インタビュー
2020.10.23
10月の特集「食」

プロ野菜奏者?! 野菜の楽器で唯一無二のサウンドを届けるベジタブル・オーケストラ

その名の通り、野菜を楽器として演奏するベジタブル・オーケストラ。4枚のCDをリリースし、コロナ禍以前はワールドツアーを行なうなど、プロのアーティスト・グループとして活動しています。楽器はメンバーそれぞれのアイデアで創り出され、楽曲ももちろんすべてオリジナル。ほかに類を見ない彼らのパフォーマンスに迫るべく、野菜を演奏する魅力について教えてもらいました。

食に対して熱い人
三木鞠花
食に対して熱い人
三木鞠花 編集者・ライター

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...

©katsey-photografy

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1998年2月にオーストリアのウィーンで創設されたベジタブル・オーケストラ。さまざまな種類の野菜を楽器に仕立て上げ、野菜から発する音のみで音楽を創り上げています。

現在の活動メンバーは8人。いったいどのような人たちが集まっているのでしょうか。自由な発想と創作意欲にあふれる彼らのパフォーマンスについて、メンバーのユルゲン・ベルラコーヴィチさん、ウルリヒ・トロイアーさんにメールインタビューでお話を伺いました。

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ギター、クラリネット、アコーディオン……多種多様なメンバーたち

——メンバーはどのように集ったのでしょうか?

ベルラコーヴィチ 創設時のメンバーは、もともと音楽活動を通して知り合い、顔なじみでした。誰のアイデアだったかもう思い出せないくらいですが、賛同してくれる人が集まりました。

ユルゲン・ベルラコーヴィチ(作家・音楽家)
ウィーン大学で哲学とドイツ語圏文学を学び、文学と音楽を融合させてプロジェクト「タカモフスキー」を立ち上げる。2003年よりラジオドラマを執筆。環境音楽と実験的な電子音楽を折衷した作曲をしている。
©Zoefotografie
ウルリヒ・トロイアー(作曲家・サウンドデザイナー)
建築学と音楽学を学び、2000年にウィーンのレーベルMEGOよりデビューCDをリリース。ラジオドラマの制作やコンテンポラリーダンスのための楽曲提供を行なっている。
©Zoefotografie

——メンバーはほかの楽器も演奏しますか?

トロイヤー 僕自身はクラシックギターを弾きます。あとは20年以上、シンセサイザーやサンプラーで音楽作りをしています。

メンバーのなかには、コントラアルトクラリネットとバスクラリネットの奏者や、エレクトリックミュージックのプロデューサー、トロンボーン奏者、アコーディオン奏者、そして音響詩家などがいます。

こんな感じで、私たちはベジタブル・オーケストラ以外には、まったく異なるジャンルで活動をしているんです。

大根とにんじんでできたフルートを演奏する様子。
©HeidrunHenke
こちらはネギのヴァイオリン。
©HeidrunHenke

実際に「野菜の音色」を聴いてみよう!
2013年に行なわれたツアーの様子。楽器作りの過程なども紹介されています。

「鮮度が大事」なユニークな楽器たち

楽器はメンバーのアイデアによって生み出され、コンサートごとに毎回制作されます。そして、素材の一部はスープにして観客にふるまわれることも。ちなみに、メンバーはベジタリアンというわけではないそうです。

楽器の制作風景。
©HeidrunHenke

——どの野菜の音色が一番好きですか?

トロイヤー ナスの音がダントツで好きです。

ベルラコーヴィチ 僕はパセリの音がとても気に入っているよ! パセリをちゃんと演奏すると、ジャングルにいる昆虫を思わせる音がします。

上:ナスのカスタネット
右:にんじんのフルート
©AnnaStoecher

——音色は野菜の産地によって変わりますか?「オーストリアのトマトが一番!」とか……。そもそも、普段演奏している野菜はどこで調達しているのですか?

トロイヤー 音色は野菜の出身地よりも、季節や新鮮さによってかなり変わります。

ベルラコーヴィチ そうだね、新鮮さが一番大切かな。あと、形も。特にかぼちゃなど、パーカッションの役割をする楽器にとっては、共鳴するかどうかがとても大事な要素です。

トロイヤー 野菜は、コンサート会場の近くのローカルなお店で、地元の野菜をいろいろ試してみるのがとても楽しいです。

ベルラコーヴィチ その地域でしか手に入らない野菜もあるよね。南アジアでコンサートをするときには、太いニンニクの芽が手に入って、ベースに使えるかもしれない。

音の広がりは無限! 結成から22年、進化し続けるベジタブル・オーケストラ

——おすすめの動画はどれですか?

トロイヤー 一番新しい「Green Days」かな。

ベルラコーヴィチ 同じく! いい出来だと思っています。

——クラシック音楽を演奏する予定はありますか?

トロイヤー ストラヴィンスキーの《春の祭典》をやったことがあります。原題は《春の祭典》(Le sacre du printemps)だけど、僕たちのパフォーマンスは《春の大虐殺》(Le Massacre du printemps)と名付けました。

ベルラコーヴィチ クラシック音楽には僕たちの楽器に合うレパートリーがないから、オリジナル曲を作っています。野菜の楽器はとても特殊な音色で、音楽的なキャラクターも独特。自分たちの楽器に合う音楽は、僕たちが一番よくわかっているからね。

《春の大虐殺》
ストラヴィンスキーの《春の祭典》は初演当時、新聞で《春の大虐殺》と揶揄され酷評されました。

——野菜を演奏することの魅力を教えてください。

トロイヤー コンサートに際して毎回、新しい楽器を発明してバリエーションを増やしています。結成から22年経つけど、このおかげで常にインスパイアされているように感じます。ツアーを行ない、世界中いろいろな場所で野菜のパフォーマンスをして、ファンができたのも、嬉しいです。

ベルラコーヴィチ ベジタブル・オーケストラの音楽は特殊で、音の広がりが無限にあります。僕たちのパフォーマンスは単純な音楽のコンサートではなくて、唯一無二の体感できるアートだと思っています。一番好きなところです。

2013年に開催された結成15周年記念ライブより。
©lkovacic

2人とも、「いつか日本でコンサートをやりたいな」と話してくれました。「日本で新しい楽器を創れるかもしれないね」と言う彼らの創造力は、無限に広がっているのです。

食に対して熱い人
三木鞠花
食に対して熱い人
三木鞠花 編集者・ライター

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...

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