ピアノ芸人 まとばゆう インタビュー

作曲とピアノを武器にお笑いの世界へ――まとばゆうの音楽×芸人ライフ

インタビュー
2019.07.08

日本大学芸術学部で作曲を学び、お笑いの道へ転向するという異色の経歴をもつピアノ芸人、まとばゆうさん。作曲はお手の物、好きな作曲家はモーツァルトにシェーンベルク! 音楽×芸人の道を究め、目指すはオペラシティにサントリーホール!?
ネタの作り方や、演奏活動についてお話を伺いました。

この記事をシェアする
写真:各務あゆみ
お話を伺った人
まとばゆう ピアノ芸人
まとばゆう
お話を伺った人
まとばゆう ピアノ芸人
太田プロダクション所属。日本大学芸術学部大学院作曲科卒業。2011年11月より芸人活動を始める。MBS「歌ネタ王決定戦2016」ファイナル進出(5位)、KTV「R-1...
取材・文
佐々木圭嗣 編集者/ライター
佐々木圭嗣
取材・文
佐々木圭嗣 編集者/ライター
ONTOMO編集部員/ライター。高校卒業後渡米。ニューヨーク市立大学ブルックリン校音楽院卒。趣味は爆音音楽鑑賞と読書(SFと翻訳ものとノンフィクションが好物)。音楽は...

クラシックピアノのイメージを覆す? ピアノ演奏を軸としたネタを披露するお笑い芸人、まとばゆうさん。2016年の『歌ネタ王決定戦』決勝進出、2017年には『女芸人No.1決定戦 THE W』でも決勝進出、5位に輝き、音楽芸人としての活動を広げている。
日本大学芸術学部にて作曲を学び、作曲やピアノのコンクールでも活躍するまとばゆうさんにお話を伺った。

子どもの頃からTVに出たかった

――日芸(日本大学芸術学部)で作曲を勉強されて、現在は太田プロダクション所属の芸人として活動するという一風変わった経歴をお持ちです。どういった経緯で芸人に?

音大を卒業して、本当は作曲家になろうと思っていたんですが、昔から目立ちたがり屋なところがあって、表舞台に立ちたいという気持ちが強かったんです。

ヒャダインさんや久石譲さんみたいな、TVにも出るし、曲も素晴らしいし、という方に憧れていたんですけど、前の事務所の方に「音楽ができるんだったらお笑いなんか簡単だから」と。あ、そうなのかなって、私も素直だったので、そのまま芸人として所属しました。まあ、相当大変だったんですけど(笑)。

――芸能事務所の「あ」から全部履歴書を送ったとか?

そうなんです。「あ」から2つ送った中のひとつにご縁があって、そこに7年間いました。

――順調ですね。前事務所を経て、太田プロダクションには2018年の1月から所属していらっしゃいます。

2018年の元旦に「縁起がいいから」ということで拾ってもらいました。2017年12月に日テレの『The W 女芸人No.1』という番組で決勝まで行き、2018年の元旦に「縁起がいいから」ということで拾っていただいたんですよ。
前の事務所を2017年の9月に辞めていまして、フリーで決勝に出たので、そのタイミングで太田プロに入れたっていうのは本当に運が良かったですね。

――太田プロに所属するまでの7年間に行き詰まりを感じたりしたことも?

『歌ネタ王決定戦』っていう大阪のMBSの番組で決勝に行ったんです。自分にとってはすごく大きなことで、そのあと番組に呼んでいただいたりもしたんですけど、それでパタッと終わってしまった。もっとチャンスを広げるために、以前の事務所を辞める決心をしました。
めちゃくちゃ才能があれば、それだけでいいかもしれませんけど、私は結構、運だけでここまで来ているところがあります。

ネタ作りは音楽ありき。不器用だけれど作曲とピアノは空気のようにできる

――どういった経緯で今の芸風に?

自分では普通だと思ってるんですけど、人に変わっていると言われることが多くて、思いがけなく怒らせてしまったり、トラブルメイカーだとか、地雷女って言われることがあります。でも友だちはいて、私の変なところを面白がって受け入れてくれる人を、男女年齢問わず大切にしています。

なので、特に芸の仕込みをしたという覚えはなくて、ナチュラルボーン芸人だと思います。強いて言うなら、前に所属していた事務所の放送作家さんに、ネタの作り方やお笑い哲学をかなり丁寧に教えていただいたことが基本となっています。
でも、そういうお笑いの決まり事みたいなことができなさすぎて、上手くいかないことも多いんですが、「ピアノを活かしたネタ」ということが私の場合は決まっているので、他の芸人さんよりもネタは作りやすいかもしれません。

――ネタはどういうふうに作っているんですか?

