうとしない。一人ひとりが音を出さないと成り立たない配置ですから。私はオーケストラで弾くとき、突き出ないように弾くのがすごく苦手だったんです。自分の音楽の形を考えながら、意志がある音楽ができる良さがあると感じました。
——協奏曲はライヴ、「シャコンヌ」は公開録音でした。
廣津留 はい、チケットを持っていれば前日のバッハの録音も見られるというスタイルにしたので。通して演奏したあとのプレイバックまで聴いていただいたり、もう全部見られてる(笑)。ただ、この曲はマラソンみたいなもので、一回走り始めたらそのままみたいなところがあります。
——集中力が途切れない?
廣津留 そうです。この曲は長い人生のなか、何回か録ると思うんですが、そのときの考え方とかが良く出る曲です。そのときの自分があらわれる。バロック風に弾く方もいますよね。私も副科でバロック・ヴァイオリンをやっていたので、将来は弾き方が変わるかもしれません。
——今回の録音は第1回めですか。
廣津留 実はジュリアードの卒業リサイタルでも一回仕上げていて、録音もあります。聴き直す勇気はまだないけど(笑)。
クラシックの枠に収まらない多才な活動
——ジュリアードでは、ジョセフ・リンさんに室内楽のレッスンを受けていたそうですね。
廣津留 ジュリアード弦楽四重奏団のほぼ全員から、室内楽を教えていただきました。リンさんも室内楽のスタジオクラスがあって、いろんなグループが演奏したあとでアドバイスをいただくスタイルでした。生徒との距離がとても近い方で、ホームパーティに呼んでいただいたこともありました。
——リンさんはモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を、同じデア・リング東京オーケストラと弾いてますね。集中度の高い素晴らしい演奏でした。
廣津留 私よりはるかに几帳面な方なので、本番までには直るだろうというような甘いリハーサルはやらないと思います。バッハの演奏にもそれがでていますね。緻密に研究していますし。
——廣津留さんはどんなタイプ?
廣津留 私はノリを楽しむタイプです(笑)。
——演奏活動の幅も広いですね。
廣津留 ヨーヨー・マさんのシルクロードアンサンブルでシリアの音楽を演奏したり、即興の要素が入る演奏もやるんですよ。MoMA(ニューヨーク近代美術館)のサマーガーデンシリーズで新作を演奏したときも、とてもおもしろい体験ができました。若いお客さんが多くて、晴れたら中庭で演奏したりして。
それ以外にも、ポップスやJポップを耳コピして、ジュリアードのミュージシャンと一緒にセッションを楽しんだり、本当にいろいろやりました。家のリビングでのセッションですが、いまもYouTubeで見られますよ。
——自由な演奏活動ができる日が早く戻るといいですね。
廣津留 本当に! ニューヨークはいろんな国から演奏家が来てるので、アルゼンチン
——でも、それがきっかけで仕事が増えるかも。
廣津留 そうなんです。口コミで伝わって仕事につながる機会が日本よりもずっと多いんです。
——廣津留さんもそうだけど、楽器だけでなく、いろんなことを同時にやるのが普通という印象もあります。
廣津留 スポーツ選手もそうですね。ネイサン・チェンはイェール大学でデータサイエンスを専攻しましたが、それを聞いてから演技を見ると、いろんなことを見てきてる余裕があるなと思います。必死な感じではなくて、楽しんでいるのが前面に出ていますね。
——これからは日本と米国どちらを本拠にするのでしょう?
廣津留 コロナで日本から出られなくなってもう2年以上になりますが、いずれは日本とニューヨーク半々ぐらいの割合で活動できればいいなと考えてます。特に、出身地の大分に帰ると、お客さんからとても温かく迎えていただいているので、日本での活動も大事にしたいんです。
私自身が記憶していなかったような箇所まで聴こえる! 英国名門ブランドの最上位スピーカーの音
——今日は英国の名門ブランドであるKEFの最上位スピーカーで、今回大幅なアップデートを経て登場したBladeとReferenceの2モデルを、廣津留さんのCDを中心にいろいろな音源で聴きました。
廣津留 アッカルドが弾いたクライスラーを聴いたとき、弓のスピードまでわかりました。発音のタイミングも細かくわかるので、たとえば弾き振りで演奏した私のCDでは、独奏ヴァイオリンがほんの僅か早めに音を出してリードしている感じがわかります。しかも、私自身が記憶していなかったような箇所まで聴こえてきますよ!
——発音が多少早めでも、不自然な印象はまったくないです。オーケストラとの一体感がある良い演奏だと思います。
——ReferenceとBladeという2つのスピーカーで同じ音源を聴きましたが、音の違いは思いがけず大きかったですね。
廣津留 同じブランドでも、ここまで音が変わることにびっくりしました。Referenceは細かいところまで聴き取れるし、演奏の意図がよくわかります。演奏の特長を細部まで把握したり、研究するには、ピッタリのスピーカーだと思います。
一方のBladeは、音楽の全体像がわかるし、完成形としてまとまって聴こえてきます。リスナーの方に私のCDを聴いていただくときはこちらのスピーカーをお薦めしたいですね。今日聴いたマット仕上げのBladeも素敵だけど、艶やかなレッドのBladeもカッコいい! しかも、私の身長とほとんど同じ(笑)。これがあるだけで一気に明るい雰囲気になりそうです。仕上げの違いで音が違うということはないんですか?
——メーカーの説明では、音に違いはないそうです。そうはいっても、弦楽器の音がニスで大きく変わるように、艶ややかな仕上げとマット仕上げで音色が微妙に変わることはあるかもしれませんね。それも含めて好みの仕上げを選ぶというのもありだと思います。パーカッションが活躍する「Afrocubism」や一人でいろんな楽器を使いこなすジェイコブ・コリアーなど、クラシック以外の音楽も聴きました。
廣津留 「Afrocubism」では、音のピッチよりも楽器の素材の音がわかって面白かったです。ジェイコブ・コリアーは私が好きなアーティストなんですが、一人でやっているとは思えない緻密な音作りがよくわかりました。実は、勉強のために聴くとき以外は、クラシックはあまり聴かないんです。Jポップやポップスをストリーミングで流しっぱなしにしたり、本当に幅広くいろいろ楽しんでます。
——これからチャレンジしてみたいことを教えてください。
廣津留 演奏も幅広くチャレンジしてみたいです。映画やゲームの音楽にもとても良い曲がありますし、優れたアレンジも紹介したいですね。いろんな楽器と一緒に新しいものにチャンレジして、バリエーションを広げていきたいです。
直近では、6月の調布国際音楽祭や7月のハクジュホールのシリーズに参加しますので、コンサートも楽しんでいただければ嬉しいです。
——どうもありがとうございました。
今回ご紹介したKEFのスピーカーBlade One MetaとReference 5 Metaは、4月4日以降、東京・有楽町のKEF Music Galleryにて試聴いただけます。
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