インタビュー
2024.12.18
終戦80年の節目に師バーンスタインが広島で自ら指揮した作品を――

新日本フィル音楽監督 佐渡 裕~平和祈念プログラムで幕開け、楽団の個性を磨く3期目

2023年4月、新日本フィルハーモニー交響楽団の第5代音楽監督に就任した指揮者の佐渡裕さん。墨田区とフランチャイズ契約するオーケストラであることから同区に移り住み、中学校の吹奏楽部への指導や自身の等身大パネルの設置など、街とオーケストラをつなぐ活動にも熱心に取り組んできました。3期目となる新シーズンは、楽団員一人ひとりの顔が見えるように、オーケストラの個性をさらに磨いていきたいと語ります。東京大空襲で大きな被害を受けたこの地で、終戦80年の節目を象徴するプログラムでスタートする新シーズンへの抱負を伺いました。

取材・文
西村 祐
取材・文
西村 祐

音楽レヴュアー・フルート奏者。桐朋学園大学中退。演劇、モダンダンス、日本舞踊などの公演に音楽制作・フルーティストとして多く出演。評論家・レヴュアーとしては、『レコード...

撮影:ヒダキトモコ

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2025/26年に新日本フィルハーモニー交響楽団(NJP)の音楽監督となって3シーズン目を迎える佐渡裕。現在ウィーンと東京を拠点に世界各地で活躍している彼が日本で持つポストのひとつがNJPである。

バーンスタインと並んで小澤征爾らにも師事していた佐渡は、小澤を中心として設立されたこのオーケストラとはキャリアの初期から関係が深い。

ウィーンで活躍した作曲家たちをとりあげる「ウィーン・ライン」を継続

佐渡 新日本フィルの特徴は、音楽の面白さや感動は身近なところに存在するということを伝え続けていることだと思います。その上で、東京にはたくさんのオーケストラがあって、どこも技術が高く若い奏者も育っている中、自分たちの個性をもっとアピールしようとしています。

僕は「ウィーン・ライン」と呼んでいるのですが、ハイドンからモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトやブラームス、ブルックナーやマーラーなど、ウィーンで活躍した作曲家たちの作品がわれわれは得意で、それがレパートリーの中心となるように一緒に作っていこうと提案しているところです。

佐渡 裕(指揮)
Yutaka Sado
京都市立芸術大学卒業。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾らに師事。1989年ブザンソン指揮者コンクール優勝。1995年第1回レナード・バーンスタイン・エルサレム国際指揮者コンクール優勝。これまでパリ管弦楽団、ベルリン・ドイツ交響楽団、ケルンWDR交響楽団、バイエルン国立歌劇場管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団等、欧州の一流オーケストラに多数客演を重ねている。2015年9月より、オーストリアを代表し110年以上の歴史を持つトーンキュンストラー管弦楽団音楽監督に就任し、欧州の拠点をウィーンに置いて活動している。国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラの首席指揮者を務める。

CD録音は多数あり、『チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番(BBCフィルハーモニック/ピアノ辻井伸行)』、『佐渡裕 ベルリン・フィル・デビューLIVE』、『ベートーヴェン【運命】シューベルト【未完成】』(ベルリン・ドイツ交響楽団)などの海外楽団とのCD、シエナ・ウインド・オーケストラを指揮した『ブラスの祭典』シリーズなどが好評を得ている。最新盤はトーンキュンストラー管弦楽団を指揮した21枚目のCD『マーラー:交響曲第7番』を2024年10月にリリース。

出光音楽賞(1991年)、モンブラン国際文化賞(2003年)、渡邉暁雄音楽基金音楽賞(2003年)、文部科学大臣表彰(2024年)などの受賞歴がある。
2023年4月より新日本フィルハーモニー交響楽団第5代音楽監督に就任。
(撮影:ヒダキトモコ)

リーズナブルで聴きやすく一流が出演 シリーズ「すみだクラシックへの扉」

NJPは1988年の「墨田区音楽都市構想」を受けて同区とフランチャイズ契約、1997年にオープンしたすみだトリフォニーホール(錦糸町)を本拠地としている。これは日本のオーケストラでは初めての試みで、オーケストラとホールの協働事業として区内での活動を展開している。