完全に音楽が主軸です。かなり不器用なほうで、ピアノ以外にはあまり誇れるものがなくて、歌も月に4回レッスンに通ってはいるんですが、なかなかスーザン・ボイルのようにはなれない(笑)。作曲やアレンジは空気のようにするするとできますし、自信もあるんですけど、他のことがニガテなので、そうするといろいろと限定されていきまして。

「閉店アナウンス」はピアノ早弾きのネタで、そういうのはそんなに努力しなくてもできる。でも、やはり言葉を考えて漫談するというようなことは、努力しても、もともとできる人には勝てないんですよね。

――例えば「トルコ行進曲でネタを作ろう」というのが決まって、これをどうアレンジしようか、っていう感じですか?

トルコ行進曲のネタは、やはりクラシックがいいかなというところから。いろんな国の音ってありますよね。平安時代の音とか、イギリスのバッキンガム宮殿だったらバグパイプとか。そういう音で弾くとそういう雰囲気になる、というのがあるじゃないですか。そこから考えましたね。
音がボケになると言葉のセンスがいりませんし、自分のストロングポイントで笑いが取れるのが一番だと思うので。完全に音楽先行ですね。

――アレンジを作るのにどれくらいかかるんですか?

ものによりますけど、やっぱりいいネタってすぐできるんですよ。1、2時間でできます。難しいのは進まないんですよね。

――ピアノ芸人や音楽芸人というのは需要があるんでしょうか。

漫才やコントって本当に面白くて、正直勝てるって思ったことは一度もありません。
本当にお笑いが好きで、毎日寝る前には、クラシックを聴いていたことってたぶん一度もなくて(笑)、芸人さんの深夜ラジオを流す。だからピアノ芸人、音楽芸人が、漫才師やコント師に勝つことはないかもしれないんですけど、でもやらせてくださいっていう気持ちです。

自分がお笑い芸人って名乗ることができるなんて、子どもの頃は夢にも思いませんでした。芸人さんは一番難しい職業だと思っていて、憧れるけど、空気を読むのがニガテな私はなれないと思っていました。
でも奇跡的に最高の環境で芸人として活動させていただいています。気持ちが強ければ願いはかなうんだなと、毎日奇跡のように感じています。

おじいちゃん、おばあちゃんと共有する幸せな1時間

――今も演奏のお仕事を?

バリバリしてます。月に25本、介護施設でコンサートをしています。
子どもよりはお年寄りのほうが合うというか、すごく好きなんです。道端を歩いていて老人ホームがあったら、知らなくてもピンポン押すんですよ。「演奏するから6000円ください」って言って(笑)。

職員の方は最初はびっくりするんですけど、コンサートを見てもらうと、「いいね」って言ってくれる人が多くて。「1回じゃ嫌なんです、毎月がいいんです」って言って。それで生計立てたいんです、まだ売れてない芸人なんですって(笑)。

――意外に受け入れてもらえるものなんですか?

意外とそうですね。

――打率はどのくらいですか(笑)。

昔は100件行って10件くらいでした。でも最近、「太田プロの芸人で、時々TVも出てるんですけど」と言うと、意外に打率が上がってきて、10発中10発とか9発のイメージです。
占いができる女芸人の友だちがいるんですけど、「ゆうちゃん自由が丘がいいよ」って言うんで、実際に行ってみたら、あったんですよ、老人ホームが(笑)。「あ、これは絶対運命だ」と思って訪ねて、実際にやることになったりとか。もう外が暗くなっていた時間だったので、ヘルパーさんも「なんだこいつは」ってびっくりしてましたけど(笑)。

――おじいちゃんおばあちゃんたちも娯楽が必要ですもんね。

必要ですよね。最初はお笑いをやっていたんですよね、おじいちゃんたちに向けて。でもあんまりウケなくて。で、わからないと人ってイライラするじゃないですか。
でも音楽ってやっぱりいいんですよね。クラシックというだけで価値が高いと思ってくれますし、懐メロも喜んでいただけます。昔は娯楽が少なかったこともあるのか、歌ってみんな覚えていて、歌えるんですよね。それってすごいと思うんですよね。
お互いにすごく幸せな気持ちで終わる1時間みたいな感じになるので、それが病みつきで、ほぼ毎日行っています。

――老人ホーム以外ではどのような場所で?

レストランなどでも演奏します。伊勢丹会館に学生がユニフォームを買いにいくお店があるんですけど、そこで「まとばゆう祝福の調べ」っていうプレートを立てて、7時間演奏するという仕事をしたこともあります。4月に向けて。

――子どもたちの反応はいかがでした?