佐渡 定期演奏会の他に「すみだクラシックへの扉」というシリーズもやっています。バラエティに富んだプログラムをイメージしているのですが、お客様には地元の人も多いので、クラシックが初めての人でも聴きやすく馴染み深い曲目にしています。国や地域がテーマで、共演者には世界的なソリストやNJPの首席奏者を迎えているのに、チケットの価格はリーズナブルというのも「売り」にしています。

幕開けにバーンスタイン《カディッシュ》 語りは大竹しのぶ

いっぽう、定期演奏会シリーズではチャレンジングな作品を多く取り上げるのがNJPの特色でもある。

佐渡 幕開けは僕が指揮しますが、まず「ウィーン・ライン」としてベートーヴェンの「《レオノーレ》第3番」を取り上げます。そしてバーンスタインの作品をふたつ。とくにメインの「交響曲第3番《カディッシュ》」は日本で演奏されることが少ないもの。原爆から40年のヒロシマ平和コンサートでバーンスタイン自身が指揮したのですが、そのコンサートをテレビで見て、僕はこの人のところへ勉強に行きたいと思った作品です。2025年は終戦からちょうど80年という節目ですから、ぜひ取り上げるべきだと考えました。語りが重要な作品で、本来は英語ですが、以前兵庫で演奏した時に作った日本語版を改訂して、今回は大竹しのぶさんに語っていただきます(2025年4/1920)。

2025年4/19、20の定期演奏会で、バーンスタイン「交響曲第3番《カディッシュ》」の語りを担当する女優の大竹しのぶ

他にもオーボエ奏者、作曲家、指揮者として著名なハインツ・ホリガーと日本を代表するハープ奏者、吉野直子によるルトスワフスキの「二重協奏曲」(2025年5/2324)やワルシャワ・フィルの芸術監督を勇退したアンドレイ・ボレイコと15歳の天才ツォトネ・ゼジニゼの共演(2025年6/2829)など聴きどころが多く、大きな期待が寄せられるシリーズである。

新日本フィルハーモニー交響楽団2025.4 ▶ 2026.3シーズン 佐渡 裕出演公演
定期演奏会

2025年

#662  4月19日(土)14:00・すみだトリフォニーホール 大ホール/4月20日(日)14:00・サントリーホール

佐渡 裕/指揮

櫃本 瑠音/チェロ

高野百合絵/ソプラノ
大竹 しのぶ/朗読
晋友会合唱団、東京少年少女合唱隊/合唱

ベートーヴェン/《レオノーレ》序曲第3番 ハ長調 op.72b

バーンスタイン/「ミサ」から3つのメディテーション

バーンスタイン/交響曲第3番《カディッシュ》

 

#667 2026年1月31日(土)14:00すみだトリフォニーホール・大ホール/2月1日(日)14:00・サントリーホール

佐渡 裕/指揮

上原ひろみ/ピアノ

ガーシュウィン/ピアノ協奏曲 ヘ調

バルトーク/管弦楽のための協奏曲 Sz.116,BB123

 

2026年

3月21日(土)14:00すみだトリフォニーホール大ホール/3月22日(日)14:00・サントリーホール

佐渡 裕/指揮

マーラー/交響曲第6番 イ短調《悲劇的》
すみだクラシックへの扉

2025年

#31  6月13日(金)14:0014日(土)14:00・すみだトリフォニーホール大ホール

佐渡 裕/指揮

ホルスト/セントポール組曲(弦楽版)
エルガー/威風堂々第1番 ニ長調 op.39
ホルスト/組曲《惑星》 op.32,H125

 

2026年

#37  3月13日(金)14:0014日(土)14:00・すみだトリフォニーホール大ホール

佐渡 裕/指揮

ビルマン 聡平/NJP首席第2ヴァイオリン奏者
瀧本 麻衣子/NJP首席ヴィオラ奏者
モーツァルト/ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364
ベルリオーズ/幻想交響曲 op.14(H.48)

 

問合せ:新日本フィルチケットボックス 03-5610-3815

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取材・文
西村 祐
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西村 祐

音楽レヴュアー・フルート奏者。桐朋学園大学中退。演劇、モダンダンス、日本舞踊などの公演に音楽制作・フルーティストとして多く出演。評論家・レヴュアーとしては、『レコード...

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