ジブリとかアンパンマンを弾くと喜んでくれるので、何度も弾きました。となりのお寿司屋さんのおじさんに、もっと古い曲弾いてくれとか、サザン弾いてくれとか言われて。お寿司の伝票に曲名を書かれて回ってきたりとか(笑)。

美しさの中に怖さがある、紙一重なものが好き

――クラシックで好きな作曲家は。

モーツァルトが一番好きではありますが、日芸では、湯浅譲二さん(現代音楽の作曲家)に師事していました。山根明季子さん(1982年生まれの作曲家)も好きですね。あとはベリオ(イタリアの現代音楽の作曲家)とか、シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」が好きですね。

――現代音楽がお好きなんですね。

はい。モーツァルトもすごく美しいじゃないですか。でもその中に美しすぎる怖さがある。そういう表裏一体、紙一重みたいなものがめちゃくちゃ好きですね。ブラームスに嫁を取られて川に身を投げたシューマンも好きだし。派手好きでそのあと出家したリストも(笑)。

ジャン・コクトーや三島由紀夫とか谷崎潤一郎も好きで、危ういところがありますよね。卒論ではジョルジュ・バタイユ(フランスの作家)について書きました。
自分で言うのもなんですが、私はパクチー芸人というか(笑)、ハマる人にはハマるけど、ダメな人はダメだと思います。でも自分もそういう人が好き。紙一重な芸人になりたいしですね。

――お好きな曲、おすすめの曲は?

毎年自分でコンサートを開いていて、毎年、作曲家を1人決めて演奏するんですよ。今やっているのがプロコフィエフのソナタ2番の1楽章と4楽章なんですけど、めちゃくちゃいいですね。
プロコフィエフは合っていると思います。男性的な曲ですし、打楽器のようにピアノを扱うので。

まとばゆう お薦めのクラシック

・モーツァルト/ピアノソナタ第9番二長調
・シェーンベルク/月に憑かれたピエロ
・シューマン/謝肉祭
・湯浅譲二/弦楽四重奏のためのプロジェクション
・ソフィア・グバイドゥーリナ/オッフェルトゥリウム
・山根明季子/水玉コレクション

夢はオペラシティとサントリーホール!

――これからの展望は?

私は、唯一ピアノだけはどこでも褒めてもらえます。ピアノ演奏で人々に感動を与えられる清塚信也さんのような世界的なピアニストには、どんなに逆立ちしても勝てないっていうのはわかるんですけど、だからこそ、ピアノを使ったお笑いをとにかく追求したい。世界的ピアニストが絶対やらないことで勝負したいと思っています。

気持ちの強さは絶対負けない自信があります。お客さんの前でやるときに、「笑い殺す」って思ってネタやるんですよ。「笑え~!」って思ってやるというか。だから時々顔が怖いって言われることもあります。そういう野良犬精神というか、雑草魂、反骨精神みたいなものでここまで来たんですよ。気持ちが強ければ夢がかなうということを、自分の芸を通して伝えていきたいと思っています。

自信があるネタが、「手短に名作ストーリー」と、イントロに歌詞をつけて歌う「イントロソング」なんですけど、これは普通の歌ネタですね。私が今年めちゃくちゃ押していきたいと思っているのが、背泳ぎの形でスクール水着でピアノを弾くというものなんです。これこそ本当に賛否両論な芸だと思うんですけど、私はすごく気に入っていて、こういうのが私の答えなんじゃないかと、本気で思っています。

R-1グランプリとか、歌ネタ王決定戦とか、賞レースにはずっと参加していきたいです。
クラシック番組にも出演したいですね。ゆくゆくはオペラシティとかサントリーホールで芸を披露したいです! 太田プロに恥じない女芸人になって、マネージャーはじめ、お世話になった方に恩返しをしていきたいと思っています。

批判されることもありますけど、人間って変わらないじゃないですか。そうやって開き直って、自分を認めてくれる人だけを周りに置いておけばいいと思っています。大勢の友だちが欲しいとは思っていなくて、本当に好きな人が近くにいればいいというか。そういうふうに考えられると、批判されても大丈夫になりますね。

まとばゆうピアノライブvol.12

日時: 2019年10月19日(土) 17:00~
会場: 両国もんてんホール
チケット: 1500円

プログラム:
1. プロコフィエフ/ピアノソナタ第2番全楽章
2. 歌ネタ10本
3. 即興リクエストメドレー

ツイートする
シェアする

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